言い訳なんだけど、
律「澪、好きだよ」
せめてこれくらいは許してほしいなんて、
律「でもさ、いつも一緒にいるから、この感情がLike なのか Loveなのか分かんないんだ」
澪に甘えてばっかで、
律「ちゅーは友達同士じゃしないだろ?」
頼ってばっかで、
律「だから、ちゅーしたら分かる気がするんだ」
でもこれで最後にするからさ、
律「ちゅー、してもいいか?」
最後のワガママきいてくれ。
顔を真っ赤にして俯いてる澪の両肩に手を乗せると、澪の肩がビクっと跳ねた。
触れてみて初めて分かったけど、
澪、震えてる。
緊張してるんだ。
私だって緊張してる。
心臓がうるさいくらいにバクバクしてる。
そっと唇を近づけて、優しくキスをした。
澪「ど、どうだった?」
律「柔らかかった!」
澪「違う! キ、キ、キスの感想じゃない!」
律「へ?」
澪「そ、その。Like か Love か。どっちか分かった?」
律「あぁ」
澪。
私、私ね……。
律「……」
この気持に、
律「いやぁ~! やっぱナイわ!!」
嘘をつくから、
律「澪しゃん! これからも親友でいてくれよな!」
どうかこの気持に気がつかないでいて、
律「きっとさ、私達いつも一緒だから澪も勘違いしてたんだろ?」
でも、心のどこかで、
律「澪しゃんはモテるんだから、すぐにカッコイイ彼氏ができるよ!!」
澪に気が付いてほしいって思う私は、
律「澪しゃんは綺麗だし頭良いし、良妻賢母になれるって!」
ズルイ人間で、、
律「そんでさ、幸せになれよ……」
どうしようもなく澪が好きなんだ。
澪「私、まだ告白してない。改めて告白するっていっただろ?」
律「その前に答えが出ちゃったんだよ」
澪「私は、私は、ずっとま、前から……」
律「澪っ!! 告白はさ、これからの為にとっとけよ」
澪「この気持、無かったことにしろって言うの?」
大粒の涙が、澪の両眼からぼろぼろとこぼれ落ちる。
拭うこともせずにまっすぐ見つめてくる強い視線に耐えられず、
私は目線を反らした。
律「そのうち忘れるよ……。さて! そろそろ帰りますか! 今日の夕飯なんだろな!」
勢いよく立ち上がり、そのまま歩きだす。
律「澪! また明日なっ!」
澪に背を向けたまま走り出した。
もう限界だ。
遠くで澪の嗚咽が聞こえたが無視。
だって、私だって限界なんだよ。
律「腹減ったぁー! えぐ、ぐすん。今日の夕飯、えぐ、なんだろな……ぐすん」
めちゃくちゃに走った。
息が上がって胸が痛かったけど、関係ない。
息が上がったから胸が痛いのか、澪をフったから胸が痛いのか、
自分の気持に嘘をついたから胸が痛いのか、
それともその全部で胸がいたいのか。
もうさ、分かんないんだよ。
ただ分かるのは、澪が好きってことだけなんだ。
家に着いた。
律ママ「お帰り。ご飯の用意が……」
律「あぁ、ごめん! 澪と食べてきちゃったからいらないや」
律ママ「そういう時は電話しなさいっていつも言ってるでしょ!」
律「忘れてたぁ。ごめんなさーい!」
台所から出てこようとするお母さんと会わないように、急いで二階へ上がった。
すぐに部屋へ入り、ベッドへダイブ。
ぼろぼろと大粒の涙をこぼしながら私を見つめる澪の顔を思い出す。
律「ごめんよ、ごめんなぁ、ごめん……」
泣かせたのは私。
でも、
その涙を止めるのは私じゃない。
その隣にいるのは私じゃないから、
澪を幸せにするのは、私じゃないんだ。
律「これでいい。これでいいんだ」
仰向けに寝転び、先日のことを思い出す……。
先日
澪ママ「あら、りっちゃんいらっしゃい。今澪ちゃんは用事で出かけていないのよ」
澪ママ「もうすぐ帰ってくるから、上がって待ってて」
律「はーい」
澪ママ「そうだ! 頂いたケーキがあるんだけど、一緒にどう?」
律「わーい! 食べる食べる!」
おばさんと一緒に、リビングでケーキと紅茶をいただく。
律「うまいっ!!」
澪ママ「うふふ、いっぱいあるから食べてね」
律「やった! 澪に見つかったら」
律「『そんなに食べたら夕飯入らなくなるだろ!』って怒られちゃうからな」
澪ママ「あらあら。なんだか夫婦みたいね」
律「澪が夫だったら私、毎日ゲンコツ喰らってそうだwwww」
私と澪が夫婦だったらかぁ。
手料理作ってさ、お風呂沸かしてさ、澪の帰りを待つの?
