憂『それに……そのピラミッドの中にどうやって?』
さわ子「……その前の質問。何故ここに居るか? ということの答えくらいはわかるんじゃないかしら」
憂『ここに、何でいるか。……それは、私が呼んだから』
さわ子「それ以外に、ここに来る方法はあるでしょう?」
憂『ま、まさか……!』
憂『行ったの!? お姉ちゃん! あの村に!』
『……うん。どうしても憂に会いたかったから』
憂『お、お姉ちゃんの声……!』
『あ、やっと聞こえたんだ。困ったよ~、ずっと私は喋っているのに、いっつも憂は無視するんだもん』
憂『え? ……お姉ちゃんの声、今はじめて聞いたよ』
唯「……?」
さわ子「だから、あなたは自分のことしか考えてない、って言ったのよ」
憂『……い、いつからそこにいたの!?』
『う~ん、憶えてないかなぁ。でも、つい最近だった気もするかな』
さわ子「嘘を言わないの。少なくとも10年以上はそこにいるでしょう? あなた」
憂『じゅ……!』
『それでも、憂が一人ぼっちだった期間を考えると短いよ』
憂『そんな……』
唯「えぇと、私としてはさっきから何を話してるかわからないところなんですけど~」
さわ子「ああ、そうだった。すっかり忘れてた」
唯「も~、さわちゃん先生ひどいよ~」
『相変わらずなんだね~』
さわ子「相変わらずって何よ。……まぁつまりね、私達としてはなんとしてでも憂ちゃんを助けたかったのよ」
……
澪「そもそも、なんで先生はタイムマシンなんて作ったんですか?」
さわ子「う~ん、……ムギちゃん、説明してもらっていいかしら?」
紬「はい。……単純に言うと、昔の彼氏さんに会いたかったんです」
律「お~、初恋の味が未だに忘れられなかったんだな」
さわ子「う、うるさいわね。……いいじゃないそれくらい」
梓「顔が赤くなりました!」
和「恋する女の子の表情ね」
さわ子「そう! 女の子なのよ」 和「……」
澪「そ、そうだな。女の子だな」
律「う、うん。女の子だな」
梓「女の子はいつだって恋する乙女ですもんね」
紬「うふふ」
和「……」
さわ子「その、乾いた感想やめて欲しいんだけど。和ちゃんに至ってはさっきからじっと見てくるし」
さわ子「ともかく! そんなこんなでタイムマシンを作った私が過去に行って初恋と結ばれました終わり!」
澪「いや、まだ始まった段階……」
さわ子「だって皆していじめてくるんだもん!」
和「いい歳した大人が何を言ってるんですか」
さわ子「女の子だもん!」
和「……」
紬「ほら先生。お茶とお菓子ありますよ」
さわ子「それじゃさっきの続きから話すわね~」
澪「軽っ!」
さわ子「まぁ、私の性格上、けいおん部の皆にタイムマシン作ったことを自慢しに行ったのよ」
和「彼氏ができたこと、の間違いじゃなくて?」
さわ子「や~ん、そんなこと言わないでよ~」
和「……」
律「和……さわちゃんに彼氏のこと言うのはやめた方がいいと思うぞ」ヒソヒソ
和「そうね。……そうするわ」ヒソヒソ
さわ子「まぁそういうわけで、皆に言いふらしたら、当然唯ちゃんは憂ちゃんにも言うわけよ」
さわ子「そしたら、憂ちゃんが子供の頃のお姉ちゃんを見に行きたい、って言い出してね」
梓「もしかして、それで……」
さわ子「ええ、憂ちゃんは過去に行ったっきり、戻ってくることができなくなってしまった」
澪「……」
さわ子「そもそもね、私たちはこの災害を経験したのに、なんで憂ちゃんを一人で過去に行かせたのか。……そう思うでしょう?」
和「まぁ、結局それがなければこんなことは起きなかったわけですし、原因も分かっているのにそんなことをさせる意味がわかりません」
