309. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:05:21
お待たせしてすみません。
あと少しを残してまだ全部書き終えていないのですが、
HTML化を待たせている状態ですので、なんとか投下している間に完成させたいと思います。
それでは、相変わらずの長い感想ですが、おつきあいいただければ幸いです。
310. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:08:15
  私が部室に入ると、澪先輩が紙を食べていた。

  「美味しい〜〜〜〜〜!
  やっぱり甘いお話は最高だな!……じゃなくて……最高ね!」

  などという、わざとらしくもぎこちない声をあげながら、
  私の視線の先で、澪先輩はこちらを向いて椅子の上にちょこんと体育座りしていた。
  ちょこん、と言っても、澪先輩は背が高く手足が長いので、ずいぶんきゅうくつそうである。
  しかも、制服のひだスカートの奥が、見えそうで見えない……なんてことはなく、
  うすい水色がばっちりと見えてしまっていた。
  実に素晴ら……お行儀の悪い格好だ。
  そして、むき出しの膝頭に白い頬をあて、膝全体を腕で抱え込むようにして、手にはレポート用紙の束を持っている。
  澪先輩は白く長い指でそのレポート用紙のはしっこを破き、それをぱくりと口にくわえ、
  まるでシュレッダーのように紙片を飲み込んでいく。
  ちらちらとこちらを見てくるあたり、私に見せるためにやっているのだろう。
311. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:10:21
  (うわぁ……ポーズかと思ったら本当に食べてる……)

  頭を抱えたくなりながらも、とりあえずは見守りつづける私の前で、
  澪先輩はまたびりっと紙を破いて口に入れる。


  びりっ、カサッ、コソッ……。

  むぐむぐ……むぐむぐ……

  むぐ……むぐ……む……ぐ……


  先輩はしばらくの間、口の中のものをじっくり味わうように噛んでいたが、


  「うぇぇ………ぺっ……ぺっ……」


  と、吐きだした。

  当たり前だ。
  
  澪先輩が食べているそれは、真っ白い砂糖で出来た薄い板などではなく、正真正銘ただの紙。

  妖怪でもない限り、そんなものが食べられるはずがない。

  口のはしに唾液を光らせる涙目の澪先輩を心のフィルムに焼き付けつつ、
  私は心底からあきれた声で先輩に話しかけた。
312. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:12:29
  「大丈夫ですか、澪先輩。
    二重の意味で。
    はい、これ使ってください」

  ポケットティッシュを差し出すと、先輩は吐きだした紙片をていねいに拾ってつつみ、
  口のまわりを拭いた。

  「うぅ……あぁ、梓か。
    って、そうじゃなくて、えっと……心葉く……でもなくて……
    こんにちは、梓ちゃん!」

  「普通に話してください。
    そんな変な姿勢で変なもの食べて。
    下着、見えてますよ?」

  「ひゃっ」

  「まったくもう。
    あぁそうだ、そのティッシュ、私が捨てておきますね」

  「ありがとう、梓……梓ちゃん」
313. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:14:31
  「はぁ……だから、普通に話してくださいって。
    今度は一体何の真似ですか?
    髪型まで三つ編みにして。

    まあ、前みたいに金髪に染めて、
    『これはこれは、フロイライン田井中!ご機嫌麗しゅう』
    なんて言い出さないだけマシですが……」

  澪先輩から受け取ったティッシュをさりげなくポケットにしまいながらたずねると、
  先輩は「よくぞ聞いてくれた!」という顔をした。


  「”文学少女”だよ!」


  「……はい?」

  二本の三つ編みを揺らして、ついでに揺れそうなほどに豊かな胸を張り、
  澪先輩は得意げに答えた。


  「私と言えば、”文学少女”に決まっているじゃないか!」
314. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:15:07
  梓「女子高校生と”文学少女”!」
315. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:16:33
  梓「つまり、私を呼びだしたのは、ホワイトデー企画の感想語りをしたかったんですね。
      しかもただ感想を言うのもつまらないので、味に例えて語ってみよう、と」

