律「?」
和「……まぁ、あなた達は合わなかったのだから無理して考える必要はないわね」
さわ子「その能力の方向が変わったものが憂ちゃんの力、ってことよ」
澪「な、何か急にバトル物みたいな展開に」
さわ子「そんな格好いいものでもないわよ。単純に自分の近くの人も時空を飛ばさせるだけだから」
律「さらっといってるけど結構内容は濃いよな……」
澪「ってことは! 憂ちゃんからこのバッチをとればいいってことですか?」
紬「そうね、そうすれば。少なくとも時空を移動したりさせたりって力はなくなるわね」
和「まぁ、それを私たちが知ったところで伝える方法がないんだけど」
さわ子「ああ、そのことなんだけど。……憂ちゃん、このバッジ自分の体の中に縫っちゃってるから」
澪「ぬっ!?」
さわ子「憂ちゃんもこれがないとそういったことができないって知ってるから、絶対手放さないようにって」
和「……恐ろしい執念ね」
さわ子「そうね。あら、もうこんな時間。ということは……そろそろね」
澪「え、な、何が」
ギュルルルルルルルルル
和「な、何の音!?」
梓「う、上から聞こえてます!」
ギュルルルルルル
さわ子「危ないから、その辺から避けてた方がいいわよ」
律「え?」
ギュルルルルルルル……ゴオオォォォン!
澪「あ……穴が」
律「地上への穴が開いた!?」
斉藤「ご無事ですか、皆さん!」
紬「斉藤!?」
斉藤「お嬢様! 今まで、よくご無事で……!」
さわ子「ご苦労様。……それじゃ、引き上げてくれる?」
斉藤「は、直ちに!」
澪「まさか、ヘリコプターに乗るなんて……」
律「初めての経験だな。……それにしても、久しぶりの太陽だなぁ」
梓「ずっと地下でしたもんね。でも、このヘリコプター広いですね」
紬「私の家で一番大きなものなの、これ」
和「相変わらずムギの家は凄いのね……。しかし、いつの間に呼んでいたの?」
さわ子「こっちに戻ってきてすぐよ。皆がここにいるから来てね~って」
和「そういえば、最初どこかに電話していたわね。……行動が早い人」
さわ子「当たり前よ。……そして、これだけ広いヘリを頼んだのにも理由があるの」
紬「理由?」
さわ子「ええ。……皆、知りたくない? 何故こんな事件が起きてしまったか」
梓「それは、憂が」
さわ子「そのと通り。……でも、ここまで発展した軌跡という物を知らないでしょう? ムギちゃんの家につくまで、その話をしようと思うわ」
さわ子「そして、……ムギちゃんのお父様の話も」
紬「!?」
紬「わ、私のお父様を知っているんですか!?」
さわ子「私は聞いた話程度だけど。会ったのは憂ちゃんみたいね」
紬「う、憂ちゃんが!?」
さわ子「ええ。……気になるでしょう? あの日。ムギちゃんのお父さんは何をしていたのか」
さわ子「何を見て……そして、何をされたのか」
澪「……話がよく見えないんだが、ムギのお父さんに何があったんだ?」
紬「……私のお父様は、今から五年前、ある山奥で遭難に遭ったんです」
律「そうなんですか」
梓「すいません、少し黙っててもらっていいですか」
律「あ、梓にまで怒られた……」
澪「当然だろ」
和「……それで、その遭難した場所っていうのはどこなの?」
紬「……その場所は、今だ人柱……つまり、人間を生贄に捧ぐという風習が残った村だったの」
澪「ひぃぃぃいい!」
和「……それで、ムギのお父さんはそこへ何をしに?」
紬「それが……私にも教えてくれなくて」
紬「その日の朝に『今からお母さんのお墓参りに行く』と言い残したっきり、暫く帰ってきませんでした」
澪「……どういうことなんだろう」
紬「さぁ、わかりません。……でも、あの村には近づいてはいけないと、その後帰ってきたお父様に口を酸っぱくして言われました」
紬「羽生蛇村。……呪われた廃村に……」
……
唯「羽生蛇村?」
憂『ええ、そこで私は紬さんのお父さんに会いました。……そして、この場所の事もそこで知りました』
憂「そ、それは一体何処にあるんですか?」
憂『大丈夫。今は知らなくても、後でちゃんと辿りつけるから』
憂「……?」
唯「それで、ムギちゃんのお父さんと会って何をしたの?」
憂『……ふふ、話して欲しいの?』
唯「うん!」
憂『教えて欲しいんだ。……じゃあ教えてあげないね』
唯「え?」
憂『ごめんねお姉ちゃん。私今、お姉ちゃんを苛めたくてうずうずしてるから』
