紬「唯ちゃん、私キーボード頑張るね!」
唯「うん!ムギちゃんありがとう~」
唯はとびきりの笑顔を紬に向けた。
その笑顔を見るだけで世界がどこまでも広がっていくような気がした。
律「よーし、私達の手で唯の子供をおっきくしてやるぜ!」
梓「ちょwww律先輩それどういうwwww」
律「お前の思ってるような意味じゃねーよwww」
紬「つまり手コk澪「やめてくれ、ムギ!」
唯「ムギちゃんサイテーwww」
紬「サイテーなのは梓ちゃんでしょ?wwww」
梓「違います律先輩です」
梓の下卑た冗談を境に、盛り上がっていた場は一旦落ち着いて、
唯「私達で作った曲、和ちゃんにも聞かしてあげたいなぁ・・・」
力が抜けてふと唯が呟きを漏らした。
皆が帰って、憂と夕飯を食べた後、唯は自分の部屋に篭もった。
憂とくだらないお喋りをしながらごろごろするのもいいけれど、
今日はなんとなく一人で物思いをしたい気分だ。
一杯になったお腹を下にして、ベッドにごろんと横になる。
頭に浮かぶのは、今日は昼間騒いだ仲間のことじゃなくて、和のこと。
和ちゃんどうしてるかなぁ。
今までそんな風に考えたことなかった。
三年の時は学校で毎日会っていたし、
クラスが違った二年の時や、夏休みなんかは、
なんとなく和が恋しくなったらいつだろうと
携帯電話で連絡を取ったしいきなり会いにいったりもした。
小さい時からずっと一緒にいた唯と和の間に遠慮なんて無縁だし、
和のことを考えることと和にメールすることの間に隙間なんてないはずなのに、
今は何故か携帯のボタンが重い。
別に今メールしても和ちゃんは怒らないし、気が進まないとかそんなんじゃないけど・・・。
そもそも和ちゃんへのメールの文面を考えようとする何かもやもやするのは何でだろう?
和ちゃんと久し振りに会う為にメールしようとしてるだけなのに・・・。
何故か、甘えちゃいけないみたいな気分になる。
唯「むー・・・?」
頭の中が混線して、ぐるぐるしてきた。
なんとなく、唯はCDラックに手を伸ばす。
唯「んー・・・」
何が聞きたいわけでもないが、頭のもやもやが勝手に動く。
音楽を聞いてどうにかなると思ったわけではないが、なんとなく音楽が欲しいような気分だ。
ほどなくしてなんとなく聞きたい曲が浮かんだ。
アニメのEDで、かっこいいギターの曲だな、って思って気になったミュージシャン。
そのミュージシャンの名前をネットで検索して適当にアルバムを買った。
二回くらいは聴いたかもしれないけど、あんまり覚えてない。
おぼろげな記憶を辿りながら、曲目
リストを見て、聞きたい曲を見つける。
唯(そうそうこれこれ。この曲の歌詞がなんとなく耳に残ったんだよね~)
CDをセットして、数曲すっ飛ばして目的の曲をかける。
♪ところでマジに話をするけど 僕ってただのお調子者に見えるかい?
十中八九そういう風に見えてるだろうけど やってみなくちゃ分からないだろ?
唯(十中八九ってwww変な歌詞www)
唯(和ちゃんから見たら私ってただのお調子者に見えてるんだろうな~、
って思ってなんかこの曲だけ覚えてたんだよね~)
一曲聞き終わると、
唯(なんか普通に和ちゃんが恋しくなったよ)
和に対する恋しさが増して、訳の分からないもやもやは感じなくなっていたから、
唯は携帯を手に取ってメールを打ち始めた。
唯「和ちゃん~(はぁと) なんか和ちゃんにメールするの久し振りだね!(花)
和ちゃんに会いたいよ~(びっくりまーく) 、っと」
唯「あ、返信来た」
和『高校卒業してからあんまり会ってないもの、
久しぶりに感じるのも無理はないわ。
丁度私も唯のこと考えてたのよ。
明日どこかでランチでもしない?』
唯「和ちゃんのメールは相変わらず絵文字ないなーwww」
唯『だよね!(ぴか) うん、そうしよー!(目はーと)
明日のお昼に学校の前に集合ね!(きらきら)』
唯(明日和ちゃんとランチかぁ・・・ふふっ。
そうだ、りっちゃん達に明日は集まれないよ、ってメールしとこ)
明日の予定を思い浮かべている内に、
唯はさっきまでもやもやしてたことなどすっかり忘れて、
安心感に包まれて、その日は眠った。
和はPCの画面を見つめすぎて目が疲れてきたので、
さっきの曲をiPodにダウンロードして聴きながらベッドに横になっていて、
そんな時唯からのメールを受け取った。
和(『了解』、っと)
和(唯がメールくれてなんだか安心したわ)
和(思えば、私も唯が恋しくなったらメールでも電話でもすればよかったのに)
和(なんとなく考えにかすりもしなかったのよね・・・)
和(私、悩みすぎかしら)
和(明日唯に会えるとなったら全部どうでもよくなってきたわ・・・寝よ)
次の日、唯は早めに桜高の校門に着いた。
唯(和ちゃんまだかな~。)
携帯を見ると、まだ11時50分。少し早く来すぎた気がする。
唯(そうか、早く来すぎたのか・・・!)
