憂「それじゃお姉ちゃん、先学校いくね」
憂「雪積もっているから早めに家出た方がいいよ」
唯「あいよ~」
憂「いってきまーす」
朝、平沢家では朝食にトーストを食べる
唯はパンにたっぷりのイチゴジャムを塗り、口に頬張る
唯「おいひぃ~」もぐもぐ
唯「この甘酸っぱさがたまんないよね」
唯「よぉーし、もう一枚」
唯「えへへ、次は蜂蜜がいいかな」
トースターにパンをセットする唯
その焼けている間に蜂蜜を戸棚からとってくる
唯「はっちみっつ、はっちみっつ~」
唯「そのちょっと焼けたお顔を艶々に~」
唯「って!! もうこんな時間!?」
唯「大変!! はやく学校に行かないと!!」
唯「いってきまーす!!」
蜂蜜を塗ったパンを咥え、家を飛び出す――
学校――
唯「はぁはぁ……」
和「おはよう、唯」
唯「お、おはよう和ちゃん」
和「遅刻ギリギリよ。どうしたの?」
唯「蜜の誘惑と雪の多さにやられました」
和「確かに今日、雪多いわね」
唯「たくさん積もったからさ」
唯「おかげで歩きにくくて」
和「こういう日は早めに出ないとダメよ」
唯「憂にも言われました」
和「そういえば雪積もった日は唯、いつも喜んでいたわね」
唯「そうだっけ?」
和「昔の話よ」
和「雪が積もるたびに一緒に雪だるまをつくったじゃない」
唯「あー、そういえば」
和「こんな大きい雪だるまつくってさ」
和「でも春が近くなると溶けちゃうから」
和「消えちゃいやだ―!!って唯泣きじゃくっていたわ」
唯「そ、そうでした///」
和「懐かしいわ」
唯(雪だるまか……)
放課後――
紬「お茶入ったわよ」
律「よっしゃー、今日は寒いから早く飲んで温まろうぜ」
澪「練習……」
律「ちゃんとやるって」
3人が机を囲む
今日もいつもの如くお茶の時間の始まりである
唯「こんにちは」
律「おう、唯」
紬「お茶入っているわよ」
唯「ほんと!? やったー」
紬「はいどうぞ」
唯「いただきまーす」
律「しっかし、今日の雪はすごいな」
紬「まだまだ止みそうにないわね」
澪「交通機関も麻痺しそうだな」
紬「実際、麻痺していたわ。今日一本早めの電車に乗っていてよかった」
澪「それは大変だったな」
唯「ムギちゃん、ご馳走さま」
紬「お粗末さまでした」
唯「さてと……」
唯が椅子から立ち上がる
その表情は真剣な顔つきだ
澪「唯、練習か?」
唯「外、行こう」
澪「へっ?」
唯「雪だるま皆で作らない?」
律「雪だるま作りかぁ、子どものころ思い出すな」
澪「この寒い日に外出るのか」
律「いいじゃん、ムギのお茶で体が温まったことだし、遊ぼうぜ」
紬「でもなんでいきなり?」
唯「なんかさ、朝学校で昔のことを思い出して」
唯「もう一度挑戦してみたくなったんだよね」
澪「練習は……?」
律「んじゃ、多数決で決めよう」
律「外で雪だるま作りがしたい人」
律「はい」
唯「はい!」
律「んじゃ、練習がいい人」
澪「はい」
律「ムギは……?」
紬「私は……」
紬「雪だるまつくりたいでーす」
澪「おいいぃぃ」
律「決まりだな。外行こう、外」
唯「やったぁ」
4人は支度をし、校庭へとでる
すでに校庭は土が見えないぐらい積もっていた
唯「よーし、作るぞ!!」
律「雪だるま作りなんて子どもの時以来だな、澪」
澪「そうだな」
紬「まずは何をすればいいの?」
唯「頭の部分と体の部分を手分けして作ろう」
唯「私とりっちゃんは顔の部分を作るから」
唯「ムギちゃんと澪ちゃんは体の部分を作って」
紬「了解です」
律「そしたら二手に分かれて開始するか」
唯「おー!!」
~~~~~~~~~~~~
唯「こんなもんかな」
最初に手のひらサイズの雪玉を作る唯
律「ここから転がしていけばいいんだよな」
唯「そうそう、こうやって」コロコロ
律「よっしゃー、どんどん大きくしていこうぜ」
唯「うん」
律「どれくらいまで大きくしよっか?」
律が歯を見せながらほほ笑む
そしてその問いに即答する彼女
唯「今までで一番大きくしたいな」
唯「そのほうがかっこいいじゃん」
律「はぁ…… 具体的にどれくらい?」
唯「グラウンドの雪全部使います」
律「マジ!?」
予想外のスケールの大きさに笑みが消える
唯「マジっす」
唯「さぁ、りっちゃんも手伝って」
律(これはしもやけコースだな……)
唯と律から200メートルほど離れたところで
紬と澪は体にあたる部分を作っていた
澪「よいしょ、よいしょ」
紬「しゃらんら、しゃらんら~」
澪「ムギ、楽しそうだな」
紬「うん、雪だるま作るのが夢だったの~」