うわー、楽しそう!
毎日澪と一緒にいられるって、幸せだろうな。
澪ママ「それにしてもあなたたち、もう高校三年生でしょ?」
律「実感無いけどねww」
澪ママ「うふふ、りっちゃんらしいわね。」
澪ママ「あなたたち、彼氏いるの?」
律「女子高通ってる私に、それ聞いちゃう?」
澪ママ「澪ちゃんも彼氏いないのかしら?」
律「いないよ」
澪ママ「澪ちゃんは人見知りの恥ずかしがり屋だからねぇ」
澪ママ「でも一人っ子だから、いつか結婚して孫の顔見せてもらわないとね!」
おばさんの言葉は、でっかいハンマーで思いっきりぶん殴られたような衝撃だった。
目を開けると見えたのはいつもの天井と、
あの日楽しみでしょうがないって顔して笑ってた澪のお母さんだった。
あの日から私は、澪を見るたびに胸が痛む様になった。
これ以上好きになっちゃいけないって、
澪の、私が好きって感情にも気がついちゃいけないって。
そう言い聞かせてきたんだ。
だけど澪は、一日恋人になりたいと言ってきた。
私はそれを利用したんだ。
澪と恋人になる。
それは一生敵わないと思っていた私の願望だった。
それが一日限定で叶うのだ。
楽しい思い出を作ろう。
その思い出を一生大切にして生きようって思ってた。
でもさ、やっぱり辛過ぎるよ。
大好きな澪をあんなに泣かせるなんて。
その時、部屋にノックの音が響いた。
私はとっさにうつぶせになる。
泣いてる顔を家族に見られたくないから。
ガチャリとドアが開く。
聡「姉ちゃん、風呂空いたよ」
律「うん、すぐ入る」
布団に顔を埋めて返事をした。声がくぐもって涙声をごまかせそうな気がしたから。
聡「姉ちゃん? 泣いてるの?」
ごまかせなかったwwwwww
律「泣いてない! 眠いだけ。早く部屋に戻れよ!」
聡「澪姉とケンカでもしたんだろ?」
律「……」
聡「全く姉ちゃんは変わんねぇなぁ。」
聡「どーせ姉ちゃんが何かしたんだろ?」
聡「早く謝っちゃえよ? 澪姉なら許してくれるからさ」
バタンとドアが閉まった。
聡がいなくなったのを見計らって顔をあげる。
聡「やっぱし泣いてんじゃんwwwwww」
律「あ! コラ! てめぇ、部屋に戻ったフリしやがって!!」
枕を勢いよく投げてやった。
でもひょいとよけられた。
コンチクショー!!
