私はどうしても、あずにゃんよりも先に卒業しちゃう
それはもう決定事項で、回避のしようもない事実です
私はあずにゃんを置いて行っちゃう
置いて行かれる側にとって、それはとても不安なことだと思います
私がどんなに愛してると言っても
その不安は、簡単には取り除けないでしょう
あずにゃんが私を好きでいてくれればいてくれるほど
その不安も比例して、増していくのです
だったらどうするか
少なくとも、私の決意を、私の気持ちを
本当の意味で実感させるにはどうすればいいでしょうか
身体を合わせる
平たく言えば、エッチする
それでもいいんだけど、それだけじゃダメで
唯「私は桜高祭の伝説を知ってるよ」
梓「……でも」
唯「勘違いしないでね、あずにゃん」
少し格好悪いことを言っちゃうけど
これも私の、偽りの無い本音だから
唯「……私だって、少し不安なんだよ」
梓「え?」
唯「……私達が卒業して、あずにゃんが部長になって、新入生が入ってさ」
唯「それは私の知らない生活で、私の知らない人間関係で」
唯「もしあずにゃんとその新入生の女の子がそういう関係になっちゃうかもって思うと」
梓「そ、それはあり得ません!私は唯先輩だけですよ!」
血相を変えてそう言うあずにゃん
唯「うん。それもわかるよ。信じてるし」
でも
唯「でもやっぱり、不安も消えてなくなるわけじゃないよね。信じてるとか、そういうの抜きで」
離れてしまうと、不安はどうしても付いてくる
あずにゃんは追いかけてきてくれるって言ってたけれど
それでも、一年
一年は、とても長いんです
唯「この気持ちは、たぶんあずにゃんと同じだよ」
梓「……はい」
唯「だから、未来を約束しちゃおうって思ってる」
梓「約束、ですか」
唯「結構強力な伝説なんだってね。友達同士でもくっつけちゃうらしいし」
だったら
それはむしろ、私にとって好都合で
唯「私の決意だと思ってくれていいよ。あずにゃんを一生離すつもりはない」
あずにゃん以外の人に恋することは無いし
あずにゃんにも、私以外に恋なんてして欲しくない
唯「結婚しようよあずにゃん。大事にする。これから色々なことを二人でしよう」
唯「ずっと、隣に居てよ」
梓「……はい。ずっと、一緒に」
唯「……泣かないでよあずにゃん」
梓「だって!」
ポロポロと溢れる涙を、手の甲で拭きながら
あずにゃんは嗚咽混じりに言います
梓「そん、なに想って貰えてる、なんてっ、思っ、てもみなかったんでっ」
唯「ごめんね。私が今までしっかりしてなかったもんね」
梓「そ、そんなことっ」
唯「これからは、もっとしっかりするように頑張るね。少なくとも、あずにゃんを不安になんてさせないように」
目的が具体的になって
私は、何でも出来るような気がしてきました
隣にあずにゃんが居てくれるなら
きっとなんだって、出来ると思う
梓「別に、しっかりしなくても」
唯「ん?」
梓「しっかりしてない唯先輩も、大好きですよ」
顔を真っ赤にしながら
でもまっすぐに、あずにゃんはそう言ってくれて
そしてその時、私の全部が受け入れられた気がしました
心の中にゆっくりと温かい何かで満たされていって
それが身体全体に滲んでいくような
今まで知らなかった感情でした
唯「あずにゃん」
あずにゃんを抱きしめます
この気持ちを共有して欲しい
この気持ちを、あずにゃんにも知って欲しい
触れてる肌と肌から、あずにゃんに伝わればいい
伝え方もわからないから、ぎゅっと、隙間も無いくらいに強く抱きしめます
梓「唯先輩」
背中に回されるあずにゃんの両腕
梓「本当に、大好きです」
唯「私も。……大好きだよ」
少しでも伝わるように。伝えられるように
あずにゃんとキスしながら
私はそんなことを考えていました
~~~
梓「寝ちゃった……」
終わったら、色々とお話しようと思ったのに
唯先輩は実に幸せそうな顔で、私の横で寝息を立てていました
梓「よっと……」
布団を引っ張ってきちんと直します
唯先輩は生まれたままの姿で
いや、それは私も同じなんですが、パジャマも下着も脱ぎ捨てていて
風邪でも引かれたら大変です
初めてのエッチで風邪を引いたなんて、格好悪いじゃないですか
唯先輩の方に布団がちゃんとかかっているか確認して
改めて、私も布団に潜り込みます
もちろん、出来るだけ唯先輩にくっつけるような近さで
