聞くんじゃなかった
いや、現実から目をそらしても仕方ないんですが
現状の確認というか
私とあずにゃんの好きな人とでは、どれだけアドバンテージを取られているのか
それを確認しないことには、何も出来ないじゃないですか
唯「た、例えば?」
そうですね、とあずにゃんは少し考えて、
梓「一緒に寝た時、抱き合って髪を撫で合ったり」
唯「はい」
梓「私から抱きついちゃったり」
唯「はい」
梓「私が寝たと思ったのか、身体を色々触られましたね。胸とか」
唯「はい」
梓「まあその……肝心な所でその人が止めちゃったんで、結局私も寝たフリをしたままだったんですけどね」
唯「はい」
梓「……唯先輩、ちゃんと聞いてました?」
聞いてるよ、もう!
何なんだよこれ!私がやったこと全部先にやられてるじゃん!
っていうか何?今の様子だと、あずにゃんの好きな人もあずにゃんのこと好きなんじゃないの!?
唯「……寝込みを襲うなんて最低だよね、人として」
両想いなのに、それを引き裂こうとする私は格好悪いです
しかも、私もあずにゃんの寝込みを襲ってますしね
梓「んー……確かにびっくりはしましたけど」
唯「けど?」
梓「正直、あまり嫌な気持ちはしませんでしたね。むしろ嬉しかったというか」
もうダメだ私立ち直れない
うっわ、聞かなきゃよかった
頭がクラクラしてくる
鼻の奥がつーんとする
私が入る隙間なんて無かったんだよ
唯「あずにゃん、良いこと教えてあげる。たぶんね、あずにゃんは両想いだよ」
梓「……そうでしょうね」
唯「え」
気づいてるんだ、あずにゃん
梓「本人から直接聞いたわけじゃないので、確信は持てませんが」
あんなことするんだからたぶん好かれてはいると思います、と
あずにゃんは言いました
唯「……告白しないの?あずにゃんから」
梓「それをしちゃったらダメなんですよ」
本当は気持ちを伝えたくてたまらないんですけど、とあずにゃんは笑います
梓「待たないといけないんです。その人から告白してくれるの」
唯「……どうして?告白したら、その人と付き合えるんだよ?」
今まで以上に抱き合ったり一緒に寝たり、その先だって出来るのに
梓「んー。なんて言えばいいですかね……単純に、私のわがままなんですよ」
あずにゃんがぎゅっと私の手を握ります
梓「私は今まで誰とも付き合ったことなくて。それなのに、こんなこと言うなんて可笑しいって笑われるかもしれないんですけど」
梓「その人とずっと一緒に居たいんです。卒業しても、大学行っても、社会に出ても、お婆さんになっても」
梓「その人と一緒に笑いたいし、喧嘩したいし、色々な感情を共有していたい。同じ景色をみたい」
梓「ずっと一緒に居たいから。だから、必要なものがあるんです」
唯「必要なもの?」
梓「……私と、その人は。そう遠くない未来に離ればなれになちゃいます」
唯「え!?な、なんで……」
梓「仕方の無いことなんですけどね」
あずにゃんが笑います
梓「もちろん、私も追いかけます。でも、ほら。私がそばに居ない間に、その人が心変わりしちゃったりしたら」
梓「信じてないわけじゃないんですけどね。でも、環境が変われば。新しい交友関係が出来れば、その中に可愛い人も居るでしょうし」
梓「それは私の知らない生活で、環境で。その中で絶対に想いが変わらないって保証は無いと思うんです」
どうしたって時間は流れちゃうし、考え方だって変わっちゃいますから
だから
梓「だから、必要なんです。その人から言って貰える『愛してる』って言葉が」
梓「その言葉は私の中で変わったりしません。私はその言葉だけを信じて、その人の居ない時間を耐えて、追いかけます」
梓「追いかけたその先が、その人と他の人が幸せそうに笑ってる光景でもいいんです。その時は、まあたぶん泣いちゃいますけど」
それでも、私の気持ちは貫けますから
そう言葉を結ぶと、照れたようにあずにゃんは顔を洗いました
梓「すいません、なんか変なこと言っちゃって」
唯「ううん。……変じゃないよ」
私にしちゃいなよ、と言いそうになりました
そんな風に待ってないで、私にしちゃえば
私なら、ずっと一緒に居てあげるのに
私なら、絶対にこの想いは変わらない自信があるのに
ああ、なんだか頭がクラクラする……
唯「辛くない?そんなに待っててさ」
