唯「今日もムギちゃんのお菓子おいしかったね~」
梓「はい!……って明日こそは練習ですよ!」
唯「わかってるよ~」
なにげない会話なんだけど、唯先輩と一緒にいるこの時間。
私はこの時間が大好きだ。
時々横目で唯先輩を見ながら。
今日もそんな感じで私たちは一緒に帰っている。
唯「明日はムギちゃん何を持ってきてくれるのかな?」
梓「唯先輩!?」
唯「冗談だよあずにゃん」
相変わらず練習はしてくれない。
でもいざとなるとあんな演奏をするんだからすごい。
梓「唯先輩が言うと冗談に聞こえません」
唯「ぶーぶー」
ふてくされた顔もかわいいな。
…いやいや何を考えてるの私は。
慌てた私は話題を変えてみる。
梓「き、今日も寒いですね、唯先輩」
唯「ほんとだよね。もう十二月だもんね~、うう寒い…」
そう言って唯先輩は寒いというジェスチャーをする。
唯「あ、そだあーずにゃんっ」だきっ
梓「はい?にゃっ!?」
…どうやら私にこの話題は逆効果だったみたいだ。
唯「あれー?あずにゃん顔赤いよ?」
梓「なんでもないです!」
梓「じゃ、じゃあ私こっちなんで。失礼しますっ」
恥ずかしくなって逃げてきてしまった。
ほんとは嬉しいはずなのに…
いつからだろうか、こんなに唯先輩を意識しだしたのは。
夏?秋?なんかあったかな?
もしかしたら初めて唯先輩を見た時かもしれない。
…まあいいや、今日は帰ろう。
翌日、放課後
今日もこの時間がやって来た。
私は唯先輩とならんで歩く。
梓「結局今日も練習できませんでしたね…」
唯「まあまあいいじゃないかあずにゃんや。それよりね…」
梓「どうしたんですか?」
唯「あーずにゃんっ」だきっ
梓「にゃっ!?」
唯「昨日全然抱きつかせてもらえなかったからね、今日は…」
和「あら、あなたたち仲がいいのね」
唯「あ、和ちゃん」ぱっ
梓「あっ…」
唯「和ちゃん今日はどうしたの?」
和「生徒会が今ちょうど終わったのよ、明後日から冬休みだからそれまでに終わらせておきたい仕事がたくさんあるのよね」
唯「へ~そうなんだ。とことで和ちゃん、今日も寒いね~」だきっ
和「分かったから離れなさい」
唯「えー、いーじゃんもうちょっと」
和「はあ…梓ちゃんも大変ね」
梓「あ、いえ…大丈夫…です」
梓「じゃ、じゃあ私こっちなんで」
唯「ばいばいあずにゃん」
梓「はい、失礼します」
はあ…
また逃げて来てしまった。
唯先輩ってああやって誰にでも抱きつくのかな?
私だけに抱きついて欲しいな…なんて。
…はっ!そういえば!
唯先輩って抱きつくのはいろんな人にするけど、手ってつないだことあるのかな?
うーん…どうなんだろ?
明日唯先輩と手を繋いでみよう。
できるかな?まあ楽しみだな♪
翌日、放課後
さて、今日もいつものように唯先輩とならんでいるわけだけれども…
なかなかうまくいかない。
手の距離はいつもより近くにあるはずなのにあと少しが私にはできない。
唯「あずにゃん、今日はなんだか近いね」
梓「そ、そうですか?そんなことないですって」
唯「いや~、絶対近いよ。…あずにゃん寒いの?」
梓「いや、そんなことは…」
唯「素直になりなよあずにゃん」だきっ
あったかい…
…まあいっか明日で。
翌日、放課後
よし、今日こそは…
私は隙を狙うために唯先輩を観察する。
唯「あずにゃんそんなに見ないでよ~」てれてれ
ああかわいい。
でもこのままだとまた抱きつかれて終わりになっちゃうからね、ここは…
梓「あ、すいません。そんなに見てたつもり無いんですけどね」
唯「えー、そうなの~?残念…」しゅん
かわいいな。
…いやいやだからそうじゃなくて!
今がチャンスなんだよ!
私は唯先輩の少し後ろに行くように歩く速さを遅める。
手を伸ばす、そーっと…
唯「あれ?あずにゃんどうしちゃったの?疲れちゃった?」くるっ
梓「あ…いえ、そんなことは…。な、なんでもないです、はい」
失敗した…
後ろにいっちゃダメなのかな?