さわ子「そうね。……結果から言うと、忘れていたのよ」
和「歯を食いしば」
さわ子「だーかーらー! こういう時は最後までちゃんと話を聞きなさいっての!」
律「お、落ち着け和! こんなところで撃ったら私たちまで巻き込まれるぞ!」
和「大丈夫、貫通しないようにするから」
さわ子「怖すぎるわよ!」
さわ子「はぁ、はぁ。……つ、つまりね、あの騒動の最後って、憂ちゃんが死んであの世界が崩れ、変な光が私たちを包んで終わり、って感じなんだけど」
さわ子「その光りに包まれた瞬間、皆今回の出来事の重要な部分を忘れちゃったのよ」
さわ子「そういうわけで私たちが忘れてたのも無理はないでしょう?」
和「……今、さらっと大変なこと言わなかった?」
梓「う……憂が死ぬ?」
さわ子「……やば、つい言っちゃったじゃない」
律「ど、どういう事だよ!」
さわ子「……はぁ。あのね、これはあんまり言いたく無かったんだけど」
さわ子「結局憂ちゃんを追い詰めた私たちは、追い詰めたせいで憂ちゃんは自殺しちゃうの」
さわ子「あの空間は憂ちゃんが作り出したものだから、憂ちゃんが死ぬと同時にあの空間もなくなるわけよ」
律「こ、ここに来て衝撃の事実が次々と!」
澪「物語終盤にありがちな実はこうでしたっていう展開ですか!」
さわ子「あなた達傍から見てて本当に仲がいいわよね~」
紬「ええ本当に。……私としては、これよりもっと仲がよくなってくれた方が」
和「ムギはいっつも他人のことばかりで、自分がそうなることを考えてないわよね」
紬「私は……見るだけで充分ですから」
和「恥ずかしいの?」
紬「……、すこし」
梓「おお、ムギ先輩の頬も紅いです」
紬「……」カァ
さわ子「はいはい、そこまででいいかしら?」
さわ子「それで、憂ちゃんが過去に行って戻れなくなった後、私たちは一斉に記憶を取り戻したのよ」
さわ子「今思えば、記憶をなくしたのも、取り返しが付かない状況下で思い出したのも、全部憂ちゃんの怨念だったのかもね」
さわ子「まぁ、そういうわけで、私たちは必死になって憂ちゃんを助けようと頑張った」
さわ子「だって、このままじゃ憂ちゃんが死んでしまうのが確定してしまうから。……それだけは、なんとしてでも避けたかったの」
紬「それで、結局どうなったんですか?」
さわ子「……そうね、正直。何もできなかったわ」
律「そんな……!」
さわ子「タイムマシンは元に戻らなかったし、皆の力をもってしてもどうにもならなかった」
さわ子「しばらくして、このバッヂだけが直ったの。それを聞いた皆は、私に思い思いのものを持たせてくれたの」
さわ子「和ちゃんに渡した焔真鍋も、その一つよ」
和「……そうなんですか」
さわ子「まぁ、それで私は過去に戻ったんだけれど、何故か行こうとした時間とのズレが発生してね、結局、憂ちゃんがそっちに行ってから数十年たった日についちゃったの」
梓「そ、それも……憂と何か関係が?」
さわ子「まぁね。憂ちゃん自信が時を越えて戻れなくなったのはその血のせいだけど、私のことは、やっぱり怨念かなぁ」
澪「……」
律「いや、だから大丈夫だから、大丈夫だって」
澪「……」
梓「澪先輩、怨念って言葉にも弱いんですか」
律「さっきも耳塞いでたからな……」
さわ子「そんな中ね、どうしても憂を助けたいって言った子がいるのよ。……誰だかわかるでしょう?」
和「唯ね」
律「唯だな」
梓「唯先輩ですね」
紬「唯ちゃんね」
澪「……」
律「もう怨念って言ってないから耳から手を離せ!」
さわ子「まぁ、皆の予想通り、唯ちゃんだったのよ。でもね、やっぱり唯ちゃんにもどうすればいいかわからなかったんだって」
