さわ子「……さて、と。それじゃ、唯ちゃん達のところに行きますか」

さわ子「あの世界に私はいけない、みたいなこと言ったけど、アレは嘘。本当は行けるのよねぇ」

さわ子「一度あの世界に行ったから、紬は大丈夫。……さて、と、それじゃ」ピピピピ

さわ子「電話? ……いえ、メールね。……送信者は、和ちゃん?」

『後で覚えて起きなさい』

さわ子「……え?」

さわ子「と、盗聴器でも仕掛けてあるの!? あの子は……もう」

和「ムギのお父さんの部屋の本棚の隠し部屋。……ここね」

澪「何で分かるんだ!?」

律「すごいな和……」

和「適当にやったらたどり着いただけよ。……それよりも、これがタイムマシンなのね」

梓「で、でっかいです……」

紬「お父様は、私たちに内緒でこんなものを」

和「あら? ……メールだわ」

律「お、さわちゃんからか?」

『タイムマシンごと現代に持ってくるのは骨が折れたけど、きっと大丈夫なはずだから、安心してね』

和「……へぇ、こんな大きなものを未来から持ってきたんだ」

澪「……ど、どうやったんだ」

律「まぁ、そこら辺はどうでも言いじゃんか。それよりも」

梓「マニュアルはここにあります。……それじゃ、早速乗り込みましょう」

紬「一応、帰る方法も探しておかないと」

梓「それは大丈夫です、これに書いてありますから」


紬「えぇと、中に入って行きたい時代と場所を指定する。……これでよし、と」

律「次に、ボタンを押せば簡単に行けます。だって」

澪「当時のファッションに文句を言わないでね(笑)……なんで笑うんだ」

和「先生もつかれてたんでしょう、きっと」

梓「疲れてると笑うもんですか……」

紬「帰るときは元来た場所にこれの小さいのがあるから、それに乗り込めばいいって書いてあるわ」

和「なら早速行きましょう。……場所は、ここでいいかしら?」

澪「そうだな、ムギのお父さんを説得するだけだし」

梓「後は、先生の彼氏さんを助ける、って話しですけど」

律「そっちの方は説得が完了してから行こうぜ!」

紬「わかったわ。それじゃ皆、行くわよ!」

『おーう!』

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
キュインキュインキュインキュイン……!
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
パシュン!