ここまで走って来たというのに。
唯(暇だから和ちゃんにメールしよ)
唯『和ちゃんまだ~[?] 遅刻だよ~(怒り)』
唯(くぷぷ。私が早く来て和ちゃんが遅刻なんて珍しいねwww)
その時和はまだ眠い目をこすりながら寝巻から普段着に着替えていた。
昨日はなんだかんだ中々寝付けず、
iPodに落としたあの曲を何度も聞きながらベッドでごろごろしていた。
和母「全く和ちゃんったらだらしないよ~?
こんな時間まで寝巻だなんて、和ちゃんらしくないよ!」
和「うっさいわねー、寝付けなかったんだから仕方ないじゃない」
和母「そうなの!? 寝付けないなんてさては和ちゃん思春期ですな!」
和(本当にこの母は唯そっくりだな・・・)
和「はいはい、そうかもね。」
和(まあある意味思春期と言えなくもないか・・・)
和「あ、唯からメールだわ。なになに、和ちゃん遅刻だよ、ですって?
11時はまだ朝じゃない・・・。」
和『ごめんなさい、さっき起きたところなの。もう少ししたら向かうわね。』
和(やれやれ、唯ったら何考えてるのよ・・・)
和は特に急ぐこともなく諸々の用意を整える。
結局和が桜高に着いたのは12時半だった。
和「さすがに待たせ過ぎちゃったかしらね・・・。
さて、唯は、と・・・。あ、あそこで猫と遊んでるわ」
和(そーっと・・・)
和「わっ!」
唯「ひゃああ!?」
梓三号「にゃああ!?」ガササッ
和「唯、久しぶりね」
唯「和ちゃん~!もう酷いよ!四十分も遅れた上に驚かすなんて!
あずにゃん三号が逃げちゃったじゃない!」
和「ごめんごめん。ていうかあんたあの猫に名前付けてたの?」
唯「そうだよ!うう、これからあずにゃん三号も一緒にランチしようと思ってたのに・・・」
昨日寝付けなかったことを話す余地などないくらいに、
二人はいつも通りの楽しい二人だった。
何の意味もなさない会話を交わしながら、歩きだす。
店に着き、唯はキャラメルマキアートとオムライス、
和はトマトジュースとカルボナーラを頼んだ。
唯「トマトジュースって、中々マニアックな注文するね~。さすが和ちゃんwww」
和「あんたこそ、お昼ごはん食べるのにキャラメルマキアートって。おやつじゃないんだから」
唯「えへへ~、だってキャラメルって文字をみたらつい飲みたくなったんだもん」
和「唯ったら本当に変わってないわね・・・」
唯「だって前に会ってからほんの二週間しか経ってないんだよ~?
そんなちょっとで人は変わらないんだよ、和ちゃん」
和「ふふっ、それもそうね」
唯「和ちゃんも変わってないね~。マイペースなとこ!」
和「さっき自分で当たり前って言ったじゃない」
唯「えーだって~、和ちゃんしばらく私がいなくて大丈夫だったかなー、
って心配してたんだもん!」フンス
ドキッっとする。
唯といる時間の楽しさは何も変わってないけれど、前言撤回、唯は何かが変わった。
以前よりも軸ができたというか、少し滑舌もはっきりしたような気がする。
どこがどうとは言えないけれど、雰囲気の輪郭や色が。
和(でもそれは言わないでおこう)
それでも唯の笑顔は何一つ変わらない。
変わらず私を楽しませてくれる唯の笑顔。
きっとそれはいつまでも変わらない。
唯と離れ、会えなくなっても、遠い未来になっても、その笑顔はきっと輝いている。
だから、私はまだ、唯の変化に気付かなくていい。唯もだ。
それでも・・・
和「前に進んでるのね・・・」
唯「え? 和ちゃん、なんて?」
和「あ、何でもないの。それよりそのキャラメルマキアート、美味しそうね」
唯「っていうか和ちゃん、眼鏡は?」
和「やだ、あんまり急いでたから忘れてたわ。さっきから前が見えにくいとは思ってたのよね。」
唯「ぷーっwww 眼鏡忘れるって有り得ないよwwww」
今はまだ。
二人は、店員の冷たい視線を浴びるまで何でもないことばかり話した。
店を出る頃にはもう夕陽が地平線の彼方に浮かんでいた。
真っ赤な夕焼けが全てを染める中を、
唯「いやー、久々に和ちゃん分を補充しましたなぁー」
和「何よそれ」
二人は、殆ど進んでいないくらいゆっくり帰り道を行く。
唯「どっかにあずにゃん三号いないかなぁー」
和「あずにゃん四号を見つければいいんじゃない?」
唯「あ、和ちゃん今あずにゃんって言ったね!
和ちゃんもこれからあずにゃんのことあずにゃんって呼んでね!」
和「ふふっ、それもいいかもね。今度呼んでみるわ。」
唯「本当だよ!忘れちゃだめだよ約束だよ!」
二人の歩みは遅く、夕暮れの帰り道はどこまでも続いていくような気がした。
最終更新:2012年05月09日 01:36