和「……っ」
さわ子「こ、これは……!」
憂『感謝します、さわ子先生。貴方が居なければ蚕子は存在しなかった』
梓「ど、どういう事なんですか!?」
さわ子「……」
和「大体わかる気がするわ」
澪「え?」
和「堕辰憂を最初見たとき。なんとなく憂に似てると思ったのよ」
律「全然似てねぇよ!」
和「外見の話じゃなくて。……雰囲気とか、そういったものよ」
澪「そういうもんか……」
和「そして、あの蚕子からは、先生の雰囲気がする。……つまり」
さわ子「……」
憂『和さんの探偵っぷりには驚かされます。雰囲気、で答えちゃううあたりが特に』
憂『そうですよね、さわ子先生?』
さわ子「……そうね」
澪「え? え? い、一体どういう事なんだ?」
和「つまり」
さわ子「いいわ、そこからは私が説明するから」
和「……別にいいですけど、早くして下さいね。こっちは時間が無いんだから」
さわ子「相変わらず、厳しいわね」
さわ子「和ちゃんの言うとおり、あそこにいるゾンビは、私と憂ちゃんに関係があるわ」
さわ子「あれはね、私と憂ちゃんの血液を注入して作ったゾンビなのよ」
澪「作った!? ゾンビを!?」
さわ子「ええ。……と言っても、一から作ったわけじゃなくて、素体に私と憂ちゃんの血を注入して、それにウイルスを加えた、って感じね」
梓「ウイルス? ……やっぱり、このゾンビ騒ぎの原因はウイルスなんですか?」
さわ子「ええ。そう。……私たちは偶然にも……いえ、必然的にそのウイルスを作り出してしまったの」
和(長くなりそうね……)
さわ子「そもそも、このウイルスは憂ちゃんの血液に色々混ぜた結果できたものなのよ」
梓「色々って、何を入れたらできたんですか?」
さわ子「……適当に」
律「適当に入れてできるもんなのか!?」
さわ子「一応、タイムマシンを作る過程で学んだことは生かしてあるけど。それでも適当に色々入れたらできたのよね」
澪「そ、そんな適当に入れたのに、よくそんなものが出来ましたね……」
さわ子「入れる過程は問題じゃなkったのよ。重要なのはこのウイルスができるという結果よ」
澪「?」
さわ子「私たちはね。この騒動を過去に一度経験してあるの。……私は未来から来たことは皆知ってるわよね?」
律「いや、初耳だったんだけど」
梓「わ、私も初めて聞きました」
澪「そ、そういえば。私たちが知ってる先生より若干老けてる……いや、歳を取ってる気が」
さわ子「澪ちゃん、後で私の着せ替えショーにたっぷりと付き合ってもらうわねえ」
和(長いわ……)
さわ子「私とそこの憂ちゃんは未来から来たの! で、どうやって未来から来たかというとタイムマシンで来たの!
タイムマシンを作ったのは私です! はい、これで文句ないでしょう!?」
梓「な、何で急に怒りだしたんですか」
澪「わ、私に聞くな」
律「そ、それで。ウイルスができたこととさわちゃんが未来から来たこととどう関係があるんだよ」
さわ子「つまり。私はこの大災害を一度経験してしまっている。そして、何故こんなことが起きたのかも」
さわ子「ウイルスができた理由が憂ちゃんの血液を弄ってできたと言うことも知った。後は適当に入れればいいということも」
さわ子「つまり、未来の私たちが事件が起こる前の過去に行き、ウイルスを作ろうとすれば。それは何があろうと作れてしまうと言うことよ。わかった?」
梓「……?」
律「……?」
澪「……?」
さわ子「その顔はわかってないって顔よね……」
和(……今のうちに唯を……無理ね、ガードが硬すぎる)
憂『つまり、この大災害は必ず起きることなんです』
憂『そして、私たちがそれを起こそうとしたならば、それはどんなことがあろうとも起きてしまう、といことです』
澪「……ええと、結局ウイルスが作られてそれが頒布されることが確定してるのだから」
律「途中にどんな変な液体を入れたとしても、ウイルスはできてしまう、って事か?」
梓「イマイチ良くわかりませんけど、できてしまう、ってことは分かりました」
さわ子「悪かったわね。説明するのは苦手なのよ」
憂『そして、作ったウイルスを私の血液と一緒にタツノオトシゴに注入し、できだのが堕辰憂』
さわ子「そして、作ったウイルスを私の血液と一緒に蛆に注入し、できたのが蚕子というわけよ」
澪「……憂ちゃんのは、まだなんとなくわかる気がする。でも」
律「なんでさわちゃんは蛆に注入したんだ?」
さわ子「……」
憂『一時の情って奴ですよね。……ふふ、面白かったです。あの時は』
和「……あの時?」
憂『あれ? 隙を見て助けに行かなくていいんですか?』
和「白々しいわね」
憂「」
和「……え、そんなに固まる話だった?」
憂『いえ、すみません』
さわ子「私の昔話を言うのが嫌で固まっちゃったとか?」
憂『まさか、私は言いたくて言いたくてうずうずしてるんですから』
さわ子「悪趣味ね……」
澪「昔話?」
さわ子「昔って言うほど昔でもないわ。……せいぜい3年後の5年前くらいね」
律「……?」
