唯「ただいま」

律「おかえり」

紬「寒かったでしょ? お茶淹れるわね」

唯「ありがとう、ムギちゃん」

律「ダニエルと何話したんだ?」

唯「今日の数学のテストの話」

澪「唯はダニエルが好きなんだな」

唯「もうね、イケメンだよ。カッコいいよ」

唯「ダニエルはいつも私たちを見守ってくれているんだよ」

澪「律……」

律「言うな」

紬「いいじゃない。皆で一生懸命作った甲斐があったわ。はいどうぞ」


そう言って、唯にお茶を差し出す


唯「いただきまーす」


それから唯は学校のある日は一日に三回、ダニエルに会いに行き続けた。
しかし、事件はダニエルに会い続けて200回を超えたあたりで起きた。



律「さて、もうすぐ新入生が入ってくるな」

澪「新たな部員を獲得しないと」

紬「そうね」

律「どうやって募集しようか?」

澪「前みたいにポスター貼るのがいいんじゃないか?」

律「それもいいんだけど、もっと何かインパクトがあるやり方はないかな」


唯「みんな!!」


唯が力強く部室の扉を叫びながら開く


律「唯、ちょうどよかった。今新入部員の集め方を……」

唯「グラウンドに来て!! 早く!!」

律「へっ?」


グラウンド――


唯「見てよこれ!! ダニエルが、ダニエルが!!」

律「あー、最近暖かい日が続いたからな」

澪「顔が……」


ダニエルは気温の高さから溶けだし
最初にあった背の高さの半分以下になっていた


紬「最初は150センチくらいあったのに……」

唯「ダニエル~」

唯「せっかくのイケメン顔が……」

律「しょうがないさ。もうすぐ春だし、いずれは溶けるよ」

澪「また今年の冬作ればいいさ」

唯「いや!!」

澪「いやって……」

唯「ダニエルを死なせたくない!!」

律「んな無茶な」

唯「私、小さい頃に和ちゃんと一緒に雪だるまを作っていたんだけど」

唯「春になったらみんな消えちゃうんだ」

唯「この悲しみを繰り返したくないと思って」

唯「ダニエルと言う名前を付けて、私たちの仲間にしたんだよ」

唯「皆は仲間がいなくなってもいいの!?」

律「それは嫌だけど……」

唯「だったら!!」

律「でもどうやって溶けるのを防ぐんだよ」

律「嫌でも春はやってくるんだぞ」

唯「でもでも、なにか良い方法探そうよ」

唯「お願い……」

澪「うーん」

澪「いっそのこと北極にでもダニエルを連れていくしか……」

紬「それよ!! 澪ちゃん!!」

澪「えっ? 北極に行くのか?」

紬「そうじゃなくて単純に寒い所に連れて行けばいいのよ」

澪「でもそんな寒い所あるのか?」

紬「箱庭北極、冷凍庫はどう?」

澪「なるほど」

紬「幸い、部室にはケーキを冷やしておく冷蔵庫があるわ」

紬「そこにダニエル君を住ませましょ」

律「特に凝ってもいないシンプルな作戦だな」

紬「追求した行先は単純明快に落ち着くことが多いものよ」

紬「シンプルイズベスト!! 唯ちゃんどう?」

唯「いいね。ダニエルは部員なんだから部室に居るのが一番望ましいよ」

紬「決まりね」

澪「でもこのサイズじゃ冷凍庫には入らないんじゃないか?」

紬「もう少し、小さくなってもらう必要があるわね」

唯「そうかぁ」

唯「よーし、ダニエルお色直しよっか」


ダニエルの体を30センチほどに小さく削った後、改めて
目と手をつけ直す


唯「これでよし」

唯「小さいダニエルはかわいいねぇ」

律「よし、それじゃあ部室に戻るか」


部室――


澪「どう、ムギ入りそうか?」

紬「うん、大丈夫。ピッタリ入ったわ」

唯「よかったね、ダニエル」

律「今日から、この冷凍庫がお前の家だな」

澪「それにしても冬を越しても消えない雪だるまはダニエルが始めてかもな」

律「雪だるま界の歴史を塗り替えたというわけか」

紬「伝説となった雪だるまダニエル……」

唯「えへへ、私たちはいつでも一緒だからね」

ダニエル「……」



いよいよ雪は溶け、草木が芽生え、小鳥がさえずる春となった
無事ダニエルは小さいながらも冷凍庫の中で春を迎えることが出来た
そして春は出会いの季節と言うが軽音部にも新たな出会いが訪れる


