こんにちは、平沢憂です。
 先日、お姉ちゃんがついに高校生になりました。
 妹の私としても感慨深いというもの……なのですが。

 お姉ちゃんは高校生だというのに、何もやろうとしないのです。
 確かに家でダラダラしているお姉ちゃんは可愛いいですが、これでは高校生である必要がありません。
 幼馴染の和ちゃんが言っていましたが、今のままだとお姉ちゃんは「ニート」になってしまうかもしれないのです。

 これはいけません。

 というわけで、私は早速お姉ちゃんに「仕事」をしてもらうことにしたのです。
 全ての準備は完璧に終え、ついにお姉ちゃんがバイトの面接に向かう日がやってきました。

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 ‐平沢宅‐

憂「……というわけで、バイトの面接行ってらっしゃいお姉ちゃん!」

唯「憂、私バイトなんて初耳なんだけど」

憂「うん、だって初めて言ったもん」

唯「だよね、でもそれっておかしくない?」

憂「そうかな、面接1時間前に言うなんて普通だよ」

唯「待って、それも初耳なんだけど」

憂「うん、だって初めて言ったもん」

唯「もしかして、まだ言ってないことある?」

憂「バイトに関しては何も無いよ、お店の場所は言ってないけど」

唯「それ一番重要だよね」

憂「はい、これがお店までの地図」

唯「憂、これ日本地図だよ」

憂「でも、家もお店も載ってるよ?」

唯「載ってることが重要じゃないんだよ」

憂「それなら住所を書いた紙を渡しておくね」

唯「稚内って書いてあるよ」

憂「あ、間違えた。本当はこっち」

唯「何で稚内って紙に書いたのかが疑問だけどありがとう」

憂「それとね、お姉ちゃん」

唯「何、またバイト関係の話?」

憂「そこまで重要では無いんだけどね」

唯「うん」

憂「家の時計、30分遅れてるみたいなの」

唯「それ結構重要だよね、面接まで時間無くなっちゃったよね」

憂「あ、本当だ」

唯「本当だね」

憂「お姉ちゃん、いい加減起きないと遅刻しちゃうよ!」

唯「……ずっと起きてるよ!!」



第一話「第一関門、憂」‐完‐



 ‐お店‐

店長「で、あなたが平沢さんね」

唯「はい」

店長「んー……採用よ!」

唯「はい」

唯「……はい?」



第二話「第二関門なんて無かった」‐完‐



 ‐ホール‐

唯「というわけで、これからこちらで働かせて頂くことになりました、平沢唯です」

?「まあまあ、ご丁寧にどうも」

紬「私はフロア担当の琴吹紬と言います。
 初めは慣れないことばかりだと思うから、わからないことは私に聞いてくださいね?」

唯「はい、よろしくお願いします」

紬「ふふ……ねえ、私達同い年じゃない?
 敬語は止めましょ?」

唯「……あれ、私まだ自分の年齢言ってませんよね?」

紬「あー……」


紬「……」

唯「……しばらくは敬語を使わせて頂きます、いえ使わせてください」



第三話「エスパーつむぎ」‐完‐



 ‐キッチン‐

律「おっす、私はキッチン担当の田井中律っていうんだ。
 よろしくな」

唯「よろしくお願いします」

律「もう一人キッチンスタッフいるんだけど、今は休憩中かな……?
 あっ、平沢さんって学生だよね?」

唯「高校一年ですよ」

律「私と同い年じゃん!
 ならさ、これからは“唯”って呼んでいい?
 唯も敬語じゃなくていいし、軽い呼び方で呼んじゃってよ」

唯「……じゃあ、私は“りっちゃん”って呼びま……呼ぶね」

律「おお、いいな。唯!」

唯「……りっちゃん!」

律「唯ー!!」

唯「りっちゃーん!」

律「唯ーーー!!」

唯「りっちゃーーーん!」

律「ゆーいー!!」

唯「りーっちゃーん!!」

律「ゆいいいいいイイイイイ!!!」

