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唯「ってことがあってね」

梓「私と二人で、ですか」

ふーむ、とあずにゃんが手紙を手に取ります

梓「そう言えば。手紙、憂も貰ったって言ってましたよ」

唯「え、憂も?」

梓「ええ。紬先輩からって言ってました」

私達だけじゃなかったんだ

となるとこの手紙、一体何が書いてるんだろう

唯「読んでみようか」

梓「はい」

テーブルの上で手紙を広げます

あずにゃんも身を乗り出して手紙を覗き込んで

唯「……住所?」

そこに書かれていたのは、二行ほどの住所でした

梓「これ、駅前周辺の住所ですね」

唯「駅の方なの?」

梓「はい。ここからだと、バス使わないとですけど」

どうします、とあずにゃんが目で窺います

唯「行ってみようか。気分転換にもなるよ」

梓「そうですね。じゃ、行ってみましょうか」

そこに何があるんだろう

住所だけが書かれた手紙には、他に何も書いてありませんでした

梓「まあ、二人で読んでと言われた手紙ですからね。私達に関係のある場所じゃないですか」

もしくは、関係があると思われる場所か

唯「とりあえず、行こうか。足は大丈夫?」

梓「はい。元々受験勉強で運動不足でしたから、ちょうどいいですよ」


バスに乗って駅前まで

そこから徒歩で手紙の住所に向かいます

あずにゃんと二人、手をつないで歩いた先は

唯「……ここ?」

あずにゃんが手紙を読んで、そして頷きます

梓「ここですね。間違いないです」

唯「そっか」

二人で、そのビルを見上げます

唯「不動産屋さんだね」

梓「そうですね」

なんだってむぎちゃんは、私達を不動産屋さんなんかに……

唯「私、もっとラブラブ出来る場所かと思ってたよ……」

梓「真っ昼間からそんなところ行くわけないでしょ!?」

唯「え?喫茶店とか、さっき行ったじゃない」

梓「あ、喫茶店とかですか……」

唯「え、あずにゃんはどこに行くと思ってたの?」

梓「……お泊まりするところ」

唯「……えろにゃん」

梓「べ、べつにそんなんじゃありません!」

顔を真っ赤にしてそういうあずにゃんですけど

まあ、気持ちはわかります

受験終わったあとって、今まで我慢してきた分そういう気分になっちゃうよね

一年前は私もあずにゃんにお世話になったっけ

唯「今夜はいっぱい可愛がってあげるからねー。夜まで待ってね」

梓「からかわないでください!」

行きますよ、とビルに向かうあずにゃん

言葉ではそう言っていますが

握る手の力が少し強くなったことには気づいてます

あずにゃんって結構むっつりだもんね

私以上かも

唯「ここで良い部屋が見つかるといいね」

梓「むぎ先輩の紹介ですから。ちょっと期待しちゃいますね」


自動ドアを抜けると、普通の不動産屋さんでした

入ってきた私達を見て、カウンターの女性が笑いかけます

店員「いらっしゃいませ」

唯「あ、すみません。えっと、お部屋を探してるんですけど」

店員「はい。ではこちらにおかけください」

カウンター前の椅子に、二人並んで腰掛けます

店員「一人暮らしのお部屋をお探しですか?」

梓「いえ、二人です」

店員「あ、それは失礼いたしました」

ちらっと私達を窺う店員の女性

……まあ、無理もないよね

こんな未成年の女の子二人が一緒に暮らすなんてさ

そもそも、女の子二人が一緒に借りられる部屋すら少ないのに

店員「では同棲ですね」

唯「はい」

……ん?

