憂「……平沢、憂、さん」

『無理してさん付けしなくても大丈夫だよ』

憂「最初は、お姉ちゃんかと思いました。でも、やっぱりその姿はお姉ちゃんと言うより」

憂『自分に近かったってことでしょう? わかるわかる』

憂「え、えっと」

憂『私も昔経験したしね~。過去と未来って同じことが連続して起こってるって、少し不思議よね』

憂「は、はぁ……」

憂『さて、今日はあなたにお話があってやってきました。聞いてくれるよね?』

憂「あ、はい」

憂『うん。実を言うとね、この騒動の犯人って私なんだぁ』

憂「や、やっぱり……でも、どうして?」

憂『ところで、私何歳に見える?』

憂「え、ええ?」

憂『ほらほら、早く答えないと帰っちゃうよ……?』

憂「え、えっと……20歳……ですか?」

憂『残念。正解は28歳でした~』

憂「そ、そんなに!?」

憂『う~ん、色々あってね。外見が変わらなくなちゃった』

憂「そ、そうなんですか……え? でも。それじゃあ」

憂『どうやって今ここにいるかというとタイムマシンを使ってきたんだよ』

憂「え、えとえとそれ」

憂『何で外見が変わらないかと言うのはまたあとで教えるね。今は秘密』

憂「お、おお」

憂『びっくりしちゃった? いや、一度体験したことだから次に何を言って欲しいか大体分かるんだよね』

憂「……そ、そうなんですか」

憂『うん、それじゃ、最後に。あなたが一番聞きたいことを答えてあげるね』

憂『何でこんなことをしたのか、っていうことを』

憂『さっき、私の歳のことについて質問したよね』

憂「は、はい」

憂『それじゃ、また質問するけど。何で私こんなに歳取ってると思う?』

憂「そ、それは……」

憂『まだ質問するよ? あなたは自分以外誰も頼ることができないところで10年以上住んだことはある?』

憂「な、何を……?」

憂『お姉ちゃんがそこにいるのにお姉ちゃんとふれあうことができない苦しみがわかる?』

憂『挙句、そのお姉ちゃんが自分じゃない「平沢憂」と楽しく喋ってるのを見たことは?』

憂『もしそうなったら? どうする? 無理矢理にでもその中に入っていく?』

憂『……そうできたらどれほど気が楽なことか。でも、平沢憂として、そんなことはできなかった』

憂『もしそうしてしまえば、その時代の平沢憂からお姉ちゃんを取り上げてしまうことになるから』

憂『そしてそれは、結果的にお姉ちゃんを困らせてしまうことになる……』

憂「うう……」

憂『まぁ、だからといってあなたを恨むのはお門違い。わかっているから』

憂『ねぇ、じゃあ。私は何を恨めばいいの?』

憂「うう……」

憂『私ね、結果的にこの世の全部を恨むことにしたの!』

憂『この時代もタイムマシンもお姉ちゃんも平沢憂も平沢憂も!』

憂『そうすることで私は自分を保てたの! そうしなきゃ自分を保てなかった!』

憂『さぁ、私と同じ母体の平沢憂! あなたも私と同じくすべてを恨む権利がある!』

憂『母体はすべてのゾンビを統率することができる唯一無二の存在!』

憂『それじゃ母体が二人いたら? ……そんなもの、先に操ったの勝ちなのよ!』

憂「や、やめて……」

憂『苦しいの? 頭が割れちゃいそうなほど苦しいの?』

憂『わかるよ。私もそれと同じ苦しみを受けたもの。そしてそれ以上の苦しみを受けたもの!』

憂「あ、あああ……」



憂『でもやめてあげない』



憂「ひぃ……い、いや……」

憂『……ねぇ、憂ちゃん』

憂『最近お姉ちゃんとあまり話してなかったでしょう?』

憂「……え……」

憂『お姉ちゃんはいつもけいおん部の皆と一緒だもんね』

憂『お家にいるときも練習で忙しそうだもんね』

憂「……お姉ちゃん……」

憂『そう考えるとなんだかイライラするよね』

憂『ずっと自分と一緒にいたお姉ちゃんが、ふと自分の手から離れていっちゃうんだもんね』

憂『くやしいなぁ。でもそれ以上に』


憂『憎らしいね』


憂「オネエチャン……」

憂『隠してる必要はないんだよ?』

憂『自分の思ったとおりに行動すればいいんだよ』

憂『そうすればきっと。上手くいくから。……ねぇ?』


……

唯「でこぼこ!」

梓「せまくら!」

澪「てへぺろ!」

律「でこぴか!」

梓「……え、なんですかこの流れは」

和「暗くて狭くて恐いからせめて何か喋ろうとした結果ですって」

紬「え、えっと……」

梓「ムギ先輩! 無理して考えなくても大丈夫です!」

澪「こうでもしないと恐くて進めないからな」

律「まったく、本当澪は変わってないんだな」

澪「な、なんだと! 言っておくが私は律がいない間成長したんだからな」

律「あ、ゾンビ」

澪「ヒッ……いや、騙されない、ぞ……」チラッ

澪「ほらな、やっぱりいなかったじゃないか!」

律「成長、してるのか?」   梓「さぁ……」

唯「でも、こんな狭い道だから前から大きな岩が転がってきたら大変だね」


『……』


唯「あれ、皆どしたの?」

澪「いや、そういうことって……」

梓「いわゆるフラグって奴ですよ。唯先輩」

唯「ふらぐ?」

紬「流石に大きさ次第じゃ壊せないかも……」

律「い、いや、まだそうと決まったわけじゃないから。安心して」


ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴ……


律「逃げようか」

ゴロロロロロ!