  澪「そう!
      その役を担えるのは、もともと文学部に入ろうと思っていた私以外にいないだろ?
      甘い甘い作品たちをちゃんと賞味できるのも、味わいを表現できるのも、
      作詞担当の私以外にいない!」どやっ

  梓「……その心は?」

  澪「……最近、スランプで歌詞が書けないんだ。
      だから、甘々な作品の感想を語って、少しでもリハビリになればって……」

  梓「……ちなみに、一番最近書いたもののタイトルは?」

  澪「……おみかんSummer☆夏みかん」

  梓「……あー」

  澪「……うん」

  梓「……」

  澪「……」

  梓「さ、さぁ!  感想にいってみましょう!!」

  澪「そ、そうだな!  いこうか!!」
316. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:18:14
  一番手◆skBhiQ5EMI  律「2月から3月にぽつぽつと」
>>2-18



  梓「一番手は◆skBhiQ5EMIさんの律澪ですね!」

  澪「これはシュークリームだな。
      私と律の会話のかけあいは軽やかなシューみたいだ。
      食べる前から、やわらかく香ばしい匂いと中につまっている甘さの予感に
      思わずうきうきして笑みがこぼれちゃいそうになるよ。
      そして、モチモチしたシューにかじりつくと……」

  梓「あま〜いカスタードクリームが溢れてきます!」

  澪「このカスタードの量にも注目だ。
      決して、しつこすぎず、シューの香ばしさを飲みこんだりしない、
      見事な分量なんだ。
      ほのかな甘さの余韻にひたりつつ、
      ついもう一口、とあきることなく食べられる一品だな」
317. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:19:56
  梓「ところで、ホワイトデーのお返しは澪先輩が律先輩に指輪をあげたんですよね?」

  澪「あぁ、きっと律の誕生石のペリドットかサードオニキスを使ったリングを
      プレゼントしたんだろうな。
      ペリドットの石言葉は運命の絆、夫婦の幸福。
      サードオニキスの方は幸せな結婚に夫婦和合。
      ……ちょっと恥ずかしいけど、どちらも素敵だよな」

  梓「そして、律先輩も澪先輩に指輪をあげたんですよね?」

  澪「はっきりと明言されてはいないけど、そうなんじゃないか?
      私も自分の誕生石を口にしてアピールしているし。
      ガーネットの石言葉は真実、秘めた情熱……これも良い言葉だな」

  梓「なんだか、ネックレスに指輪と澪先輩ばかりプレゼントをもらっているみたいで、
      ちょっとだけずるいですね。

      バランスを取る意味でも、澪先輩が誰かにプレゼントをするとかどうですか?
      ちなみに11月の誕生石はシトリンかトパーズです。
      シトリンの石言葉は勇気に活力、生きる意欲。
      トパーズは誠実、潔白、希望ですね。
      澪先輩、しっかり覚えておいてください!」

  澪「え?  あ、あぁ……」

  梓「リングでも、ネックレスでもいいですから!
    さて、次にいきましょう!」

  澪「う、うん……」

  澪(どうして梓の誕生石が関係あるんだろう……)
318. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:21:10
    二番手◆C733o1TAlw  「お返し」
>>21-30


  梓「二番手は◆C733o1TAlwさんの唯梓です!」

  澪「花言葉……お約束かもしれないけれど、やっぱりすごくロマンチックだ。
      こんな風にうまく使われると、ついキュンとなっちゃうな」

  梓「枯れてしまうバラと枯れない想いの対比もとても上手でした」

  澪「まるでバラの花の砂糖漬けのような作品だったな」

  梓「バラって食べられるんですか?」

  澪「普通のバラはあまり食べない方がいいけれど、
      エディブルローズという食用花の花びらは食べることができるんだ。
      ケーキやカクテルの飾りに使われるベルローズという小さなバラが有名かな」
319. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:22:46
  澪「この作品は、花びらではなく、バラの花の形のまま卵白を塗り、
      グラニュー糖をまぶして砂糖漬けにしたような作品だ。