同棲って

……まあ、一緒に暮らすことを同棲って言うんだよね

言葉の使い方としては間違ってないよね

店員「お二人とも、学生さんですか?」

唯「あ、はい。だから、大学に近いお部屋でいい条件なのが無いかなって」

店員「学校はどちらに?」

梓「○○女子大学です」

店員「ああ、それじゃあここからも近いですね」

そう言うと、何やら分厚いファイルを取って開く店員さん

店員「御希望の条件はありますか?」

唯「えっと」

先ほど、あずにゃんと話し合った条件を伝えます

店員「1DKだと少し狭いと思いますけど……」

唯「あ、そうですかね」

梓「でもあまりお金もかけられないんですよ。だから、それくらいがちょうどいいかなって」

店員「ああ、それだったら」

ファイルのページを繰る店員さん

その指先は、何か最初から決めていたみたいに正確な動きでした

店員「2LDKでこういう物件があるんですよ」

ページを開いたまま、ファイルを私達に差し出します

唯「うわ、すごく綺麗……」

梓「本当ですね……」

モデルルームの写真だから、既に品の良い家具も設置されていますが

綺麗だし広いし、日当たりも良くて部屋全体が明るい

四階くらいの部屋かな?ベランダからの眺めも最高で

まるでドラマに出てくるお部屋みたい

唯「って、私達にはちょっと高級過ぎますよー」

そりゃ、いつかはあずにゃんとこういうお部屋に住みたいなとは思いますけど

でも、今はまだ学生です

こんなお部屋の家賃なんか、とても払えません

予算よりも一桁多いんじゃないでしょうか

店員「家賃が一ヶ月二万円ですね」

唯「は!?」

梓「二万円!?」

この部屋が!?

唯「ちょ、ちょっとあずにゃん……」

梓「はい……話がうますぎますね……」

コソコソとプチ会議です

唯「なんか絶対に裏があるよね」

梓「ええ。たぶん幽霊とか……」

二人そろって、店員さんを窺います

すると、彼女は笑顔で

店員「いえ。新築ですから幽霊は出ませんよ」

新築なら、尚更高いはずじゃん……

梓「あの……さすがに少し、条件が良すぎて怖いんですけど……」

おそるおそるあずにゃんが言います

そりゃそうです。私も怖いです

店員「ああ。ここは女子専用マンションなんですよ。カップル限定で」

唯「へー」

店員「そういった条件なので、ご案内出来る方々も限られておりまして」

今、カップルって言ったよね

私達、付き合ってるとか一言も言ってないよね

店員「そういった限られた物件ですから、お家賃もこれくらいで用意させて頂いてます」

梓「そういうことですか」

頷いてるけどあずにゃん

この店員さん、何かおかしいよ?

何でバレてるの?

店員「ほら、バスタブも二人で入れる大きさですし」

店員「日当たりも良好で、小さいながらもベランダも付いてます。眺めも最高です」

店員「もちろん防音も完備です。アンプ繋いでギターを弾いても音は漏れませんよ」

梓「それはいいですね。ほほう……」

だから何で私達がギター弾くの知ってるの?

防音って条件だけだよね、伝えたの?

店員「安全も万全です。一階ロビーには女性警備員が常駐していますし、近くにはスーパーもあるから買い出しも楽ですよ」

梓「交通手段とかはどうですかね」

店員「三分ほど歩くとバス停があります。そこから学校まで直通のバスも出てますよ。夜でも明るいので、安全です」

梓「これは完璧ですね」

店員「部屋の家具などは付きませんが、この物件は自信を持ってお勧めしますよ」

だから都合が良すぎるんだって……

何その私達のためだけのお部屋……

唯「あの……どこかでお会いしました?」

それとなく聞いてみます

すると店員さんは

店員「お目にかかったことは無いと思いますよ。平沢様みたいな可愛い人なら忘れるわけはありませんから」

唯「そうですか。すみません、変なこと聞いて。えへへ」

名前までバレてるとか

ここに入ってから名字なんて言ってないよ

梓「良かったですねー、唯先輩。可愛いって。綺麗な人に言われちゃいましたねー」

あずにゃんはあずにゃんで何か拗ねてるし

違うよ勘違いしないでよ

私が好きなのはあずにゃんだけだから、妬かないでよ

っていうか少し冷静になってよ

店員「それに、マンションの二階は談話室もありまして。住人同士の憩いの場としても利用出来ますよ」

何だか店員さんが猛プッシュしてくるこのお部屋

……なんだろう、何故そんなに必死なんだろう

……むぎちゃんの紹介、か

となると、私達だけじゃなくて――

唯「ちなみにこのマンション、何組募集してるんですか?」

店員「四組ですね。五階立ての五部屋で、一部屋は談話室になっております」

唯「あ、そうですか」

あー、わかった

そういうことか

梓「そういえば、ご近所付き合いもこなさないといけないんですよね」

ふむ、と考え込むあずにゃん

店員「大丈夫ですよ。皆さんいい人ですから」

唯「っていうか友達だからね。ご近所さん」

私が呟いた瞬間、店員さんの肩がびくっと震えました

梓「え?」


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最終更新:2012年02月27日 22:17