和「それは、そうよ。……ムギや澪が考えてどうにもならないなら、厳しいでしょうけど……」
さわ子「ええ。……でもね、そんな中、唯ちゃんが言ったの」
『私、憂の所にいってくる!』
……
唯「え? 憂の事を助けたいのに、憂の所に行けないかったんじゃないの?」
さわ子「えぇ、だけどね、唯ちゃん。ムギちゃんの話を聞いた途端にそう言い出したのよ」
憂『それで……羽生蛇村に、行ったんだね』
『うん。……でも、何処にあるかよくわからなかったから、何回も道に迷っちゃった』
憂『そのっま、ずっと迷ってればよかったのに』
『本当だよね~。……でも、ちゃんと見つけることが出来たよ』
憂『それで、どうしてずっとそんなところにいるの? ……こっちに出てくればいいのに』
『……』
さわ子「それが、そうできないのよ」
憂『できない?』
さわ子「ええ。……唯ちゃんはね、永遠に影の世界でしか生きられなくなったのよ」
唯「えぇ!? それじゃあ、こっちにこれないの!?」
『うん。……まぁ、こっちにいるとね、食べたり寝たりしなくてもいいようになったから、便利って言えば便利なんだけどね』
唯「でも、アイス食べられなくなっちゃうじゃん!」
『それが唯一の不満点なんだよね~』
憂『で、出られないって……! どういうことなの、お姉ちゃん!』
さわ子「……話してあげたら?」
『……私がね、羽生蛇村についたときは、そこは普通の廃村だったんだ』
『でも、その真ん中の方に、でっかい建物があったんだよ』
憂『屍人の巣……』
『そう言うんだ。……よくわからないけど、憂の手がかりを探しに、そこの中に入っていったんだ』
『その、一番奥深いところ。そこに変なものがあったんだ』
唯「変なもの?」
『うん。……唯ちゃんがういえんを見つけた場所、覚えてる?』
唯「うん」
『あれのボタンを押す前のに似てるかなぁ。……そういう風に作って欲しいって、さわちゃん先生に頼んだから』
さわ子「資料もの無しに作ったから、合ってるかどうかはわからないけどね」
『大丈夫、さわちゃん先生ならきっと上手く再現できてると思うよ』
憂『……祭壇』
唯「裁断?」
憂『祭壇、ね。……あそこで、昔誰かが人柱になったって聞いたけど』
『うん。……そこに落ちてあった古い本にね、同じことが書いてあったよ』
唯「同じ……ってことは、ひとばしらになるってお話?」
『うん。だから、私は、それと同じことをしようとしたんだ』
憂『……なっ! 何を言ってるのお姉ちゃん!』
『だって、そうすれば憂に会えるんだろうなぁ、って思ったから』
憂『自分が何をやったかわかってるの!?』
『何って……憂に会いに来ただけだよ』
唯「さわちゃん先生。ひとばしらって何?」
さわ子「う~ん、簡単に言ってしまうと生贄、かなぁ」
唯「生贄。……てことは、えぇと、もしかして」
さわ子「ええ。……唯ちゃんは、そこで死んだのよ」
憂『お姉ちゃん! 今死んでるんだよ! ……どうして、自分の命を捨ててまで……!』
『だって、憂に会いたかったんだもん』
憂『……お姉ちゃん、お姉ちゃん……!』
唯「ってことは、唯ちゃんはもう死んじゃってるの!?」
『え~、でも私こうして喋ってるじゃん』
唯「あ、そうか。な~んだ」
憂『……いいわけないよ。だって、お姉ちゃん、そうなるのにも苦労したでしょう? そうなってからも苦労したでしょう?』
唯「えっと、……ひとばしらって、どうやってやったの?」
『う~んとね、まず祭壇に寝転がって、自分の体を火で焼いたんだ』
唯「えええ!?」
さわ子「そ、そんなことしてたの!?」
『うん。……最初は熱かったけれど、こうすれば憂に会えるって思ったら、そんなには』