唯「……りっちゃん」



第四話「まともにうるさい人、りっちゃん」‐完‐



 ‐休憩室‐

律「こいつがもう一人のキッチン担当、秋山澪だ」

澪「よ、よろしく……」

唯「うん、よろしく~」←澪は同い年だと既に聞いている

律「こいつは私の幼馴染で、同じ高校に通う同級生なんだ」

澪「まあな……」

唯「へー、凄く仲良しなんだね!」

律「そうだ、最高に仲良しの大親友なんだぜ!」

澪「いや別にそうでもない」

律「えっ」



第五話「まともにえげつない人、澪ちゃん」



 ‐ホール‐

唯(今日はフロア担当の人がもう一人来てると聞いたけど……)

唯(挨拶ぐらいはしておきたいなあ。どこにいるんだろう?)

紬「あら、唯ちゃん」

紬「今日来ている、もう一人のフロア担当をお探し中ね?」

唯「まだ何も言ってないんですけど」

紬「それならあそこに座る、二つ結びの子がそうよ」

唯「人の話を……聞かなくてもわかるんですね、すみません。
 あの人ですか?どっからどう見てもお客さんに見えますけどね」

紬「サボってるのよ」

唯「わかってて放置してるんですか」

紬「私は平和主義なの~」

唯「平和が人を堕落させるなら、私は戦います」



第六話「お前が言うな」‐完‐



唯「あのー……」

?「はい?」

唯「あなたフロア担当の……って、あれ?
 どこかで見たことある顔だなあ……」

?「ききききき気のせいですよ!!」

唯「お名前は?」

鈴木「鈴木です」

唯「ああ、純ちゃんか」

純「しまったあああアアア!!」



第七話「お馬鹿な正直者、純ちゃん」‐完‐



純「ここは山田を名乗るべきでした……」

唯「なんで山田なの?」

純「バイトの偽名といえば山田だと、相場が決まっているんです」

唯「よくわからないけど、それ以前にさ」

唯「なんで中学三年生の純ちゃんが働いてるの?
 ここって高校生以上を募集してるんだよね?」

純「あわわわわ……。
 唯先輩、あまりそのことを言わないでください……」

唯「何で?」

純「私は高校一年生だとお店には言ってるんですから」

唯「そこでは嘘をつけるんだね」

純「ところで唯先輩は何でこんなところに?」

唯「バイトだよ」

純「えっ」

唯「信じられない、みたいな反応しないでよ」

純「だってあのぐーたらな唯先輩がですよ?」

唯「うん」

純「ぐーたらで、何の取り柄もない唯先輩がですよ?」

唯「……うん?」

純「ぐーたらで、何の取り柄も無くて、ニート予備軍とも疑われた唯先輩がですよ!?」

唯「ねえ」

純「ぐーたらで、何の取り柄も無くて、ニート予備軍とも疑われ、更に」

唯「まだ何かあるの!?私のメンタルも気遣ってよ!!」

純「憂から唯先輩を捲し立てて、やる気を引き出すように言われたので」

唯「あの台詞も憂が考えたの……?」

純「いえ、私の言葉ですよ」

唯「へえ……純ちゃん、私のことそう思ってたんだ」

純「違います!ただ、上手い言葉が見つからなくて……」

純「唯先輩の第一印象を思い出しながら、言ってみたんです」

唯「なるほどねー……えっ?」

純「あっ」



第八話「やっぱりお馬鹿な正直者、純ちゃん」‐完‐



純「唯先輩、拗ねないでください!
 本当に、そう思ってたのは最初だけですから!」

唯「うぅ……後輩に馬鹿にされるなんて……」

純「あのですね、唯先輩をちゃんと知ってからは違う印象を持ったんですよ?」

唯「本当……?」

純「本当です!憂から散々唯先輩の話は聞いてますから」

唯「じゃあ、純ちゃんは私をどんな人だと思う?」

純「それはですねー……」

唯「……」

純「……」

唯「……ねえ」

純「そ、それはですねー……」

純(冷静に考えてみたら、憂からは“可愛い”以外のワードを聞いたことがなかった)