唯先輩の寝顔を眺めます
梓「……」
肌は白くて、まつげも長くて
薄い唇に、頬にかかる少し明るい髪
今は閉じられている瞳も、大きくて
綺麗でした
見とれるくらいに、何もかもが美しいです
美人のくせに、温かくて優しくて、少し臆病なところもあって
梓「信じられないなぁ……」
唯先輩と、付き合うことになるなんて
唯先輩の頬に手を伸ばします
起こさないように、指先で撫でてみます
唯「んふぅ……」
むにゃむにゃ言って、そのまま安らかに寝息を立てる唯先輩
どんな夢を見ているのでしょう
こんな表情してるんだから、きっと良い夢には違いないけれど
梓「……」
……夢じゃないよね、これ
急に不安になって、自分のほっぺたをつねってみて
……まあ、「さっきの」も確かに痛かったし
だから、夢では無いのでしょう
梓「……」
正直、後悔はしていました
私が焦らなかったら
もっとちゃんと、唯先輩を不安にさせることなくお付き合い出来たのでは無いかと
そうです。私は焦っていました
唯先輩にお泊まりに誘われてから
何故だか、自分の中で決断を急ぐ私が居ました
それは、夏が終わって秋を意識したからなのか
いずれ来る唯先輩との別れの日を色濃く意識してしまったのか
それは、自分でもわかりませんでした
私は、ずっと待つつもりだったのに
もし唯先輩がこのまま卒業しちゃっても、追いかけるつもりだったのに
結局私は、スキンシップ禁止令なんかで唯先輩を焚きつけてしまったみたいで
それが意識的なのか無意識なのかはわかりませんでした
……あの時はまあ、私も怒ってて
冷静では無かったのかもしれませんけれど
梓「はぁ……」
起こさないように、そっと包み込むように
布団の中で、唯先輩の手を握ります
「告白されたい」ってわがままを言って
そしていざ告白されれば、その仕方が気に入らないと不機嫌になって
それで、今度は家に押しかけて決着を迫る
私はそんな女の子でした
第一、唯先輩に自信を持って貰う手段がエッチってどうなんでしょう
他にも方法が無かったのか
本当は、私が抱きたいだけではなかったのか
本当は、私が抱いて貰いたいだけではなかったのか
梓「本当に」
本当に、めんどくさい人間だなぁ、私
素直じゃないし、意地っ張りだし
この人は本当に、私のどこを好きになってくれたんだろう?
梓「……ダメだ」
唯先輩が好きだと言ってくれたんだから
だから、自信を持たないと
唯先輩の気持ちを疑うことになってしまう
私だって、唯先輩に身体で教えてもらったんだ
梓「……」
だったら、どうするか
わがままを聞いてくれて、こんな私を愛してると言ってくれた大好きな人に
私は何をしてあげるべきだろう
スキンシップは当然として
他に、何が出来るだろう
出来ることなら何でもやるし
出来ないことでも、練習して出来るようになる
梓「……わからないけど」
それでも、それをこれから見つけようと思う
唯先輩の隣で
唯先輩を幸せにするために
梓「……っと、そう言えば」
枕元に置いておいた携帯の電源を入れる
愛し合ってる最中に着信が来るのも嫌なので、あらかじめ電源を切っておいてました
こんな時間だし、メールも来てないだろうなと思ったのですが
センターに問い合わせてみると、メールが一件ありました
時間は今から二時間ほど前
憂からでした
件名 えへへ
月曜日のお昼まで和ちゃんの家にお泊まりすることになりました
それまでお姉ちゃんのこと、任せてもいいかな?
梓「憂も……」
自然と微笑んでしまいました
憂の嬉しそうな顔が目に浮かびます
ずっと大好きだったもんね、和先輩のこと
もう寝ているでしょうけれど
とりあえず簡単に、私と唯先輩のことと、月曜日までお泊まりさせてもらうことをメールしました
アラームをセットして、携帯を枕元に置いて
部屋の電気を消して、唯先輩の布団にあらためて潜り込みます
身を寄せると、唯先輩が優しく抱きしめてくれて
梓「……起きてるんですか?」
囁いてみても、安らかな寝息が聞こえるだけで
少し考えて、私も起こさない程度に唯先輩を抱きしめます
寝てるんだもん
少し大胆なことしてもいいよね
唯先輩の温かさを感じながら
梓「幸せにしますからね、唯先輩」
そう囁いて、私は唯先輩の胸に顔を埋めて目を閉じました
最終更新:2012年02月27日 22:04