憂『苦しくない訳ないじゃない! そんなことお姉ちゃんがしたら! すぐ泣き言をいって……私の名前を……呼ぶんだから』
『えへへ、見透かされちゃってたんだ。……うん、憂の名前、何度も叫んじゃった』
『でも、そのおかげで、憂に会うことができたんだから、やって良かったんだよ……』
憂『よくないよ! よくないよそんなの! ……もしもそれで私に会えなかったらどうするつもりだったの!?』
憂『それに、上手くこの世界に来れたとしても、私がここに来るまでどれだけの時間がかかるかわからないでしょう!?』
『う~ん。でも割とすぐ憂には会えたよ!』
憂『え? ……で、でも、私はお姉ちゃんに……』
さわ子「……」
憂『あ……。そう、か。……そうだったんだ。私、お姉ちゃんの声、聞こえてなかったんだ』
憂『ううん。聞こえなかったんじゃない、聞こうとしなかったんだ』
さわ子「目の前に大好きな相手がいるのに、その人と触れ合うことは疎か、会話さえできない悲しみ」
さわ子「それは、あなたにもわかるでしょう? 憂ちゃん」
憂『……ずっと、ずっと側にいてくれたんだね、お姉ちゃん……!』
『だって、ずっと側にいるって、約束したんだもん! お姉ちゃんだからね、約束は守らなくちゃ!』
憂『うん。……うん! ありがとう、お姉ちゃん……!』
唯「……でも、このままじゃ、中の人は」
さわ子「そうね。……ずっと影の世界にいなければならないのだから。……ある意味、死ぬより酷い結果なのよ」
憂『そんな! 駄目だよお姉ちゃん! せっかく会えたのに……!』
『う~ん、でも。私は憂に会えたし、会話もできたから、満足かなぁ』
憂『わ、私が満足できないの!』
さわ子「今のセリフ、ムギちゃんが聞いたら卒倒しそうね」
唯「?」
憂『とにかく、何か方法はないの!?』
『ない、かなぁ。そもそも、私の体って全部燃えちゃったから、どう仕様も無いしね』
憂『そ、そんなことないよ! 何か絶対、方法が。……そ、そうだ、私の血をかければきっと何とか』
さわ子「やめて起きなさい。あなた、さっき大量の血を流したでしょう? その状態でやったら死んじゃうわよ」
憂『構いません! お姉ちゃんを救うためなら……!』
『だめだよ、憂。私のことはいいから』
憂『よくないよ! 痛っ……!』
さわ子「ほら見なさい! 血が出てるとこを包帯とかそういうもので当てただけなんだから」
憂『この……! どうして、どうしてこんな時に限って……!』
『憂……』
さわ子「唯ちゃん、あなた言ったわよね、『憂に会えるためなら何でもする』って」
『……うん』
さわ子「それで、憂ちゃんに会えた。……でも、本当にこれで良かったの?」
『……』
憂『そ、そうだ。私がずっとここで暮らせば』
さわ子「あなたは人間だから、お腹もすくし眠くもなるでしょう?」
憂『て、定期的に先生から食べ物を送ってもらえれば』
さわ子「はぁ、……あのねぇ、そんなことしても根本的な解決にはならないでしょう?」
さわ子「あなたは唯ちゃんと触れ合うことができないんだから、そのうち、いつか不満が爆発するわよ」
憂『そ、そんなこと……!』
さわ子「無い、とも云いきれないでしょう。……唯ちゃんはね、自分が見た結末を変えようと必死で、その結果がコレなの」
さわ子「あなたが死ぬのだけは、なんとしてでも阻止したい。その願いの果てが、これなんだから」
憂『でも、そのせいでお姉ちゃんが死んじゃったんなら! 意味ないじゃない!』
『意味なくないよ! 憂は死なずに生きてるじゃない!』
憂『意味ないよ!』
さわ子「そうね。意味が無いわね」
最終更新:2010年01月31日 11:56