唯「あずにゃん。あずにゃんの好きな女の子って、確かに私が知ってる人なんだよね」
梓「んー……」
何故かあずにゃんがそんな声を出して、私をじっと見つめます
梓「知ってる人ですけど。でも案外、唯先輩は知らないかもしれないですね」
唯「え!?話が違うよあずにゃん!?」
梓「唯先輩が知ってるってことは断言出来ます。ただ、唯先輩は『その人』のことを違う見方で見てるかもってことです」
唯「難しくてわかんないよぉ、あずにゃん……」
梓「哲学的な話ですよ」
そう言って、あずにゃんはコホンと咳払いします
梓「私は、その、私の好きな人を、先ほど上げたような人だと思ってます。そしてそれは、誰が何と言おうと間違ってません。それだけは自信があります」
かっこよくて。真剣な時は真剣で、やる時はやる人で。温かくて、優しくて。目が離せない人
梓「澪先輩や律先輩じゃありません。もちろん両先輩方もその人のことは知ってます。そして先輩方がそれぞれ私の好きな「その人」に持ってる印象は違うかもしれませんが」
唯「違うけど……?」
梓「さっきの私の持ってる『その人』の印象を律先輩や澪先輩に言えば、すぐにわかると思います」
唯「へぇ……」
あずにゃんの言ったことは、正直上手く理解出来たかどうかわかりません
でも、それでもまっすぐ伝わってきたものはわかりました
それは、私があずにゃんを誰にも負けないくらい大好きだから
だから、わかってしまうことなんですけど
唯「あずにゃん、その人のこと大好きなんだね」
梓「へ!?いや、まあ、その……」
あずにゃんが私の胸におでこをくっつけます
梓「……大好きですよ」
今夜はあずにゃんが自分から抱きついてくれます
それは今まで無かったことだし、今までよりも確実にあずにゃんとの距離は近いのに
それでも、素直に喜べないのは欲張りだと思います
可能性を感じちゃったから
暗闇の中、小さいけれど蝋燭を見つけてしまったのです
少なくとも、女の子同士だからって理由ではフられない
一番気にしていた、足枷だった重りは無くなった
彼女には
あずにゃんには、好きな人が居るけれど
唯「あずにゃん」
梓「はい?」
小さい声で呼びます
唯「今夜、あずにゃんが寝るまでの間だけでいいから。抱っこしてていい?」
梓「え?」
唯「ちょっと今夜は寒いから。だから、ね?」
梓「……仕方ないですね」
唯「いいの!?」
梓「一緒に寝ようって言われた時に覚悟してたって言ったじゃないですか」
唯「じゃ、じゃあ……!」
梓「向きは変えさせてもらいますけどね」
そう言ってあずにゃんは、私の胸から顔を離して、反対方向に向きを変えました
唯「えー、なんでそっち向くのさー」
梓「……唯先輩、おっぱい大きいから息しづらいんです」
唯「……大きくなるよあずにゃんも。これからじゃん」
梓「私も最近はちょっと……何でもありません……負けです私の……」
唯「……揉んでみる?私の」
梓「ば、馬鹿なこと言ってないでそろそろ寝ますよ!」
唯「ちぇー」
あずにゃんだったらいいのに
梓「あ、明日の朝は私と憂が朝ご飯作りますから、唯先輩はゆっくり寝てていいですよ」
唯「え、いいの?」
梓「はい。準備出来たら起こしますんで」
唯「うん。……ありがとね」
梓「お泊まりさせて貰ってるんだから、これくらいは。じゃあ先輩、おやすみなさい」
唯「うん」
背中を向けたあずにゃんの身体を、ぎゅっと抱きしめます
唯「おやすみ、あずにゃん」
おやすみなさい、とあずにゃんが小さく言って
少し身じろぎをして、背中を私の身体にぴったりとくっつけて
それで、あずにゃんは眠るみたいでした
心なし体を丸めて、私にくっつきながら寝息を立てるあずにゃんは猫のようでした
眠り始めるあずにゃんを起こさないようにゆっくりと、あずにゃんを抱きしめなおします
パジャマは新しい物なのでしょうか、どこかよそ行きのような匂いと感触がします
不自然にあずにゃんの身体に合ってないというか、雰囲気と馴染んでないというか
似合ってないというわけではありません
淡い青色はあずにゃんの白い肌に映えるし、少し大きめで、袖の先から覗く小さな指先は、とても可愛いです
でもその時、私はあずにゃんが遠くに行ってしまうような気がしました
あずにゃんには好きな人がいて、それは私じゃなくて
それで、きっと近い将来、あずにゃんはあずにゃんの好きな人とこうやって眠るのでしょう
私の知らない場所で、知らない時間に、知らない表情で、知らない仕草で
その時あずにゃんは、きっとこういう風に背中を向けてなくて
その人の胸の中で眠るんだろうな
そう思った瞬間、目眩がしました
動悸が激しくなって、吐きそうになります
絶え間ない焦燥感と無力感と身勝手な理不尽
誰でもいいから当たり散らしたい乱暴な気持ち
この感情は初めてでしたが
きっとこれを、嫉妬というのでしょう
私はあずにゃんの好きな人に嫉妬していました
私と違って、あずにゃんを抱きしめても喜んで貰える
私と違って、あずにゃんから求めて貰える
私と違って、一緒にいるだけであずにゃんを幸せに出来る
まるで私が不可能なことを、当たり前のように出来る彼女のことが
私には、漫画の中のヒーローのように思えました
私の方が好きなのに
絶対誰にも、あずにゃんへの気持ちは負けないのに
おかしくないですか?
