唯「な、なんでそんな嘘を……」
憂「だってお姉ちゃん。こうでもしないと自分の気持ち、伝えないでしょ」
少し怒ったように、憂は言います
憂「お姉ちゃんにはお姉ちゃんなりの悩みがあったんだろうけど、それでも伝えなきゃならないことは伝えないと」
憂「梓ちゃん可愛いんだから。簡単に他の人に取られちゃうよ。本当に私が好きだったらどうしてたの?」
唯「それは……嫌だけど……」
憂「お姉ちゃんが何か勘違いしてるみたいだったから、そこに乗っかったの。まさか伝説を間違って知ってたのは驚いたけどね」
とにかく、憂はあずにゃんのことはそういう目で見てないってことだよね
……背中、押してくれたみたいだし
唯「……ありがとね、憂」
憂「ううん。お姉ちゃんのためなら何だってするよ」
にっこりと微笑む憂
憂「まあ……この後は、お姉ちゃんと梓ちゃんの問題だけど」
そう言って、憂はあずにゃんを見ました
相変わらず、あずにゃんはどこか不満げに私を見ています
……そりゃ、勘違いでこんな恥ずかしい告白をしてしまったわけですから
唯「ご、ごめんねあずにゃん。でも、その、さっき言ったことは全部本当だから」
梓「……知ってます」
小さくそう言うと、あずにゃんは俯きました
梓「でも、まだ全然わかってないです。唯先輩は」
唯「えっと……」
スキンシップ禁止令の発端
あずにゃんが泣いた理由
それは確かに、まだわからないけど……
梓「……後にしましょう。今はまだ、忙しいですから」
そう言って、あずにゃんは呆然としているりっちゃんと澪ちゃんを見ました
そ、そうだった
唯「ご、ごめんねみんな。私の勘違いのせいで……」
二人は私のせいで、今年の結婚式は出来なくなったのです
二人とも、すごく楽しみにしてたはずで
りっちゃんなんて、泣いちゃうほど私と結婚式の両方で悩んでたのに
でも
澪「……まあ、いいよ」
唯「え?」
律「うん。間違った伝説を教えたの私達だしさ。それに、やっぱり澪は納得してなかったみたいだったし」
笑いながら、りっちゃんは言いました
律「さっきも『せめて唯のこと見届けてから結婚式する』って、話し合ってたところだ」
唯「そ、そうなんだ。ごめんね、澪ちゃん……」
澪「ああ、いいよ。それに、唯のこともあったけどさ」
他にもやらなくちゃいけないことがあったんだ、と
微笑みながら、澪ちゃんは私の頭を撫でました
唯「……他にも?」
律「え、なんだよそれ」
澪「私からプロポーズしてないだろ、お前に」
え、とりっちゃんが澪ちゃんを見上げました
澪「プロポーズしてもらったからさ。私もやらなきゃって。……観覧車の一番上で」
律「み、澪……お前マジで……」
澪「今年はダメだったけどさ。来年は、な。それまでには、プ、プロポーズ頑張るから」
律「澪!私の王子様!」
二人にも何か色々あるようなので、私はむぎちゃんの方へ向き直ります
唯「むぎちゃんもごめんね……心配かけちゃって」
紬「ううん。いいのよ。私も今年は結婚式挙げないって説得したし」
唯「え、むぎちゃんも誰かと付き合ってるの!?」
紬「え!?いや、その……それはまた、今度ね!唯ちゃんと梓ちゃんのあれこれが終わってから!」
そう言うと、そそくさとりっちゃんと澪ちゃんの影に隠れてしまいました
私とあずにゃんのあれこれ、って……
ちらっとあずにゃんを窺います
相変わらず、どこか不機嫌そうに俯いているあずにゃん
律「……なあおい、唯。なんで梓のやつ不機嫌なんだ?」
りっちゃんがやってきて、小声で聞いてきます
唯「えっと、その……私が告白しちゃったから、かな。あはは……」
憂と結婚しないと聞いて安心していましたが、そうじゃないんです
あずにゃんには他に好きな人が居るということ
「かっこよくて。真剣な時は真剣で、やる時はやる人で。温かくて、優しくて。目が離せない人」
状況は、変わっていないのです
それどころか、私が告白しちゃって
あずにゃんの都合も考えずに暴走しちゃって
きっとあずにゃんは迷惑だったと思います
っていうか、こんな公開告白、あずにゃんの好きな人に聞かれたらと思うと
きっとあずにゃんは今にも走り出して、その人に伝えたいんじゃないでしょうか
あの人に興味は無いと
ただの部活の先輩で、私はそういう気持ちはなくて
私が好きなのは、あなただと
けれど、相変わらずあずにゃんは頬を少し膨らませながら俯いて、その場に立っています
