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 行先は、私の部屋だった。
律の部屋は、他の人達から貰ったプレゼントが置いてある。
ここからの時間は、排他的な二人でありたい。
その思いが、私にこの行先を決定させていた。

「そういえば、澪ー」

 ベッドに下ろしてやると、律は開口一番そう言った。
その顔には未だ、染まった跡が少しだけ残っている。

「何だ?」

「澪って、バレンタインの時に、私以外からもいっぱいチョコ貰ってたけど。
そのお返し、しなくていいの?
あれって、ファンクラブの子達でしょ?大事にしないと」

「もう既に、お返しは済ませてあるよ」

「午前のうちに?でもそんな素振り、澪は見せてたかな?」

「いや、昨日のうちに。ただ一人を除いて、だけどな。
ホワイトデーはその一人にだけ、あげたかったから」

 悪戯っぽい笑みを向けてやると、また律の顔が染まった。
初な反応が可愛らしい。

「そういえば私も、バレンタインにあげたチョコのお返し、
まだ貰ってない人が居るんだよね」

 お互い、笑みを交わす。
誰の事を指しているのか、分かりきっている。

「お待たせ。今からあげるな。でも、律が見つけてね。
私はもう、そのお返し、隠し終わった後だから」

「隠した?へー、想像してなかったサプライズだ」

 そう言うと律は、私の部屋を見回し始めた。
それでは見つからない。

「律、ヒントをあげる。渡す場所は、この部屋である必要は無かった。
例えば、律の部屋でも良かった。
ただ、置かれたプレゼントが他の女の匂いを放っていたから、自分の部屋を選んだだけで。
私さえ居てその気になるならば、何処でも渡せるよ」

 そう言うと私はベッドの上、それも律の傍らに身を仰向けた。
律の視線が、その私に釘付けになる。

「あー、なるほど。そういう事。身に着けてたのね」

 律は遠慮がちに私の身体に手を伸ばし、弄り始めた。
ポケットの中に見つからないとなると、ブレザーの上着さえ脱がし始める。
そうやって徐々に私は脱がされてゆき、
ブラジャーとショーツとスカート、そして黒いハイソックスのみを纏う姿となった。

「無いなー」

 これ以上を私は期待しているのに、律は腕を組んでしまった。

「諦めるなよ、律。勇気さえ持てば、覚悟を決めてくれれば、見つかるよ。
そんな場所だ」

 励ましてやるが、律の視線は私の靴下へと向いている。
更にその視線の先へと手を伸ばすに至って、私は再度口を開く。

「意気地なしだな。靴下の裏になんか隠してないよ。
ほら、一線、越えて来いよ。
お互い、何度も見せ合って擦りあって舐め合って、重ねてきただろ?」

「そ、そうだけど。脱がすのは初めてだし。
いつもそういうのは、澪がやってるから」

 そうなのだ。いつも律と行為に及ぶ時、私は自分で脱ぐ。
律は自分の被服や下着を、私に脱がせるにも関わらず、だ。
だから偶には──

「偶には、律が脱がせて」

「う、うん。分かった」

 律は頷くと、震える手をブラジャーに掛けた。
そうしてゆっくりと優しく、私の胸を露わにした。

「こ、ここにも無いみたいだな」

 律はそう言うと、私のショーツへと視線を向けた。

「いいよ。全部見て。っていうか、今まで何度ももう、見てきただろ?
それでもまだ、慣れないかな?苦手?」

 律は以前、私の性器が苦手らしい素振りを見せていた。
オーラルセックス、所謂クンニを避けてきた。
やるとしても、渋々としたものだった。
匂いや形状に、抵抗を感じていたらしい。
その態度は、当時の私を深く傷つけてきた。
律に私の性器を避けて欲しくない一心で、必要以上にクンニを要求した事もあった。
けれど、今はもう──

「んーん、そんな事ないよ。だぁいすき。
ただ、恥ずかしくはあるけど。でも、覚悟を決めるよ」

 律はいよいよ、私のショーツに手を掛けた。
そうして、そのベールを優しい手つきで剥いだ。

「わぁ、これ?これが、プレゼントなんだ。
痛かったでしょ?澪、痛いの苦手なはずなのに、大丈夫だった?」

 私の性器を見つめながらの、律の感想だった。
いや、私の陰核を貫通する、ピアスを見ての感想か。

「ああ。痛かったけど、律の為なら、幾らでも耐えてみせるよ。
それ、あげるね」

「ありがたく頂くよ。
さっき、澪のココと私のを擦るように歩いてたけど、
その時点からヒントは与えられてたんだね」

 律は私の陰核を口に含み、舌でピアスを外しに掛かった。
今はもう、律は私の性器に苦手意識を抱いていない。
それどころか、病み付きになった、とさえ言っていた。
いつしか律は言っていた。