お互いの気持ちのベクトルがちょっと違うだけで、一番強い気持ちが蔑ろにされるなんて!
梓「んぅ」
あずにゃんが身じろぎして、私は慌てて腕の力を緩めました
無意識に力を入れすぎていたみたいで
幸い、あずにゃんは気づくことなく眠っているようです
唯「あずにゃん……もう寝た……?」
静かな寝息が聞こえて、ほっと胸をなで下ろします
それから、今度は優しくぎゅっと抱きしめます
あずにゃんが寝るまで、という約束でしたけれど
ロスタイムです。少しだけなら、許して貰えると思います
唯「ふぅ……」
あずにゃんの髪に顔をよせてみます
いつもはツインテールにしている髪は今、縛られることなくシーツに私の肩に流れています
あずにゃんの首すじに、鼻を押しつけました
よそ行きのパジャマの襟元からただようあずにゃんの匂い
パジャマ越しに伝わるあずにゃんの体温
身体の全部で感じるあずにゃんの寝息
ふと、この時間はとても貴重なものなんじゃないかと思いました
私はあずにゃんが好きで、あずにゃんには好きな人がいて
もしその人とあずにゃんが付き合ったなら、きっとこういう風に家にお泊まりには来てくれなくなるでしょう
軽音部の合宿でも、あずにゃんはきっと一緒には寝てくれないでしょうし
そう考えると、もう――
唯「……ごめんね、あずにゃん」
口の中で呟いて、そして
手探りであずにゃんの胸をパジャマ越しに触りました
起こさないようにそっと、揉んでみます
ブラはしていないのでしょう、予想外に柔らかくボリュームのある膨らみにびっくりします
あずにゃん、そこそこあるじゃん
そんな失礼なことを考えつつ、揉み続けます
こういう行為がどういうことか、わかっているつもりです
でも、今しかチャンスが無いなら
今しか、無いから
私はあずにゃんを、そういう目で見ています
あずにゃんにえっちしたいし、あずにゃんにしてもらいたい
私が毎晩頭の中であずにゃんにどういうことをしているか
あずにゃんが知ったら、きっと嫌われちゃうと思います
でも、好きなんです
大好きなんです、あずにゃんのこと
嫌われたって気持ち悪がられたって、仕方ないです
あずにゃんの胸に吸い付いて離れない右手をそのままに、再びあずにゃんの首すじに
唇が触れるか触れないかのところまで近づけます
キスしたい
吸い付いて、ずっと消えないくらいに痕を残したい
あずにゃんは私の物だって、刻みつけたい
私は興奮していました
普通じゃありませんでした
胸を揉みながら、首すじに唇を近づけて匂いを堪能して
今あずにゃんが起きたら
きっともうこれからずっと、口を聞いてくれないだろうな
もしかしたら軽音部も辞めて、もう私には姿すら見せてくれないかも
なんだか笑えてきます
わかってます。わかってますよ
胸から、足の方に手を伸ばします
私だって、好きでもない人にこんなことされたくないです
りっちゃんにも澪ちゃんにもむぎちゃんにも
大好きですけれど、こんなことはされたくありません
太ももを撫でて、お尻に到達します
あずにゃんにしてもらいたいです
あずにゃんにしかしたくないです
あずにゃん以外、考えられなくて
お尻から、再び前に手を
嫌われちゃうと思うけど、それでも私はあずにゃんとしたくて
内太ももに指を這わせて、少しづつ、上に
『ああ、あずにゃんの好きな人だったら、きっとこういう事してもあずにゃんは喜んでくれるんだろうな』
体を起こします
あずにゃんの身体から喜ばせることの出来ない手をどけて
あずにゃんに布団をかけなおします
酷く惨めな気持ちでした
たぶん、私は今泣いてます
声をあげると、あずにゃんが起きてしまうから
そっとベッドから下りて、部屋を出ます
何か飲もう
飲んで、落ち着こう
私が部屋を出る時
あずにゃんが深いため息をつきました
―――
私の横で、誰かがゴソゴソしているようでした
ベッドが静かに軋んで、止まります
