和「おかしいわね」
和「いえ、静かになるよりはマシ、といったところかしら?」
『キイィィイィ!』
和「ふぅ。あなたで何匹目なのよ、もう」タァン!
『キイィィイ……』
『チアアアチアア!』
和「まだくるっていうの!? もう、数が多すぎるわよ!
和「それに、何か新種も増えてるみたい。本当にこいつらはなんなのよ」タァンタァン!
『チイイアアアアア・・』
『アアオオオ!』
和「……流石に、これは逃げた方が良さそうね……。こんな数相手にしてらんないわよ」
和「これだけの数がここに居るってことは、他のところにはあまり行ってない……といいわね」
和「私が落ちた場所がこいつらの巣の近くだったのか……それとも」
和「どちらでもいいわ。私はただ殺すだけだもの」
和「巣……か。言い得て妙ね」
……
澪「……ここまで歩いてきたけど、結局誰にも合わなかったな……」
澪「皆、無事だろうか」
澪「何でこんなことになっちゃったんだろうな。いつもなら今頃……」
澪「やめよう。こんなこと考えていても無駄だな」
カツン、カツン
澪「! だ、誰だろう。と、とりあえず隠れてよう……」
カツン、カツン
ペタペテペタ
『アオ……』
『キイィィ……』
澪「あいつらだ! ……ここはじっとしていよう。さっさといなくなってくれ」
『……』
『……』
澪「動く様子が無い……誰かを待っている? そうかもしれない。キョロキョロと周りを見ているし」
澪「もしかして、穴に落ちた私たちを探しているのか? ……だとしたら、どうしよう」
澪「ここで私が倒しておくべきか……?」
澪「……以前離れる様子はないみたいだ」
澪「それに今あいつらがいるのは広い場所。見つからずに通りぬけようにも難しそう。だったら!」
『……』
『……』
パァン!
『アオオオオ!?』
『キイィィキィ、キャア……』
澪「一匹倒した! この調子であいつも……!」
『アオオオオォォ!』
澪「に、逃げた!? ……と、とりあえず追いかけよう! 他の誰かが危なくなるかもしれない!」
澪「待て!」
『アオオ!』
澪「はぁっはぁっ。足が早いわけじゃないのにこの複雑な洞窟を器用に逃げるから……」
澪「はぁっ、追いつけない……! この!」
『……!』
澪「この先は、行き止まりだったみたいだな……! くらえ!」タァン!
『アアアオオオオオオオ……』
澪「はぁっはぁっ。……や、やっと倒したか」
澪「そ、それにしても随分遠くまで来ちゃったな。ここがどこだかわからないけど。とにかく、目的は変わってないから急ごう」
『……みお……』
澪「……え?」
『みお……』
澪「こ、この声は。ま、まさか、律なのか!?」
『みお……』
澪「律! どこにいるんだ!? 私はここに居るぞ!」
『ミオ……』
澪「律! 間違いない、あの影は律だ!」
澪「よかった、本当によか……」
律「ミオ、オオ、オオオ、オ、オ」
澪「ヒッ! ……り、律? 冗談だよな? 私を怖がらせるためにそんな手のこんだことして」
澪「もう充分びっくりしたから。だからもういいだろ。ねぇ? なぁ!」
律「ミオ……。ミオオオオオ!」
澪「うそだよ……何で、どうして……律うううう!」
バァン!
律「ミ……」ガクッ
澪「はぁ……はぁ……あ、足に当たった?」
澪「くそ……何で……私は……!」
律「ミオオオ……」
澪「……本当は、こんなことしたくないのに……! 本当は、本当は!」
律「ミオ……」
澪「ごめんな律! ごめんな。……こんな、こんなことする私は……」
律「ミオ……ダイジョウブ、だから」
澪「律!? しょ、正気に戻ったのか!?」
律「いや……死ぬ間際の……かな……でも、気を抜くと……だめ……かな」
澪「そ、そうだ。和が正気を戻した時みたいに、私も!」
律「そ、れはちが、う。あれ、は、う、いちゃんが……くぅ、くそ。いいたいことも、いえない……なんてな」
澪「律!」
律「いい、か。よく聞け、澪。こうなってから……わかったことが、ある」
律「この、体にな……るとな。すごい、世界が、綺麗なんだ……」
澪「律?」
律「た、ぶん。わたし、と。のどか……は違う、存在、なんだと……思う」
律「あ、い、つは……ゾン、ビかもし……れないけど……わたし、は」
澪「律! 大丈夫か? しっかりしろ。よくわからないけど、憂ちゃんの所に連れて行けばいいんだな?」
律「いや……多分、今はもう、時間がない……だから、聞け」
澪「時間がないって……そんな……」
律「私、や。そこの奴はす、倒れて……もふっかつ、する」
澪「え?」
律「いっかいで、きけよ……しゃべ、ってるこ、っちも……つらいんだ、ぞ」