第九話「これが情報統制」‐完‐



紬「唯ちゃーん!今から仕事の内容とか説明するから、こっちに来てくれるかしらー?」

唯「あ、はい!」

純「あれ、唯先輩って紬さんに対して敬語使ってるんですか?
 同い年のはずですよ?」

唯「純ちゃん、社会は年齢とか関係ないんだよ」

純「はあ」

唯「そんな甘いものじゃないんだよ」

純「社会に出た初日に何を悟ったんですか」

唯「超常現象かな」

純「大体わかりました」

唯「わかっちゃうんだ」

紬「唯ちゃーん?」

唯「あっ、すみません、今すぐに行きます!」

唯「というわけで純ちゃん、次会う時には私のイメージを言ってもらうからね」

純「覚えてたんですか」

唯「数分前のことを忘れるほどボケてないよ」

唯「じゃあ、私は紬さんのところ行ってくるから!」

純「はい、行ってらっしゃい」

純「……」

純「憂にメールしようかな」



第十話「これが二の舞」‐完‐



 ‐キッチン‐

律「澪~、ヒドイよ~!」

澪「あー、もう悪かったって!
 頼むから刃物を扱ってる時に、身体を揺らさないでくれ!」

律「じゃあ、澪から言ってくれ。
 私と澪は、絶対的に仲良しだよな?」

澪「……はあー……」

律「呆れられた!?」

澪「そんなこと再確認して、どうするんだ?」

律「だってよー……“再”確認……?」

澪「黙って仕事しろよ、律ー」

律「……おう」



第十一話「言葉にした方がいいけど、しなくてもわかること」‐完‐



 ‐ホール‐

紬「……と、仕事はこんなとこかしら」

唯「大体わかりました」

紬「さっきも言ったけど、わからないところは私に聞いてね?
 じゃんじゃん頼っちゃっていいんだから!」

唯「はい。ところで紬さん」

紬「もう、敬語じゃなくていいのに。
 それでなーに?」

唯「さっきから会うバイトの人が全員女性なんですけど、これは偶然ですか?」

紬「いいえ、そういう意向よ」

唯「でもバイトの募集要項に“女性限定”なんて書いてませんでしたよ……」

紬「チェーン店だもの、勝手なことは出来ないわ」

唯「いや、でも十分勝手なことしてますよね?」

紬「これは勝手なことではないわ」

紬「ニーズに応える工夫よ!」

唯「モノは言い様ですね」



第十二話「魔法の言葉」‐完‐



唯「そういえば私、店長の名前知らないんですけど」

紬「あの人は山中 さわ子っていう名前よ。
 美人さんだけど、怒ると怖いから気をつけてね」

唯「はい、ありがとうございます、気をつけます」

唯「後、私何もせずに採用されちゃったんですけど、何で採用なのかわかりますか?」

紬「ええ」

唯「え、わかるんですか!?
 いくら考えてもわからなかったので……教えてください!」

紬「コスプレが似合いそうじゃない!」

唯「私、明日でバイト辞めますね」



第十三話「魔界に迷い込んだ羊」‐完‐



紬「ちょちょちょちょっと待って!
 何ですぐに辞めようとするの!?」

唯「むしろそういう疑問を抱かれることが意外でした、
 誰だってそうなるものだと思ってました」

紬「だって店長さんの作るコスプレは可愛いものが一杯なのよ?」

唯「店長さんが作ってるんですか!?」

紬「ええ、毎日仕事もせずに」

唯「もう本当に碌でなしですね」

紬「って、問題はそこじゃないのよ」

唯「そこが一番の問題だったように思えますが、お店にとって」

紬「まあ一度、コスプレの衣装を見てみて。
 本当に可愛いものが一杯だから」

唯「いずれ見せてもらいます」

紬「そして、私の前でコスプレを着るのよ?」

唯「いえ、着るかどうかは別問題……」

紬「私の前でコスプレを着るのよ!」

唯「ですから……」

紬「私の前で!!」

唯「……何でそこを強調してるんですか」



第十四話「溢れだす鼻息と欲望」‐完‐



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最終更新:2012年06月02日 21:24