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朝のリビング

いつもの休日よりも少し早い時間のテレビニュースの音声が流れる中で

私たち四人はテーブルについていました

私たちはもう箸を取ってそろそろ食べ始めようという時なのですが

一人だけ、あずにゃんだけは箸を取らず、何故か正座で私の反応を待っていました

唯「じゃあ、いただきまーす」

憂「はーい」

梓「ど、どうぞ」

唯「そ、そんなに見られると食べにくいよぉ」

梓「す、すみません!」

テーブルには、ご飯に卵焼きに厚切りベーコン、サラダにお味噌汁が四人分並んでいました

どれも美味しそうで、朝なのにおかわりしちゃいそうな勢いです

憂「お姉ちゃん、今朝は梓ちゃんがお味噌汁作ってくれたんだよ」

唯「え、そうなの?」

梓「えっと。お料理あまり得意じゃなくて、憂にお味噌汁だけ作り方を教わったというか」

唯「そうなんだ。じゃあ一口目はお味噌汁からだね」

あずにゃんがお料理作ってくれた!

私にだけではありませんけれど、贅沢は言ってられません

生まれて初めてのあずにゃんの手料理です

唯「……じゃあ、いただきます」

梓「はい……」

和「なんでそんな真剣なのよ二人とも……」

憂「ふふ」

わかってないな、和ちゃんは

この瞬間がどれだけ重要なのかを

お味噌汁を手にとって、一口すすります

梓「ど、どうですかね」

唯「いつもの憂のお味噌汁とは違うけど……」

梓「はい……」

唯「……うん。すごい美味しい!」

梓「ほ、本当ですか?」

唯「本当だよ!」

お味噌はいつものと同じですが、どこか憂の作ったものとは違います

お味噌の量だったり溶き方だったり、わかめやお豆腐の切り方の違いでしょうか

憂のお味噌汁も美味しいけれど、あずにゃんの作るお味噌汁もすごく美味しい

なんかこう、憂のものとは違った愛情が伝わってくるというか!

唯「ありがとねーあずにゃん。私、お味噌汁なんて作れないよ。すごいねー」

梓「い、いえ。ありがとう、ございます……」

あずにゃん照れてるー

和「でも、本当に美味しいわよ梓ちゃん。本当に初めてなの?」

お味噌汁をすすりながら、和ちゃんが言います

梓「はい。憂がお豆腐の切り方から教えてくれて」

憂「だから言ったでしょ、梓ちゃん。すごく美味しいよって」

梓「えへへ……」

唯「ほら、あずにゃんも食べなよ。冷めちゃうよ?」

梓「はい。それじゃあ、いただきます」

憂「どうぞー」

四人で朝ご飯を食べます

普段なら、休みの日は昼近くまで寝ているので朝ご飯と昼ご飯が一緒になることが多いのですが

なんか、こうやって早起きしてご飯を食べるっていうのも悪くない気がします

あずにゃんも居るし、お味噌汁作ってくれるし

朝からラッキーです

和「そう言えば、憂の手料理食べるのも久しぶりね」

憂「うん。和ちゃん、最近来てくれなかったもん」

和「憂、受験だったし。受験終わってもしばらく新しい生活で忙しかったでしょ?」

憂「それはそうなんだけど……でも、それとこれとは話が別っていうか……」

梓「おお……」

唯「おお……」

あの憂が、いつもニコニコ心の広い憂が、和ちゃんに不満をぶつけてる……

ぶつけると言っても、頬を膨らませる程度だけど、それでも

和「ふふ、ごめんごめん。じゃあ、これからは憂の都合がいい日にはお泊まりしにくるわ。私だって憂の手料理食べたいもの」

憂「え、本当に?」

和「もちろんよ。来年になったら受験勉強もしなきゃならないけど。でも、お泊まりする時間くらいは作るから」

憂「えへへ」

梓「おお……」

唯「おお……」

なんというか

和ちゃんすごい

憂の扱いを心得ているというか

お姉ちゃんの私よりも、もしかしたら……

梓「和先輩、すごいですね」

唯「うん。やっぱ私たち姉妹と付き合い長いからね」

梓「二人が何をしてもらいたいのか言わなくても理解してる、と」

唯「うん。と言っても、和ちゃんも甘やかしてるってわけじゃないけどね」

お菓子とか食べ過ぎないように言われるし

梓「そうですか。……いいなぁ」

唯「ん?なんか言った?」

梓「何でもないです。おかわりどうですか?」

唯「うん!じゃあ、ご飯とお味噌汁も!」

梓「え、お味噌汁も?」

唯「だってあずにゃんの作ったお味噌汁美味しいんだもん」

梓「えへへ。……でも、無理して食べ過ぎないでくださいね。気持ちだけで嬉しいですから」

唯「無理してないよー」

どこか嬉しそうに、キッチンに向かうあずにゃん

その、揺れるツインテールの背中にみとれながら

なんか、いいなぁこういうのって思います

もしあずにゃんと結婚とかしたら、こういう光景を毎朝見られるんだろうな

……あずにゃんの好きな人が羨ましいよ

唯「はっ」

ダメだダメだ、また落ち込んじゃってる

頑張るって決めたのに、決めたそばからこれじゃあダメだ

もっと意識して、前向きにならないと

梓「どうぞ、唯先輩」

唯「ありがとー、あずにゃん」

よし、前向きに。気にしてないぞってところを!