澪「い、いや聞いてる。でも復活するって……」
律「そのま、まだ。だから……、ここで、わたしを、ちゃ……んとた、おしていけ」
澪「律! いや、私は」
律「いいから!」
澪「り、……つ」
律「はぁ……まったく、おま、えはほん、とうに。せわが……やける、な」
澪「う、うるさい。満足にしゃべれない癖に偉そうにするな……ばか律」
律「……そう、だな。みお。わたしを、倒したら、すぐに、げろよ」
澪「……」
律「わかったか」
澪「……ああ」
律「そう、か。それなら……いい」
澪「律……ありがとう」
律「どう、いたしまし、て」
澪「さよなら」
律「……おう」
タァン……
澪「……」
澪「……っ」
澪「……こんなの、ないだろ」
澪「行かなきゃ。行かなくちゃ……」
澪「律……私、もう行くから、な」
澪「それじゃあ」タッタッタ
……
紬「それで……私に何のようですか」
紬「……先生」
さわ子「う~ん、まぁそれなりに長い話になるだろうから」
さわ子「お茶しながらしゃべらない? いつもみたいに」
紬「どうやら、ご自分の立場が分からないようですね」カチャ
さわ子「う~ん。ムギちゃんなら私の話しを聞いてくれると思ったんだけどなぁ」
紬「……」
さわ子「……ダメ?」
紬「……はぁ。よくわかりませんけど、話すだけなら大丈夫です」
さわ子「流石ね。それじゃあお茶を……」
紬「ないです」
さわ子「え~。お茶無いなら帰ろうっかなぁ」
紬「何しに来たんですか」
さわ子「冗談よ、冗談」
紬「……」
紬「ふぅ。それで、話って何ですか」
さわ子「そうね。……例えば、こんな経験ないかしら」
さわ子「ずっと昔好きだった人がいて。その時に告白したらフラれて」
さわ子「でも、今もう一度あの時代のあの時のあの人に告白できたら、その時は違う未来が待っている」
さわ子「そう、考えたことない?」
紬(それって……)
さわ子「私はね、ずっとそう考えてたんだ」
さわ子「あの人に会いたくて。あの人の声が聞きたくて。あの時に戻りたくて」
さわ子「あの人以外に付き合おうかと考えたけれど。無理だった。やっぱり、あの人じゃないとだめなのね」
紬「……」
さわ子「そう思ってたら、ふと思い立ったのよ。そうだ、あの時に戻ろうってね」
紬「戻るって、どうやって?」
さわ子「簡単よ。タイムマシンを作るの!」
紬「え……?」
さわ子「ドラえもんとかキテレツ大百科とかで見たことあるでしょう?」
紬「ドラえもん……?」
さわ子「いや、何でも無いわ。そ、それよりも」
さわ子「つまり私はタイムマシンをつくろうとしたわけよ」
紬「で、でも。時間を跳躍するなんてそんな事できるわけが」
さわ子「そうね。でも私は諦めなかった。とにかく勉強に勉強を重ねて時間を忘れて没頭したわ」
さわ子「あの時に顧問をやめちゃったんだけど。ごめんね」
紬「え?」
さわ子「気にしない気にしない。それで、ついに私はタイムマシンを作る事に成功するわけよ」
紬「せ、成功したんですか!?」
さわ子「ええ。理論はわかっていたからあとはお金さえあればできた、ってわけ」
紬「お金……」
さわ子「そう。そしてその援助金はどこから出たか大体の予想はつくわね?」
紬「私の、家から、ですね」
さわ子「そのとおり。さすが成績優秀なムギちゃんね~」
紬「で、でも。お父様がそのようなことをなさるはずが」
さわ子「何言ってるの。投資してくれたのはムギちゃんでしょう?」
紬「え? 私……? でもそんなこと」
さわ子「ムギちゃんは頭がいいからね~。そろそろ気がつくかな」
紬「私……。違う、私じゃない。……そうか、そういうことだったんですね」
さわ子「そういうこと。やっぱり成績優秀なだけあるわね」
紬「あなたは、未来から来たさわ子先生ですね?」
さわ子「せいかーい。正解者に拍手~よくできました~」
紬「でも、未来のさわ子先生が一体どうしてこんなことを……」
さわ子「……それを、今から、話したいんだけどね……」
紬「?」
さわ子「頭のいいムギちゃんなら後々にわかるはずだわ」
紬「え、何がですか」
さわ子「梓ちゃんも鍵よ。そして一番の鍵はあの娘」
さわ子「きっと隣に唯ちゃんがいれば優しいままでいられることができるあの娘よ」
紬「それって!」
さわ子「お喋りはここまでみたいね。それじゃ私は行くわ。みんなにによろしく……それと」
さわ子「りっちゃんは私に任せて頂戴と、澪ちゃんに言っておいてね」
紬「え、それってどういう」
さわ子「ごめんねえ。これ以上話すとバレちゃうから。それじゃあ」
シュゥン!