梓「……正直、辛いですよ。その人、私が好きだってことに気づいてないみたいで。何度も私から告白しそうになりましたし」
唯「鈍感な人なんだ」
梓「ええ。……鈍感で、そのくせスキンシップは頻繁にしてきますし。だから」
瞬間、ザバっとあずにゃんが立ち上がり、私に覆い被さりました
浴槽のへり、私の頭の左右に両手を立てて
私の目の前に、あずにゃんの可愛い胸が赤裸々に晒されます
梓「だからもう、本当。どうにかなっちゃいそうなんですよ」
唯「あ、あずにゃん……?」
あずにゃんが私の首すじに顔を寄せて、唇を押しつけます
梓「私の気も知らずに抱きついて、身体まさぐって……お風呂に一緒に入って欲しいとか、誘ってますよね?」
唯「く、唇押しつけたまま喋らないで……」
吐息が首すじを撫でて、ゾクッと背筋が震えます
梓「唯先輩だって私にしたんですから……私がしたって、いいですよね」
それは質問なのか確認なのかわかりませんでした
どちらでも無いのでしょう
あずにゃんが私の唇に、あずにゃんのそれを近づけます
ただ唇は触れることなく、数ミリ上で止められて
私の足の間に、あずにゃんは身体を押し込んできます
足を閉じることも出来ず、ただ乱暴に胸を揉まれて
梓「嫌なら抵抗していいんですよ?逃がしませんけど」
唯「あ、あずにゃん……なんで……」
何が起きているかわかりませんでした
ただ、あずにゃんの吐息が熱くて、手つきも乱暴で
私が昨日の夜にした行為と、あずにゃんが先ほど言っていた「そういう雰囲気」の中でされたこと
それがぴったりと重なって、どういうことかもわかって
そこまでわかれば、あずにゃんの好きな人も予想がついて
でも、それは。この展開は
あまりにも、私に都合が良過ぎじゃないかな
―――
梓「唯先輩、大丈夫ですか!?」
和「だめね。完璧にのぼせてる。一応リビングには運んだけど」
憂「二階の部屋まで運んであげるのは無理だね、さすがに」
和「今夜はここで寝かせましょうか。憂、私、布団運んでくるわね」
憂「うん、ありがとう」
梓「ごめんね、憂。唯先輩がこんなになるまで……」
憂「ううん。お姉ちゃんも梓ちゃんとお話したくて長風呂しちゃったんだよ」
梓「でも……半分以上私が話してたし……」
憂「ところで梓ちゃん。……のぼせるくらいお風呂入ってたってことは、もしかして!」
梓「……」
憂「あ、梓ちゃんも……」
梓「結構……いい雰囲気だったんだけどね……」
憂「次があるよ……気長に行こう?」
梓「そうだよね……ありがと、憂」
和「持ってきたわよ。梓ちゃんも唯と寝るのよね」
梓「え?あ、はい。そうさせて貰えるなら」
和「お布団一式に、枕二つね。今敷くから、唯を運んで貰える?」
梓「はい。……唯先輩、お布団のところ行きましょうね。よっ、と」
梓「……はいはい。私も一緒ですよー」
月曜日の放課後、部室
律「唯」
唯「ふぇ!?な、なに?」
律「い、いや。なんかさっきからソワソワしてるなって。どうした?」
唯「べ、別に何ともないよ。あはは」
澪「そういや遅いな、梓」
唯「そ!そうだね。遅いな、あずにゃん!」
澪(梓か)
律(梓絡みか)
紬(やっぱり週末に何かあったのかしら)
あずにゃんとのお泊まり会を終えて、月曜日です
あずにゃんとお風呂に入った私は、あろうことかのぼせてお風呂の中で倒れてしまったようです
あずにゃんと和ちゃんが支えてくれながらリビングまで運んでくれたらしくて
結局私が起きたのは、日曜日のお昼過ぎ
あずにゃんと和ちゃんはとっくに帰ってしまってました
その夜はあずにゃんもリビングの同じ布団で寝てくれたらしいのですが、全く覚えてません
勿体ない、とどれだけ後悔したか
っていうか、それよりも
唯「……」
私が見た夢が問題です
お風呂場で、あずにゃんに、その……されるとか
鼻血とか出さないように普段通りを心がけてあずにゃんとお風呂に入っていたのですが、相当無理をしてたようです
いやまあ、実際無理だよね。好きな人が裸になってて、エロい気持ちにならないとか
でもまさか、あんな夢を見るまでとは思ってませんでした
いつも妄想してるのは、私があずにゃんにしてる感じなのに
今回の夢は、私があずにゃんにされてました
そういうのも、ちょっといいかなって思ったりして
なんというか、その
あずにゃんに会うの恥ずかしい
絶対に顔真っ赤になるって!
