白い肢体をベッドに投げ出した黒髪の少女。
長い付き合いの中で彼女をこんなにも綺麗だと思ったのは初めてだった。
汗ばんだ体に上気した頬。
乱れた呼吸が目に見えるほどに熱い。
気遣っている余裕なんてなくて、性急に彼女の中へ指を差し込む。
澪が艶かしい声を上げた。
鼻にかかった高い声が部屋に響く。
歌を聞いている時もその声に聞き入っていたが、今回のそれにはもっと中毒性があった。
澪の目から涙が溢れるのも構わず、律は夢中で彼女の体を貪った。
しかし頭の中ははっきりとしていて、傍観者のように冷静に澪の姿を見続けていた。
澪は体をよじり、逃げ場のない快楽に耐え続けている。
何度も何度も律の名を呼び、嬌声を叫び続けた。
そして悲鳴にも似た声を上げ、澪の意識は沈んでいった。
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律「なんつー夢を見てんだ、私…。」
自分の物とは思えないほどに情けない声。
律はベッドを降りてふらふらと部屋の扉に向かった。
親しい友人のあんな姿は見たくないはずなのに、どういうわけかまんざらでもなかった気がする。
というよりむしろ、
律「かわいかったな…。」
ボソッとつぶやき、律は部屋を出た。
その日は登校時間をずらして澪に会わないようにした。
教室でも彼女の席には近づかないようにしたし、部活も用事があるからと紬に伝えてさっさと帰ってしまった。
しかし頭を冷やすつもりが、まっすぐ家に帰ってきてしまったため気晴らしにもならず、部屋に一人でいるとかえって落ち着かない。
夢の内容ばかり思い出してしまう。
律は適当に本を並べ、スティックでそれを叩いて気を紛らわせた。
練習に行かなかった分、腕に力が入る。
集中しすぎて時間もわからなくなった頃、律の意識を呼び戻したのは部屋に響いたノックの音だった。
律「あーい。」
どうせ弟だろうと思って適当に返事をすると、開いた扉から顔をのぞかせたのは澪だった。
律「ぅえっ…!」
子供のようにビクリと体を震わせ、律は言葉も発せないまま澪が部屋に入ってくるのをただ目で追った。
澪「ひどい驚き方だな…。なんで部活来なかったんだ?」
言いながら澪は律の隣に座った。
律「用事あるってムギに伝えたじゃん…。」
一瞬、律の目に澪の太ももが移るが、平静を装い、さりげなく視線を逸らす。
澪「とてもそうは見えないけど。」
わざわざ顔を覗き込んでくる澪に胸が高鳴るのを感じた。
なんとかそれを抑え込み、いつもの調子を崩さないように気を付ける。
律「なんで来たんだよ。」
澪「様子がおかしいからだよ。」
澪は暗い声にならないように気をつけているようだが、目を伏せる仕草に心境が表れている。
澪「その…私、律に何かしたかな…。」
律「えっ、いや澪のせいじゃないぞ…!…これは…。」
どんな風に説明していいかわからず、律は言葉を詰まらせた。
どうせまたどうでもいいような事なんだろ、などと呆れた澪が話をそこで終わらせてくれる事を期待しても、彼女はなにも言わず律の言葉を待っている。
彼女の表情は真剣そのもので、まさか原因はいかがわしい夢などとは冗談でも言えたものではない。
律「いや…その…。」
少し頭を整理して、余計な事は言わないままでうまくごまかす方法を考える。
律「…なんでもない。」
しかしそんな方法は思いつかなかった。
澪「なんでもなくないだろ。」
澪の口調は少し怒っているようだった。
はっきりしない律の態度に対して、ではなく、きっと彼女は自分を庇っているとでも考えているのだろう。
だから怒っているのは律を心配しての事。
そんな真剣な眼差しを相手に、実は夢の中であなたとエッチな事をしていました、などと言おうものなら…。
明日からの関係を想像するのも怖くなる。
律「とにかく、澪はなにも悪くないんだからいいだろ。ただ言いづらい話ってだけ。」
澪「悩んでるのは間違いないのか?」
