‐スタッフルーム‐

さわ子「唯ちゃん、今いるスタッフの皆には挨拶出来たかしら?」

唯「はい、おかげ様でバイトを辞めるところでした」

さわ子「面白い冗談ね、唯ちゃん!
 始まってすらいないものを辞めるなんて出来ないわよー?」

唯「私は本気だったんですけど。
 ……いえ、まあ辞めませんけど」

さわ子「そう、それなら明日から頼むわね。
 これがあなたのシフトよ」

唯「あっ、どうも。ほぼ毎日出勤ですね」

さわ子「暇だって聞いたから、こうしたんだけど……。
 駄目だったら言ってね?」

唯「駄目じゃないんですけど、誰に聞いたんですか?」

さわ子「あなた自身が言ってたじゃない?」

唯「えっ」



第十五話「ほくそ笑む、平沢憂



 ‐平沢宅‐

唯「ただいまー」

憂「おかえり、お姉ちゃん!」

唯「憂ー、疲れたよー!
 あの店、変な人ばっかりだよー!」

憂「ゴメンねお姉ちゃん……私がわざとそういう店を選んだから……」

唯「う……ん、憂?」

憂「コスプレ姿のお姉ちゃんが見れると聞いて、あんな店を選んで……」

唯「憂さん?」

憂「朝、あんな無茶苦茶な態度でお姉ちゃんと接していたのには理由があるの。
 あれぐらいじゃなきゃ、お姉ちゃんは動いてくれないと思ってたから……」

唯「憂さーん?」

憂「全ては可愛いお姉ちゃんを見るため……お姉ちゃんのためなんだよ!」

唯「それ全部自分のためだよ!!
 私のために何一つなってないよ!!」

憂「お姉ちゃんの幸せは、私の幸せ……逆もまた然り。
 これが姉妹ってものだよって、前にお姉ちゃん言ってくれたよね?」

唯「こんな特殊なシチュエーションは想定してないよ!!
 憂の馬鹿ーーー!!」

憂「あっ、お姉ちゃん待って!」

憂「……本当はね、お姉ちゃんに何かを取り組んでほしかったの。
 それは勉強でも部活でもよかった」

憂「だけどそれをお姉ちゃんはしようとしなかった。
 それがお姉ちゃんの選んだことなんだって、私は納得しようとしてたよ?」

憂「でもね、やっぱり何かに取り組んでいる姿が一番かっこいいし、素敵だと思う。
 私はどんなお姉ちゃんでも好きだけど、かっこよくて素敵なお姉ちゃんは最高に好き!」

唯「憂……」

憂「勝手なことしちゃったのは、悪いことだってわかってるの。
 だけど、こうでもしないと本当にお姉ちゃんは……」

唯「ううん、お姉ちゃんが悪かったよ憂。
 何もせずに生きているなんて、ズルイことかもしれないね」

唯「私、頑張るよ。憂の期待に応えられるかはわからないけど、バイトに全力で取り組む!」

唯「だから憂は、そんなお姉ちゃんを好きでいてくれるかな……?」

憂「お姉ちゃん……当然だよ!大好き!」

唯「ありがとうね憂……よーし、張り切っちゃうぞー!」

憂「うん、楽しみにしてるね!」

唯「任せてよ」

憂「お姉ちゃんのコスプレ!!」

唯「えっ?」

唯「……え?」

憂「メイド服かな……巫女服も可愛いだろうなあ……!」




唯「憂の馬鹿ーーーーーー!!!」



第十六話「満面の笑み、平沢憂」‐完‐



 ‐ホール‐

唯「はぁ……」

純「唯先輩、どうしたんですか?」

唯「ちょっと身内の人に嵌められたみたいでね……」

純「それは大変ですね、何かお助けしましょうか?」

唯「ううん、いいよ。純ちゃんは自分の仕事をこなして」

純「大丈夫です、基本的に私は仕事しないんで」

唯「しようよ」

純「それに、今日は働き者の人が来てくれますから」

唯「まだ私が会ってないバイトさん?」

純「いえ、お客さんです」

唯「お客!?」



第十七話「客もスタッフも、元を辿れば皆人間」‐完‐



唯「客に仕事をやらせるとは、一体どういうことなの……?」

純「見てればわかりますって……おっ、噂をすれば何とやらですね。
 来ましたよ」

?「……あ、また純サボってる!?」

純「はは、梓が来ると期待していたからね」