和「ああ、昔は白黒テレビの時代だったのね」

澪「そこまで過去に遡ってないだろう!?」

律「まぁ、過去って言っても三日前だしな」

梓「いまいち迫力がないですよね」

紬「それよりも、お父様にお話しなければ!」タタタ


澪「ちょっとムギ! 落ち着けって……!」

律「行っちゃったぞ……」

和「しょうがないわね。ムギを追うわよ」



「……やはり、あの計画は。……いや、しかしそうなると紬が……」

紬「お父様!」

「なっ……紬! お前どこから来たのだ!」

紬「そんなことよりも、憂ちゃんとの協力体制を解除してください!」

「何故お前が、そのことを!」

紬「それよりも解除して下さい!」

「いやだから、何故お前がそのことを知ってるのかと聞いているのだ」

紬「お父様が解除なさるまで、私は引きません!」

「……聞いているか、紬よ」

紬「あの時は引いてしまいましたけど、今度こそは!」

和「落ち着きなさいムギ! 話しが全く噛み合ってないわよ!」

「他にも人が!? 一体どこから」

律「へー、これがムギのお父さんなのか。あ、初めまして、学校ではいつもムギのお世話をしています」

澪「こ、こら律! むしろ私たちはムギに世話になってるだろう!?」

律「なにいってんだ。私は部長として皆の面倒を見ているだろう!」

澪「そういう問題じゃなくてだな……」

紬「さぁお父様! 今すぐにでも!」


梓「……何でこんなことになったんですか」

和「私に言われても困るわよ……」

「……つまり、君たちは未来から来たと、そういうことだな」

和「ええ、話しが早くて助かります。ミスター」


澪「いいのか、未来から来たことを言って……」

律「知らないが、和が何かちょっと格好つけてるのが気に入らないな。私的には」

梓「私も格好いいこと言ってみたいです」


「……ふむ、にわかには信じられん話しだが。……だが、そうか。あの村の……」

紬「お父様」

「紬……」

紬「協力体制を……」

「……まさか、それしか言えなくなったわけではあるまい」

和「私たちは、数々の壁を乗り越えて、今ここに居ます」

梓「和さんにいたっては、死んでいるのに、今こうして私たちに協力してくださってるんです。みすたー」

律「梓が言うと格好良くないな」   梓「え……?」


「……しかし、憂は私に言ったのだ、こうすれば妻も喜ぶ、と」

和「……申し訳ありませんが、それは幻想に過ぎません。そんなことをして喜ぶのはマッドサイエンティストか狂信者と決まっております」


律「何か格好つけてて腹立つんだよな」

澪「……そうか?」


紬「お父様……」

「それに……断れば、紬まで危ない目に……」

和「もう充分危ない目にあっています。……ですが、そのたびに私たちはそれを乗り越え、ここまで成長してきたのです」

「……」

和「ムギは成長しました。私たちも成長しました。……それで、ご自身は成長なさらないのですか?」

和「羽生蛇村に行ってから人が変わったようだ、とムギから聞きました。あなたは、その時からずっと止まったままなのではないですか?」

和「そろそろ、歩き出しても良いのでは」

「……そう、か」


律「ミスター。渋いですよ」

澪「いや、律が言っても格好良くないな」    律「何ぃ?」


「……決めたぞ。私は、憂との協力体制を解除する」


和「……ふぅ」

律「おっしゃあ! これで事件は起こらないな!」

澪「そうだな。……後は先生の彼氏さんを見つけて、先生を味方につければ大丈夫だな」

紬「お父様……」

「紬よ、私は怖かったのだ。あの日の惨劇がずっと頭から離れなくてな。……だが、決心したよ。これからは、お前にも前のように接して行こう」

紬「お父様……」


紬「協力体制を解除して下さい!」


「……まさか本当にこれしか言えなくなったわけではあるまいな」

和「ム、ムギ! 目がぐるぐるしてるわよ!?」

律「あまりのプレッシャーに自分自身で何言ってるかわからなくなっちゃったんだな」

澪「大丈夫か、ムギー!」


「では、早速この時代の紬の元へと会いに行くか」

和「何年かぶりの親子のスキンシップ、というわけですね」

「ああ、それでは、失礼する」


『そうは、させないわよ』


和「……やっぱり現れたわね」

澪「せ、先生」

さわ子「あなた達、どうしてここに? この時間ならいつも通り学校にいるはずだけれど」

律「さっきの私たちの話を聞いていなかったのか?」

さわ子「聞いてないわね。……それよりも、ミスター。あなたは憂ちゃんとの協力体制を解除する気ですね?」

「ああ」

さわ子「申し訳ありませんが、そういうことをさせないように、お宅の娘さんを……おお!?」

紬「え? 何でしょうか」

さわ子「な、何でムギちゃんがココにいるの!? まさか、あの場所から逃げられたの!?」

紬「……あの場所、とは?」

さわ子「あの場所って、私たちの学校の地下に閉じ込めていたじゃない……」

さわ子「……ん? んん? もしかして、私今、墓穴ほった?」


「聞いたか斉藤! 至急救出に迎え!」

『はっ!』


さわ子「ちょ、ちょっとちょっと、偽物だったって言うの!?」

紬「合ってるようで、間違いです」

和「いつでもあなたは間抜けなのね」

さわ子「あれ、和ちゃん。体の色若干悪くなったわね」

和「……」カチャ

さわ子「な、何よ、やる気なの!?」カチャ



梓「待って下さい!」ガチャ


律「梓、見ないと思ったら何処に居たんだお前」

梓「ちょっと、尋ね人を……」

さわ子「……な、何で、何であんたがここにいるの!」

「え~と、俺はこの子に連れられただけなんだけど……。お前こそ、物騒なものもって何やってんだよ」

さわ子「こ、これは、その……」


律「ん? 誰だあの人」

梓「さわ子先生の彼氏さんです」

澪「あれが。……でも、よく見つけてこれたな、梓」

梓「実は、扉の外に人影が見えましたので、それを追っていったら彼氏さんだったと言うわけです」

紬「え? ……でも、そういうことなら……!」