梓「未来から来た人が過去に行くと時系列がぐちゃぐちゃになりますよね」
和「どうでもいいから。話すならさっさと話しなさい。私はさっさと唯を助けに行きたいのよ」
憂『そうですね。……私が話ましょうか?』
さわ子「いえ、私から話すわ。……あれは、私がウイルスづくりの研究をしていた時よ」
さわ子「そもそも、何で私がそんなことをしていたのか。……理由は簡単」
さわ子「憂ちゃんにね、私の大切な人を人質にとられていたのよ」
和「大体予想はついていたけどね……」
さわ子「まぁ、そのせいで私は憂ちゃんの実験に付き合わされたってわけ」
憂『せめて、復讐って言って欲しいんですが』
さわ子「あいてが居ないのを復讐とは呼ばないわ。……まぁ、今は安全なところにあの人がいるからこうして応戦できるんだけどね」
さわ子「……それで、そのウイルスを作ってるときに、私たちの研究室に、一匹の蛆がわいたのよ」
梓「うう、と、鳥肌が」
澪「……」ギュゥ
律「澪、耳を塞いでちゃ何も聞こえないぞ」
さわ子「それを見た憂ちゃんが大激怒してね」
さわ子「『私の偉大なる場所に入ってくるな~』ってね。それはもう見てるこっちが恐怖で泣いちゃうくらい怒っていたわ」
さわ子「その足でなんどもなんども踏みつぶすのを見てるうちにね、なんとなく。可哀相だなって思ったのよ」
律「蛆を!?」
和「蛆を?」
さわ子「……そういうふうに言わないでよ。その時の私は本気でそう思ったんだから」
さわ子「逃げたくても逃げられない場所にいた私と、たまたまそこにいた蛆が……私と重なっちゃったのかな」
律「蛆と!?」
澪「自分が!?」
さわ子「ああもう! 別にいいじゃない! もう!」
憂『あの時の先生は、今思い出しても笑いがこみ上げてきます』
憂『茶色く変色した蛆を両手で包んで「やめて!」……って泣き叫ぶんですから』
さわ子「……」
憂『その結果がこの蚕子です。……どうですか? 自分が助けた蛆さんの成長した姿は』
さわ子「……そうね。……正直、不快だわ」
律「自分が助けたのに!?」
和「身勝手ねぇ」
さわ子「そうね。……でも、それ以上に」
さわ子「私が助けた子が、あなたにいいように使われているのがたまらなく不愉快なのよ」
『ィィィィィィィィィイイイイイイ!』
『ゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウ!』
さわ子「来るわよ!」
和「はぁ、やっとですか。先生が語ってる最中何度気絶させようかと」
さわ子「わ、悪かったわね!」
梓「でも、先生。いいんですか?」
さわ子「何が?」
澪「何がって……身を挺して守ったのを……」
律「私たちが倒しちゃってもいいのかよ……」
さわ子「構わないわ。……いずれにしろ、倒さなきゃ私たちがやられるんだから」
律「そういうなら、別にいいけど」
和「そうね。……それじゃ、本気で行くわよ」
憂『……そうして、私はまた高みの見物、なんてね』
……
唯「……はぁ、はぁ」
憂「お、お姉ちゃん、大丈夫?」
唯「ちょ、ちょっと休憩……」
憂「でも、私たちの対角線上に紬先輩がいるから、休んでいたら追いつかれちゃうよ」
唯「えぇ~? で、でもほら。ムギちゃんもそろそろ疲れてくる頃だろうし」
憂「……ううん。そんな気配はしない。多分、憂さんがそういう風にならないようにしたんだと思う」
唯「って、ことは、今のムギちゃんは疲れないの!?」
憂「多分……」
唯「え~、それずるいよぉ!」
憂「そ、そんなこと言われたって。……お、お姉ちゃん!」
唯「うわ~ん、ムギちゃんそろそろ休んでよ~!」
ダダダダダ
唯「あ~もう、逃げまわるのは無し!」
憂「え、何かいい策でも思い浮かんだの?」
唯「ない!」
憂「お、お姉ちゃん……」
唯「でも、このままだと、疲れて動けなくなっちゃうよ」
憂「そ、それは確かにそうだけど。……でも、じゃあどうしよう」
唯「……う~ん、ムギちゃんの後ろ側に回り込んで撃つ、っていうのがいいと思うけど」
憂「それをしようと思ったら逆に撃ち抜かれそうになってたよね」
唯「うう……」
憂「……あ、もしかしたら」
唯「憂?」
憂「純ちゃんの時と同じ様に、紬さんの心に話しかけることができるかも」
唯「おお~。それじゃ、私がムギちゃんの後ろに忍び寄るから」
憂「純ちゃんの時と同じく、動きを止めればいいんだね」
唯「うん!」
唯(そーっと、そーっと忍び寄って)
唯(いた、ムギちゃんだ! キョロキョロしてるってことは、わたしをさがしてるみたい)
唯(あらかじめ憂から居場所を聞いていたから、先手を取ることが出来たよ! ……と言っても、ピラミッドの周りを回ってるだけなんだけどね)
唯(よーし、憂、オッケーだよ~)ヒラヒラ
憂(あ、お姉ちゃんからの合図だ)
憂(よーし。紬さんの反応を探って。……これ、かな)
憂(なんだろう。いつもみたいに綺麗に見られない……でも、なんとかなるよね)
憂(紬さん! 聞こえて)
憂〈は~い、こんにちは、憂ちゃん〉
憂(な……何で、紬さんの中にあなたが……!)