      それはベルローズより少し大きめのものとはいえ、
      一口で食べることができるほどに小さく軽い。
      
      でも、短い言葉とふざけ合ったやりとりを交わしながら、
      二人は花びらを一枚ずつ手に取って、大事に大事に味わって食べていくんだ。
      口に広がる砂糖の甘さとバラの香り、そしてかすかな苦み。

      それは、いくら大切に味わおうとも、必ず食べきってしまうもので、
      花が枯れ、風に吹かれて散ってしまうように味の記憶も消えてしまう」

  梓「でも、二人にとっては未来永劫なんですね」

  澪「そうだな。
      忘れそうになったら何度だって確かめあえばいい。
      深読みすれば、二つのバラの色と花びらという言葉からは唇を想起することができるしさ」

  梓「それってどういう意味ですか?」

  澪「え、あ……えーっと……
      赤い色と白い色をまぜた色がだな、その……」

  梓「口づけを交わす唇の色ってことですよね?」

  澪「わ、わかっているなら、聞くなよな!!
      もう……」

  梓(澪先輩、かわいいなぁ)
320. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:23:56
    三番手◆tujQOJCAXk  唯「ひみつ」
>>33-42


  梓「三番手◆tujQOJCAXkさんの憂梓と――」

  澪「おっと、まだ読んでいない人もいるかもしれないからそこでストップな」

  梓「わかりました。
      ところで、この作品では『いちごジャムクッキー』がもう登場して、
      効果的に使われていますよね。
      これじゃあ、下手に味で語ろうとすると作品の元の味を
      損ねてしまうんじゃないですか?」

  澪「梓」

  梓「はい」

  澪「私は誰だ?」

  梓「澪先輩ですが……」

  澪「ちがう!  今の私は”文学少女”!!」

  梓「そ、そうでした!」

  澪「そういう訳なので、まかせてもらおうか!!」

  梓(澪先輩……面倒くさいけれど、やっぱりかわいいなぁ)
321. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:25:44
  澪「この作品は、運ばれてくる紅茶を待っているところなんだ。

      食事を終え、デザートにいちごジャムクッキー食べた後の、
      まるで子どもにもどったような幸せな時間。

      お腹はいっぱいだし、口の中にはさっき食べた甘いクッキーの味が残っている。
      とろとろとついつい眠くなってしまいそうだ。

      でも、もう一人、これから紅茶を運んでくる人も交えて、
      みんなでテーブルを囲み楽しく語り合うことができるなら、
      もっとずっと幸せになれる。

      そんな予感がしているんだ。
      だから、みんなで彼女を待っている。

      彼女が運んでくるのは、甘さと調和するまじめなダージリンか、
      それとも、いちごのジャムと引き立てあうストロベリーフレーバーティーってところかな。

      いちごジャムクッキーと紅茶、
      二つのマリアージュ(幸せな結婚)が本当に楽しみだ。
      梓も、そう思うだろ?」

  梓「はい!  もちろんです!!」

  梓(できれば、私も澪先輩と……なんちゃって!なんちゃって!!)

  澪「おーい、梓?
      次に行くぞ?」
322. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:27:41
    四番手◆yYQZtq/4kc  梓「別に唯先輩のこと好きとかそう言うのじゃない」
>>45-72


  梓「四番手は◆yYQZtq/4kcさんの梓唯です」

  澪「ちょっと珍しい(?)原作に準拠した梓唯だな」

  >梓(だって…2つだけじゃ足りなかったから……)

