「次は軽音部の発表です」


生徒1「楽しみだね」

生徒2「だね。幕が上がるよ」

澪「み、みなさんこんにちは。け、軽音部です」


生徒3「ちょ、ちょっと何アレ?」

生徒4「雪だるま……?」

生徒5「雪だるまだ」

生徒6「雪だるま……」


ステージの真ん中には唯の立ち位置に台の上に雪だるまがたたずんでいた
その奇妙な光景に辺りがざわつき始める


律(ダニエルをステージに立たせて時間稼ぎがいい案かよ……)

律(いくら部員だからってこれは……)

律(和もよく許可してくれたもんだ)

澪「今日は演奏の前に新メンバー紹介をします」

澪「まずは私たちの後輩、梓です」

梓「こんにちは、皆さん。中野梓です。一所懸命演奏するのでよろしくお願いします」

澪「梓のギターはとってもうまくて、うちの部活は頼れる戦力なんだ」

澪「おまけに背が低くて、かわいらしくて……」

紬(澪ちゃん頑張って引きのばして!!)

澪「次に紹介するのは雪だるまのダニエルです」

澪「みなさん、さっきから視線はこの雪だるまばかりですが」

澪「ダニエルも立派な部員の一人です」

生徒7「雪だるまが部員だって」

生徒8「おもしろーい」

澪「ダニエルは私たちが一年生の冬にみんなで作り上げた部員です」

澪「今はこんなに小さいけど最初は150センチくらいあったんですよ」

梓(そうだったんだ……)

澪「ダニエルは夏の暑い日にも活躍したりと私たちには欠かせない……」

ダニエル「……」ポタポタ

澪(まずい、溶け始めている)

澪「ダニエルという名前は唯が最初に名付けたんだけど」

澪「唯は彼をとっても気に入っているんだ」

澪「それから……」

ダニエル「……」ポタポタ

律(もう、限界だっ)

律「澪、そろそろダニエルには下がってもらって演奏を……」

澪「う、うん」

澪「じゃあ、そろそろ演奏を」

「ダニエルーー!!」


息を切らせながらステージに駆けよる唯


澪「唯!!」

梓「唯先輩!!」

唯「よいしょ」

唯「みんな待っていてくれたんだね」

唯「ありがとう」

唯「ダニエルも」

唯「君はいつも見守ってくれるねぇ」

唯「あとはゆっくり休んでいて」

唯「和ちゃん、悪いけどダニエルを部室に戻しておいてくれる?」


舞台袖から出てくる和


和「しょうがないわね」

和「あと床がビショビショだからちゃんとふいてね」


彼女は雪だるまを受け取り、代わりに唯に雑巾を手渡す


唯「えへへ、すいやせん」ふきふき

唯「これでよしっと」

唯「それじゃ……」

4人と顔を見合す唯

唯「一曲目いきます!!」

唯「ふでペン~ボールペン~!!」



~~~~~~~~~~


律「いやー、なんとか成功して良かったな」

紬「間に合ってよかったわ」

澪「ダニエルのおかげだな」

唯「ダニエル含め皆のおかげだよ。ありがとう!!」

梓「でもダニエル先輩、かなり小さくなってしまいましたね」

梓「私の片手に乗るくらいの小ささですよ」

澪「確かにな」

紬「本来、冬しかいれないのにも関わらず、かなり無理させちゃったかしら」

唯「今年の冬になったらまた大きくさせてあげようよ」

律「そうだな」




そして葉が落ち、外は冷え込み
気づけば雪が積もる冬になっていた――


唯「積もったよ!!」

澪「だな」

紬「ダニエルを出すには今日あたりがいいかしら」

唯「うん、みんな外行くよ!!」


グラウンド――


唯「久しぶりの外だね~ ダニエル」

梓「どうやって大きくすればいいんですか?」

唯「そうだね。今ある体にぺたぺた雪をくっつけて大きくしよう」

唯「目標はグラウンドの雪を全部使います」

梓「本気ですか!?」

律「あぁ、作った次の日のしもやけを思い出す……」

梓「これは思ったより重労働になりそうです」


