アットウィキロゴ
い、言っちゃおうか、あずにゃんが好きだからって

そしたら、これからも相談出来たりするかも……

いやでも、そうしたらあずにゃんに迷惑なんじゃないかな

なんかこう、部内で私があからさまに猛プッシュされたりしたら

あずにゃんには好きな人が居るんだから、それは迷惑になるかも……

唯「……あずにゃんからその人の印象を教えてもらったんだ。それで、その人がすごく完璧超人だったからさ」

どんな人かなーって、思っちゃって

律「ほほう」

澪「なあ、唯。梓は何て言ってたんだ?梓の好きな人をさ」

唯「え?んーとね」

心の中で繰り返して、言葉にします

唯「『かっこよくて。真剣な時は真剣で、やる時はやる人で。温かくて、優しくて。目が離せない人』だって」

私がそう言った瞬間、三人は笑い出しました

律「ま、マジかよ梓の奴……あはは!」

紬「本当に大好きなのねー、梓ちゃん」

澪「お、お前ら笑っちゃ失礼だろ!……あはは」

唯「えー?私なんか可笑しいこと言った-?」

可笑しくはねーけど、とりっちゃんが笑いすぎて涙を拭いながら言いました

律「ご、ごめんな……梓、その人のことどれくらい好きだって?」

唯「ずっと一緒に居たいくらい大好きだって言ってたよ」

律「お前に?」

唯「え?うん。そりゃ、私とお話してた時だから」

律「梓も大胆だな、おい!」

澪「けっこう勇気あるんだな」

紬「いいわ……いいわよ……」

何だか三人の反応を見る限り、みんな誰だかはわかっているようです

でも、なんで笑うんだろう?

唯「その人知ってるの?みんな」

律「ああ、私達全員知ってるよ」

唯「じゃ、じゃあ」

澪「いや、教えることは出来ないな」

唯「えー!?」

な、なんでそんなイジワルするの?

唯「む、むぎちゃんは……」

紬「ごめんなさいね、私もちょっと教えられないかなー」

そ、そんな……

澪「……そんな顔するなよ。まあ聞けって」

唯「うぅ……」

コホン、と澪ちゃんが咳払いして、

澪「確認だけど、梓はその事を他の人に聞いてもいいって言ってた?」

唯「……ううん。でも、ダメとも言われなかったよ。『他の皆さんに聞いても、きっとわかるはずです』って言ってたし」

澪「……信用されてるんだな、私達」

紬「唯ちゃんが私達に聞いてくるのも予想済みでしょうね、きっと」

澪「なあ、唯」

唯「ん?」

澪「やっぱり、梓の好きな人は自分で考えなきゃダメだよ。きっと梓もそれを期待してる」

唯「……うん」

澪「梓の言う通りだよ。その人の特徴を聞いただけで、私達は誰だかわかった。梓は良く見てると思うよ」

唯「本当にそんな人居るの?」

澪「ああ。私も時々、かっこいいなって思う瞬間があるし」

律「確かにな。いつもはぼーっとしてるくせに、決める時はビシッと決めるし」

澪「あ、律もかっこいいよ?」

律「ばっ……い、今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ、まったく……」

真顔で言うな、とりっちゃんが小さく呟いてます

紬「優しいし、安心出来るし。梓ちゃんもきっと、そういうところが好きなのよね」

むぎちゃんも笑顔でそう言いました

澪「だから、まあ。頑張れ。焦らずゆっくりとでいいから。私達も応援してる」

律「出来れば文化祭までに気づいてくれたら嬉しいなー」

唯「文化祭?なんで?」

紬「気にしなくていいわよ、唯ちゃん。自分のペースで」

唯「うん……わかった」

澪ちゃんが頭を撫でてくれます

その時にあずにゃんの膝枕を思い出しちゃって、今日抱きついておけば良かったなって、ちょっと後悔したり

澪「好きなんだろ、梓のこと」

唯「うん、大好き。……って、え!?」

ちょ、気づかれた!?