憂〈ふふ、お姉ちゃん達ならきっとこの手を使ってくるだろうと思ったからね〉
憂〈憂ちゃんが紬さんの心を覗いたときには、私からのメッセージを送れるようにしておいたの〉
憂(あ……)
憂〈早速だけど憂ちゃん。お姉ちゃんが嫌いなんでしょう?〉
憂(な、何を言って!)
憂〈だって、だからお姉ちゃんを殺そうと特異点で二人っきりになったんじゃない〉
憂(そ、それはあなたが!)
憂〈素直になりなさい。嫌いなんでしょう?〉
憂(い、いい加減に!)
憂〈だって毎日こき使われて、自分が居ないとなんにもできない癖にでもけいおん部なんて作ってそこに入り浸った〉
憂(や、やめて! そんなんじゃない! お姉ちゃんは!)
憂〈自分が今までしてあげたことに対する感謝の気持ちも持たないでノウノウと暮らしていて。……これで嫌いにならないなんておかしいよね〉
憂〈嫌いになって当然。……だから遠慮なんかしなくていいんだよ。嫌いなら嫌いって言って〉
憂(違う! お姉ちゃんは優しくて、あったかくて! それで……)
憂〈自分の役目なんか放棄して、紬さんに殺されるところをちゃんとみましょう?〉
憂(え……? あ……)
憂「お姉ちゃん!」
ダダダダダダダ
唯(よーし、後は憂が動きを止めてくれれば!)
唯「ムギちゃん、今助けるからね」
紬「……」
唯(や、やっぱり振り向くのが早い! で、でも憂が動きを……)
唯「動きを……あれ?」
唯(気のせいかな、ムギちゃんいつもどおりキビキビ動いてる気がするんだけど)
唯「と、ともかく石太を……あれ、憂?」
唯「憂! どうしたの!? 体が震えてるけどだいじょう」
紬「……」
唯「……あ、れ」
ダダダダダダダ
唯「……あ、」
憂「お姉ちゃん!」
唯(憂……。何か、バカだな私。色々なことに気をとられて肝心のチャンスを逃しちゃった……のかな。……多分そうなんだろうな)
唯「……う」
憂「ごめんねおねえちゃん! 私が、私が上手くできなかったから!」
唯「ういの、せいじゃないよ。……私が……ぼーっと……」
憂「お姉ちゃん? お姉ちゃん!」
紬「……」
憂「あ……紬、さん」
唯「……憂……」スッ
憂「これは……」
唯「憂、頑張って、ね?」
憂「お姉ちゃん? お姉ちゃん!」
唯「だいじょうぶ。……ういは、しんぱいしょう、だなぁ」
唯「ちょっと、おひるねするだけだから……ね」
憂「お姉ちゃん……」
唯「お休み。……うい……」
憂「……」
紬「……」
憂「私は。お姉ちゃんがすき。それだけは。これからずっと変わらないと思うから」
憂「だから。……お姉ちゃんが好きな紬さんを、私が助けます。……お姉ちゃんから貰ったこれで」
憂「アンムギ。……お姉ちゃんが、ずっと大事そうに持っていたこれで」
紬「……」
憂「……大丈夫。これのおかげで致命傷じゃないみたいだから」
憂「だから、そんなに悲しそうな顔をしないで下さい、紬さん」
紬「……」
憂「……お姉ちゃん。私に力を貸して。お姉ちゃん!」
『アンムギにはね、悪い部分を完全に倒す力があるんだよ』
憂「今の声……お姉ちゃん?」
『憂。自分を信じて。絶対できるって。私なんかより憂の方が凄いんだから。……その力で、ムギちゃんを救ってあげてね』
憂「……お姉ちゃん」
紬「……」
憂「大丈夫、わかってます。……私が目の前にいるのに撃ってこないってことは、対象はお姉ちゃんだけだったんですね」
憂「でも、お姉ちゃんを撃つには、私が邪魔。……ですよね」
紬「……」
憂「どうぞ。撃ってきて下さい。……全部防ぎますからっ」
ダダダダダダ
キキキキキキキ
紬「……」
憂「びっくりしましたか? ……何処を撃ってくるのかがわかれば、私でも防ぎようがあります」
『びっくりしたぁ……』
憂(ご、ごめんねお姉ちゃん。びっくりさせちゃって)
最終更新:2010年01月31日 00:51