澪「えっ? 作ったことないのか?」
紬「小さい頃は庭に雪像はたくさんあったけど雪だるまはなかったわ」
紬「だから、雪だるまは本や写真で知って、実際は作ったことはなかったの」
澪(せ、雪像……)
紬「こうやってコロコロするのって楽しいわ」
紬「澪ちゃんは作ったことあるの?」
澪「そうだな。小さい頃、律と聡の3人で作ったっけ」
澪「けど、中学生くらいから自然と作らなくなったな」
澪「でもこうやって皆で作ると……」
紬「楽しい?」
澪「う、うん///」
~~~~~~~~~~~~~
澪「ぐぐ…… 重い」ゴロゴロ
紬「大丈夫? 澪ちゃん」
澪「おそらくこれぐらい大きくしたら十分だろう」
澪「一度、唯たちと合流しよう」
紬「そうね」
澪「おーい、唯、律」
辺りはすっかり暗くなっているため、二人の姿は見えない
そのため遠くから声を張り上げて澪が叫ぶ
律「ん? 澪の声だ」
律「唯、澪が呼んでるぞ」
唯「へっ? 澪ちゃん?」
律「おそらく、体の方が出来たんだろ」
律「合流しよう」
4人が合流する。4人が二つの雪玉を見せたのだが
顔にあたる部分の雪玉を見た澪が驚愕する
澪「う、嘘だろ……」
紬「二人ともすごい」
澪「顔の部分の雪玉の方が大きいなんて……」
澪「ちょっと唯、どれくらいの大きさを作るつもりなんだよ」
唯「このグラウンドの雪全部使うくらいです」ふんす
澪「う、嘘……」
澪「無理だよ。もう私は重くて転がせないよ!!」
律「唯、この辺にしとけば?」
唯「でもでも、せっかくここまで大きくしたんだよ」
唯「最後までやり遂げようよ!!」
律「けどな、私も重くて限界なんだよな」
唯「うぅ……」
紬「……」
紬「それじゃ、体は私が担当するわ」
澪「一人で?」
紬「うん」
律「無茶だ」
紬「大丈夫、力には自信あるの。まだまだ余裕よ」
紬「三人はそっちの頭の方を担当してくれる?」
澪「体の方は頭より大きくしないといけないんだぞ。それを一人でなんて」
紬「まかせて、さぁ続けましょう」
唯「ムギちゃん、ありがとう」
唯が紬に抱きつく
「くっつくと温かいね」なんてじゃれ合いを交わした後
4人は再び雪だるま作りに取り掛かる
そしてついに2時間半が経過したころ――
紬「よいしょと」
雪玉を持ち上げ、胴体をくっ付ける
紬「これでどうかしら?」
律「グラウンドの雪、全部使ったぞ」
澪「土が見え始めたぐらいだからな」
唯「……みんな」
唯「ありがとう!! 最高の雪だるまの完成だよ!!」
律「いや、まだ完成じゃない」
律「ほら」
律が唯にあるものを手渡す
それは石や木の枝だった
律「顔や手を作ってやらないと」
唯「りっちゃん……」
唯「そうだね、よーしまかせて」
唯のセンスで手や顔を次々と完成させていく
唯「どうかな? なかなかイケメンでしょ?」
澪「電灯から離れているから、暗くてよく見えづらいけど……」
紬「ハンサムに見えるわ」
律「だな」
唯「名前はもう決めているんだ」
唯「ダニエル。クールな新入部員だよ!!」
律「ちょ、新入部員って!?」
澪「ぶ、部員なのか!?」
紬「あらあら」
唯「雪だるまは部活に入ってはいけないという法律はないよ」
唯「きょうからダニエルは私たちと同じ仲間だよ!!」
唯「よろしくダニエル」
唯をよそ目に3人はやれやれといった顔で見合わせる
今日をもって軽音部は5人となった
~~~~~~~~~~~~
澪「ごめん、掃除で遅くなった」ガチャ
紬「大丈夫よ、今からお茶淹れる所だったから」
澪「あれ、唯は?」
律「グラウンド」
澪「またか」
律「よくやるよ。朝と放課後、それと部活後の三回も」
あの日、4人で雪だるまを作った日から
唯は朝、放課後、部活後と1日に3回、ダニエルに会いに行っている
紬「よっぽど大事なのね」
澪「でも口を聞かない雪だるまに会いに行って何をしているんだ?」
律「その日あったことを報告してるんだと」
澪「唯らしいな」
グラウンド――
唯「今日ね、数学のテストがあったんだ」
唯「難しくて、ちっともわからなかったよ」
唯「でもね和ちゃんは出来たんだって、頭いいよね~」
唯「ダニエルは得意な教科とかあるのかな?」
ダニエル「……」
唯「雪だるまは勉強しなくていいもんね」
唯「いいなぁ」
唯「あっ、そろそろお茶の時間だから私戻るね」
唯「部活が終わったらまた来るよ」
唯「じゃあね」
ダニエル「……」
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最終更新:2012年03月10日 23:06