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唯「おかえりー」

憂「あ、お姉ちゃん。ただいま。遅くなってごめんね。すぐにご飯を……」

唯「ゆっくりでいいよー。疲れてるんだし。あ、お風呂掃除しといたから」

憂「え!?ありがとうおねえちゃん!」

唯「ううん。私の方がいつも遅いから、たまに早く帰ってきた時にはやらないとね」

憂「ありがとうね。よし、私もすぐにご飯作るね!」

唯「ゆっくりでいいってばー。……憂」

憂「ん?どうしたの?」

唯「あずにゃんのこと、よろしくね」

憂「あ、結婚式のこと?えへへ、梓ちゃんから聞いたんだ」

唯「うん。あずにゃんも嬉しそうだったよ」

憂「うん。頑張るよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんも絶対見に来てね!」

唯「うん。見に行くね」

憂「えへへ。梓ちゃんも楽しみにしてたよ。お姉ちゃんが見に来るからって張り切ってたし」

唯「そっか。……楽しみだね」

憂「楽しみにしててね!」

唯「じゃあ私、部屋行ってるから」

憂「うん。ご飯出来たら呼びに行くね」

とりあえず、私の行動に間違いは無いと思います

心も頭もぐちゃぐちゃで、何が正しいのかわかりませんでした

だから、少なくとも

客観的に見て、多くの人が幸せになるような行動を取りました

意識的に、自分の思ってることをスルーして

機械のように判断して、みんなの前で宣言しました

宣言しちゃえば、後は引っ込みもつかなくなると思いましたし

だからこれは、無理矢理自分を奮い立たせるための強引な方法です

現実を見ようとせず、ただ自己保身に走る私への対策でした

あずにゃんは憂が好きで、憂もあずにゃんが好き

二人は相思相愛で、桜高祭の結婚式で永遠の愛を誓う

二人は伝説の名において祝福され、約束される

私の入る隙間は無い

邪魔をしてはいけない。祝福すべき。幸せを祈るのが私の役目

落ち込んでいる暇はありません

妹の、そして愛する後輩の幸せのために、私にもやるべきことがあるのですから

その方向だけに自分の目を向けさせるのに

叶わない幻想なんて、視界に無い方がいい

少なくとも私はその時、それが正しいと感じましたし、それだけを頑張ると決めていました

みんなに「諦める」と宣言した次の日も、桜高祭前日も

相変わらず忙しい中、わざわざ練習に顔を出すあずにゃんへの対応は普通だったと思います

もちろん触ってないし、スキンシップもしませんし、出来る限りじっと見ないようにもしました

ちょっとだけきつかったけれど、ちゃんと出来て

だから、あとはこのまま

ゆっくりとあずにゃんへの想いを忘れていけばいいと

忘れることは出来なくても、例えば友情とかなんとか、そういう気持ちとすり替えて自分を納得させればいいと

そう思っていました



件名 Re
今日の唯先輩の演奏、良かったですよ。どこが不満なんですか

件名 Re:Re
音楽ですか?んー、基本洋楽とか、ですかね。そう言えば、澪先輩も律先輩も洋楽好きなんですよね。唯先輩は?

件名 Re
褒めたって何も出ませんよ。誰にでもそういうこと言ってるんでしょ!

件名 Re:Re:Re
んー、欲しい服はあるんですけどね。……一緒に行きませんか?

件名 試験勉強
ちゃんとしてます?赤点とか取ったらダメですからね!

件名 Re
唯先輩は猫と犬、どっちが好きですか?

件名 お弁当
忘れたでしょ。憂が言ってましたよ。今から届けに行きますから教室に居てくださいね

件名 Re:Re
また平気な顔でそういうことを……。どうせ本気じゃないんでしょ!

件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re
そうですね。もう遅いですし。じゃあ、また明日。おやすみなさい

件名 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re
そうだ!忘れ物しないように、ちゃんと準備してから寝てくださいね!