「私と同じ立場にいる女性の噂を聞きつけてな。その女性の弱みである彼をいち早く我々が助け出したのだよ」

律「な、なんて用意周到なんだ!」

和「あれ、だったら、最初から先生は私たちに敵対する理由なんてなかったじゃない」

「もっとも、私自身憂に協力する気で居たから、彼の存在は誰にも言ってなかったが」

紬「では、何故あの人を保護したのですか?」

「……なんとなく、だ」

和「なるほど、ミスターも心中では憂をよく思ってなかったのね……」


律「ミスター流石だぜ!」

梓「流石ですみすたー」

澪「諦めろ、似合わないから」


さわ子「ええと、これは。あの、クラスの皆のお芝居として使う小道具で!」

「へぇ、どんなお芝居するんだ?」

さわ子「それは、ええと」


和「あっちはあっちで苦労してるし」


「紬よ、お前は母親にそっくりだな……」

紬「お父様。……やはり、お母様も、女の子同士が好きだったのですか?」

「……え?」


和「こっちもこっちで変な空気だし。……後は、憂ちゃんを止めるだけね」


律「そうだな。……でも、私たちがこの時代でできることは、もないかな」

澪「ああ。……でも、こうすると、現代ではどうなってるんだ?」

梓「ムギ先輩のお父さんがこの事件を起こさないと決めたのなら、当然この事件は起きないわけで」

和「そうすると、私は生き返るのかしら?」

澪「多分。……この事に関する記憶はどうなるんだろうか」

律「私たちだけ覚えてる、とかそんな感じじゃないのか?」

和「だったらいいけどね」


紬「皆、そろそろ帰りましょうか」

和「話し合いは終わったの?」

紬「ええ、後は現代のお父様と、沢山、ね」

澪「そっか。それじゃあ、私たちの世界に戻ろうか」

律「そうだな、現代がどうなってるかも知りたいし」

紬「後は、多分唯ちゃん達の出番、かな」

和「そうね。……結局最後はあの姉妹に任せるしか無いなんて、少し歯痒いわね」

梓「それじゃ、皆さん! さよならです!」



……

唯「せ、世界が崩れるなんて聞いてないよ!?」

さわ子「現実の方で、梓ちゃん達が歴史を変えることに成功したのね!」

憂「そんなことさせてたんですか!」

さわ子「後は、私たちが過去に戻って憂ちゃん達を止めるだけよ!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴ


唯『憂、大丈夫? 血を流しすぎたもんね、立ってるのも辛いでしょう?』

憂『大丈夫だよ。……大丈夫』

唯『……えいっ』ヒョィ

憂『お、お姉ちゃん! おろして、重いでしょう!?』

唯『ううん、憂をおんぶするくらいどうって事ないよ! さぁ、急ごう!』


タッタッタッタッタ

さわ子「あそこが出口ね、皆もう一息よ!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ


さわ子「っと、なんとか無事に抜けられたわ、さ、他の皆も早く……ってあれ?」


唯「うう、転んじゃった……」

憂「大丈夫!? お姉ちゃん!?」

唯「ぬちゃってするよぉ」

憂「早くおうちに帰ってお風呂に入らないと!」


唯『……うう』

憂『無理しないで、お姉ちゃん。、やっぱりおろした方が』

唯『大丈夫!』


さわ子「ああもう、まったく」

さわ子「ほら、手を伸ばしてあげるから、早く」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ガシャアアアァァァァアァン!


さわ子「なっ……!」

さわ子「冗談でしょう? もうちょっとで皆が助かるっていうところなのに!」

さわ子「こんなところで現世への扉が閉じるなんて!」





唯「憂、出口がなくなっちゃったよ?」

憂「え? ……あ、本当だ! ……ど、どうしよう!」

唯『どうしたの?』

唯「出口が消えちゃったの!」

憂『そんな……じゃあ、私たちは、この世界の閉じ込められて……一緒に崩壊しちゃう』

唯「えええ!? それって大変だよ!」

憂「何とかならないんですか!?」

唯『う~ん、何かいい方法ない? 憂』

憂『……私の力で皆を元の世界に戻すことができるけど。……今は、無理みたい』

唯『そうなんだ。……無理しなくていいよ、憂』

憂「でも、そうなると、私たちは……」

憂『せめて、私の体力が回復する場所さえあれば』

唯「そうだ! あそこがあるじゃん!」

憂「あそこ?」

唯「うん! ここに来る前に私たちが来た、紅い海が天井にあるところ!」

唯『そうか、あそこなら、崩壊は始まってないかもしれない!』

憂『確かに、ここは私が作った世界だけど、あそこはもともとあった世界だから……』

唯「そうと決まったら! 早速そこに行かないと」

憂「で、でも、どこにあったっけ?」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


唯『悩んでる暇はないね。……多分こっちだった気がする!』

唯「おお、覚えてるんだ!」

唯『なんとなくだけどね。急ごう!』


唯『たしか、ここら辺だった気がするんだけど……』

唯「う~ん、よくわからないね~」

憂「あ、アンムギが光ってる……。ここらへん、かな?」

唯「おお! 流石アンムギ! 場所を教えてくれるなんて優しいね!」

憂『見つかった?』

憂「うん。……ここだよ、お姉ちゃん!」

唯『こんなところにあったんだ。上から蓋してあってわからないね』

憂『蓋って言うか……地面って言うか』

唯「そんなこと言ってる場合じゃないよ! もう殆ど崩壊しちゃってるから、早く!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴ


唯『この世界が崩壊したところは、暗いんだね』

憂『有が無になる。……そんな感じかな』

憂「だ、だから早くしないと!」

唯「はぁ~、間一髪だったみたいだね」

憂「うん。……それにしても、少し前に来たはずなのに久しぶりに来た気分……」


27
最終更新:2010年01月31日 12:01