梓「うわ~唯先輩のせいですよ~!」

唯「わ、私のせいなの~!?」


唯「……はぁ、はぁ」

律「け、結局あの広い場所まで戻ってきちゃったじゃないか」

澪「しかも……岩が私たちが最初に来たところをふさいじゃったしな」

梓「唯先輩!」

唯「わ、私のせいじゃないよう!」

和「それにしても随分走ったわね……ここで一度休憩して行く?」

紬「そうしましょう。……あ、お茶の準備を」

澪「こんなところまでお茶を持ってきたのか!?」

律「やっぱり将来絶対大物になるだろ……ムギは」

梓「今現在充分大物ですよ……」


和「……誰!?」

唯「ほえ?」

律「ん? おお、憂ちゃんじゃないか!」

澪「まさかここで会うとは……私たち最初からずっとここにいた方が良かったんじゃないか?」

唯「よかったよ~うい~。もう、お姉ちゃん心配したんだからね!」

憂「……ふーん」

唯「憂? どうしたの」

憂「ううん。特に何でも無いよ。ただ、お姉ちゃんが私の心配するなんておかしな話だな、って思って」

唯「もう、私はいつも憂の事を心配してるんだからね!」

憂「ふーん。自分のことも満足にできない人間から心配されてもねぇ」

唯「う……い?」

和「唯、なんだか憂ちゃんの様子がおかしい。ここは下がって」

憂「そうやって私からお姉ちゃんを取る気ですか?」

和「な、何を?」

憂「さぞかし優越感に浸れるんでしょうね。お姉ちゃんを自分のものにできるなんて」

澪「う、憂ちゃん。急にどうしたんだ?」

憂「あ、けいおん部のみなさん。居たんですか。残念だなぁ」

梓「う、憂! 何があったの!?」

憂「梓ちゃんまで。……ああもう、さっきの岩で潰れちゃえばよかったのに」

和「憂ちゃん。もしかして……いや、違う。だってそんなはずない」

紬「……? どうしたの、和ちゃん」

梓「いや、でもだってあれは」

律「……っでも、その可能性は」

澪「……え、何この話。私置いてけぼり?」

紬「私も……」

唯「憂!」

憂「お姉ちゃんもさ、いい加減ういうい言うのやめてくれないかな」

憂「お姉ちゃんのその声。だんだんイライラしてくるんだ。馬鹿みたいにういういいっちゃってさ」

唯「どうして、どうしてそんなこと言うの!」


紬「憂ちゃん……」

澪「声のこと言われたらどうしようもないと思うんだが」

和「……いや、あの感覚は、もしかしたら」

律「かもな」   梓「ですね」

澪「こっちはこっちで盛り上がってるし。一体何が起きてるのか誰か説明してくれ」


和「そうね。詳しい話しは後。まずは憂ちゃんを捕まえないと!」

澪「捕まえるって……」

紬「私もよくわからないけど、ここは和ちゃんの言うとおりにしておきましょう」

律「と、とりあえず唯を」


唯「憂!」

憂「ああああもう! もうしゃべらないでよ!」

唯「う……い」

憂「ああもう本当にイライラする。どうして私をイライラさせるの……!」

憂「いつも私をこき使って、自分では何もしない癖に! 自分ひとりじゃなんにもできない癖に!」

憂「お姉ちゃん面していれば私が何でも言うこと聞くと思ってるんでしょう!?」

唯「ちが、ちがうよ。そんなこと」

憂「もうお姉ちゃんなんていらない。けいおん部もいらない。和さんもいらない。……いらないから」



憂「死んじゃえ」

『イイイイイイイ』『アオゥtキイアアイ』

澪「いやああああなにこれええ!」

律「お、お、おおおおお!?」

和「い、今まで見た中で一番気持ち悪い、かも」