律「私達が気づいてないとでも思ってたのかよ」

りっちゃんがため息をつきます

紬「応援してるって言ったでしょ」

そう言って、りっちゃんとむぎちゃんも頭をなでなでしてくれます

三人同時に頭を撫でられて、ちょっと恥ずかしい

でも、確かに暖かい気持ちになって、勇気が出てきたような気がします

唯「うん。頑張るよ……あずにゃんに振り向いてもらえるように!」

律「おう。今の数百倍頑張れこの鈍感」


―――

唯「ただいまー」

玄関を開けて、靴を脱いでいると

梓「あ、唯先輩。お帰りなさい」

唯「え……?」

私服にエプロン姿のあずにゃんが出迎えてくれました

唯「ど、どうして」

梓「憂にクッキー作りを習ってたんです。今ちょうど出来上がったんで、良かったら味見してもらえますか?」

そう言って、微笑むあずにゃん

その笑顔で、なんだか心の真ん中ら辺が、泣くのをこらえるみたいに痛くなって

梓「……どうしたんですか唯先輩。休肝日だって意味わからないこと言ってたじゃないですか」

唯「んー。もういいや。帰る時もずっと、抱きしめておけば良かったなって後悔してたし」

梓「何ですかそれ」

笑われてもいいもん

それでも、今度は後悔しないように

ぎゅっとあずにゃんを抱きしめました

みんなに私の気持ちがバレちゃっても、みんなは普段通りに接してくれました

殊更あずにゃんとくっつける場面を増やすわけでもなく、ごく自然に、いつも通りに

それがとても嬉しかったです

あずにゃんも迷惑することもなく、私だって気を使うこともなく

そのおかげかも知れませんが、バレちゃった月曜日からこっち、あずにゃんとの関係も変わってきて

気のせいかも知れませんが、なんだか前よりも仲良くなれた気がします

心の距離が近くなったというか、そんな居心地の良さをあずにゃんのそばで感じます

桜高祭も間近で、人生初ライブだと言ってたあずにゃんも張り切っています

そんなあずにゃんはとても可愛くて、そんな彼女の隣でギターを弾けるのはとても嬉しくて

だからつい、今の状況で満足してしまう自分も居ました

これだけ仲良くなれればいいんじゃないか、とか

これ以上を求めるのは、とても欲張りなことじゃないかとか

そんな事を考えてしまうわけですけど、同じくらい、それじゃいけないってこともわかってます

あずにゃんには好きな人が居て、その人とは相思相愛で

あとはその人があずにゃんの気持ちに気づけば、それで私は終わりです

その人が幸運にも気づかなかったところで、私が卒業してしまえばそれで終わり

あずにゃんは私ではなく、その好きな人を追いかけるでしょう

……追いかけるって、あずにゃんお風呂で言ってたし

だからって私が告白するかというと、それもなんだか早い気がして

だったらいつ告白するのかってことも、全然考えられなくて

このまま、ぬるま湯のような居心地のいい状況に甘えてるわけにもいかないってこと、わかってるし

あずにゃんとの雰囲気が良くなればなるほど、それを壊すのが怖くなってるのも正直ありました

本当、面倒くさい人間です

あれが満たされればこれが欲しくなって

それを手に入れたら、今度はそれを失うのが怖くて

それで結局、一番大事なものは最後まで手が届かないのかも知れません

その時、私にはどうすればいいかわかりませんでした

だから、この出来事は

そういう意味では、私の足を無理矢理動かすスイッチにはなったんだと思います


―――

和「ちょっと失礼するわよ」

ガチャっと部室の扉が開いて、和ちゃんが顔を出しました

澪ちゃんが手を上げて、その合図で私達は演奏を止めます

和「あ、練習中だったんだ。ごめんね、止めちゃって」

澪「いいよ。これが終わったら休憩しようとしてたんだ。どうしたんだ?」

和「ちょっと律に用事があってね」

そう言って、和ちゃんはドラムセットの後ろのりっちゃんに目を向けます

律「私?どうしたの?」

和「あなた、講堂の使用届また出してないでしょう」

律「……あ」

全員がりっちゃんを見ます

一瞬の沈黙の後、

律「……えへ」

澪「またかお前は!」

可愛くウインクしたりっちゃんの頭を、澪ちゃんは拳骨しました

律「澪しゃんごめんなさいー!」

澪「まったくお前は!去年もそうだったし、新歓の時だってそうだったろ!」

律「おっしゃる通りです!」

平謝りのりっちゃん

私を励ましてくれたあの帰り道のイケメンりっちゃんだとはとても思えません

やっぱり澪ちゃんには頭が上がらないんだなぁ

澪「い、今からでも間に合う?和」

和「大丈夫よ。ギリギリだけどね。用紙が生徒会室にあるから、律を連れてっていいかしら?」

澪「もちろんだ。……律」

律「はい!行ってきます!」

キビキビした動作でりっちゃんが部室から出て行きました

唯「りっちゃん、澪ちゃんしか見てなかったよね。和ちゃんに言われてから」

梓「怒られるってわかってたんでしょうね」

紬「そういう関係も素敵ね!」

りっちゃんに続いて部室を出て行く和ちゃんが、私を振り返りました

和「練習頑張ってるみたいね、唯」

唯「えへへ、あずにゃんの初めてのライブだからね!」