  梓「3個か!?  甘いの3個ほしいのか!?  
      3個……イヤしんぼめ!!」

  澪「あ、梓?
      ……なんだか今日の梓は変だな。
      まあいいか」

  澪「この作品はチョコレートフォンデュみたいだったな。
      本当はとっても甘いのに、なかなか素直になれず固いままのチョコレートが、
      唯への気持ちで、少しずつ溶けていくところは実に可愛いらしかった。

      そして、忘れちゃいけないのが、生クリームとミルクの存在。
      チョコレートだけだったら、温度が高くなり過ぎて、
      焦げついて失敗してしまっていたかもしれない。

      でも、憂ちゃんと鈴木さんのおかげで、フォンデュは無事完成。

      最後はチョコレートファウンテンみたいに、
      あつあつとろとろのチョコレートがあふれ出てくるみたいだった」
323. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:28:57
  澪「この後二人が何をチョコにつけて食べるかを想像するのもおもしろいな。
      イチゴやバナナ、キウイにオレンジ、ラズベリー、ブルーベリー。
      ふわふわのカステラ、さくさくとしたクッキーやビスケット。

      たくさんの味の組み合わせを前にした笑顔の二人が目に浮かぶようだよ。
      もちろん、一口目は決まっているだろうけど」

  梓「マシュマロ、ですよね!」

  澪「ふふっ、やけどしないように気をつけろよ、唯」
324. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:30:11
    五番手◆MsP5RW1ayY  紬「おくりもの」
>>75-81


  梓「五番手は◆MsP5RW1ayYさんの紬唯です!」

  澪「これは、色とりどりのフルーツをあしらったフルーツタルトだ。

      ふわふわの生クリームにつつまれた果実たちは、
      ナパージュで宝石のように輝き、主役の二人をかこんで見守っている。
      それぞれの下にはカスタードとアーモンドクリームがたっぷり。
      
      紬唯だけじゃなく、梓律、澪憂のどこを切りとっても、
      甘さがあふれる美味しい作品だったな」

  梓「この中の私が、律先輩のことを
    『律っちゃん』と呼んでいるのにニヤニヤしてしまいました」

  澪「残念ながら、私と憂ちゃんに関してはあまり語られることはなかったけれど、
      きっと唯の方の相談に乗っていたりと、また別の物語があるんだろうな」

  梓「唯先輩の『自分がもらって嬉しいプレゼント』が
      いったい何だったのかも気になりますね」

  澪「唯の視点による物語が、いったいどんな味わいになるか
      想像するのも楽しいかもしれないな」
325. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:31:21
    六番手◆6wpRWPx9ak  律「お返しの味はビター or ベター?」
>>92-102


  梓「六番手は◆6wpRWPx9akさんの……律です」

  澪「ん?  どうかしたのか梓」

  梓「……ぁず律です」

  澪「ほら、恥ずかしがらずにもっと大きい声で。
      さっきの作品でも一緒だっただろ?」

  梓「……う〜!!恥ずかしがり屋の澪先輩には言われたくありません!
      私と……律先輩です!!」

  澪「はい、良く言えました。
      律に甘えっぱなしな梓と、
      そんな梓が大好きでしかたない律の話だな」

  澪「他に感想を書かれた方も言っていたけれど、
      律に対して遠慮なく憎まれ口をきく梓と、
      やり返しつつもちゃんと先輩らしさを見せる律の組み合わせは、
      見ていて微笑ましかったぞ」
326. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:32:37
  梓「この中の私は、自分のことを『恋人なのに!』なんて言うくせに、
      バレンタインデーに何もあげていないんですね。
      しかも、ホワイトデーにも何も用意していない。

      ……これは私の予想ですが、バレンタインの時も律先輩からは
      おそらくは手作りのチョコをもらったはずでしょうに。
      まったくとんでもないわがままです!」

  澪「わがまま全開の梓が、まるでアイスクリームのように
      一見冷たいようにも思えるのにもかかわらず、
      ちゃんと二人の仲を安心して見守ることができるのも、
      梓が律にとろけているせいなんだろうな。

      律もぶつぶつ言いながらも、梓に寄りかかるように甘えられて
      けっこうよろこんでいるんじゃないか?

