※CM
B・メイ「彼女は天才だ。だけど、君は天才じゃないよ。ただ上手なだけだ。ギターを弾くのがね」
ロックンロールが文化として栄える場所、イギリス・ロンドン
キース「大事なのはロックンロールなんだよ。ロックじゃない。『ろっくんろぉる』だ。わかるか?」
霧深い街で、一人の小さなギタリストは現実を知ることになる
ピート「君は大きすぎるから僕の趣味じゃない。だから言わせてもらうけど、君は彼女の隣に立っていいような人間なのかな」
小さなギタリストは、「天才」と称される一人のギタリストへの本当の気持ちに気づく
唯「うわー。バッキンガム宮殿の屋上でギター弾けるってすごい経験だよねー」
幾多の困難が降りかかり、彼女を邪魔し、心を壊していく
梓「私は、本当に唯先輩の隣には……」
律「くっそ、エンジンがかからないっ!!」
澪「おいおい、また派手にやらかしてくれるじゃないか……」
紬「ここまで追ってくるなんて大したものね、純ちゃん」
物語は加速し、そして静寂の向こう、新しい世界へ――
フランシス「大丈夫だ、アズサ。君はもう知ってるんだろう?彼女の隣でギターを鳴らす、本当の理由に」
梓「唯先輩」
唯「ん?どうしたのー、あずにゃん」
梓「私……私、唯先輩のこと!」
映画「けいおん!」
澪「……何してるんですか」
ジョン「ん?ああ、僕は今、駅で売店を開いてるのさ」
後日談
三月
土曜日の午前十時
商店街のアーケード内を、私とあずにゃんは歩いていました
唯「土手の桜並木、綺麗だったねー」
梓「毎年本当に綺麗ですよね。何気に楽しみです」
ポケットに手を入れて
唯「えへへ。これをあげよう」
梓「これって……もう」
微笑んで、あずにゃんは桜の花を受け取ってくれました
唯「落ちてたの、拾ってきちゃった」
梓「二本目ですね、唯先輩から桜の花を貰うの」
唯「あずにゃんの合格祝いだよ。本当に頑張ったね、あずにゃん」
梓「えへへ」
くすぐったそうに微笑むあずにゃんの頭を撫でます
そうです。あずにゃんは私と同じ大学に合格しました
部活もライブも受験勉強も、そして私とのお付き合いも
全てに手を抜くことなく、あずにゃんは一年間やり通しました
それは凄いことだと私は思います
まあ、あずにゃんは『当然のことです』と不敵に微笑みますけど
それでも約束通り、あずにゃんは私を追いかけて来てくれました
梓「唯先輩も、色々とありがとうございました。後半からは、会う時間が少なくなっちゃったのに」
唯「あずにゃんの応援をするのは当然だよ。私、あずにゃんの彼女だよ?」
梓「そうですね。えへへ」
確かに、あずにゃんに会えない日々は少し辛かったのですが
それはあずにゃんも同じく思っていてくれて、だったら私も我慢しなきゃって
だから、当たり前のことです
唯「新しい生活が始まるね。四月から」
梓「そうですね。学校も、バンドも――同棲まで、始まりますから」
唯「……顔がニヤけてきちゃう」
梓「私だって我慢してるんだから唯先輩も我慢してください」
そう言って、あずにゃんはトートバッグから手帳を取り出しました
梓「とりあえず、部屋を決めないといけませんからね」
唯「そうだねー。……お義父さんとお義母さんは何か言ってた?」
梓「出来れば実家に近いと安心かなって言ってましたけど……」
唯「どうしたの、あずにゃん?」
梓「いや……お義父さんとお義母さんって」
唯「……ちょ、ちょっとあずにゃん」
梓「だ、だめだ顔がニヤけてきます!」
両手でほっぺたを覆って笑うあずにゃんに、私も顔が熱くなるのがわかります
唯「だ、だってそう呼んでって言われたんだから!」
梓「そうなんですけど、でも……ダメだ顔が赤くなってる」
わ、私だって自然な流れで呼んだのに!
恥ずかしいんだからね私だって!
