二人で何を話すでもなくテレビを眺めていると、
梓「ふわぁー……」
あずにゃんが欠伸をしました
時計を見ると、午後十時
週末の就寝時間には、少し早いですが
唯「寝よっか、あずにゃん」
ソファーから立ち上がります
唯「眠そうだしね」
梓「そうですね。少し早いですけど」
背伸びをするあずにゃんは、まるで猫のようでした
唯「あずにゃん」
梓「はい?」
唯「一緒に寝てくれる?」
梓「いいですよ。そのつもりでしたし」
やっぱり
梓「じゃあ、歯磨きしちゃいましょうか」
歯磨きセットを片手に、あずにゃんが微笑みます
どこか機嫌が良さそうに、軽い足取りで洗面所に向かうあずにゃん
そんな背中を眺めながら
私は心を決めました
梓「そう言えば、今日は片付いてますよね」
私の部屋に入った時、ふとあずにゃんが言いました
唯「え?」
梓「この前は結構散らかってましたけど」
唯「あ、うん。……掃除、したんだよ。あずにゃんがお泊まりに来るから」
梓「じゃあ、一緒に寝る気だったんですね。最初から」
無邪気にそう言うあずにゃんに、知らず歯噛みします
そういうことを言うと
無防備に、笑顔でそう言っちゃうとか
梓「この部屋って、鍵とか付いてるんですか?」
唯「うん。あんまりかけたことないけど」
そう言えば、部屋の鍵ってかけたこと無いな
梓「そうですか」
扉の前で、物珍しげに鍵を開けたり閉めたりするあずにゃん
梓「私の部屋って鍵が付いてないんですよね」
唯「まあ、使わないよね」
梓「そうですね。だから、なんか新鮮です」
言いながら、カチャカチャと回して
それで気が済んだのか、あずにゃんは振り向きました
梓「じゃあ、寝ましょうか」
唯「うん……」
あずにゃんはベッドに腰掛けると、枕や布団の位置を弄り始めました
小さくて華奢な背中を私に向けて
あずにゃんのことが好きな、私に向けて
本当に無防備だから
だから、あずにゃんが悪いんです
あずにゃんだって、私の気持ち知ってるんでしょ?
唯「あずにゃん」
梓「はい?」
振り向いた瞬間に押し倒しました
ベッドのスプリングが軋んで、お互いの身体が少し揺れます
私が立てる両腕の下で、あずにゃんが目を丸くしていました
真っ白なシーツにあずにゃんの綺麗な黒髪が広がっています
唯「ねえ、あずにゃん」
呟きながら、私はあずにゃんにまたがりました
力も体重も、私の方がある
これであずにゃんは逃げられません
何が起こっているのか、あずにゃんはわからない様子です
それはそうでしょう
私に、『唯先輩』に
こんなことされるなんて思ってなかったから、こうやって一緒に寝ようとしてくれたわけです
でもね、あずにゃん
それは間違ってるよ
唯「抵抗しても無駄だからね」
耳元で囁いて、首筋に唇を寄せます
唇が肌に触れた瞬間、あずにゃんの口から吐息が漏れました
構わず、唇でなぞって行きます
あずにゃんのパジャマのボタンを二番目まで乱暴に外すと、白い鎖骨が露わになりました
そこに唇をよせて
梓「っ……!」
吸い付きました
あずにゃんが息を呑んだのがわかります
痛いくらいに吸い付いて離すと、真っ白な肌の中でそこだけ赤く染まりました
唯「私相手なら、こういうことされないとでも思ってた?」
吸い付いた痕に舌を這わせます
唯「私なら信頼出来るとか、勘違いしちゃってた?」
パジャマの上から、胸を乱暴に揉みます
唯「ねえ、あずにゃん」
パジャマの下から、手を入れます
やっぱりあずにゃん、ブラなんてしてない
唯「一日私に優しくすれば、それで私が諦めるとでも思ったの?」
その瞬間、ピクっとあずにゃんが震えました
胸を揉んでから、今度はお尻
パジャマ越しに、なで回して
唯「ダメだよあずにゃん。好きな人居るのに、私のとこに泊まりにきちゃあ」
こういうことされるから、と
再び首筋に吸い付きます
あずにゃんの背中が弓のようにしなって、それでも吸い付くのは止めません
唯「キスの痕なんか見られたら、あずにゃんの好きな人に勘違いされちゃうよ?」
あずにゃんの息が荒くなっていました
身体も、ほんのり熱くなっているようで
それが、とても扇情的で
でも、だから
我慢しないと
梓「……いいですよ」
唯「え?」
うわごとのようなその台詞の意味が、一瞬わかりませんでした
梓「いいですよ。好きにして」
あずにゃんの手が、パジャマのボタンに伸びました
三つ目、四つ目
全てのボタンを外して、前をはだけて
白い素肌も胸も、全てが私の前に晒されて
唯「ふざけないでよっ!」
パジャマの前を、急いで綴じ合わせました
唯「なんなのさあずにゃん……そんなことして、どうしようっていうの!?」
梓「唯先輩が始めたことじゃないですか。だから、付き合ってあげようかなって」
唯「付き合って……」
付き合って、あげようって
梓「したいんでしょ?私とそういうこと」
唯「したいよ……?」
梓「なら、すればいいじゃないですか。私の同意もあるんだし」
したいけど
したいんだけど……!
