紬「流石にこれだけの数だと頼もしいわね」

唯「けいおん部全員集合~」

律「当たり前だ! 何たって私らは無敵だからな」

梓「あとは憂と和先輩がくれば……」

澪「……そ、そうだ! すっかり忘れてた」

唯「ほえ? 大丈夫だよ。和ちゃんは強いからきっとどこかで逞しく生きてるよ」

澪「どこかじゃなくて、いるんだよ、目の前に!」

梓「な、あの数のゾンビの群れの仲にいるんですか!?」

律「そ、それを早く言え!」

紬「い、いや、その……何と言うか」

澪「いるには……いるんだが、な」


唯「ん……?」

唯「あれ、あそこにいるのって憂じゃない!?」

梓「え、ど、どこですか!?」

澪「……あの高台の一番上だ」

律「ってか今気がついかけどここ洞窟内にしてはやたら広いな」

梓「岩が階段みたいになってますしね……あ、本当だ、憂がいます」

律「その隣に和もいるな。……あそこから動けないのか」

澪「いや、気をつけろ。あの和は……」


唯「おーい、うーいー。のどかちゃーん!」


梓「ゆ、唯先輩! 飛び出しちゃダメです!」

律「あいつ、ゾンビの中に突っ込んでくつもりか!?」

紬「二人を見つけたからその他のことが目に入ってないのね……」

澪「冷静に分析してる場合か! ゾンビも危ないけど、和と憂ちゃんも危ないんだぞ!」

律「あん? それってどういう意味だよ」


憂「……お、お姉ちゃん?」

唯「憂~!」

『アアアアオオオオオオ!』グォン!

唯「え、うわぁ!」

憂「! や、やめてええええっ!」


キイイイイイイイイイン……


『……』
『……』


澪「……え?」

律「とまった……?」

紬「……襲ってくる気配はないみたい、だけど」

梓「憂が叫んだら、突然こうなったってことは。憂?」


唯「あ、危なかった~。でも、憂が叫んだら止まっちゃった」

唯「よくわからないけど、憂のおかげだよね。ありがとう、憂」

憂「……うい、? うい……って。誰? ……私?」

唯「ほえ、憂は憂だよ。大丈夫?」

憂「あ、えっと。お姉ちゃん。お姉ちゃん? なんでだろう。あなたは私のお姉ちゃん?」

唯「もー。遊んでる場合じゃないよ。早くそこから降りてきてよ~」


梓「唯先輩はあれを遊びだと思ってるんでしょうか」

澪「結構のんびりしてるからな~、唯は」

律「皆の反応から、憂ちゃんが記憶喪失だってのはわかるけど、さっきから澪が危惧してたことってなんなんだ?」

澪「ああ、それは」


タァン!