      ちょっぴり冷たいけど甘いバニラアイスに乗っかられた、
      ハチミツがかけられた熱々のトースト。
      ふふっ、ハニートーストみたいな二人だな」

  梓「笑わないでくださいよ……もう」

  澪「梓、そんなに真っ赤な顔してると溶けちゃうぞ?」

  梓「律先輩みたいなこと言わないでくださいっ!!」
327. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:34:21
    七番手◆ywLV/X/JUI  澪「律が誰のものか教えてやるよ」
>>104-114


  梓「七番手は◆ywLV/X/JUIさんの……なんでしたっけ?」

  澪「……み、みぉ……」

  梓「きこえませーん」

  澪「……澪律……です」

  梓「ほら、恥ずかしがらずにもっと大きい声で。
      どんな澪律なんですか?」

  澪「……〜〜!!」ボンッ!

  梓「み、澪先輩?!」

  ……十分後。

  梓「えー、コホン!
      澪先輩が回復したところで、感想に行ってみましょう。
      頑張ってくださいね、“文学少女”な澪先輩♪」
328. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:36:05
  澪「こ、このお話はティラミスみたいな味わいだったな。
      甘味も単純なものではなく、
      甘いビスコッティ・サヴォイアルディにしみこんだ、
      エスプレッソを使って作ったコーヒーシロップや、
      上品な甘さとほろ苦さをかねそなえた
      マルサラワインが入っているチーズクリームの層が重ねられ、
      表面にふりかけられたココアパウダーもあわさって、
      大人な味にしあがっている」

  梓「私には少しだけお酒の量も多いように感じましたが……」

  澪「ああ、どちらかというと、
      より多くの人に受け入れやすいよう今風にアレンジされたものではなく、
      マルサラワインやコーヒーシロップの風味によって好き嫌いが分かれる、
      昔のものに近い作り方だったかもな」

  澪「さて、ちょっとその辺りを踏み込んで語ってみようか」

  梓「踏み込みますか!
      “文学少女”の本領発揮ですね」
329. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:37:41
  澪「私にとって、今回の企画の中で最も強く
      独創性(オリジナリティ)の芽を感じたのがこの作品だったな。
      これはキャラクター崩壊とかそういったものではなく、
      私も望んでやまない、自分だけのものの見方、表し方のことだ。
    
      律や私を含め、作品の中で登場する架空のはずの女の子たちが、
      それぞれ一種の生々しさ(リアルというより、『生っぽさ』)をまとっているところや、
      あまり他の人が選ばないであろう、血や痛み、匂いなどの肉感的な部分、
      性器の形状などの女性的な部分を作品に取り入れているところは、
      やっぱり独自のセンスだと思う。

      何より、対比をもって描き出しているものには感心させられたな」

  梓「対比、ですか?」

  澪「感想を書いた人たちも反応していた部分があっただろ?
      ……私の、その……」
330. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:39:18
  梓「モルボルですね!」

  澪「うう……いや、その通りなんだけど……コホン!
      注目すべきは、律のものを表す言葉との違いなんだ。
    
      ちょっと挙げてみようか、


      私(澪)

      ・どどめ色のモルボルみたい
      ・私を混乱させて狂わせて麻痺させて魅了する、そんな匂いと見た目

      律

      ・薄桃色
      ・可愛らしい
      ・陰毛など一切が無い故……
      ・香りは芳しく味も甘い。まるで瑞々しいフルーツのよう


      私に使った『どどめ色』という表現が
      明らかにマイナスイメージ過ぎる言葉なので
      余計にひどいものに感じてしまったのかもしれないけれど、
      この色は熟した桑の実やガマズミの実の色であり、
      要するに成熟を意味しているんだと思う。
    
