さわ子「こんにちわー、みんな練習してるー?」
程なくして、さわちゃんが入ってきた
練習してるー、とか聞いておきながら、目線はテーブルの上のお菓子とお茶だ
さわ子「むぎちゃん、私もお茶ちょうだい」
紬「はい」
律「さわちゃん、さっき梓に会った?」
椅子に腰を下ろすさわちゃんに聞いてみる
さわ子「ん?うん。階段の踊り場ですれ違ったわよ。なんだか顔真っ赤にしてたけど」
澪「顔が真っ赤に?」
梓が顔を真っ赤にしてた?
なんだか本当、意味がわからない
さわ子「一体どうしたの?そう言えば唯ちゃんも居ないみたいだけど」
ギターと鞄はあるみたいね、とさわちゃんは言う
律「いや、実はさ」
私は先ほどの出来事をさわちゃんに話す
唯の様子がおかしかったこと
唯が梓に抱きつかなかったこと
唯が逃げて、梓も逃げちゃったこと
さわ子「あらー。そういうことね」
笑って、お茶を飲むさわちゃん
澪「先生、何が起きたのかわかるんですか?」
さわ子「だいたいね。……あ、ほら、むぎちゃんも座りなさいよ」
紬「あ、はい。ありがとうございます」
むぎを自分の隣に座らせて、改めて私と澪に向き直る
さわ子「週末、お泊まりしたんでしょ?あの二人。たぶんね、唯ちゃんは意識し過ぎちゃってるのよ」
澪「意識?」
さわ子「そうそう。どうせ寝食を共にしてみて、梓ちゃんの新たな一面とか見ちゃったんじゃない?それか、何かイベントが発生したとか」
律「イベント?」
さわ子「十八禁的なね」
またまたー、と笑う私と澪
……まだ、だよね?
澪「そうですか。……じゃあ、心配はいらなそうですね」
さわ子「梓ちゃんの方も、なんだか普通じゃないみたいだしね。ま、暖かく見守って上げればいいんじゃない?」
澪「はい。そうします」
律「っていうかさわちゃん知ってたんだ、唯が梓を好きなの」
さわ子「当然よ。見てればわかるわ。……りっちゃんと澪ちゃんの関係も気づいてるわよ?」
澪「え!?」
ちょ、マジで?
律「む、むぎ?」
紬「いや、私が言う前から気づいてたわよ、先生」
そ、そっか
あれー、結構気をつけてたのにな
さわ子「まあ別に何も言わないわよ。この学校、昔からレズ多かったしね」
伝統みたいなものよ、とさわちゃんは笑う
むぅ……
律「伝統かー。だからさわちゃんも女の子好きなんだね。むぎ可愛いもんなー」
さわ子「え……?」
さわちゃんがむぎを見る
むぎが困った風に笑ってる
澪「いや、その……私達が気づいちゃって」
さわ子「……マジ?」
頷く私と澪
途端、ガシっとさわちゃんが私の肩を掴んだ
さわ子「お願いだから言わないで!生徒に手を出したとかヤバイと思うから!」
律「言わないって!応援してんだからさ」
どんだけ焦ってるんださわちゃん
澪も慌ててフォローする
澪「そ、そうですよ。別にからかおうとかそんなんじゃありません」
さわ子「ほ、本当……?」
再び頷く私と澪
こんなこと、誰彼かまわず言えるもんか
律「もっと私達を信用しろよー、さわちゃん。むぎは信じてくれたのにー」
澪「そうブーブー言うなよ律。確かにさわ子先生の言う通り、バレたらヤバイんだから」
そりゃそうだけどさー
さわ子「だって仕方ないじゃない。どこで誰を好きになるかなんて自分で決められるわけないでしょ」
律「まあ、そうだな」
さわ子「それに本気で好きになっちゃったんだもの。絶対に離したくないから、みんなには黙ってたのよ」
紬「さ、さわちゃん……そんなに私のこと……」
さわ子「私は本気よ、むぎちゃん」
紬「私も、私も大好きです!」
律「あれ、どこから惚気を聞かされる展開になった?」
澪「さわちゃんって呼んでるんだ、むぎ」
まあ、お互いに交際が発覚したことだし
……えっと、何の話だったか
律「って、そうじゃなかった!私達じゃなくて、唯と梓のことだ!」
さわ子「だからほっとけばいいってー。なるようにはなるんだし」
律「でも……」
さわ子「いいのよ。私達が何をしたところで、結局は唯ちゃんと梓ちゃんの問題なんだし。私達に出来ることがあるとすれば」
澪「……あるとすれば?」
さわ子「この後の展開よね」
紬「この後?」
さわ子「そう。見守るとか、相談に乗ってあげるとか。もし二人が付き合えたら応援してあげて、ダメだったらフォローするとか」