梓「……取り乱してすみませんでした」
唯「……あずにゃんだってうちの親に同じ事言われたんだからね。絶対に通る道だからねこれ」
梓「わ、わかってますよ。でも絶対に私が言ったら唯先輩もニヤけると思いますよ」
唯「私はちゃんと我慢するもんー」
梓「出来るもんならしてみてくださいよ」
一週間前にあずにゃんの合格発表があって
合格を確認したその翌日に、お互いの両親に挨拶に行きました
付き合っていること
遊びでは無くて、一生を共にする覚悟でいること
同棲したいと考えていること
ざっとこういう事を伝えるためでした
唯「まあ本当に、理解のある両親で良かったね、お互い」
梓「そうですね。そこだけは本当に助かりました」
正直、私達は反対される覚悟で行ったのですが
拍子抜けするくらいに理解してくれて
唯「……でもまさか、挨拶の席でギターを弾かされるとは思ってもみなかったよ」
梓「私が高校入ってずっと話してましたからね、唯先輩のこと。すごく興味を持ってたみたいで」
プロ二人を前に演奏なんて、もの凄く緊張したっけ
唯「私、ちゃんと弾けてた?」
梓「はい、最高でしたよ。うちの両親も感心してました」
それは良かったです
安心しました
梓「憂も和先輩と一緒に挨拶に行ったみたいですね」
唯「うん。憂も和ちゃんも、付き合ってるってのはあらかじめ自分の両親に言ってたみたいだから」
だから、それはスムーズに進んだみたいです
まあ、うちの両親は小さい頃からわかってたみたいですけどね
梓「憂の嬉しそうな顔が目に浮かびます」
唯「和ちゃんなんてはしゃいでたからね」
たぶん和ちゃんの両親も、昔からわかってたんじゃないかな
唯「だからあとは、私達の部屋を決めるだけだね」
梓「はい。一応不動産屋さんはいくつか回ってみましょうか」
唯「今日で良い部屋が見つかるといいね」
梓「そうですね。とりあえず、希望の条件をいくつか簡単にまとめておきましょうか」
唯「うん。あ、あそこにベンチがあるから、あそこで話そうか」
梓「で、希望の条件ですけど」
ベンチに座ると、あずにゃんは手帳を開いてペンを取りました
唯「んー。部屋の数はどうする?」
梓「1DKくらいでいいんじゃないですか?」
唯「あずにゃん、自分のお部屋とか欲しい?」
梓「いえ、せっかく同棲するんですから一緒に居ましょうよ」
唯「そ、そうだね」
相変わらず、あずにゃんのカウンターパンチの切れ味は凄まじいです
唯「じゃあ1DKで」
梓「はい。トイレとお風呂が別なのは必須ですよね」
唯「あ、お風呂は二人で入れるサイズで!」
梓「それ恥ずかしいから不動産屋さんで言わないでくださいよ?……まあ、それも必須で」
大きめのバスタブ、と手帳に箇条書きするあずにゃん
梓「あ、あと防音も欲しいですね」
唯「あずにゃん、けっこう大きい声出すからね」
梓「ち、違います!ギターの練習するでしょ!」
あ、そっか
梓「……第一、唯先輩だって結構大きいですよ」
唯「え、そうなの?」
梓「だから両親が居る時はできなかったんですよ」
……何回かやったような気がするけど
もしかしてその時から、お互いの両親にはバレてたのかな
唯「ま、まあそうだね。防音も欲しいね」
梓「あとは……治安ですかね」
唯「お隣さんが怖くないとか、周りの道が夜でも明るいとか」
梓「交番が近いとか、パトロールの巡回があるとかですね」
治安、とあずにゃんが手帳に付け加えます
唯「あと幽霊とか出ないとこ」
梓「まあ、異常に安いとこを避ければ大丈夫ですよね」
唯「こんなとこかな」
梓「ですね。あとは、気づいたら付け加えていけばいいし」
唯「いくらくらいなんだろうね」
梓「ちょっと相場がわかりませんよね。まあ、お互いの両親から仕送り来ますから、そこそこのとこには」
首を傾げて考え込むあずにゃん
あ、そうだ
唯「ねえ、あずにゃん」
梓「はい?」
唯「どっちの籍に入るか、考えてくれた?」
梓「はい!?」
顔を真っ赤にして私を見るあずにゃん
梓「い、いきなり何を!?」
唯「え、だってほら、どっちの家にも『大学卒業したら籍入れていいよ』って言われてるじゃん」