唯「そうじゃなくてっ!!」
あずにゃんの頭を挟んで、両腕を立てます
シーツを握る手に力が入る
悔しくて、何もかも上手くいかなくて
唯「私は、あずにゃんの気持ちが欲しいの!全部独り占めにしたいの!」
身体だけじゃダメなんです
気持ちが
あずにゃんの気持ちが、一番欲しかったんです
唯「エッチしたいだけじゃないの!あずにゃんに、あずにゃんに……」
真下のあずにゃんの顔に、水滴が落ちました
それが私の涙だと気づいた時、鼻の奥とこめかみが深く鋭く痛みました
パラパラと雨粒のようにあずにゃんの肌に落ちる涙
それでも、あずにゃんはまばたきもせずに私を見上げていました
唯「優しく、しないでよ……」
梓「……」
唯「こんなことしてくれなくても、諦めるから」
唯「断ってくれれば私、それで納得するから」
梓「……」
だから
だからさあ、あずにゃん
唯「だから、優しくするのやめてよ。惨めなんだよ……」
いくら優しくされたって
私はそれで良しとは出来ません
笑顔でお別れなんて
今まで通りの日常なんて
もう送れないことに気づいてました
唯「……私、リビングで寝るから」
真下のあずにゃんの顔は私の涙で濡れていました
それを拭おうともせずに私を見続けるあずにゃんに、私は最後の台詞を言います
唯「朝、起きたら帰ってね。私に声かけなくてもいいから」
これでお別れ
あずにゃんと交わす最後の言葉
こんな結末、望んでいたわけじゃなかった
こんな結末のために今まで頑張ったわけじゃなかった
仕方ない
仕方ないんだ
間近で見るあずにゃんは本当に綺麗でした
これで見納めかと思うと、もう笑えるほど胸が痛くて
目をそらしたくなくて、でもそらさなきゃいけなくて
唯「……じゃあ」
歯を食いしばって、あずにゃんの上から
梓「逃がしませんよ?」
瞬間、あずにゃんの胸が目の前に迫ってきました
いや、頭を抱かれてる
そのまま、あずにゃんは私を抱きしめたまま身を捻って
上下反転
あずにゃんが私をベッドに押し倒す格好になっていました
唯「え……?」
先ほどと同じような格好
私の頭の両側にあずにゃんの両手が立てられていて
あずにゃんが私の身体に馬乗りになっていました
梓「……予定とはだいぶ違うんですけど」
ペロリと
赤い舌で、唇の端についた私の涙を舐めてから
あずにゃんは言いました
梓「まず、今日はどんな愉快な勘違いをしたのか教えてくれません?」
勘違いって……
唯「別に、私そんな」
梓「大体予想は付きますけどね」
私に最後まで言わせず、あずにゃんは顔を寄せます
梓「私が唯先輩の告白を断るつもりでここに来たと思ってるんでしょう」
梓「唯先輩と関係を悪くしないために、私が優しくしてなあなあで済ませようとしてると思ってるんでしょう」
唯「……」
梓「一回抱かれてあげれば気が済むだろうって私が思ってると」
そういうつもりだろうと、考えているんでしょう?
あずにゃんは怒っていました
口調も静かで、丁寧でしたが
目が
私を見るその目が、静かな怒りを伝えていました
唯「……そうなんでしょ」
これ以上目を合わせられなくて、横を向きます
唯「別に、いいよ。あずにゃんには好きな人が」
梓「唯先輩」
ぐいっと
片手であごを掴まれて、無理矢理顔を正面に戻されました
梓「私、そんな女の子に見えますか」
唯「それは」
梓「唯先輩は、そういう女の子だと思ってるんですか」
唯「思ってないけど、でも」
梓「そういう私を、唯先輩は好きだって言ってくれたんですか」
違うけど
そんな女の子だなんてちっとも思ってないけど
でも
唯「わかんないもん……」
梓「……」
唯「恋愛なんてしたことなかったから、わからないもん……」
唯「好きな人へのアプローチの仕方も、嫌いって伝えるアプローチのされ方も」
唯「あずにゃんの好きな人も、あずにゃんが何を考えてるかも、わからないんだよ……」
こんなに人を好きになったことなんて無かったもん
何を、どうすればいいかなんてわからないよ
ただでさえ何の取り柄もなくて、頭も悪いもん
梓「……」
そっと、あずにゃんは私のあごを掴んでいた手を離しました
大きく息をついて、
梓「……結婚式の時」
唯「え?」
梓「唯先輩、クラスに飛び込んできて、告白してくれましたよね」
唯「……うん」
梓「あれ、私本当に嬉しかったんですよ」
唯「……」
梓「本当に嬉しくて、泣いちゃいそうだったんですけど」
それでも引っかかったことがあるんですよ
そう、呟きました
唯「何が?」
『あずにゃんにしてみれば私はただの先輩だけど』
静かに、あずにゃんが言いました
唯「それが……?」
梓「もう一つ。スキンシップ禁止令の理由」
唯「……」
梓「……わからないんですよね?」
唯「……うん」
ごめん、と言おうとした時、唇を奪われました
最終更新:2012年02月27日 22:00