梓「え!? な、なんで……」

律「唯!」

澪「くそっ、やっぱりちゃんと言っておくべきだった!」


唯「和……ちゃん……。どうし、て」


ドサ……

憂「お、お姉ちゃん!? ど、どうして撃ったの!」

和「……」

憂「敵……? ちがうよ、だってあれは」

和「……」

憂「な、んなの。何なんですか!?」

和「……」

憂「違うよ! 違う、違う!」



澪「な、何が起こってるんだ……」

梓「憂……?」

律「梓……私たちなら、大体分かるよな」

梓「はい。……でもどうして」

律「多分、別にいるんだ。似たような奴が」

梓「別に……?」

紬「それよりも、唯ちゃんが!」ダッ

唯「……」

澪「唯!」

唯「あ……澪ちゃん……ゴホッ」

紬「無理してしゃべらなくても大丈夫よ……今応急処置を施すから」

梓「包帯とか持ってたんですか?」

紬「ええ、こんな時のためにね」

律「……和が唯を撃った時のために、か?」

澪「律!」


律「……おい、和。自分が何をしたかわかってるのか?」

和「……」

律「何してるかわかってるならさっさとここに来て唯に謝れ」

律「わかってないなら……」

律「私が目を覚まさせてやるから、ここまで来い!」


和「……」バッ

澪「り、律。本当に和が降りてきたぞ……」

律「任せとけって、こうするために呼んだんだから。むしろ来てくれたことにお礼をいいたいくらいだ」

唯「り……ちゃん」

律「安心しろよ唯。ちゃんとしっかり休んで学校に来れるくらいまでには回復しろよ」

紬「幸い当たったところはそんなに危ないところじゃないから、少し安静にしていれば治ると思うわ」

律「そうか……」

澪「律……」

梓「律先輩……」

律「安心しろって。荒野のガンマン、りっちゃんさまの活躍を目に焼き付けておけよ!」



律「さて、この広い空間でここだけは平坦なんだな」

和「……」

律「そんなに睨むなよ。……睨んでるかどうかはわからんが」

和「……ユ」

律「……なんだ、やっぱりちゃんと自覚があるんじゃないか。それじゃ、後一押しで何とかなるな」


和「……」

律「まぁ、なにする勝手いったら単純。ほら、よく映画とかであるだろ?」

律「お互いが背を向けて三歩歩いたら振り向いて撃つ、ってやつ。いや~、一回あれやってみたかったんだよね~」

和「……」

律「おいおい、そんなに呆れた顔すんなって。それとも、頭かちかちの委員長様には刺激が強すぎるってか?」

和「……」

律「ま、こんなところまで来てるくらいだからそんなことはないと思うけどな」

和「……」

律「それじゃ始めるぞ。ここに立って……背を向け合って」

和「……」

律「いいか、三歩めで振り向いて撃つんだからな。わかったか?」

和「……」

律「わかったみたいだな。それじゃ、始めるぞ」

紬「りっちゃん、大丈夫かな……」

澪「大丈夫だ。律を信じよう」

梓「ですね。なんだかんだ言って、けいおん部の部長ですもんね」

唯「……うう」

紬「大丈夫? 唯ちゃん」

唯「うん。大分楽になったみたい。ありがとう……」



律「行くぞ。準備はいいな」

和「……」

律「カウント始めるぞ」


律「いーち!」


和「……」ザッ


律「で殴る! うおりゃあああ!」ガァン!

和「!?」

梓「えー」

澪「えー」

紬「あら……」

唯「流石りっちゃん」

憂「……え?」



律「よっしゃどうだ! 必殺リッちゃんパンチで目がさめたか!」

和「……っ」

律「ん? よく聞こえない。何か言った?」

和「……」

律「え?」スッ

和「おかえしっていってるのよ」

ガンッ!

律「いってええええ!」

和「それ以上に私は痛かったっての……」

律「いてて……戻ったんだからいいじゃないか」

和「そうね。……ありがとう」

律「どういたしまして。いや~、やっぱり私がいないとみんなはなn和「唯! ごめんね、大丈夫だった!?」

律「って聞いてねぇし!」



和「ああああ、どうしようどうしよう。これ私がやったわけだからつまりここは責任とって切腹を……」

唯「お、落ち着いて和ちゃん。私はもう大丈夫だから」

和「ほ、本当に?」

唯「うん」

和「私自殺しなくていい?」

唯「勿論!」

梓「というかもとより死んでるんじゃ……」

紬「そういうツッコミはノーサンキューね~」

唯「……あ、そうだ。憂は!?」

和「え、……あれ。いなくなってる?」



憂「……はぁ、はぁ」

憂「何、一体何なの?」

憂「もうよくわからないよ。誰が味方で誰が敵なの?」

憂「私は誰なの? どうしてこんなに苦しいの?」

憂「お姉ちゃんは誰なの? 誰がお姉ちゃんなの?」

憂「もう何もわからないよ!」

憂「……っ、頭、痛い……!」



『うーいー』



憂「おねえ、ちゃん……」


『私だって辛いもの食べられるんだからね!』

『無理しないで、お姉ちゃん』

『無理なんてしてないよ。その証拠に……ほら、これを買っていこう!』



一週間前

唯「へーかきのたねっていうんだー。あれ、それじゃこれ甘いのかな」

憂「これは辛い奴だよ、お姉ちゃん」

唯「でも柿の種なんだよね?」

憂「商品の名前はそうなってるけど、実際に柿の種じゃないよ、これは」

唯「え、でも柿の種なのに柿の種じゃないの……あれ?」

憂「と、とにかくこれは辛いやつだから、お姉ちゃんには無理だよ」

唯「そんなことないよ! よーし、それじゃあこれを買おう!」

憂「もう……お姉ちゃんたら。それじゃ、籠の中に入れて」

唯「いや、これは私が買って私が食べるの。そうすれば皆私が辛いもの食べれるって認めてくれる気がする」

憂「どうしてそこまで辛いものに拘るの?」

唯「う~ん。いつも甘いもの食べてるから、たまには辛いものが食べたいなぁ、なんて」

憂「そう、なんだ」

唯「うん。それに、私ってほら。甘いものしか食べないイメージがあるでしょう? だからね」

憂「う、うん。言われてみれば確かにそうかもしれないね(でも、甘いもの食べてるお姉ちゃんが一番可愛いと思うんだけどなぁ)

唯「それじゃあ買いに行ってくるから待っててね~」

憂「え、う、うん。……私も今のうちに今日の晩御飯を買っておかなくちゃ」


憂「え~っと、ジャガイモは買った……あとは」

憂「アイス……かな。一応買っておこう」

憂「うん。こんな感じで、後は……」


キャアアァァァ!