だから、もう決めたかなって
梓「ま、まだ四年も先の話ですよ!?」
唯「でもほら、同棲するんなら表札作らないと」
梓「今は名字を揃える必要ありません!」
まったく……とあずにゃんがため息をつきます
梓「……中野唯も平沢梓も魅力的なんで、四年間じっくり考えさせてください」
唯「ちぇー、表札見てニヤニヤしたかったのにー」
まあ、待ってと言われてるんだから待ちますけど
どっちだろうなー
四年後にはわかるのかー
梓「……ゆ、唯先輩はどっちがいいですか?」
上目遣いでこちらをみるあずにゃん
唯「んー?そうだなぁ」
中野唯も捨てがたいけど……
唯「やっぱり平沢梓かなぁ。なんか、あずにゃんが私の物になった!って気がするよ」
梓「そ、そうですか。……やっぱり鉄板は平沢梓かな」
唯「ん?なんか言った?」
梓「い、いえ!別になにも」
まあ、とりあえずは同棲のことだよね
唯「そろそろ行こうか、あずにゃん」
梓「そうですね」
あずにゃんが手帳を閉じて、立ち上がります
唯「ある程度は条件が絞り込めたから、きっと見つかるよ」
梓「だといいですけどね。まあこういうのはじっくりと考えないといけませんけど」
そんな話をしながら、私達は歩き出します
とりあえずは、不動産屋さんで見てみないことには話になりませんから
お昼です
日当たりの良い屋外カフェテラスのテーブル
オレンジジュースを飲んでから、あずにゃんはため息をつきました
梓「なかなか見つかりませんね」
唯「だね……」
テーブルに突っ伏しながら、私も呻きます
あれから三件の不動産屋さんを回ってみました
こちらの条件も話して、色々と紹介されたのですが
梓「値段だったり広さだったり防音だったり、ちょうどいいのはありませんでしたね」
唯「やっぱりちょっと甘かったかなぁ」
同棲ということで、少し浮かれていたのかもしれません
考えてみれば良い部屋なんてそれなりの値段になるのは当たり前ですし
財布と相談した結果なら、必然と広さや環境も限られてしまう
防音だなんて、昨今の住宅事情では難しいのかもしれませんし
ため息をつくと、頭にふわっとした感触
梓「そう簡単には決まりませんよ」
唯「あずにゃん……」
梓「お昼食べたら、また頑張りましょうよ。きっといい部屋見つかりますから」
梓「こういうのも、恋人の共同作業の一つですから。だからそんな顔しないでください」
唯「うん……ごめんね」
頭をなでなでされながら、私は謝ります
そうだ
ここで私がしっかりしないと
これくらいで諦めちゃダメだ
唯「同棲したいもんね。ここで頑張らないと」
梓「はい。頑張りましょうね」
えへへ、と笑い合います
梓「まあ、デートだと思えば楽しいですよ」
唯「そうだね。あまり気負わない方がいいかも」
さすがはあずにゃんです
ここぞと言う時に私をフォローしてくれるし
私も同じように、あずにゃんを支えられるようになりたいです
唯「っと、そうだ」
梓「どうしたんですか?」
自分のトートバッグの中を探って、お目当ての物を見つけます
唯「これ」
私がテーブルの上に置いたのは
梓「手紙?」
唯「うん。すっかり忘れてたよ。これ、むぎちゃんから貰ったの」
梓「むぎ先輩からですか」
オレンジジュースを飲みながら、テーブルの上の手紙を見るあずにゃん
唯「こないだね、寮の部屋でゴロゴロしてたらねー」
回想始め
唯「早くあずにゃんに会いたいなー」
紬「唯ちゃん。ちょっといい?」
唯「あ、むぎちゃん。いいよー。どうしたの?」
紬「明日、実家に帰るんでしょう?」
唯「うん。四月から住む部屋を、あずにゃんと探しに行こうと思ってね」
紬「そう。お部屋、何か目星は付いてるの?」
唯「ううん。全然。あずにゃんともまだ相談してないしね」
紬「へぇ。……あのね、もし、良いお部屋が見つからなくて困っちゃったら」
唯「あ、何これ。手紙?」
紬「うん。この手紙を読んでね」
唯「今見ちゃだめなの?」
紬「出来れば、二人でお部屋を探した上で、改めて二人で読んで欲しいの」
唯「うん、わかった。困ったら、あずにゃんと二人で読むね」
回想終わり
最終更新:2012年02月27日 22:16