唯「いやー、あずにゃん良いお嫁さんになれ、る、よ……」

梓「なんで泣いてるんですか唯先輩」

お嫁さんとか結婚って単語は、どうやら私にはまだキツイみたいです


―――

唯「私がお皿洗いやります」

そう宣言した瞬間、三人が「何言ってるのこいつ」って顔で私を見ました

朝食を食べ終わってから、少し経って

食後の熱いお茶を飲んでいた時です

和「何言ってるのあんた」

唯「声に出しちゃった!」

梓「そうですよ。どうしていきなりそんな無茶を」

唯「無茶!?」

お皿洗いが私にとって、どれだけ高いハードルだと思われているのでしょうか

唯「だ、だって、和ちゃんはお風呂掃除して、憂やあずにゃんはお料理作ってくれたのに、私だけ何もしてないもん」

和「いつものことでしょう。今更何とも思わないわよ。どれだけ付き合い長いと思ってるの……」

梓「そうですよ。唯先輩はそのままでいいんです。怪我したらどうするんですか」

唯「あずにゃんまで!?」

私、どれだけ信用が無いのでしょう

憂「お姉ちゃん。嬉しいけど、あんまり無理しなくても」

唯「ぶー。ここまで言われたら、尚更後には引けないね!」

あずにゃんの好きな人の特徴

かっこよくて。真剣な時は真剣で、やる時はやる人で。温かくて、優しくて。目が離せない人

まず私にほど遠い特徴ですが、なんてことはありません

これはつまり、あずにゃんの好きなタイプなのです

だから、私がこのような女の子になればいい

今は全然ほど遠いけれど、少しづつでもいいから、あずにゃんの理想に近づけたら

そしたらあずにゃんも「案外、唯先輩も悪くないんじゃ」って見てくれるかも

まずは、「かっこいい」女の子です

かっこよく家事をこなしてみせます

お料理とか洗濯物とかはまだ無理だけど、お皿洗いくらいなら!

憂「んー。そこまで言うなら、お願いしようかな」

微笑んで、憂は言いました

憂「無理しないで、ゆっくりでいいからね」

唯「うん!任せてよ!」

和「じゃあ、私たちはゆっくりさせて貰うわ」

梓「唯先輩、せめて食器を流しに運ぶくらいは手伝わせてもらいますから」

唯「うん、お願いねー」

あずにゃんと一緒に、使い終わった食器を持っていきます

唯「じゃあ、頑張るね!」

梓「……やっぱり、私もお手伝いしま」

唯「いいからいいから、私に任せて」

あずにゃんをソファーまで送って、お皿洗い開始です

スポンジに洗剤をつけて、お皿を先に水で軽く洗って……

私だって、もう高校生なんだし

お皿洗いくらいできます

一通り全部スポンジで洗っておいて、それから水洗いして、食器乾燥機に

手順はバッチリです

梓「じー」

唯「大丈夫だよ、あずにゃん。そんなとこで見て無くても大丈夫だって」

梓「お皿割って怪我しちゃうんじゃないかと思うと、気が気じゃ無いんですけど」

唯「割らないよー。慎重にしてるもん」

梓「で、でも……」

和「梓ちゃん、大丈夫よ。こっちに来てお茶飲みましょう」

憂「そうだよ。梓ちゃんもゆっくりしないと」

梓「う、うん……」

まだ心配なのかなー、あずにゃん

日頃からダラダラしてるから、自業自得だけど

でも、これをバッチリ決めたら、あずにゃんの理想のタイプにまた一歩近づくんだよね

頑張らなきゃ!