それくらいよ、とさわちゃんは言った
一定のラインを引くような大人の意見だけど
……でもまあ実際、その通りではあるんだけどな
当事者間の問題だってのはわかってる
でも心配なんだよ畜生
さわ子「ところで、あなたたち付き合ってるのよね」
律「え?うん」
澪「つ、付き合ってます」
いきなりどうしたんだろ、さわちゃん
さわちゃんはニヤニヤしながら身を乗り出して、囁くように言う
さわ子「あなたたち知ってる?桜高祭の結婚式」
澪「け、結婚式?」
やっぱり知らないんだ、とさわちゃんは笑う
さわ子「あのね、さっきも言ったけど、女の子同士の恋愛ってこの学校じゃ珍しくないの。女子校だし、伝統的な雰囲気でもあるんだけど」
さわ子「そんな女の子同士のカップルだけど、日本じゃ結婚出来ないじゃない?入籍は出来るけど式は挙げられないし」
律「まあ……」
澪「ですね……」
ったく、お互いわかってて触れないようにしてたのに……
さわ子「でね、結婚は出来ないけど、やっぱり好きな人と結婚式は挙げたいじゃない。それで、いつからか出来たのが桜高祭限定の結婚式よ」
紬「私は知ってるわ。結構有名よね、その世界では。都市伝説扱いだけど」
どの世界の話なんだ……
さわ子「桜高祭期間中、毎年絶対に『結婚式』がクラスの出し物として出てくるのよ。クラスはバラバラだし誰も意識的に開催してないんだけど、何故かね」
澪「ちょ、ちょっと怖いですね……」
ふーん、要するに、毎年どこかのクラスが「結婚式」を開催してるってことか。伝説を意識せずに
怖くないわ、とさわちゃんは言う
さわ子「むしろ、伝説があるのよ。『桜高祭の結婚式で愛を誓い合った二人は永遠に結ばれる』ってね」
律「へー……」
澪「な、なんだかロマンチックですね。えへへ……」
澪が私の裾をぎゅっと掴んだ。可愛いなおい
さわ子「まあ、良いことばかりでも無いんだけどね」
律「え?」
さわ子「だからね。マジなのよ、その伝説。本当に結ばれちゃうの」
だったらいいじゃん
……って、ああ。そういうことか
律「もしかして、友達同士で冗談で結婚式に参加しても結ばれちゃう?」
さわ子「そうそう。第一この伝説、女の子が好きって女の子にしか興味の無い情報だしね。あまり知られてないのよ、一般の間だと」
さわ子「知らずに参加して、女の子に目覚めてしまった同級生が何人も居るわ」
なんていうか、そうとう強力な効果みたいだな
呪いと言い換えてもいいんじゃないか?澪が怖がるから言わないけど
さわ子「まあ、あなたたちなら問題ないでしょ。参加してみれば?思い出になるわよ」
律「……どうする?」
澪「私は……やりたいけど……」
何故か俯き加減で言う澪
律「んじゃやるか、結婚式。さわちゃん、どのクラスがやるの?」
さわ子「今年は……あれ?そういえば、何か一つ条件があったような……」
澪「って、ちょっと待て律!」
腕を引っ張られる
何故か澪が真剣な顔をしていた
律「え、どうしたの澪しゃん」
澪「真剣に考えろよ。結婚式挙げたら、ずっと一緒なんだぞ?もしこの先、律に好きな人とか出来たら……」
自分で言っておいて涙目になる澪
ったく……
律「馬鹿。お前を一生離すつもりはないよ」
澪「え……」
律「十年片思いしてきたんだぞ。今更お前以外の人間なんて見れるかよ」
澪「あ、あう……」
律「それともいいの?私が他のとこ行って。澪も行っちゃうの?」
澪「い、いや、それは無い!わ、私も律と……!」
律「じゃあ決まりだな。参加で」
澪「り、律……!」
少しは信用しろよな、もう
遊びで付き合ってるわけじゃねーんだからさ、私は
見ると、むぎとさわちゃんがニヤニヤしてる
ちっ、無意識に惚気てしまったようだ
だって澪があんなこと言うんだもん……
律「あー、その。お見苦しいものをお見せしてすみませんね」
さわ子「いえいえ」
紬「でもまさか、ここでプロポーズしちゃうなんて予想もしてなかったわー」
律「プロ……え?」
さわ子「プロポーズー」
えっと、ああ
そういうことか、って
律「うわああああああああああああああああ!?」
そういうことになるのか!?なるよな!