ガチャ――


梓「あのー、入部希望なんですけど……」

律「へっ?」

唯「今、なんと?」

梓「入部希望……」

律「確保ー!!」

梓「きゃあ!!」

唯「ようこそ、軽音部へ」

唯「こっちに座って」

梓「は、はい」

律「お名前は?」

梓「中野梓です」

唯「趣味は?」

律「楽器何やっている?」

紬「好きな人はいるの?」

澪「お、おい。いっぺん聞きすぎだって」

紬「それじゃ、落ち着くために一旦お茶を淹れましょうか」

律「頼むぜ、ムギ」

梓(お、お茶!?)


~~~~~~~~~~~~


律「んじゃ、とりあえず自己紹介するか」

唯「そだねー」

律「私は田井中律。軽音部の部長であり、ドラム担当だ」

律「さらに容姿端麗、頭脳明晰。世界がうらやむビューティフル……」ガンッ

澪「盛りすぎだ」

律「いてて」

澪「私は秋山澪、ベース担当だ。よろしくな」

律「澪のことを人はバイオレス女王を呼ぶ……」ガンッ

澪「勝手なこと言うなぁ!!」

律「イタタ、間違ってないじゃん……」

紬「私は琴吹紬、キーボード担当よ」

唯「作曲もムギちゃんがやっているんだよ」

梓「そうなんですか」

紬「ポロポロポロ~」

律「次は唯だな!!」

唯「あっ、はい」

唯「私、平沢唯。ギター担当。梓ちゃんと同じだね」

律「以上が軽音部の愉快な仲間たち……」

唯「以上じゃないよ。りっちゃん」

律「へっ?」

唯「もう一人いるじゃん」

律「おい、梓に紹介するのか?」

唯「もちろん、大事な仲間だよ」

律「わ、わかったよ」

梓「?」

律「実はな、もう一人部員がいるんだ。今、連れてくるよ」

梓「はぁ……」

律「こいつだ」

梓「えっ!?」

唯「名前はダニエル。いつも軽音部を見守ってくれているんだよ」

梓「ゆ、雪だるまじゃないですか!! これを部員だなんて」

唯「雪だるまが部員になると問題でもあるの?」

梓「で、ですが……」

澪「まぁ、梓。気持ちはわかるがダニエルとも仲良くしてやってくれ」

梓「ダニエル……」

唯「ノン、ノン、ノン。梓ちゃん、ダニエルは梓ちゃんより先輩なんだから」

唯「ちゃんとダニエル先輩と呼ばなくちゃ」

梓「えぇ!?」

唯「さぁ、さぁ」

梓「ダ、ダニエル先輩。よろしくお願いします……」

ダニエル「……」


こうして新たに6人となった軽音部から
さらに時間は進んでいく――


梓「こんにちは」

唯「あっ、あずにゃん。こんちわー」

律「ちーす」

梓「唯先輩、律先輩机に伏せて、だらしないですよ」

唯「だって、暑いんだもん」

律「そうそう、この暑さじゃ練習出来ねー」

梓「もう、すぐ練習から逃げるんですから」

澪「確かに暑いよな……」

紬「この部屋、クーラーないもんね」

律「暑い、暑い、あついー!!」

澪「うるさい、余計暑くなる」

唯「ムギちゃん、汗すごい」

紬「うぅ、暑いから……」

梓「涼しくなる方法ないですかね」

唯「う~ん……」

唯「そうだ!!」


唯が席を立つ――


律「唯、どうしたんだ?」

唯「えへへ、冷たーい」

澪「お、おい!?」

律「大丈夫かよ。ダニエル出してきて」

梓「と、溶けちゃいますよ。」

唯「だってさ、ダニエルが外出たのってあずにゃんが入部した時以来じゃん」

唯「たまには陽の光も浴びたいよね」

唯「ほら、あずにゃん。ダニエルをすりすりしてみなよ」

唯「冷たくて気持ちいいよ」

梓「で、でも」

唯「ダニエルだってみんなとスキンシップとりたいはずだよ。ほら」

梓「きゃ、冷たい」


梓の頬にダニエルを当てる


梓「ダニエル先輩、気持ちいいです……」

唯「いっぱい涼みんしゃい」

律「私もスキンシップ取りたいぞ」

紬「私も!!」

唯「ダニエル、ご指名が入ったよ」

律「はぁ~ 生き返る」

紬「ダニエル君大活躍ね」

唯「澪ちゃんもどう?」

澪「えっ、じゃ、じゃあ」

唯「どう?」ピタッ


澪の頬に触れるダニエル
触れた瞬間にぴくっと頬が動く
体温の高さで雪が溶け、水が頬をつたう


澪「う、うん。気持ちいい///」

律「なんで照れているんだよ」

唯「んじゃ、次はここ!!」


そう言って澪のうなじにダニエルを宛がう


澪「ひゃあ、ちょっ、そこは……」

澪「ダメだって、唯!!」

唯「だって気持ちいいんでしょ?」

唯「ほらほら、もっとこうやって……」

澪「あっ、ちょっ、ひっ、うぅ……」

律「はは、良い反応」

梓「でもそれくらいにしないとダニエル先輩が……」

唯「確かに。これくらいにしとこうか」

紬「カッコいい顔が歪んできているしね」

澪「はぁ… はぁ……」

唯「ダニエルありがとね。涼しくなったよ」


ダニエルを冷凍庫に戻す


律「しかし、真夏なのに雪だるまで涼をとれるなんて思わなかったぜ」

紬「本当よね」

梓「きっと私たちくらいですよ」

唯「真夏の雪だるま大作戦だね」

梓「どっかで聞いたことあるような……」

唯「部活終わったら帰りにアイス食べに行こうよ」

律「いいな。行こう」


