その日の夜
澪の家

プルルル――


澪「ん、律から電話だ……」

澪「きっとムギのことだろうな」ピッ

律「もしもし澪?」

澪「はい、私だけど。どうした?」

律「いや、あのさ。この前のことだけど……」

澪「やっぱりな」

律「素直になれよ」

澪「どういうことだよ?」

律「本当は部活に戻りたいんだろ?」

律「ムギと仲直りしたいんだろ?」

澪「じ、冗談言うなよ」

澪「何を根拠にそんなこと……」

律「今日、学校でムギと一言も話さなかったよな」

澪「そりゃ喧嘩しているからな」

律「でも澪はムギのこと何度もチラチラ見てたじゃないか」

澪「そ、それは……」

律「本当に嫌いだったら顔も見たくないだろ?」

律「でも見ちゃうってことは」

律「未練たらたら……」

澪「う、うるさいなぁ!!!!」

律「ムギも反省しているみたいだし」

律「仲直りしなよ」

澪「本当!?」

律「何が?」

澪「ムギも反省しているって」

律「あぁ、大粒の涙流しながら謝っていたよ」

律「澪本人いないのにも関わらずな」

澪「ムギ……」

律「私からも頼むよ。元々は私たちが原因でもあるし。悪かったと思っている」

律「唯も落ち込んでいるみたいだし」

律「みんな仲直りしてほしいんだ」

澪「? ……でもいまさらどんな顔して戻ればいいのか」

律「面と向かい合って謝ればいいだろ」

澪「気まずくてそんなこと出来ないよ」

澪「あんなに派手な喧嘩をしていまさら……」

律「うーん……」

律(……そうだ)

律「澪。明日学校に来い」

澪「えっ? 明日は学校休みじゃないか」

律「いいから。昼に部室集合な」

律「じゃあ」

澪「ちょ、ちょっと律!?」

澪「切れた……」

澪「もう!!」


布団をかぶり
丸まって次の日を迎える


澪「律?」ガチャ


約束の昼になり部室を訪れる


澪「あれ、誰もいない……」

澪「何だよ一体」


部室を見渡すと
机の上にあるものを見つける


澪「あ、あれ?」

澪「ダニエル!?」

澪「なんで机の上に?」

澪「誰だよ。こんな所においたの。溶けちゃうじゃないか」

澪「早く、元に戻さないと…… あれ?」

澪「何だこの手紙?」


ダニエルの下には小さな手紙が隠れていた
その手紙を開けるとそこにはこう書かれていた


「澪へ。部員の一人として忠告するよ。君は真面目だ。
練習したい気持ちから以前のような態度をとったのもわかる。
しかし皆が仲良しだからこその放課後ティータイムじゃないか。
実は今日は学校が休みだが皆、練習しに来ている。学園祭のためにね。
休みだが練習したいと提案したのは実はムギだ。
ムギだって練習は大事だと思っているのさ。
今は昼なのでムギが近くのコンビニで皆の分の昼ご飯を買いに行っている。
4人分を買っているからさぞかし荷物は重いだろう。
さぁ、澪。ムギの荷物を持ちに行ってやれ。そして謝るんだ。
勇気がなければ私がいつでも背中を押してあげるから          ダニエル」

澪「ダニエル……」

澪「私、行くよ」

澪「謝りに!!」


勢いよくドアを開け、階段を下りていく澪
それを確認した唯・律・梓は部室の隅にある物置部屋から出てくる


梓「うまくいったようですよ」

律「だな」

唯「作戦成功だね」

梓「仲良く帰って来てくれるといいですが」

律「大丈夫、澪もムギもいい奴なんだ。仲直りできるさ」

唯「ダニエル~ ありがとね。軽音部の危機を救ってくれて」



ダニエルを元の冷蔵庫に戻す
その10分後、紬と澪が戻ってきた
澪の手にはしっかりと荷物を持って――
それから数日後、放課後ティータイムは最後の学園祭を行った
休みの日の練習が実を結んでかライブは大成功に終わることが出来た
唯たちは部室の壁に寄りかかり、夕日を背景にライブの余韻に浸っていた