部室のドアが開いて、りっちゃんが顔を出しました

律「あ、やっぱりこんなことに居たか」

唯「どうしたの?」

律「いや……つーか、何してんだ?」

唯「へ?」

ギターはケースから出していましたが、私はベンチに寝そべったままで

唯「……えへへ。練習の合間の休憩?」

そっと後ろ手で手に持ったものを隠します

律「ったく、お前は」

笑いながら、りっちゃんは部室に入ってきます

律「いや、お前の姿が朝から無かったからさ。こうして探してたわけ」

唯「そうなんだ。何か用事?」

律「何もないけどさ」

唯「そっか」

私は身を起こして、ベンチに座り直します

唯「……今日、結婚式するんでしょ?りっちゃん」

律「え?」

なんでそんな驚いた表情するの

律「えっと、私言ったっけ?結婚式するって」

唯「いや、カマかけただけ」

律「お前なぁ……」

ため息をついてうなだれるりっちゃん

律「いや……今年はしないよ。澪と決めた」

唯「……私のせい?」

律「そういうわけでも……あるかもな」

澪がさ、とりっちゃんは言いました

律「お前らのこと、納得いかないって。あいつは、軽音部みんなで結婚式したかったらしくて」

唯「そっか。……なんか悪いことしちゃったね」

律「……私もむぎも、同じ考えでさ。でも、お前と梓のことだから。お前が決めて、私達は口出し出来ないもん」

唯「感謝してるよ。本当に。こんな結果だけどさ」

律「……もう一回、考え直さないか?だってこのままじゃ、お前の気持ち……」

だから、なんでりっちゃんがそんな顔するのさ

りっちゃんは澪ちゃんと幸せになるんだから

だから、そんな顔することないじゃん

唯「私の気持ちは、別に無駄になるわけじゃないよ。あずにゃんと憂に幸せになって欲しいって思ってるのは本当だもん」

律「だから、お前の気持ちはどうなるんだよ!お前は誰と幸せになりたいんだ!」

唯「……もう間に合わないよ。結婚式の伝説は本当だし、二人はそれを知ってて式を挙げるんだもん」

律「で、でも!――なにか他に、方法が……」

唯「りっちゃん」

私はりっちゃんを抱きしめました

唯「ありがとね。こんなに心配してくれて」

律「心配じゃ……なくて……」

唯「知ってる。私のことも考えてくれてるし、あずにゃんのことだって同じくらい考えてるんでしょ」

あずにゃんに幸せになって欲しいと願うのは、私だけじゃないのです

りっちゃんも澪ちゃんもむぎちゃんも

みんな、あずにゃんの幸せを祈ってるのです

ただ、あずにゃんの幸せが私の失恋であって

だから、こんな風に困らせてしまうのです

律「澪にも聞かれたけど……私もどうすりゃいいかわからないんだよ……どうしたら、みんな……」

唯「りっちゃん。澪ちゃんと結婚式してきなよ」

律「え?」

唯「私だって、りっちゃんと澪ちゃんの幸せを祈ってるもん。二人が同時に幸せになれるんなら嬉しいよ」

りっちゃんが私とあずにゃんの幸せを祈ってるのと同じくらいに

私だって、りっちゃんと澪ちゃんの幸せを祈ってる

これは嘘じゃない

唯「……私がそう言ってたって澪ちゃんに伝えて。だから」

律「……っ」

唯「泣き止んでよ」

自分のために泣いてくれる友達を持って、私は幸せ者だと思いました

りっちゃんも澪ちゃんもむぎちゃんも

私を応援してくれてて

だから、これからも

あずにゃんと憂が結ばれてしまっても

きっと私は何とか頑張れると

そう、思います

唯「澪ちゃん置いてきちゃったんでしょ。……もう行かないと」

抱きしめる腕をほどいて、私は言います

唯「私はもう大丈夫だから。気にしないで」

律「……うん。ありがとな」

グシグシと制服の袖で乱暴に目をこすって、りっちゃんは顔を上げました

律「じゃあ、行ってくるよ。澪んとこ」

唯「うん。頑張ってね!」

部室の扉に手をかけて、そして思い出したように振り返ります

律「そういえば、梓の結婚式には……」

唯「ここから直接行くよ。何時くらいかな」

律「十一時四十五分からだって。……その、唯」

唯「大丈夫だって。本当に」

笑って答えると、りっちゃんも少しだけ微笑みました

律「じゃあ、私達も梓のクラスに行ってるからさ。後でな」

唯「うん」