さわ子「完全に無意識だったみたいね」
紬「はい」
律「こ、こんな部室で……お茶のついでみたいな感じでプロポーズしちまった……」
さわ子「何よ。なにか不満でもあるの?」
律「だって理想のプロポーズのシチュってあるじゃん……。観覧車で夜景をバックに、一番上になった瞬間に言うとかさ……」
そういう計画を立ててたのに……
紬「りっちゃんって紳士ね……」
さわ子「むしろ乙女じゃない?りっちゃんの理想のプロポーズでしょ、それ」
澪「……律」
うなだれる私の肩を、澪が抱く
澪「今度は私が言うよ。そのシチュエーションで。恥ずかしいけど……勇気、出すから」
澪の顔を見る
照れくさそうだけど、それでも瞳は真剣そのものだった
律「み、澪……私の王子様……!」
さわ子「軽音部全員参加出来るといいわねー」
紬「そうですね……って、さわ子先生、まさか」
さわ子「え?もちろんそのつもりだけど……嫌?」
紬「い、嫌じゃないけどダメです!バレちゃうじゃないですかそんな目立つことしたら!」
さわ子「大丈夫よ。遊びみたいな雰囲気出しとけば真剣だなんて誰も思わないだろうし」
紬「で、でも。もし万が一バレたら、先生の立場だって」
さわ子「そこが問題なのよねー。でも、やっぱむぎちゃんは真剣に愛してるし?」
紬「そ、それは私だってそうですけど……」
さわ子「まあ、考えておいてくれない?」
紬「考えるまでもなく結婚式挙げたいわよさわちゃん……」
ガチャ
唯「ただいまー。……なにこの雰囲気。……あずにゃん居ないし」
帰り道
すっかり陽が落ちるのも早くなって、私達は四人、ぶらぶらと歩いています
あれから少し練習して、あずにゃんが帰っちゃいました
何でも憂とお買い物に行くのだとか
私も何だか変な調子で、「付いていく」と言えるわけもなく見送っちゃいました
唯「ねーねー、むぎちゃん」
紬「んー?どうしたの、唯ちゃん」
唯「あの二人、今日はなんだかずっといちゃいちゃしてるね」
前方を歩く二人の背中を見ながら、言ってみます
唯「私がおトイレ行く前は普通だったと思うんだけど」
紬「あー。……色々あるんじゃない?二人とも、仲良いもの」
そう言って笑うむぎちゃん
なんだか上手くはぐらかされた気もするのですが
でも、二人とも付き合ってるからだよね
私がそれを知っちゃったから、普段よりもいちゃいちゃしてるように見えるのかも知れない
……羨ましいな。私も、あずにゃんとあんな風に歩きたいな
唯「……あ」
そんな風に考えたところで、思いつきました
あずにゃんが一昨日、一緒に寝た時に言っていた台詞
あずにゃんの好きな人って、三人とも知ってる人なんだよね
……聞いてみようかな
あずにゃんだって、聞くのは反則だなんて言ってないし
今ちょうどあずにゃん居ないし
誰かがわかれば
私もその人の真似をすれば振り向いてもらえるかも
唯「あの……みんな、ちょっといいかな」
律「んー?」
前方を歩いていたりっちゃんと澪ちゃんが、揃って振り返ります
澪「どうしたんだ?」
唯「ちょっと、聞きたいことがあるんだけど」
首を傾げて、むぎちゃんが言います
紬「何?聞きたいことって」
唯「あのね」
えっと、どう言えばいいのかな
って、考えるまでもないか
唯「その……あずにゃんの好きな人って誰かわかる?」
私がそう言った瞬間、三人は顔を見合わせました
澪「梓の好きな人って……」
紬「そりゃまあ、ねぇ」
律「まあな」
唯「し、知ってるの?」
律「まあ落ち着けって」
りっちゃんが私の肩をぽんっと叩きます
律「いきなりどうしたんだ?そんなこと聞くなんて」
唯「えっと。……一昨日のお泊まりの時に、あずにゃんに好きな人が居るって教えてもらって。それで、ちょっと気になっちゃって」
律「ふーん」
……なんでニヤニヤしてるんだろ、りっちゃん達
律「それでー、唯ちゃんはー、なんであずにゃんの好きな人が気になるのー?」
唯「そ、それは!」
最終更新:2012年02月27日 21:41