それは、あずにゃんが立てた一つのルールのため
大好きな人を追いかける
その先どんな結末が待っていようと構わず走って行くための一つの制限
あずにゃんからは告白出来ない
それが、彼女がその場に立ち尽くしているたった一つの理由だと思います
律「……そうか?」
しかし少し眉を寄せて、りっちゃんは言いました
律「少なくとも私の知ってる梓は、気持ちを伝えられて嫌な顔をするような人間だとは思わないけど」
ぼやくように呟いた、その時です
三度、教室のドアが乱暴に開かれました
三度目の侵入者も、これまた息を荒げながら教室に入ってきます
和「憂……!やっぱり……無理……!」
それは和ちゃんでした
制服の袖に「実行委員」と書かれた黄色い腕章を付けています
この様子だと、お仕事の最中にここまで走ってきたようです
憂「あ、和さん。ちょうど良かったね、今から誓いの言葉だよ」
にっこりと、息を荒げる和ちゃんに微笑む憂
って
唯「ひっ……!」
澪「どうした、唯」
唯「う、憂が……なんか怒ってる……」
律「え、なんで?」
唯「わからないけど……」
それでも確かに、憂は怒っているようでした
姉である私もそう何度も見たことがない憂の怒る場面
憂は優しくて心も広くて大抵のことは優しく包み込んでくれる妹ですが
それでも、怒る時は怒るのです
和「……憂。あなたに言わなくちゃいけないことがあるの」
憂「んー?なにかな、和さん」
和ちゃんが少し言い淀みます
しかし、キッと憂を正面から見つめると
和「梓ちゃんと結婚して欲しくないの。考え直して」
そう言いました
って、あれ
和ちゃん、もしかして憂のこと……?
紬「……和憂?和憂ね!?」
むぎちゃんがはしゃいでいますが
憂は相変わらず、怖い憂のままのような……
憂「え?どうして?」
首を傾げて、憂は和ちゃんに言いました
憂「私が誰と結婚式しようが、和さんには関係ないでしょ?」
和「憂……」
いきなりの出来事によくわかりませんが、もしかすると和ちゃんは私と同じことを?
澪「え……え?そういうことなの?」
律「馬鹿。黙ってみてろ……」
ぐっと、和ちゃんが拳を握りました
そして
和「あなたの事が好きなのよ、憂。愛してる。誰にも渡したくない」
まっすぐに真正面から、和ちゃんが言いました
はっきりと、声が震えることもなく
ストレートにぶつけました
憂「……」
そんな和ちゃんの直球な告白に、憂は少し目を見張ったあと
憂「うん。知ってるよ。それで?」
困った風に、微笑みました
唯「え……?」
梓「は?」
和「し、知ってるって……」
呆然と和ちゃんが呻きます
さすがに言葉も続かないでしょう
勇気を振り絞った告白を、まさかこんな反応で返されるなんて
憂「和さんとは今まで通りだから安心してよ。私は梓ちゃんと幸せになるから」
梓「って、ちょっと憂!?」
憂「梓ちゃん」
黙ってて、と言われてあずにゃんがビクッとしました
どうやらあずにゃんも、憂が怒ってるのが理解出来たようです
な、なんで憂はこんなに怒ってるんだろう……
和「私はあなたが他の人と愛し合うなんて嫌なのよ!だから」
憂「……和ちゃんが好きなのは私の身体でしょ?」
冷たい声で憂が言うと、和ちゃんの肩がビクッと震えました
和「え……?なんで……」
憂「お泊まりの夜に私にしたこと、忘れたの?」
お泊まりの夜って
あずにゃんと和ちゃんがうちに泊まりにきた、あの夜だよね
何かあったのかな
和「お、起きてたの……?」
憂「起きてたよ。ちょっと期待してたもん」
笑いながら憂は言います
でもその目は、ちっとも笑ってなくて
憂「まさかあんなことして終わりだなんて思ってなかったけどね」
和「ち、違うのよ。それは」
憂「別にいいよ?これからも撮らせてあげる。でもね、私も幸せになりたいの。だから」
憂「だから、梓ちゃんと結婚式しちゃおうかなって。それでいいよね?和ちゃん。これまで通りだもんね?」
和「待って!その、それは違うの!あなただから、その、誘惑に勝てなかったっていうか!」
憂「信じられると思ってるの?」
和「その……」
憂「だったら和ちゃんの携帯、見せてもらえる?」
和「あ、それは……」
憂「私のこと本気で愛してるなら、その中身消してくれる?」
和「……」
壮絶な修羅場でした
私達も含め、客席の生徒も微動だにしません
っていうか憂の断片的な情報から推測してみると
……和ちゃん、私ですらそれは踏みとどまったよ?