憂『教えて欲しいのなら! 堕辰憂を倒してから教えてあげる!』
『 !』
唯「うわぁ!」
憂「……何とか話しを伸ばして、その間に対策を立てようと思ったけどだめだったね」
唯「やっぱり、頑張るしかないよ!」
憂「うん。……でも、見えない相手にどうやって!?」
唯「それは……えぇと」
『 !』
唯「うぁ……!」
憂「お姉ちゃん!! この、お姉ちゃんを離せ!」ゴスッ
『ゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウ!』
唯「……ぷはぁ! い、息苦しかった!」
憂「大丈夫? お姉ちゃん」
唯「うん。……いやぁ、アレのしっぽで顔がすっぽり嵌ったときはどうしようかと思ったけど」
憂「怪我はない?」
唯「……うん。大丈夫みたい」
憂「そうなんだ。……よかったぁ」
唯「それよりも、あれを倒す方法を考えないと」
憂「……えぇと、あれ?」
唯「どうしたの、憂」
憂「これがお姉ちゃん。……これが憂さん。……じゃあ、これは誰?」
唯「憂?」
憂「……?」
『 ウウ!』
唯「危ない! 憂!」
憂「え? きゃあ!」
唯「えい!」ザッ
『ゥゥゥゥゥゥウウウウウウウ!』シュウウゥゥゥ
憂「……うぅ」
唯「大丈夫? 憂」
憂「うん。……今度は逆に助けて貰っちゃったね」
唯「だって、私たちは守って守られる関係だから!」
憂「お姉ちゃん……」
憂「そうだ、お姉ちゃん。あのピラミッドの所まで走って!」
唯「え? 何で?」
憂「いいから!」
唯「う、うん!」
ダダダダ
憂『……何をする気なのかなぁ? まぁいいや。堕辰憂! 逃がさないで!』
『ゥゥゥ !』
唯「つ、ついたぁ。意外と距離があったね」
憂「うん。……でも、ここら辺にいるはずなんだけど」
唯「いる? 誰がいるの?」
憂「う~んと、ここらへん。……あ、右にいるはず」
唯「右? ……あれ?」
憂「いた? お姉ちゃん」
唯「えぇとね、あそこで会った人がピラミッドの中にいるんだ!」
憂「あそこで……? あ、この人、お姉ちゃんと一緒に演奏した人だ!」
唯「ね? ……でも、どうしてここに居るんだろう。この中にいて狭くないのかな」
憂「ねぇ、お姉ちゃん。この人、私たちの後ろを指さしてるよ?」
唯「え?」
『 ウウウ!』
唯「うわぁ!」ザシュッ
『ゥゥゥゥゥゥウウウウウウウ!』
憂「お姉ちゃん! 大丈夫だった!?」
唯「う、うん。この人が私の後ろを指さしていたから、何とか対処出来たよ」
憂「そうなんだ。もしかして、この人、アレが来る方向を教えてくれるのかな」
唯「それだったら、私の石太でやっつけられるね!」
憂「指さしてる方向は、……左だよ、お姉ちゃん!」
唯「おっけー憂! 行くよ、石太!」
カチッ
ドシュウウウウウウウゥゥゥッゥウウ
『ゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウ!』
唯「当たった!」
憂「やっぱり! お姉ちゃん、この調子で行くよ!」
唯「うん!」
憂『あれは……ういえん! なんでお姉ちゃんが持ってるの!』
憂『あの時、確かに地中深くに埋めたはずなのに。……なんで』
憂『わからないことを考えても仕方がないね。さっきは偶然当たったみたいだけど、今度はそうはさせない』
憂『堕辰憂!』
『 !』
唯「憂が何か言ってたみたい」
憂「そうすると、きっと今までみたいに行かないかもしれないよ」
唯「大丈夫、この中の人の通りにすれば!」
憂「……あ、この人、今度は上を指してるけど」
唯「じゃあ上にいるんだね! ……えぇと」
唯「上にいる手きを攻撃するには、どうしたらいいのかな?」
憂「え、ええと……!?」
『 ウウウウウ!』
唯「う、うわわわわ」ザッ
『ゥゥゥゥゥゥ !』
憂「お姉ちゃん!」
唯「だ、大丈夫。和ちゃんから貰った刀で何とかなったけど……」
憂「でも、また上から来たら。……う、上から来るみたい!」
唯「ええぇぇ? ど、どうしよう……!」
憂「あれ、お姉ちゃん。この人お姉ちゃんと同じものを持ってるよ?」
唯「え?」
憂「なんだろう、この部分を押せ、って言ってるのかな?」
唯「ううんと、この部分、かな。……あ、こんなところに別のボタンがあったよ!」
憂「その部分を押せばいいんじゃないかな」
唯「ええと、それじゃあ」ポチッ
ゴオオオオオオオォォォォ
ゴオオオオォォォォォォ
ヒュウウウゥゥゥゥウウウン!