部室の扉が閉まりました

少し耳をすましてみると、階段を下りていく小さな足音が聞こえます

どうやら行ったようです

私は隠していた携帯をポケットから出しました

時刻表示を見ると、十一時三十分を少し過ぎたところ

あずにゃんの結婚式のために、もうすぐ出なきゃいけない時間なのですが

唯「ふぅ」

再び、私はベンチに座ります

別にあずにゃんの結婚式に行かないわけではありません

本当は行きたくないけれど、行かないわけにもいきませんから

憂に約束しちゃたし、あずにゃんにだって

だから、二人の結婚式に行く前に

私にはやらなきゃいけないことがあるのです




件名 Re
私は大丈夫です!唯先輩とは違って、日頃から勉強してますから
これに懲りたら、少しは日頃から頑張ってくださいね。たまになら、勉強付き合いますから

件名 パン!
ゴールデンチョコパン買えましたよ!唯先輩、食べてみたいって言ってましたよね。今から一緒にお昼どうですか?

件名 Re:Re:Re
だから、人前で抱きつかれるのとか恥ずかしいって話をしてるんです!



唯「……こんなにメールしてたんだ。私とあずにゃん」

あずにゃんと出会って……半年くらいかな?

それで、あずにゃん専用のメールフォルダがほとんどいっぱいになっていました

改めて読み返すと、本当に楽しい思い出が溢れてきて

唯「気持ち悪いなぁ、私。あずにゃんからのメール、全部保護とかね」

フォルダにかかっていた保護を外します

唯「このメールしてた頃は、なんだか楽しかったな」

まだ全然あずにゃんに告白しようなんて考えてなくて、あずにゃんからメールが来るだけで嬉しくて

本当、最近はラッキーなことが続いてて、少し調子に乗っちゃったよ

告白しようなんて考えなかったら、こんなことにはならなかったのかな

今でも、あずにゃんに抱きついたり自然にお話したり笑い合ったり

今日だって、一緒に露天とか回ったり出来たのかな

唯「……ふっ……うぅ……っ」

本当、私はどれだけ泣いてるんでしょう

いくら泣いても涙は止まらなくて

これから、どれだけ泣けばいいのかもわかりません


唯「……よし」

袖で涙を拭いて

携帯の画面を見ます

唯「みんなにいっぱい迷惑かけちゃったし。私も前に進まないと」

慣れない操作をなんとかこなして、「はい」と「いいえ」の二つの選択肢が表示されて

唯「ありがとね。私は確かに幸せだった」

親指を、決定キーに乗せて

唯「ばいばい、あずにゃん」

フォルダの消去をしようと、親指に力を込めた

その時

唯「わっ!」

突然、携帯が鳴り始めました

びっくりして、思わず携帯を落としそうになって

唯「っと」

すんでのところでキャッチします

唯「メール……?」

今の着信音はメールでした

何だろう、りっちゃんか誰かから?

あずにゃんの結婚式にはまだ時間があるから、催促とかじゃないと思うけど……

画面を見て、そこに表示されていたのはあずにゃんの名前でした

心臓がドクンっと高鳴ります


フォルダの消去はひとまず後で

あずにゃんからのメールを開きます

慣れた手つきで、何百回も繰り返した指の動きで

フォルダから、あずにゃんの新しいメールをクリックします


件名 唯先輩にだけ特別に
お先に見せちゃいますね。どうですか?みんなで作ったんですよ!


唯「……添付ファイルがある」

添付ファイルを受信して、表示して


その瞬間、私の中が真っ白になりました


画像は、あずにゃんのウェディングドレス姿の写真でした

自分で撮ったものではありません

ある程度全体が入るように撮っているから、きっと誰かに撮ってもらったのでしょう

お化粧もしてないのにあずにゃんの肌は白くて、目が大きくて

いつものツインテールはほどいて、クセ一つない綺麗な黒髪が白いウェディングドレスに流れていて

本当に、綺麗で

唯「……無理だ」

無理

絶対無理

嫌だ絶対嫌だ

無理耐えられない

誤魔化すなんて出来ない嘘もつけない絶対に嫌だ

もうダメだ

唯「絶対に無理」


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最終更新:2012年02月27日 21:52