梓「応えたくない期待ってあるんだね」

純「まあまあ、私だっていつもサボってるわけじゃないんだよ?
 梓が来たときだけだってば」

梓「嘘つき、いつでもサボってるでしょ?」

唯「えーと……梓ちゃんっていうの?」

梓「あ、純から聞いています、平沢唯さんですよね」

梓「中野梓です、よろしくお願いします」

唯「うん、よろしく」

梓「早速で悪いんですが、一つ質問してもいいですか?」

唯「何?」

梓「唯さんは変わった人ですか?」

唯「いきなりそんな質問してくるほど苦労してるんだね」



第十八話「苦労人(?)、梓ちゃん」



唯「ねえ梓ちゃん」

梓「はい何でしょう」

唯「凄く自然に仕事してるところ悪いけど、梓ちゃんはお客さんなんだよね」

梓「そうですよ。私は中三ですから、ここでバイトなんて出来ません」

唯「なら、何で仕事してるの?」

梓「お金が欲しいからです」

唯「素直でいい子だね」

唯「質問を変えよう、梓ちゃんは何で純ちゃんの代わりに働いてるの?
 普通にバイトすればいいのに」

梓「私はバイト出来ませんよ、中三ですから」

唯「そうだね、普通はそうだったね。
 普通に純ちゃんがおかしいだけだったね」

梓「はい」

純「おい」

唯「でも、純ちゃんみたいに年齢詐称してバイトすればいいんじゃないかな?」

梓「私は嘘と純みたいなのが嫌いなので」

唯「その気持ちわかるよ」

純「わからないでください」

唯「そうだな、じゃあ単刀直入に聞くよ」

唯「ここで働くようになったきっかけは?
 こんな純ちゃんみたいなのがいるんだよ」

梓「こんなのがいるからこそですよ」

純「こんなの言うな」



第十九話「こんなの程度の純情」‐完‐



唯「それで、きっかけは?」

梓「あれは偶然この店に立ち寄った日でした」

梓「店に入った私は、瞬時に変人電波をいくつもキャッチしたんです」

唯「体の中にアンテナでもあるの?」

梓「そう言っても差し支えはありませんね」

唯「便利だね」

梓「前世は猫だと言われたもので」

唯「それ関係無いよね」

梓「そんなことはありませんよ」

純「何が関係あるのさ」

梓「まあとにかく、まだマシな変人電波を発してる方向へ行ったんです」

唯「変わった人が多いからね、このお店」

梓「そうして私が進んだ先には、茶色いモップがありました」

梓「それが純でした」

唯「成る程ね」

純「納得しないでください」

梓「純は慣れた手つきでサボっていました」

唯「既に慣れてたんだ」

梓「そして私は察知しました。
 こいつ、私と同い年のくせに働いている、と……」

唯「働いてないけどね」

純「たまに働いてます」

唯「それにしても、よく察知出来たね。
 またアンテナかな?」

梓「前世は猫だったみたいなので」

唯「梓ちゃんの中でアンテナは猫なんだね」

梓「アンテナはアンテナ、猫は猫ですよ?」

唯「ああ、私変なこと言っちゃったよゴメンね」

梓「いえ、純ほどではありません」

純「ちょい待て」

梓「あとは取引をするだけです。
 私は純が中三だと黙っているから、私にバイト代を半分渡せと」

唯「可愛い顔してむごいことするね」

純「中身は悪魔なんです」

梓「サボり魔は黙っててね」

梓「まあ、それだけでは流石に申し訳無いので、純の仕事をいくらか代わりにやってあげてるんです」

唯「いい感じにギブアンドテイクなんだね」

純「これで私の時給は実質400円ぐらいになるんですよ……」

唯「半分以上働いてないから十分でしょ」

純「いえ、これは労働基準法に違反しているレベルです!」

梓「働いてない人には適用されないんだよ、純」

純「たまには働いてるってばー!」

唯「……だから常に働こうよ!!」



第二十話「この世はギブアンドテイク」‐完‐



唯「あれ?それでも、梓ちゃんが年齢詐称してバイトした方がいいよね?」