瞼の裏が明るいし、どこかで雀の鳴き声もするから
きっと朝なんだろうなぁと、寝ぼけた頭で考えます
考えるだけで、起きたくはないのですけれど
あずにゃんもまだ眠ってるよね
ちょっとだけ抱きついちゃおう
そう思って左横を手探りするのですが、どうにもあずにゃんには触れられません
唯「んぅ、あずにゃん……?」
思わず、声に出してしまうと
梓「ひゃい!?」
唯「ふぇ?」
思わず、目を開けて
唯「あずにゃん……?」
あずにゃんが、ベッドの上
寝ている私の右側に正座していました
その片手は何故か、私の胸の数ミリ上で止まっています
んーと
梓「……」
唯「……さわっていいよー?」
梓「ちっ、違います!誤解しないでください!」
弾かれたようにあずにゃんが立ち上がって、ベッドが揺れます
梓「朝ご飯出来たから、起こしにきただけです!た、たまたま胸の上で手が止まってただけで!」
唯「そっかー」
上手く頭が回らないけれど、どうやらあずにゃんは私を起こしにきてくれたようです
そういえば、朝ご飯はあずにゃんと憂が作ってくれるんだっけー
身体を起こして、伸びをして
唯「おはよー、あずにゃん」
梓「お……おはよう、ございます」
なんか、あずにゃんが見つめてくる
唯「んー?なんか付いてるー?」
梓「い、いえ、すみません」
ぷいっと横を向いてしまうあずにゃん
少し、顔が赤いです
梓「朝ご飯出来ましたから。早く顔洗って、降りてきてくださいね」
唯「はーい」
あずにゃんは長袖のTシャツにジーンズという格好で、その上からエプロンを着ていました
きっとご飯が出来てからすぐに、呼びにきてくれたんでしょう
そう思ったら、なんか嬉しくて
唯「ありがとね、あずにゃん。エプロン姿も可愛いねー」
梓「なっ!」
今度はわかります
明らかに真っ赤になってます
梓「朝っぱらから恥ずかしいこと言わないでくださいよ、もう!」
唯「えー、本当だよ」
梓「じゃあ私、先に行ってますから!二度寝しちゃダメですからね!?」
そう言って、あずにゃんは行っちゃいました
あずにゃんの背中を見送って
そして、少し安心します
唯「昨日の夜のこと、気づいてないみたいだ」
気づかれてたら、きっと嫌われてる
少なくとも、今のように起こしに来てくれたり、口を聞いたりしてくれることは無いでしょう
それだけ最低なことを、私はしてしまったのです
でも、最低なことだってわかってるけれど
もし昨日の夜のような状況に置かれたら、私はまたやってしまうでしょう
そして今度は、もしかしたら歯止めがきかないかもしれません
唯「……本当に、好かれる要素がないね。私は」
あずにゃんの好きな人とは正反対です
かっこよくて。真剣な時は真剣で、やる時はやる人で。温かくて、優しくて。目が離せない人
あはは
唯「はぁ……」
ため息をついて、そして
唯「でも、収穫はあった」
あずにゃんは女の子が好き
私にだって、もしかしたら何万分の一の確率でチャンスがあるのかもしれません
頑張れば、あずにゃんにこっちを向いてもらえるかも
私の気持ちのベクトルはあずにゃんに向いてて、あずにゃんの気持ちのベクトルが私じゃないところに向いてても
ちょっとだけなら、あずにゃんの気持ちの向きを変えられるかもしれません
あずにゃんに、私を見て貰えるかもしれません
自信は正直、無いですけれど
唯「……頑張ろう」
でも、何もしないでいるほど私のあずにゃんへの気持ちは、中途半端ではないです
どうせ、これまであずにゃんにしか興味が無かったのだから
これから先も、あずにゃんにしか興味は持てないのでしょう
フられちゃうことになっても、あずにゃんが他の人に連れて行かれちゃうことになっても
私は私なりに、あずにゃんを振り向かせたい
唯「うん……!」
ベッドから降りて、パジャマを着替えます
ちょっとだけ髪を整えてから
唯「私、頑張るよ。ギー太」
応援しててね
最終更新:2012年02月27日 21:29