~~~~~~~~~~~


それから時間は進み、軽音部は2回目の学園祭を直前に控えていた

梓「だけど唯先輩の風邪治ってよかったです」

律「ぎりぎり間に合ってよかったな」

澪「危うくみんなで演奏できないところだったよ」

紬「でもこれで無事学園祭を行えるわ」

唯「うん、みんな心配してくれてありがとね」


ガチャ――


和「軽音部はみんな揃ったようね」

和「もうすぐ出番だからステージの方に移動してください」

律「了解」

澪「んじゃ、行こうか」

唯「あぁーー!!」

澪「ど、どうしたんだよ?」

唯「ギー太忘れた!!」

律「う、嘘だろ!?」

律「どうするんだよ? もう始まるんだぞ?」

唯「と、取りに行きます!!」ダッ

律「ちょっと唯!!」

梓「律先輩、どうします?」

律「どうするって唯が来るまで4人で演奏するしか……」

梓「でも5人で演奏したいためにギリギリまで唯先輩を信じていたのに……」

紬「そうよね。せっかく風邪を治して5人で演奏できるのに」

紬「唯ちゃん無しで始めるのは……」

律「じゃあ、唯が帰ってくるまでどうやって時間を潰せばいいんだよ?」

澪「……」

澪「私に考えがある……」

律「本当か?」

澪「あぁ、和にも協力してほしい」

和「私も?」

澪「どこまで時間稼げるかわからないけどやってみよう」


~~~~~~~~~~~

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最終更新:2012年03月10日 23:07