唯「結局梓ちゃんは働いちゃってるし」

純「そう、実にそうなんですよ」

梓「しかし、これには深い理由がありまして」

梓「私は嘘と純が嫌いなんですが……」

純「私自身!?」

梓「年齢詐称してでも稼ぎたい自分がいるのも確か」

唯「働きたいじゃなくて、稼ぎたいなんだね」

梓「そこで私は、お店側にこう言ったんです」

梓「“私は純と同い年の友人です、たまにお手伝いをさせてください。
 お金は一切いりません、社会勉強が目的ですから”と」

梓「するとあら不思議。
 私は大歓迎された揚句、純からお金まで貰える始末」

梓「しかも、私は嘘を一切ついていないというおまけ付きです!」

唯「おお、確かに嘘はついていないね」

梓「これで誰も傷つきません」

純「私がボロボロだよ」

唯「それにしたって、純ちゃんの代わりに働いてあげる梓ちゃんは偉いと思うよ。
 苦労してない?」

梓「いえ、実はですね」

唯「ん?」

梓「この店、お客さんがあまり来ないんで、大体暇なんですよ」

唯「えっ」

梓「よって、私は全然苦労していません!」

唯「……うん、大丈夫みたいだね(このお店以外は)」



第二十一話「結局苦労人じゃなかったよ、梓ちゃん」‐完‐



 ‐キッチン‐

律「ホールスタッフのやつら、大分仲良くなってるな」

澪「梓はスタッフじゃないけどね」

律「純ちゃんよりはスタッフだろ」

澪「それは一理あるな」

律「というよりは真理だろうな」

澪「それも一理あるな」

律「純ちゃん、サボってばかりだからなー」

澪「給料を貰ってる身だという自覚が足りないんだな」

律「全くだ」

紬「二人とも、喋ってないで仕事してね?」



第二十二話「灯台下暗し」‐完‐



 ‐ホール‐

律「なあ、澪」

澪「ん?」

律「私たちってさ、キッチンスタッフなんだよな?」

澪「今更何を言ってるんだ?
 当たり前だよ」

律「ホールのことはホールスタッフに任せるべきだよな?」

澪「だな」

律「それならさあ」

律「何で私たちは店の窓を拭いてるんだ?」

澪「暇だからだよ」

律「そうか」

紬「手を休めないの」



第二十三話「窓はいつでもピカピカよ」‐完‐



 ‐休憩室‐

唯「あっ、澪ちゃん」

澪「唯も休憩時間?」

唯「大体の時間が休憩時間かな」

澪「それは一理あるな」

唯「……」

澪「……」

唯「暇だね」

澪「暇だな」

唯「トランプある?」

澪「花札ならあるよ?」

唯「その返答は予想してなかったよ。
 まあ暇だし、やろうか」

澪「私、ルール知らないんだ」

唯「何で持ってきたの」



第二十四話「花見酒は二十歳から」‐完‐



澪「よし、花札やろう」←ルール覚えた

唯「うん」

律「澪の休憩時間終わりだぞー」

澪「……うん」

律「私と交代な」

唯「澪ちゃんが泣きそうなんだけど」

律「おっ、これ花札か?」

唯「りっちゃんは花札のルールわかる?」

律「いや、全くわからない」

唯「振り出しに戻った」



第二十五話「月見酒も二十歳から」‐完‐



 ‐ホール‐

紬「梓ちゃん、頑張ってるわね」

梓「いい加減この時間帯ですから、お客さんも少しずつ入ってきますね」

紬「そうね」

梓「ところで紬さん」

紬「なに?」

梓「お客さんの十割が女性なんですけど」

紬「全員ね」

梓「何か女性に嬉しいキャンペーンやってました?」

紬「特に何もやってないわね」

梓「まさか男性客を門前払いしたわけじゃないですよね」

紬「そんなことして無いわ。
 門前にすら近寄らせるわけにはいかないもの」

梓「深く考えると怖いので、私は仕事しますね~」



第二十六話「賢い選択」‐完‐



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最終更新:2012年06月02日 21:28