『澪のここって、どどめ色のモルボルみたいだね』
と。

『私を混乱させて狂わせて麻痺させて魅了する、そんな匂いと見た目』

 そう褒めてくれた。
モルボルとはゲームに登場するキャラクターらしく、詳しくは知らない。
けれど、それ以来律が私の性器を愛でてくれているのだから、きっと褒め言葉なのだろう。

「んっ」

 回想に耽っていた私の口から、意図せずして喘ぎ声が漏れていた。
律はピアスを外す事に手間取っているらしく、私の陰核は何度も噛まれ舌で転がされた。
漸く律が外し終わった頃には、すっかりと私の身体は昂ぶってしまっていた。

 続いて、律はピアスを口に含んだまま、私に口付けてきた。
そのまま、私の口の中へとピアスが移される。

「あはっ、ね、みぃお。それ、澪が私に着けて欲しいな」

 甘えるような声で、律は言った。
昂ぶっている私にとって、願ってもない展開だ。

 私は返事の代わりに、律の太腿の付け根へと顔を這わせた。
そして律とは対照的に、荒々しい動作でショーツを剥ぎ取る。
到底、我慢などしていられない。

 私の瞳に、薄桃色の可愛らしい律の性器が映った。
陰毛など一切が無い故、形状がダイレクトに分かる。
その見た目通り、香りは芳しく味も甘い。
まるで瑞々しいフルーツのようだと、律のここを見る度に思う。

 さて。狙うは、陰核だ。
私は唇で律の陰唇を剥くと、陰核を口に含んだ。
転がしたり噛んだりとその感触を楽しんでから、ピアスの針先を突き立てる。
舌で行う事は難儀を極め、失敗する度に律が身を捩らせたけれど。

「っ」

 ちくり、とした痛みが走ったのか、律は短く荒い息を吐いた。
口で行う以上、ピアッサーなど使えない。
代わりに私は、噛む事でピアスを装着させた。

「ひゃっ、ひゃぁんっ」

 途端、身を襲う痛みに、律が一際姦しい悲鳴を上げた。

「痛かったか?」

 そう問うと、律は軽く頷いた。

「うん。でも、澪に痛くされるなら、構わないから」

 断続的に吐き出される律の荒々しい呼吸が、痛みの余韻を表している。

「そっか。でも、良く見せてな」

 律の陰核からベッドに掛けて、一筋の赤い糸が垂れていた。
ただ、それは装着時のものであり、出血はもう止まりかけている。
大丈夫だろう。

 改めて眺めていると、ピアスに私の歯型が刻み込まれている事に気付いた。
ここが誰のものかを示す、マーキングのように。
その事に満足はしたが、
もう少しプレゼントっぽく演出してみたくもなった。

 私は脱がされたブレザーに手を伸ばすと、胸部の青いリボンを抜き取った。
それで律の陰核を蝶の形に結んだ。

「ふふっ、綺麗だよ、律」

 ピアスの装着された陰核がリボンによって突き出され、扇情的な光景となっている。

「ね、澪。ピアスって、アフターケアも大事なんでしょ?
それもこれから、澪がしてくれる?
私のクリトリス、消毒したりとかの、ケアしてくれる?」

 律は甘い声でねだってきた。

「勿論、このプレゼントには、アフターケアのサービスも含めているよ。
安心しな。毎晩、私がケアしてあげるから」

 律は嬉しそうに目を細めると、私の胸へと頭を預けてきた。

「わっ、律?」

「このまま、寝かせて?今日はもう、疲れちゃったから。
友達とかと、色々あったし」

 先程の疲労は、まだ癒えていないらしい。
考えてみれば、疲労を癒すどころか、更に疲れる行為に私達は耽っていた。
私としては扇情的な律を貪りたかったが、今は律の疲労を慮る事にした。

「ああ、いいよ。でも、こんな所でいいのか?
ベッド、貸すけど」

「んーん、ここがいい。澪の胸がいい。
澪の胸って、安心できるんだ。
大きくて柔らかくて、ミルクのような優しい匂いがして。
安心して、眠る事ができるんだ」

 律を抱え上げた時の事が思い出される。
羞恥から逃れる為に、律は私の胸に顔を埋めていた。
守られるような安心感を提供できるのならば、私にとっても望外だ。
勿論、貸してあげる。

「ああ、いいよ。ゆっくりお休み。そして目が覚めたら──」

 胸に抱えたまま律の頭を撫でてやると、すぐに安らかな寝息が聞こえてきた。

「今度は、私の我儘に付き合って?
昂ぶって疼く私の情欲、その身体で鎮めてよ。
たっぷりねっとり、存分に求めさせて?」

 それで、友チョコの件、許してあげる。


<FIN>


以上です。
それでは次の方、どうぞ。



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最終更新:2012年03月28日 20:58