紬「四つん這い、ね」

澪「顔がおおきいい! 手足短い! 四つん這いい!」

律「おおおおおちつけっけえって」

和「いや律も落ち着きなさい」

紬「外見もさることながら、……数も多い」

梓「……」

紬「あ、梓ちゃん! たったまま気絶しないで!」

和「これも……ゾンビの一種なの?」

澪「知らない気持ち悪い!」

律「み、未知との遭遇……」

梓「……」   紬「起きて梓ちゃん!」

憂「これもゾンビなのかと言われましたら。……まぁそのとおりとしか答えようが無いですけれど」


憂「もう何もしゃべれなくなっちゃったの? まぁいいや。その方が私も気が楽だし」

唯「う……」

憂「それじゃあねお姉ちゃん。ちゃんとここで死んでちょうだいね」

唯「ま、待って憂!」

和「唯、危ない!」

唯「え?」


『ハアアアアアアフウウウウアアア!』


唯「きゃあ!」

和「この……!」タァン!


『ハアアアアアアアアア!』カキン


和「な、銃が効くいてない!? 顔に当たったはずなのに」

紬「こっちも……!」ダダダダ

『フウウウウアアアア』カキンカキン

紬「駄目……全く効いてないみたい」

澪「ふ、不死身なのか!? ついに映画のゾンビが実際に現れたのか!?」

律「落ち着け澪。映画のゾンビには銃が効いてだろ」

澪「なおさら大変じゃないか!」

梓「……」

『フウアアアフウ!』

紬「梓ちゃん! 危ない! いい加減目を覚まして!」

カチッ

ドオオオオォォォォン!


和「!?」

澪「こ、これは……!」

梓「かかりましたね! ムギ先輩お手製のセンサー爆弾!」

紬「いえ私が作ったわけじゃないけれど」

律「何処制作とかよりも、とりあえずこれで一匹倒したぞ!」

澪「爆弾なら効くんだな……」

和「でもそうすると、こっちには厳しい状況ね。……銃が効かないなんて」


『アアアアフウアアア!』


唯「……あ」

和「唯!」


ドスッ!


和「あ……つ、うう!」

唯「の、和ちゃん!」

和「まったく、こんな時でもボーッとしてるんじゃないわよ……」

唯「ご、ゴメンなさい」

澪「ひい、こいつらだんだん近づいてきてる!」

律「そりゃわたしら殺そうとしたら近づくしか無いだろう」

律「……さて、どうしようか……」

澪「このままじゃ私たち本当に死んじゃうぞ!」

和「何か、対策が……!」

紬「無いかもしれないわね……」

梓「爆弾も限りが有りますし……」


『アフウウウウアアアア!』
『ハアアアフウウアウアウアア!』


和「……! 唯だけでも、守って見せる!」

唯「そんな、和ちゃん!」



ヒュンヒュンヒュンヒュン……ザクッ!



『……!?』

和「あれは……」

紬「刀……!?」

唯「何か光ってるね……」

和「……それに、あいつら。あの刀を恐れてる……?」

紬「なら……!」

『ハッフウアアアアア!』ガバッ!

律「りっちゃんパーンチ!」ペシン!

『ハアアアアア!』ズザザザザ

梓「ええ!?」

澪「り、律。お前すごいな」

律「へっへーん」

紬「……そう思うととたんに簡単に思えてくるわね」


『ハアアフウウ!』


唯「うわぁ!」

梓「唯先輩!」


スパッ!

唯「……!」

唯「あ、あれ……?」


和「唯、怪我はない?」


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最終更新:2010年01月31日 00:13