律(うお、顔真っ赤になってるぞ唯)
澪(や、やっぱ進展があったんじゃないか?律!)
紬(待って澪ちゃん。焦っちゃダメよ。見守らないと)
澪(あ、ああ。そうだな。ここは慎重に見守らないとな!)
その時です
梓「お疲れ様ですー」
唯「!」
扉が開いて、あずにゃんが顔を出しました
澪「お、梓来たか」
律「遅れるなんて珍しいじゃん。ほら、早く来いよ」
梓「は、はい」
トコトコと駆け寄ってくるあずにゃん
ギターと鞄をベンチに置いて、席に付きます
梓「すみません、ちょっと友達とお喋りしてまして」
律「いいって別に。どうせ今日も練習なんか少ししか」
澪「律?」
律「ごめんなさい」
紬「今お茶入れるわね、梓ちゃん。ミルクティーでいい?」
梓「はい、お願いします」
あずにゃんは今日も可愛い
本当に、見とれるくらいです
あの髪に触れて、あの太股で膝枕してもらって
それで、あの小さな手で髪を洗ってもらって、夢の中とは言え胸まで……
律「で、だ」
澪「うん。えっと……」
梓「……」
紬「あの……」
律「ゆ、唯?」
唯「ひゃい!?」
我に返ります
び、びっくりした……
律「だ、大好きなあずにゃんが来たぞ?」
唯「え?あ、こんにちわあずにゃん!遅かったね!」
梓「へ?……あ、すみません。憂と少し話をしていたので」
唯「そ、そっか!えへへ!」
律「……」
澪「……」
梓「……」
紬「……」
え、何この沈黙
わ、私どこか変だった?
平静を装えてたよね?
律「あ、あのさ、唯。その……」
澪「きょ、今日は梓に抱きつかないんだなー」
唯「へ?……あ」
そ、そうだった!
今日一回もあずにゃんに抱きついてないよ!
唯「そ、そうだったね!忘れてたよ!」
紬(忘れてた!?)
立ち上がり、あずにゃんの席まで回り込みます
唯「あ、あずにゃん分補給の時間だよー」
冗談めかして、勢いとノリで抱きつきにいこうとします
しかし
梓「……はい。どうぞ」
あずにゃんが両腕を広げて、迎えてくれました
今まではこんなことしてくれなかったのに
両腕を広げて私を待つあずにゃんの上目遣いが、そりゃもう可愛くて
……鼻血が出そうで
唯「きょ、今日はお休み!休肝日!」
梓「へ?」
律「なんだと……?」
あずにゃんから顔をそらして、とりあえず言い訳してみます
唯「あ、あずにゃん分は中毒性高いからね!たまには摂取しない日も作らないと!」
澪「へ、へえー」
紬(い、一体何が起きたというの……)
ダメだ、鼻血出そう
唯「わ、私ちょっとおトイレ行ってくるね!みんなはお茶してて!」
少し落ち着かないと
私は逃げるように、急いで部室を出ました
律「……一体どうしたというんだ」
唯が。あの唯が
梓大好きなあの唯が、梓に抱きつかないだなんて
今まで無かったし、考えられない
やっぱりこの週末、何かあったんじゃ
梓「す、すみません」
突然、梓が席を立った
澪「どうした?梓」
梓「教室に忘れ物しちゃったみたいで。取りに行ってきますね」
律「あ、ああ」
梓「急いで戻りますから」
そう言って梓も小走りで部室を出て行く
な、何なんだよ、一体……
最終更新:2012年02月27日 21:39