梓「わ、私に関係なく、いつも真面目にやってくださいよ……」

和ちゃんが微笑みます

和「まあ、お互い頑張りましょうね。文化祭も、他のことも」

唯「うん!和ちゃんも頑張ってね」

それじゃあね、と言って和ちゃんは行ってしまいました

憂から聞いた話だと、ここ最近和ちゃんは忙しいみたいです

忙しくてあまり構ってもらえないと、憂が残念そうにぼやいていました

まあ、桜高祭まであと一週間なのです

生徒会も、今が一番忙しい追い込み時でしょう

澪「まったく律のやつは……危うくステージに立てないところだったじゃないか……」

紬「まあまあ澪ちゃん。和ちゃんも助けてくれたことだし」

ぶつぶつ言ってる澪ちゃんを、むぎちゃんがなだめます

こんなこと言っても、澪ちゃんも本気で怒ってるわけじゃないって知ってます

なんだかんだでりっちゃんのこと大好きだもんね、澪ちゃん

梓「さて、ドラムの律先輩が抜けちゃいましたけど」

紬「先に休憩しちゃましょうか」

澪「そうだな。唯も頑張ってたし」

唯「えへへ、もっと褒めて!」

休憩することになりました

ギターを軽くクロスで拭いて、壁に立てかけておきます

澪「ちょっとトイレ行ってくるよ。先にお茶してて」

澪ちゃんが小走りで部室を出て行きます

唯「じゃあ、私達三人だけでお茶の準備を」

紬「ご、ごめんさい、私も行ってくるね。すぐに戻るから」

続いてむぎちゃんも行っちゃいました

図らずもあずにゃんと二人きりです

梓「……なんか最近多いですね。私達が残されるの」

唯「え、そう!?」

そうなの!?

普段通りだと思ってたんだけど

唯「ま、まあ気のせいじゃないかな?えへへ」

しまった、何気にりっちゃん達は気を使ってくれてたのか

全然気づかなかったよ

あずにゃん迷惑じゃないかな?

梓「……ま、いいですけど」

唯「え、いいの?」

梓「悪いことじゃないんじゃないですか?」

唯「――そ、そうだよね!あっずにゃーん!」

思わず抱きしめちゃいます

悪いことじゃないんだって!

迷惑じゃ無いって!

梓「ちょ!――もう、唯先輩は」

唯「いいじゃん。誰も居ないんだからさー」

梓「そうですけど、それがむしろ問題というか……まあ、わかりませんよね」

ため息をつくあずにゃん

唯「悩み事?」

梓「そうですねー。悩みですねー」

唯「私で良ければ相談してよ!これでも先輩なんだから!」

梓「唯先輩が原因なんですけどねー」

唯「わ、私!?なんかしたっけ?」

梓「何もしないことが原因じゃないですかねー」

唯「わけがわからないよ!」

梓「別にいいんですけどねー」

お茶の準備をしておきましょうか、と言われて、私はあずにゃんを解放しました

梓「流石に紅茶は入れられないので、カップとお菓子だけでも」

唯「だねー。むぎちゃんのいれる紅茶ってやっぱ格別っていうか」

梓「……憂に習おうかな、紅茶の入れ方」

唯「ん?何か言った?」

梓「べ、別に何も!」

小走りで食器棚に向かうあずにゃん

その揺れるツインテールが可愛いな、と思っていた

その時です

梓「きゃ!」

唯「あ!」

あずにゃんが転びました

咄嗟に身体が動きましたが、漫画のように間に合うわけもなく、あずにゃんは床に倒れます

梓「痛い……」

唯「あ、あずにゃん!大丈……夫……」

梓「は、はい。大丈夫で……」

私の視線の先をあずにゃんが辿ります

起き上がりかかって、四つん這いの状態になってるあずにゃん

私の位置だと、あずにゃんの白いショーツが丸見えでした

あずにゃんを助け起こすのも忘れて、凝視しちゃっていたようで

梓「……っ!」

バッとスカートを手で押さえて、私を向いて床にへたり込むあずにゃん

唯「あ!いや、その……」

梓「……」

普通の女の子同士なら、こんなことは笑って流して、冗談の一つでも言って終わりでしょう

長く時間を一緒に過ごしていれば、こんなことだってありますから

でも、私達は違います

私達は女の子で、それぞれ女の子を恋愛対象としてみていて

その……そういう目でも、見ているわけで

だから

梓「み……見ました……?」

あずにゃんは顔を真っ赤にして、消え入りそうな声でそう言います

見ましたも何も、凝視してる私に気づいて隠したんじゃん

見てないよと嘘をついても、この後の時間が気まずくなりそうで

唯「う、うん……」

頷いてしまいます

梓「……っ!」

顔を伏せちゃうあずにゃん

ど、どうしよう

怒られたりしたら、私も笑って謝ってそれで終わりなんですが、こういう反応をされると

っていうか、これってあずにゃんに気があるのバレバレじゃん、私!

唯「あ、あずにゃんごめんね!私女の子が好きだから、その、こういう時は目が反応しちゃってさ!」

笑って言ってみます

何としてでも隠し通さなければ

バレたら、本当気まずいってレベルの話じゃありません

最悪、放課後ティータイムとしての活動自体にも影響が出るかも

梓「い、いや、その」

唯「事故だよね!私、その、誰にでもそうだから!」

梓「……え?」


14
最終更新:2012年02月27日 21:44