憂「え!? な、何今の声!」

『な、なんだ~!?』

『ひっ! こっちにこないで~!』

憂「悲鳴……も、もしかして強盗!? お、お姉ちゃん!」ダッ


『うおおおおお!』

『きゃあああ!』

憂「な、なにこれ……。何でこんなに荒れてるの……?」

憂「あ、あの人が強盗……?」

『オオオオ!』

『イヤアアア、痛い、痛いいいいい!』

憂「な、か、噛み付いてる!?」

『うう……』

憂「だ、大丈夫ですか?」

『うううううう……』

憂「血が出てる……かまれてるから当たり前だけど。そ、そうだ。どこかに絆創膏がおいてあるかも。ちょっとまってて」

ガシッ

憂「え? あの。手を掴まれてると探しに行けないんですけど……」

『ううううううう!』

憂「な、何?! 一体何を……」

『ウウアアアアア!』

ガブリ!

憂「ひ!? い、いやああああああ!」

唯「憂!?」

憂「お、お姉ちゃん、無事だった、の?」

唯「そんなことより! どどど、どうしよう! 憂は、憂が!」

憂「大丈夫、だから。お姉ちゃん。絆創膏、持ってきてくれる?」

唯「う、うん。わかった。ちょっとまってて!」タタタ



憂「う……ううう」

憂「はぁ、はぁ。ど、どうしたんだろう。は、早く何か食べたい……」

憂「オネエチャン。ウウ。おなかすいたよ……アア」

『……』

憂「ダアレ……?」

『ふう。ついにここまで来ちゃったんだね。それにしても。私の時と変わらないなんて……』

憂「ウウ、ウウウウウウ!」

『はいはい。今楽にしてあげるから。ちょっとまっててね』

プスッ……

憂「ううう……?」

『さて。あとはどうなるか……あなた次第ね』

『いえ、あなた達次第……よ』

憂「アナタハ……だれ?」

『そのうち分かるようになる。というより本当はわかってるよね?』

憂「……」

『これはしばらくの間だけ効かなくなるものだけど。あとはあなたのお父さんとお母さんが何とかしてくれるから』

『あとちゃんと紬さんにもお礼を言っておいてね。それじゃあ』

憂「……」

唯「憂~! 絆創膏持ってきたよ~! 憂? 憂! しっかりして!」





憂「そう、か。思い出した。私は……」

憂「そして、あの時にあった人。記憶をなくしたときにあった人。それはどっちも同じ人」

憂「ですよね……。平沢憂、さん」


……

唯「……う~ん、動きにくいよぉ」

和「我慢して、こうしないと出血するのよ」

唯「そうは言っても……」

紬「でも、腕に当たったところが不幸中の幸いってとこかしら」

澪「確かにな。脚や胸だったら大変な事になってただろうし」

律「……もしかして、和はわざとそうしたんじゃないのか?」

和「……さぁ。でも、私のことだから。きっと腕あたりを狙ったのでしょうね」

梓「何で腕なんですか?」

和「……さぁ、ね」

梓「う~ん。なんでだろう。左腕だから……一番あたっても大丈夫なところかな」

和(治療するときに腕を触り放題……とか考えてたんでしょうね、多分)

律「それに、そっちの腕ならギター弾くのも致命的じゃないからな」

澪「そうか。すっかり忘れてたが、私たちけいおん部なんだよな」

紬「それは忘れちゃいけないところよね……」

唯「それよりも。憂を探しに行かないと!」

澪「入ってきたところと別方向にも道があるな」

和「多分そこからどこかへいったんだと思うわ。今なら多分間に合うと思う」

律「それなら、憂ちゃんを探して、パパっと記憶を取り戻してあげようぜ!」

唯「うん。でも、憂には殴らないでね?」

律「さ、流石のわたしも憂ちゃんを殴ったりしないって」

和「へぇ~、私にはグーで殴る癖に憂ちゃんには優しいんだ」

律「な、なんでそんな言い方するんだよ!」

澪「ふ~んだ」

律「み、澪まで変な拗ね方するな!」

紬「……ふふ」

梓「ム、ムギ先輩!?」

紬「な、何でも無いわ。それより、早く探しに行きましょう」

唯「うん! 待っててね、憂!」


12
最終更新:2010年01月31日 00:12