聡「なぁ、姉ちゃん。風呂から上がったらさ、久しぶりに対戦ゲームしようぜ!」
中学生のくせに、気い遣ってんのか。
心配してくれてんだな。
でも、
律「忙しいからやらなーい」
さすがにゲームって気分じゃない。
律「ほらほら出てった出てった。下着出すから出てけ」
聡「姉ちゃん、ブラジャーいらないくせに」
律「やっぱゲームやる! ボッコボコにしてやんよっ!!!」
聡「返り討ちにしてくれるわっ!!!」
そうだ、忘れてた。
澪の為に澪をフったんだ。
もう迷わない。
家族にも心配かけない。
大丈夫、大丈夫、私は大丈夫。
きっといつか澪は私を忘れる。
その時までの辛抱だ。
生意気だけど私の大切な家族。
ありがとな、聡。
翌朝
意外にも、澪はいつもの待ち合わせ場所で待っていてくれた。
ショックで寝込むかと思ったけど、私にフラれたこと、
あんましショックじゃなかったのかな?
澪「おはよ」
律「はよーっス」
昨日のことは触れないでおこう。
無かったことにすればさ、澪の黒歴史が増えることは無いもんな。
私って本っ当! やっさしーい。
澪「昨日のことなんだけど……」
わお。私の優しさ無駄になったwwwwww
澪「私、やっぱり諦められないよ。この気持に嘘は付けない。」
澪「律は優しいから無かったことにしようとしたんだろ?」
澪「でも、私はちゃんと伝えたいんだ。」
律「私の気持は変わらないよ? 澪は大切な親友だ。それ以上でもそれ以下でもない」
澪「はは、またフラれたな」
自嘲気味に澪は笑った。
澪「それでもやっぱり律を諦めきれないよ。」
澪「あと何回フラれたら私、律を諦められるのかな……」
悲しそうに笑う澪は儚げで、今にもボロボロと崩れ落ちてしまいそうだった。
でも、私はもう迷わない。
家族って大切だろ?
澪は一人っ子なんだ。
両親の期待を一身に背負ってる。
その震える肩に背負ってるんだ。
だから、私は迷っちゃいけない。
律「澪、止めてくれ。私たちは女同士なんだよ。」
律「まだ私を諦められないってんなら、もう親友じゃいられない」
目を見開いた澪に追い打ちをかける。
律「澪に、彼氏が出来るまで、私に近づくな」
澪「無理だ! そんなの無理だよ!!」
律「合コンでもなんでも行けばいいだろ! 澪はかわいいんだからすぐに彼氏ができる!」
澪「違う! 律以外を好きになるなんて無理だって言ってるんだ!」
律「無理じゃない! 無理だって思いこんでるだけだ!」
澪「律に何が分かるんだよ?」
澪「小学生の時からずっと律だけを想ってきた私の気持ちの何が分かるって言うんだよ!!」
律「それが迷惑だって言ってんだよ!!」
澪は泣かなかった。
目はただ開いているだけで何も見てはおらず、
口は一文字に結んだまま何も語らず、
思考は止まり、
体は制止し、
呼吸すらしているか分からない状態に見えた。
気絶してんのか?
立ったまま?
律「澪? みーお? みおっ!!」
ダメだこりゃ。
そうだ、おばさんに電話しよう。
律「あ、もしもし? うん、律だよ。あのね、澪が急に具合悪くなっちゃってさ。」
律「え? 迎えに来てくれんの? ありがとっ! 場所はね……」
ほどなくしておばさんが車でかけつけ、澪を乗せて走って行った。
終わった。
これで終わったんだ。
私たちはもう、終わったんだ。
よし、学校に行こう。
歩きだそうとしたら、へなへなと座り込んでしまった。
はは、カッコ悪いな。
澪と一緒にいられなくなるって思っただけで、腰が抜けてんじゃん。
小さい時から飽きずにずっと一緒で、
お互いのことはなんでも知ってて、
幼馴染と言うにはちょっと親密過ぎた私たちの関係は終わり、
これからは何の繋がりもなくなる。
澪が居ない生活が始まる。
想像もしたことがなかった生活が、想像もしなかった形で、今、急に始まった。
最終更新:2012年04月12日 13:36