唯「終わったね」

律「あぁ」

澪「今までで最高のライブだったな」

律「皆の演奏もばっちり合っていたし」

唯「合ってた、合ってた」

唯「ねぇねぇ、このあと何する?」

梓「とりあえずケーキが食べたいです」

律「おぉ、部費ならあるぞ」

紬「だめよ、ちゃんと持ってきているんだから」

唯「じゃあそのあとは……」

澪「クリスマスパーティーだよな」

紬「そのあとはお正月ね」

梓「初詣に行きましょう!!」


次々とこれからのイベントを述べていく彼女たち


唯「その次はどうしよっか」

梓「えーとその次はですね」

律「って、次はもうないない」

唯「来年の学園祭はもっとうまくなっているよ」

律「留年する気か? 高校でやる学園祭はもうないの」

唯「そっかぁそれは残念だね……」

紬「いやだ、いやだぁ!!」ポロポロ

梓「ムギ先輩わがまま言わないで」

梓「唯先輩もわがまま言わないでください」

唯「これは汗だよ。ひっく……」ポロポロ

律「みーお、泣いているのか?」

澪「律だって泣いているくせに」ポロポロ

律「私のも汗だ」ポロポロ


4人はただただ泣き続けた。もう最後だという現実と今までの楽しかった思い出が
彼女たちの涙の量を増やし続ける。中には鼻水を垂らすものや嗚咽している者もいた


梓「みなさん……」

梓「ちょっと待っててください」


梓が立ちあがり、奥へと移動する


唯「あずにゃん?」

梓「唯先輩。泣きすぎで目が腫れていますよ」

梓「これで冷やしてください」

手渡されたのはこの季節では絶対に手に入らない
とても冷たい雪であった

唯「あずにゃん、これって……」

梓「ダニエル先輩のです」

唯「そんなことしたらダニエルが小っちゃくなっちゃうよ」

梓「いいんです。ダニエル先輩も皆さんを見ていたらおそらくこうすると思うんです」

唯「あずにゃん…… ありがとう……」

梓「お礼ならダニエル先輩に言ってください」

梓「みなさん目が真っ赤じゃないですか。ダニエル先輩に笑われますよ」

梓「さぁ、ほかのみなさんも」

皆にダニエルから削った雪を配る
ダニエルはまたひとつ小さくなり、ついに指で測れる大きさになった


コンコン――
ガチャ――


和「みんな、御苦労さま」

和「あ、あれ?」


そこには疲れ果てて、横一列に並び
手を取り合って眠る軽音部の姿があった


和「みんな疲れたのね」

和「幸せそうな顔」

和「あら、ダニエルじゃない」

和「久しぶりね。こんなに小さくなっちゃって」

和「このままだと溶けてなくなっちゃうわ」

和「……しょうがないわね」


床に転がっているダニエルを手に取り
冷蔵庫へと向かう


和「ふふ、あなたも苦労が多いわね」

ダニエル「……」


学園祭から時間は流れ、冬となり、春となった
春は新たな出会いの季節
軽音部にも新たな出会いが舞い込んでいた


梓「みんな揃った?」

菫「はい」

純「梓、どうしたの? 改まちゃってー」

直「確かにそうですね」

憂「?」

梓「実はこの軽音部にはもう一人部員がいます」

梓「今日はその彼を紹介しようと思って」

純「え? もう一人って?」

梓「ちょっと待っててね……」


皆不思議そうに顔を見合す


梓「おまたせ、彼がダニエル先輩。私たちの仲間です!!」

菫「えっ!?」

憂「これって……」

純「ちょっと梓。この雪だるまって昔学園祭に出ていた雪だるま?」

梓「そうだよ」

純「雪だるまが部員だなんて(ていうかまだあったんだ)」

梓「純。雪だるまが部活をしてはいけないという法律はどこにもないよ」

純「いやでも……」

純(先輩達の毒気にやられたか)

純(かわいそうな梓)

直「ダ、ダニエルって……」

梓「呼び捨てはダメだよ。ちゃんと先輩をつけないと」

純「本気?」

梓「本気。純もだよ。実際この中で一番の古株なんだから」

菫「梓先輩よりも長いんですか!?」

梓「そうなんだ。そして彼はどんな時もクールで無口な性格なんだよ」

憂「よろしくお願いしますダニエル先輩」

憂「あの時はお姉ちゃんの代わりにステージに立ってくれてありがとうございました」

憂「よくお姉ちゃんからあなたの話をよく聞いていました」

憂「これからもよろしくお願いしますね」

ダニエル「……」

純「でもさ軽音部員に雪だるまがいるって聞いたらみんな驚くだろうね」

直「そうですね」

菫「小さい雪だるまってかわいいです」

梓「かわいいだけじゃないよ」

梓「彼は世界一温かい雪だるまだよ」

直「雪だるまなのに温かいのですか?」

梓「そう、ダニエル先輩はどんな時でも私たちを見守ってくれているんだ」

梓「どんな時でも……」

梓(……)


~~~~~~~~~~~~~~


律『なぁ梓、これからの事なんだけど……』

梓『大丈夫です!!』

唯『でも私たちあんまり……』

梓『大丈夫です。私が何とかしますから』

梓『新入部員だってバンバンいれちゃいますよ』

梓『だから安心して卒業してください』

梓『卒業……』

紬『梓ちゃん?』

梓『卒業して……』ポロポロ

梓『安心…… 大丈夫で、ですから……』ポロポロ

澪『梓……』

唯『……』

唯『あずにゃんは一人じゃないよ』

梓『えっ?』

唯『ダニエルがあずにゃんを支えてくれるよ』

唯『雪だるまに卒業はないからね』

梓『ダニエル…… 先輩……』

唯『ダニエルは軽音部をずっと見守ってきてくれたからね』

唯『そしてこれからも……』

唯『辛い時や寂しい時は彼に頼るといいよ』

澪『もしくは私たちでもいいぞ』

梓『みなさん……』

紬『学校とはお別れだけど私たちは梓ちゃんとお別れはしないわ』

律『そうそう、たまに様子見に来てやるから』

梓『ありがとうございます』

梓『私、ダニエル先輩と一緒にもっともっと軽音部を創っていきます』

梓『一所懸命頑張りますから!!』


~~~~~~~~~~~~~~~~~


純「……さ」

純「……あずさ」

梓「はっ!!」

純「どうしたのボーとしちゃって」

梓「な、何でもないよ」

梓「さぁ、全員が挨拶し終わったら練習するよ!!」

梓(先輩方、私やりましたよ。部員4人も集めました)

梓(きっと軽音部はさらに飛躍して行けますよ)

梓(ねっダニエル?)

ダニエル「……」

憂「あれ? 今ダニエル先輩笑った?」

純「ちょっと憂までそんなこと言うの? 気のせいでしょ!?」

憂「そうかな? 笑ったように見えたけど……」

梓「さぁさぁ練習練習!!」

純「ちょ、ちょっと押さないでよ。わかったって」

梓(先輩方、私たちこれからも頑張りますからね!!)



終わり



5 ※おまけ
最終更新:2012年03月10日 23:10