律「悩むっていうか…まー…うん…。」
澪「どうしても話してもらえない?」
異様に食い下がってくる。
今までだって悩み事があっても干渉することについてはお互いに気を遣ってきた。
今日に限ってどうしてこんなに絡んでくるのか。
このまま黙っていたら余計に心配を掛けてしまうだけかもしれない。
数秒迷って、律は信頼する澪に打ち明ける決意をした。
律「聞いてすぐに忘れるなら言うよ。」
澪「は?…何言ってるんだ?」
律「いいから。むしろお前にとっての逃げ道だ。」
澪「…よく分からんが、分かった。」
澪の曖昧な返事を聞くと、律は息を吸った。
律「ゆ、夢の中で、澪にえっちなことしてたから、なんか気まずくて…。」
律は澪の顔を見ていられなかった。
間が怖くて、言い繕うように律が続けて口を開く。
律「別にそういう願望とかじゃなくてな?へ、変なこと考えてるわけじゃないぞ…。」
たぶん澪は言葉の意味を理解できずに数秒固まるだろう。
その後は何度か言葉を脳内で再生して赤面する。
そして恥ずかしさに怒鳴る。
そんな過程を想像しながらじっと目を伏せていると、小さく息を吐く音が聞こえた。
悲鳴みたいな怒鳴り声でも聞こえるかと思って顔をあげると、小刻みに震える体から漏れた息は笑い声だった。
律「なっ、おまっ、なに笑ってるんだよっ。」
澪「いや…ふふっ、恥ずかしがる律が面白くて…。だって、夢だろ?」
確かにその通りだが、その程度にどれだけ考え込んだかを思うとやはり笑われていい気分はしない。
律「夢でもそんなの見たらまともに顔見れないって!」
澪「そうか?」
やっと笑いが収まった澪が軽い雰囲気で返してくる。
律「実際そういう夢見たら同じ事思うぞ。」
澪「そういう夢って、具体的には?」
律「バカ。言えるか。」
澪「それじゃ想像できないだろ。」
律「しなくていいよ!」
澪の方が恥ずかしがるんじゃないかと思っていたのに、妙に前のめりな澪に不思議な感覚を抱きながら、考えすぎて高ぶった気持ちを今のうちに落ち着かせる。
澪「…キスとか、した…?」
乗り出してきた澪の顔が少し赤い。
律「キスってお前…。」
ようやく気がついた。
澪の考える「えっちなこと」の想定が律の見た夢と比べて可愛らしすぎるのだ。
律「いやもういい。忘れるって約束しただろ。」
澪「内容を聞いたら忘れるよ。」
律「お前なぁ…。いいからやめとけって。」
軽いガールズトーク程度にしか考えていない澪には刺激が強すぎる。
澪「なんだよ、それ。」
律「仮にキスしたとして、どうするんだよ。私とキスなんて嫌だろうが。」
澪「なんで?」
本気で疑問符を浮かべる澪に少しどきっとした。
澪「律ならいいじゃん。」
律「あのな、……。」
いや。
もうめんどくさくなってきた。
澪がやたらに食いついてくるのが悪い。
そして夢のせいで律も普段より欲が張っていた。
律「じゃあさ、ベッドに上がって。」
澪「上に座ればいいの?」
律「そ。」
澪は不思議そうにしながらも律の言うとおり、ベッドの上で足を崩して座った。
それについて律もベッドに膝をつく。
律が迫るように近づいていくと、不穏な様子に気付いた澪がわずかに身を引いた。
澪「律…?」
律に手首を掴まれ、逃げ場なく押し倒される澪。
律「夢の中でやった事、実演してやるよ。」
服に手をかけながら淡々と告げる。
もっと驚くかと思って澪の様子を伺うが、戸惑ってはいても怯えているようには見えない。
澪「…律、どうするの…?」
律「たぶん、澪が思ってるよりずっとえっちな事だよ。」
状況を飲み込めないまま、すでに彼女の肌は露出し始めていた。
シャツのボタンを外しただけで、下着もまだそのままだったが澪のスタイルの良さは見て取れた。
澪「律…。」
本気で抵抗してくる事も考えていたのに、澪は意外にも大人しかった。
少しでも嫌がったら冗談にしてしまおうと思っていたのにこんな反応をされてはあとに引けなくなってしまう。