紬「き、消えた!? 一体どうやって……」
紬「ううん。考えてる場合、でもあるけど。その前に皆を助けに行かなきゃ」
紬「梓ちゃんや、それに先生が言っていた娘のことも……!」
紬「でも、さわ子先生。あなたは私たちの敵なんですか? それとも……」
…
唯「う~ん。この地図のとおりに来たんだけど」
唯「ここどこだろう。……そもそも、この地図って現在地が無いからわからないよ」
唯「街にある地図なら迷わないんだけどな。憂もそう言ってるし」
唯「う~ん。なにか目印になりそうなものは……あれ?」
唯「亀?」
唯「どうしてこんなところに亀がいるの?」
唯「あ、この地図に亀が描いてある!」
唯「ようし、これを目印にして探しに行こう! おー!」
唯「……あれ?」
唯「また亀がいる。……でもこの地図には亀はひとつしか無いよ~?」
唯「ということは……」
唯「また、同じ道に戻ってきちゃったんだ……」
唯「うう、憂~。助け……いや、駄目だ。お姉ちゃんとして憂を頼らずに一人で何とかしないと」
唯「ようし、もういっかいがんばるぞ~!」
唯「……あれ」
唯「う~もう五回目だよ~。どうしてこんなに複雑な場所なの~?」
唯「はぁ、ここで一旦休んでから行こう」
唯「よし、体力全快! これでもうしばらくは動けるぞ~」
唯「出発進行~おー!」
梓「唯先輩」
唯「とと、あずにゃんの声がした気がするよ?」
梓「唯先輩」
唯「お~、やっぱりあずにゃんだ~! あずにゃあん、どこにいるの?」
梓「ここですよ、唯先輩」
唯「おお、あずにゃん。やっと会えたよ~」ギュッ
梓「も~、唯先輩は本当に甘えんぼさんですね」
唯「うんうん。だからもうしばらくギュッとしてるね~」
梓「はい。大丈夫ですよ。だって……その方が、簡単ですから」
唯「え?」
ガンッ!
唯「い、痛いよ、あずにゃん……!」
梓「あれ? 打ちどころが悪かった、いや良かったのかな? 気絶もしないんですか」
唯「あ、あずにゃん……?」
梓「あ~、もう。仕留め損なうなんて……。やっぱりあいつらとは体の作りがちがうんですね。当然ですけど」
唯「あ、あずにゃんだよね?」
梓「そうですよ。あなたの後輩の可愛いあずにゃんです、よ!」ブン!
唯「ひぇ!」
梓「ああ、もう。逃げないでくださいよ」
唯「しょ、消化器で殴りかかろうとしたらだれだって逃げるよ!」
梓「それが可愛い後輩でも?」
唯「あずにゃん、どうしちゃったの!? も、もしかして、和ちゃんみたいにゾンビになっちゃったの?」
梓「ぷっ……アハハハハハハ! 面白いですね唯先輩は!」
唯「あず、にゃん」
梓「そう見えますか? 私がゾンビに見えますか? 見えないでしょう?」
唯「こ、怖いよあずにゃん……」
梓「大丈夫です。怖くなんて無いですよ」
唯「おかしいよ、あずにゃん! 何で急に」
梓「あぁ、もう。面倒だなぁ。しょうがないですね……」
梓「唯先輩! 私、けいおん部に入って知ることの無いことを沢山知ることができました! だから」
梓「安心して死んでいいですよ」
唯「ひぃ!」タタタタ
梓「あれ、逃げるんですか? こんなくらい洞窟内で? ダメです、逃がしませんよ」
唯「こ、こないであずにゃん!」
梓「アハハハ! 後輩に向かってその言葉はひどいですよ!」
唯「と、とにかくどこかに隠れよう! あとはあずにゃんが落ち着くのを待って」
梓「唯せんぱーい! どうしたんですか? いつもみたいに抱きしめていいですよー!」
唯「ど、どうしてこんなことに……! あ、あそこに隠れられそうな岩が!」ダッ
梓「曲がったってダメです! すぐに……あれ? いなくなっちゃった」
唯(あずにゃん……)
梓「ふーん。かくれんぼですか。いいですよ~、私が鬼ですね」
唯(うう……何で、どうしてこうなったの?)
梓「ふんふんふーん。……ここかな?」
唯(……!)
梓「違いましたか~……それじゃあここかな? 違いますね~ここ? ふふ」
唯(ば、ばれてるよう……あずにゃん、私が怯えてるのを楽しんでるみたい……)
梓「ここでもないってことは~。もうそこしか無いですよねぇ?」
唯(ひっ……!)
最終更新:2010年01月31日 00:09