憂「和ちゃん」
和「……」
教室内に冷たい空気が流れる中
純「は、はいはい!そこまでー!」
パンっと手を打ったのは、教壇に立っている純ちゃんでした
純「憂も梓も落ち着いて!今クラスの出し物の最中なんだからさ」
梓「純……」
憂「ごめんね。ちょっと取り乱しちゃったね」
純「先輩方も、ね?進行の妨げになっちゃいますし」
唯「あ」
紬「ご、ごめんなさいね」
いそいそと、私達は客席に座ります
そういえばそうだった
これ、クラスの出し物だったんだよ
純「まあ、進行と言ってもね……」
純ちゃんが教室を見渡します
どう考えても、もう普通の進行が出来る雰囲気ではなくて
純「皆さん、申し訳ありませんが予定していたデモカップルの式は諸事情で中止となりまして……」
憂「和ちゃんがダメって言うからね」
和「……」
梓「ふーんだ」
純「ですからその代わりに、本物のカップルの式を執り行いたいと思います!」
純ちゃんの言葉に、客席が盛り上がりました
一瞬で、冷たい空気がお祭りの雰囲気になっていきます
純「というわけで、梓。唯先輩とお願いね」
梓「え!?私達、別にまだそういうのじゃ」
純「そういうのいいから。誰のせいだと思ってんの?ちょっとは協力しなさい」
梓「……っ!でも」
唯「あ、あずにゃん……」
梓「そんな目で見ないでください!」
憂「行ってきなよ梓ちゃん。お姉ちゃんは、私が着てるドレスを着てね」
唯「え、いいの?」
憂「うん。和ちゃんのせいで、私は今回着れなくなっちゃったから」
和「……」
純「律先輩と澪先輩もどうですか?」
澪「あー、私達はまだ」
律「お願いするわ」
澪「って律!?」
律「いいじゃん別に。効力無いって言うし」
澪「で、でも私はまだ律にプロポーズして……」
律「練習だから大丈夫だって。ほら、ドレスに着替えに行くぞ」
澪「ちょ、ちょっと待ってよ!」
なんだかわかりませんが、あずにゃんと結婚式が出来るみたいです
確かに嬉しいんだけど、色々複雑というか
私の告白なんて宙に浮いたままだし、あずにゃんは相変わらず不機嫌みたいだし
紬「写真!写真撮らないと……」
さわ子「じゃあ他の人に頼みなさいね」
紬「って、先生!?いつの間に……」
さわ子「さっき来たのよ。言い訳を思いついたからね」
紬「言い訳って、何のことですか?」
さわ子「『あら、琴吹さん余っちゃったみたいね。先生と組もうか』」
紬「……さわちゃんちょっと待って」
さわ子「すみませーん!一組追加してくださーい!」
紬「ば、ばれたら大変なんだから」
さわ子「あ、これは練習だからね。何度言われようと、来年は本番するから」
紬「もう……えへへ」
あれ、さわちゃんが来てる
いつの間に来たんだろう
梓「唯先輩」
唯「は、はい?」
梓「お話は、明日のライブが終わったあとでします」
唯「……うん」
梓「だから、まあ」
ため息をついて、あずにゃんが言いました
梓「着替えてきてください。そこのカーテンで仕切ってるところが、更衣室になってますから」
最終更新:2012年02月27日 21:55