澪「いいの…かな…。」
律「いいんだよ。」
不安げに声を小さくする澪に律はっきりと言った。
律「私は澪が好きだから、いいんだよ。」
律は澪の唇に視線を落とした。
キスがしたいな、と思う。
唇が乾燥している気がして舌先で確認する。
澪は律が顔を近づけるような仕草を見せただけで、雰囲気を察し目を閉じた。
意思の疎通もさる事ながら、拒む様子がない事に律は驚いていた。
律「澪…。」
囁くように名前を呼ぶと愛おしさが湧いてきた。
唇が重なり合うまではほんの数秒程度。
重なっていたのもほんの数秒。
緊張しすぎて時間の感覚も触れた時の感触も麻痺してしまっていた。
ただ唇をくっつけて、離れる。
律にはその程度の余裕しかなかった。
澪「りつ…。」
律の名前を呼ぶ澪の声は震えていた。
律「どうした?」
心配になって澪の顔を覗き込み、その頬に手をあてた。
彼女の頬はとても暖かいように思えたが、実は自分の手が冷たくなっているのだと気付く。
澪「緊張してて…よく分からなかった…。」
少し顎をあげてくる澪の姿に、とくんと鼓動が高鳴った。
今度は遠慮など考えられず澪の唇をふさぎ、わずかな隙間から舌を割り込ませた。
すぐにぬるりとした感触が伝わってきて、澪も律の舌の動きに合わせる。
彼女の小さな舌は緊張にこわばっていて、少し冷たい。
律「澪…服、全部脱がせたい…。」
澪の体に触れるたびに鼓動が大きくなっていく。
妙な息苦しさを感じて、これが興奮するっていう事なんだと自覚した。
澪はまだ流されるままの浮いた感覚が残っていて、どうしていいのか分からない。
ただ律が大切そうに触れてくる優しさだけは感じていたから、律に促された通りに身を起こし、ブレザーとシャツを脱がされていくのをおとなしく受け入れた。
続けて下着を外されると、両手で胸を隠して身を小さく縮めた。
澪「律…恥ずかしい…。」
今までだって何度も入浴時や着替えの時に肌を見ているというのに、こんな時は勝手が違った。
律「私も脱ぐから…。」
律は着ていたシャツを脱ぎ、恥ずかしいと思いながらも澪を安心させるために体は隠さない。
続いて澪のスカートと下着を脱がせると自分も同じ姿になる。
律は澪に体を重ね、抱きしめながら優しく押し倒した。
澪「これも…。」
澪が手を伸ばして外したのは律のカチューシャ。
さらさらとした前髪が降りて来て、律にしてみたら少し鬱陶しく思う。
澪「律の髪、柔らかくていいな…。」
律「…そうか?」
澪「うん…。女の子って感じがする…。」
律「なんだそれ…。」
あまり褒められる事に慣れていない律は苦笑するしかなかったが、本当は嬉しかった。
律「胸、触るぞー…。」
照れ隠しの抜けた声が聞こえたかと思うと、次の瞬間には緊張で冷えた手が澪の胸を包んだ。
ゆっくりとその柔らかさを楽しむ律。
澪「んっ…。」
少しくすぐったくて体がぴくりと勝手に反応する。
律「澪。痛い?」
澪「んん…っ。大丈…夫…、ぁっ。」
時々吐息に混じる声が律の興奮をさらに煽る。
緊張しながら律は澪の胸に顔を寄せた。
澪「ひあっ…!」
思わず大きな声をあげてしまい、澪は聞いた事のない自分自身の声に驚いた。
少し視線を体の方に向けると、律が胸の先をくわえ込んでいるのが見えて、恥ずかしいと思うと同時に背筋にぞわぞわとした感覚が走った。
澪「ふ…んくっ、んっ…!」
舌先で小刻みに舐めたり、唇でついばんだりしている感触が伝わって来て、腰のあたりが落ち着かなくなってきた。
律「澪…腰、動いてるよ…。」
澪「んっ、だって…なんだか、むずむずする…。」
律「もしかして興奮してる…?」
澪「わ、わかんないよ…そんなの…。」
澪の口から漏れる熱い吐息と、上気した頬を見ればただ緊張しているだけじゃないという事くらいは律にも分かった。
改めて澪の体を見ていると本当にきれいだなと思ってしまう。
もっと触れたい。
澪「律…?」
最終更新:2012年03月19日 07:52