      対する律は、幼さや無垢な様子を連想させるものだよな。
      ずばり言ってしまえば、子どものようでもある。

      成熟している私と子どもな律。
      これは作品全体を通して繰り返し描写されるイメージなんだ。

      モルボルにしても、匂いというよりは『臭い』を連想されるもので、
      やっぱり過剰にマイナスすぎるから、
      もう少し別の言葉を選んでも良かったとは思うけれど、
      目的は私と律の対比をより明示しようとしているんだろう」

  澪(深読みのしすぎかもしれないけれど、モルボルの歯は男を去勢し殺す
      『歯の生えた膣(Vagina dentata)』に繋がっているのかもしれないな)
331. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:41:31
  梓「たしかに、澪先輩は恋人でありながらも母親のようでもありましたし、
      律先輩が澪先輩を呼ぶ時の『みーお』という甘い声が、
      子猫のなきごえと重なって聞こえるようでしたね」

  澪「作中からもっと直接的な部分を引用すると、

      『澪の胸って、安心できるんだ。
        大きくて柔らかくて、ミルクのような優しい匂いがして。
        安心して、眠る事ができるんだ』

      という律の台詞があるな。
      こことその後の台詞からも、
      成熟している私と子どもの律が描かれている」

  澪「ただな、作品全体を通して見ると、この対比が別のものに変わるんだ。
      私は身体は成熟しているし、まるで母親のように律を守っている。

      セッ……エッチだって何度となく経験している。
      だけど、それは束縛的であり、独善的なものだ。

      ホワイトデーのプレゼントが、身体を傷つけるピアスであり、
      それは『相手が誰のものかを刻み込むマーキング』の証だ。

      しかも、相手が望んでいるとはいえ、アフターケアという形で、
      また縛り付けている。

      愛情の確認に精神的なものではなく、肉体的なものを必要としているんだよ。

      作品内の私は精神的にはまだ大人ではなく、
      単に身体の成熟をもとにして『オトナ』ぶっているだけの『コドモ』なんだ。
    
      最後の私の台詞が、

        『それで、友チョコの件、許してあげる。』

      というものなのも、大人であるとはとても言えないよな。

      つまり、この作品は成熟した私と子どもな律の対比を描きつつ、
      実際には『オトナ』な私と『子ども』の律による、
  『コドモの恋愛』を描いているんじゃないか、
      と私は読んでいて思ったんだ」
332. ◆DVsVmzoNGk 2012/03/28(水) 00:43:23
  梓「……なんだか深いですね」

  澪「単なる妄想だけどな。
      “文学少女”的に言えば、
      『?推理《すいり》?ではなく、?想像?』ってところだよ」

  梓「でも、やっぱり私には後半のピアスのシーンなどは、
      刺激が強すぎるようにも感じますが……」

  澪「そうか?
      ピアスに関しては、破瓜のメタファーだと思うし、
      より直接的に……エッチによる破瓜を描くことを避けているとも考えられるけどな。

      たしかに、私だったらそういった部分は丸々書かずに、
      ピアスをプレゼントし、穴を開けるというシーンにフォーカスして書くと思う。
      けれど、それは私が『書けない』から『書かない』というだけなんだ。

      だから、◆ywLV/X/JUIさんが『書ける』、
    『書く必要がある』から『書いた』というのであれば、
      この『◆ywLV/X/JUIさんが書いた作品』は正しいものなんだと思う。
    
      はっきり言ってしまえば、一般的な読み手が求めるものとは
      この作品の内容は違っていたかもしれないけれど、
      読み手におもねることなく、自分が必要だと考えることを書くことは
      作者の選択であり、個性につながるものだと私は思うな。
    
      あとは、どれだけより多くの読み手に伝わりやすく書けるか……なんだけど、
      それは本当に難しいところだよなぁ」

  梓「受け入れてもらえなくても、読み手に届き、
      その上で判断してもらえるような、ですか……うーん……」


最終更新:2012年03月28日 21:59