あずにゃんがソファーからチラチラとこちらを窺っている気配を感じながら、お皿を割らないように作業を進めます

集中すればそれなりに、慣れて無くても出来るようで

唯「あっと一枚!」

ラスト一枚となったお皿を取ります

こういう時にミスして落としちゃうのが私

慎重に、滑らないように……

ザクッと

お皿を掴んだ瞬間、指に熱い何かが走りました

そしてほとんど同時に、細長い痛みが伝わってきて

唯「痛っ!」

思わず叫んで、お皿を落としてしまいます

陶器の食器は、ステンレスのシンクに落ちて派手な音を立てました

梓「唯先輩!?大丈夫ですか!?」

唯「あ、あずにゃん」

あずにゃんが血相を変えてキッチンに飛び込んできました

唯「なんか、食器の下の方が欠けてたみたいで……」

梓「け、怪我は無いですか!?」

唯「怪我ってほど大袈裟なものじゃないけど」

ほら、とあずにゃんに右手を開いてみせます

唯「右手の薬指、ちょっと切れちゃったみた……」

あずにゃんが私の腕を掴み、私の切れた指先を口に含みました

唯「ふぇ?」

唇が指先を包み込んで、あずにゃんの舌が傷口を舐めます

予想外の出来事に、何も言えません

ただ、伏せ目がちに私の指を咥えるあずにゃんを見て、「まつ毛長いなぁ」ってぼうっと思います

ちょっと吸われて、ゾクッとなって

憂「お姉ちゃん、大丈……」

和「どうしたの、ゆ……」

憂と和ちゃんも、少し遅れて飛び込んできました

途端、あずにゃんが指を口から離しました

あずにゃんの唾液が糸を引いて、離れた私の右手の薬指を繋ぎます

梓「あ、いやえっと、その」

顔を真っ赤にして、あずにゃんが言います

梓「これはその、間違えたっていうか!」

憂「梓ちゃん、凄い……」

和「その手があったわね」

梓「ち、違うんです!これ、その火傷した時の対処法でして、咄嗟に焦ったというか、間違えまして!」

わたわたと手を振りながら言い訳するあずにゃん

どんどん声が小さくなって、ついに

梓「すみません……唯先輩……」

謝ってしまいました

唯「い、いや!私もびっくりして何も言えなかったし、その、嬉しかったよ!」

梓「う、嬉しいとか言わないでください……」

ヤバイよ私も動揺してるっていうか、上手いフォローが出来ないよ

憂「それで、お姉ちゃん大丈夫なの?」

唯「ん、うん。食器の下の部分が欠けてたみたいで」

憂がシンクの食器を手に取ります

憂「あ、本当だ。ごめんねお姉ちゃん。私が注意してたらこんなことには……」

唯「い、いや、大丈夫だから」

憂「怪我、大丈夫?」

唯「平気だよ。あずにゃんが、その、……してくれたし」

梓「うぅ……」

憂「あはは。救急箱が棚の上にあるから、梓ちゃんに治療してもらいなよお姉ちゃん」

憂が言った途端、ピクっと反応するあずにゃん

梓「う、うん!わかった!」

憂「ふふ。よろしくね」

和「包丁ってどこかしら」

憂「和ちゃん止めてお願い」

ソファーに座って、あずにゃんの治療を受けます

私の薬指をティッシュで包みながら真剣な表情で消毒液を垂らすあずにゃん

消毒なら、さっきあずにゃんがやってくれたのに

なんて言うと、たぶん痛くされるから言いません

梓「痛くないですか?」

唯「う、うん。大丈夫だよ」

消毒をした後、軽くティッシュで拭って、絆創膏を貼ってくれます

梓「気をつけてくださいよ。ギタリストにとって指は大事なんですから」

唯「だ、だよね」

梓「まあ、右手の薬指なら別に演奏に支障は……」

何気にこれ、あずにゃんに手を握ってもらってるんだよね

これも初めての経験です

いつもは私から握ってるから、なんというか

昨日からあずにゃんと新しいこといっぱい出来てます

さっきの、指おしゃぶりの時だって

あずにゃんの唇柔らかかったし、口の中温かかったし、舌だって……

梓「唯先輩、聞いてます?」

唯「はい!?」

梓「聞いてなかったんですね……」

唯「ご、ごめんね、ぼーっとしちゃって」

梓「いえ。まあ、事故ですけれど、これからは気をつけてくださいねって話です。もし深い傷とかになったら大変ですし」

唯「ありがとねー、あずにゃん。飛んできてくれて」

そういえば、誰よりも早く来てくれたよね、あずにゃん

梓「そ、それは!その、唯先輩が怪我するのは予想の範囲内っていうか」

唯「だよねー」

そんなところですよねー

はあ、信用無いのは知ってたけど、ちょっと期待しちゃったんだよね

そんなに甘くはないか

『唯先輩が心配だから、飛んできちゃった』みたいな理由にはならないですよね

唯「あずにゃん、ダメ元で聞くけど、私かっこよかった?」

梓「はい?えっと、まあ。怪我するのは格好悪いというか、可哀想だなって思いますけど」

唯「だよねー、あはは」

かっこいいって難しいです……

梓「っていうか、何でそんなこと聞くんですか?」

唯「……かっこよく、なりたいなって思って」

へー、とあずにゃん

梓「事情が飲み込めませんが、唯先輩はそのままでもいいと思いますよ」

あずにゃんはそう言ってくれるけれど

ダメなんだよそれじゃあ、あずにゃん


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最終更新:2012年02月27日 21:31