でも後ろに行くしか私には思いつかないし…うーん…
唯「あずにゃん今日なんだか面白いね!」
私は大真面目ですよ。
声には出さず、私はもう一度隙を狙う。
唯「ところであずにゃん、明日から冬休みだね~」
おお、そうだった。
今日終業式したけど、手を繋ぐことで頭がいっぱいで忘れてた。
梓「そういえばそうですね」
唯「そういえば…ってあずにゃん忘れてたの?」
梓「覚えてましたよ!」
私が立ち止まってこの言葉を言ったおかげで、自然と唯先輩の後ろに行くことができた。たまたまだ。
でもここで決めないと、明日からはもう会えないんだよね。
…よし。
私は唯先輩の手に向かって手を伸ばす。
唯「…」
唯先輩の顔を見るのも忘れて。
そーっと…
唯「…」さっ
あ……
私は唯先輩の顔を見る。
唯先輩は前を見"続けて"いる、ように私には見えた。
唯「…あずにゃん今日も寒いね」
梓「あ、はい、そうですね…」
私達は今日も並んで歩く。
何時の間にか私の左手はあったかくなっていた。
唯「あずにゃん、冬休み終わってももよろしくね」
梓「はい、こちらこそ」
こんなに楽しみな冬休みは初めてだ。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
えーっと…
よろしくとは言ったものの、何をすればいいんだろう?
こういう関係になりたいとは思っていたけど、いざなってみると何も思い浮かばない。
困った私はとりあえず微笑みかける。
…困った顔を返してくる。当たり前だよね、突然笑いかけてきたんだもん。
もんもんとした気持ちを抱えたまま、いつもの別れ道まで来た。
唯「あずにゃんばいばーい」
私は右手を離し、挨拶をする。
…少し残念だけど、また明日。
って明日から休みか。
梓「はい、失礼します!」
あずにゃんもどこか嬉しそうにしてくれている。
よかった…
―――
唯「ただいまー」
憂「あ、お姉ちゃんおかえりー」
唯「ふいー、疲れたよ~」
憂「お疲れ様♪ご飯できてるよ」
唯「うん、ありがと」
何時もの何気ない会話。
憂はまだ私達のことを知らない。
唯「いただきまーす」
憂「いただきます」
唯「あー、学校終わっちゃったね~」
憂「明日から冬休みだね~」
唯「クリスマス会、今年も楽しみだな~」
憂「あ、今年もあるんだ」
唯「たぶんあると思うよ~」
憂「それって24日かな?」
唯「うーん、どんなんだろ…?たぶんそうなんじゃないかな?」
憂「そっか…ねえお姉ちゃん?」
唯「ん?どうしたの?」
憂「次の日……25日にさ、私達だけでクリスマスパーティーやらない?」
唯「おおっ、やろうやろう!」
憂「それじゃあお姉ちゃんの大好物、いっぱい作ってあげるからね!」
唯「ありがと、憂。楽しみにしてるよ」
憂「うん、楽しみにしててね!」
唯「ごちそうさま、私部屋行ってるね」
憂「うんっ♪」
クリスマスパーティーかあ…
少しもやもやとしながら私は自分の部屋へ入る。
がちゃ
唯「あっ」
…携帯だ、携帯が光っている。
誰からだろう?
唯「あずにゃん…」
私はあずにゃんに掛け直すことにした。
ーーーーーー
ーーーー
ーー
梓「ただーいまー」
っていっても誰もいない。
私はカバンとギター、そして制服を置き、着替え終わるとソファーに腰掛けた。
梓「はあ…」
唯先輩と手、繋げたんだな…
あったかかったな。
それでその後……
顔が熱くなるのが自分でも分かる。
まあとりあえず、ご飯でも食べようかな。
私はテーブルにある2千円を財布に入れて家を出る。
梓「おっと」
携帯を忘れるところだった。
梓「いってきまーす」
…ああ寒い。
さっきまで寒く感じなかったのはなんでだろう?
理由は分かっている。
私は携帯を取り出すと電話を掛けた。
梓「…でない」
ご飯の途中かな?
またあとで掛けてみよっかな。
最終更新:2012年05月28日 22:30