~~~~~~~~~


唯「ふぅ、こんなものかな」

梓「つ、疲れました」

澪「去年より大きくなったんじゃないか?」

紬「そうね。梓ちゃんより大きいものね」

唯「心なしかダニエルも大きくなれて嬉しそうだよ」

ダニエル「……」

唯「あれ? 今笑ったような……」

梓「いくらなんでも雪だるまは笑いませんよ」

律「確かに。気のせいだろ」

唯「えー、でも今笑ったよ。絶対!!」

律「はいはい、部室戻るぞ」

唯「もう……」


それから何日か経ち……


唯「皆聞いてよ」ガチャ

梓「唯先輩、今日もダニエル先輩の所に行っていたんですか?」

唯「うん」

唯「それがね、前の学園祭でダニエルが人気者になっちゃったみたいで」

唯「グラウンドに生徒がたくさん集まっていたよ」

律「まじか!?」

唯「みんな写真をとったり、お供え物してたりしてたよ」

律「お供え物って地蔵かよ」

澪「人気者なんだな」

唯「春先ギリギリまで色んな人と触れ合って欲しいね」

紬「お茶入ったわよ~」

唯「待ってました!!」

紬「今日のお菓子はポッキーを用意してみました」

唯「ポッキッキー」

唯「あずにゃん、ポッキーゲームしよ?」

梓「しません」

唯「いけず~ 本当はしたいくせに」

梓「したくないです。勝手に決めないでください」

紬「まぁまぁまぁ」

律「でもさ、そんなに人気者になったらまずいかもな」

澪「なんでだよ?」

律「いや、たくさんの人が注目すると中にはたちの悪い奴がいてさ」

律「ダニエルにいたずらしたり、最悪壊したりするようなやつらが出てくるかも」

唯「そんな!! 嫌だよ!!」

律「まぁ、桜高にはそんな悪い奴はいないと思うけど……」

紬「……」

紬「えいっ」ポキッ

唯「どうしたのムギちゃん? ポッキー折って」

紬「りっちゃんが余計なことを言うから折っておいたわ」

唯「?」

紬「これで大丈夫」

唯「はぁ……?」


唯たちの心配とは裏腹にダニエルに危害はなく
無事ひと冬を過ごすことが出来た
そして今年度もダニエルは部室の冷凍庫へと住むようになって早半年がたった頃――


唯「ねぇねぇ、最近近くに焼き芋屋さん出来たの知っている?」

律「そうなんだ。知らなかったな」

唯「いまから行ってみない?」

紬「季節柄それはいいわね」

澪「ちょっと、学園祭が近いんだぞ」

澪「焼き芋屋さんには行かずに練習時間を増やすべきだ」

律「いいじゃーん、明日だって練習は出来るんだ」

律「今日一日くらい息抜きしたって問題ないよ」

澪「でも……」

梓「私も練習するべきだと思います」

律「えー、梓だって焼き芋食べたいだろ?」

梓「確かに食べたいですけど、練習の方が大事です」

律「生真面目なんだから……」

律「んじゃさ、行くかどうか多数決で決めようぜ」

澪「お、おい」

律「行きたい人」

唯「はい」

律「はい」

律「練習がいい人」

澪「はい」

梓「はい」

律「ムギは?」

紬「私は……」

澪「……」

紬「行きたいな」

律「よーし、決まりだな!!」

澪「ちょっと待った!!!!!!」


澪が叫ぶ―――
一気に部室が静まり、皆が彼女を見る


澪「ムギ、いつも律達の方ばかり肩を持つよな!?」

澪「そんなに私の意見が嫌なのか!?」

紬「私は…… そんな……」

澪「練習はどうでもいいのか!?」

澪「学園祭のことをちゃんと考えるなら練習だろ!?」

律「ちょっと、澪……」

澪「律や唯はいつもお調子者だから逆意見になるのもわかるが」

澪「ムギはちゃんと軽音部の事を考えてくれていると思っていた!!」

澪「それなのに…… いつも…… いつも……」

澪「ムギのわからずや!!」

紬「……そんな」

紬「……わ、私だって」

澪「……何だって?」

紬「私だって軽音部の事をちゃんと考えているつもりなのに」

紬「そんなこと言わないで!!」

唯「ム、ムギちゃん」

梓「二人とも落ち着いてください!!」

澪「……」

澪「……もういい」

澪「だったらもういいよ」

澪「勝手に焼き芋屋でもどこでも好きな所行けばいい」

澪「帰る!!!!」

唯「み、澪ちゃん」

梓「ま、待ってください!!」


バタン――


唯「い、行っちゃった」

律「……」

紬「……うぅ」ドサッ


その場に紬が崩れ、涙を流し始める


律「ム、ムギ?」

紬「うっ…… うぅ……」ポロポロ

紬「わ、私…… ひっく…… 澪ちゃんに…… ケンカなんか……」

紬「したくなかったのに……」

律「ムギ……」

紬「ついカッとなって……」

紬「ごめんね…… ごめんね…… 澪ちゃん」

唯「ど、どうしようりっちゃん、私たちのせいで……」

律「澪……」


次の日――


梓「こんにちは」

唯「あっ、あずにゃん」

律「おう、梓。座んな」

梓「あ、あの澪先輩は」ヒソヒソ

律「学校が終わったら帰っちゃった」

律「もう部活には来ないかもな……」

梓「そんな……」

紬「……お茶入りました」

律「あ、あぁ。わざわざ淹れてくれたのか。ありがとう」

唯「い、いただきます」ズズッ

唯「なんかしょっぱい……」

紬「……」

梓「律先輩」

梓「学園祭が近いのにこのままだと……」

律(どうしよう……)ズズッ

紬「……あのみんな」

紬「話したいことがあります」

唯・律・梓「?」


4
最終更新:2012年03月10日 23:08