唯「うわあああ、上から青い火が沢山降ってきたあ!」
憂「す、凄い!」
ヒュウウウウゥゥゥウウウウン!
ヒュウウウウウウウウゥゥゥゥ!
唯「これが、石太の力なんだね」
憂「うん。……凄い」
『ゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウ!』
憂「お姉ちゃん! 効いてるよ!」
唯「よおし、このまま……あれ? 和ちゃんから貰った刀も青く光ってる……さっきの火が移ったのかな」
憂「お姉ちゃん!」
唯「うん! いまやるよ!」
唯「石太の火の力を受け継いだ、和ちゃんの刀! くらえええええ!」
ザヒュシュウウウウウウゥゥゥゥゥゥl!
『ゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウ!!』
憂「……」
唯「……やったの?」
憂「……どうだろう。でも、首は、斬ったよね」
唯「う、うん」
憂「ど、どうしたの? 喜ばないの?」
唯「りっちゃんが言ってた。こういう時に喜ぶのはふらぐだって!」
憂「う、うん。……それじゃあ暫く様子を見て。……え?」
唯「あ、中の人。バッチグーってやってるよ」
憂「……それって、つまり……」
唯「勝ったんだああああ! やったああ!」
憂「お、おめでとう! お姉ちゃん!」
『……』グッ
唯「あ、中の人! 中の人も喜んでるんだね! それにお祝いの言葉まで貰っちゃって!」
憂「うん。この人が居なかったら、私たちどうなってたかわからないね。……でも、中の人っていうのはやめた方がいいと思うよ」
唯「ほえ、なんで?」
憂「い、いや。なんとなくだけど」
憂『……堕辰憂が、負けた?』
憂『ううん。負けたなんてものじゃなくて、滅びた。……かぁ』
憂『なんで……? 途中からおかしかった。お姉ちゃん達はまるで堕辰憂が何処にいるかわかってたみたいだった』
憂『おかしい。……憂ちゃんが私の心をジャックできないようにって、ガードをかけてあったはず』
憂『私の視界もジャックさせなかった。……それじゃあ誰の目を通して堕辰憂を見たの?』
憂『……ピラミッド? それを通してみたの? まさか、それにはそんな機能はないはず』
唯「あ、憂がこっちに来る!」
憂「お、お姉ちゃん」
唯「大丈夫、憂は私が守ってあげるから」
憂『……お姉ちゃん、おめでとう。……っていうべきかな』
唯「おお、まさかほめてくれるなんて~」
憂「……大分悔しそうですね」
憂「当たり前。……堕辰憂が倒されるなんて思わなかったんだもん。……結構悔しいよ」
憂『そしてそれ以上に憎らしいよ。また、この手でも殺せなかったなんて』
唯「……!」
憂『……でも、私自身じゃお姉ちゃん達を倒すことはできない、から』
憂「何を……する気なんですか」
憂『お姉ちゃんが呼んでた漫画にね、負けるくらいなら体がどうなってもいい、っていう敵が居たんだ』
憂『その時は、その敵の考えが理解できなかったけど、今ならわかる』
憂『……今なら、わかるんだ』
ドシュッ
唯「……な!」
憂「じ、自分の体を、包丁で刺してる!?」
憂『うう……いたいよ、お姉ちゃん』
唯「う、憂! 何をやってるの!」
憂『ふ、ふふふ。……ねぇ堕辰憂。首が取れちゃったけど生きようと思えば生きられるよね』
憂『ここで死ぬなんて嫌だよね。あなたは天から落とされた子、竜からも見放されたかわいそうな子』
憂『こんなところで死にたくないでしょう? それなら、私の血をあげる』
憂『私の一番大切な部分の血をあげる。……だから、生き返って』
憂『生き返って、お姉ちゃん達を殺してぇ!』
『 ウウウウ 』
『 ゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウ!』
唯「い、……生き返っちゃった…」
憂「お姉ちゃん! 危ない!」ダッ
ドスッ
憂「い……っ!」
唯「憂!」
唯「さ、さっきまでより早い! どうしてこんな早く!」
最終更新:2010年01月31日 01:50