‐十二月某日・平沢宅‐

憂「お姉ちゃん!朝だよ!」

唯「うーん、あと八十秒だけ……」

憂「残り十秒でお姉ちゃんのベッドにダイブするから待っててね」

唯「憂、おはよう」

憂「十秒以内に起きた場合は、手っ取り早くお姉ちゃんを襲うよ」

唯「憂、おやすみ」



第一四三話「寝ても地獄、覚めても地獄」‐完‐



憂「そんなことよりお姉ちゃん」

唯「なに?」

憂「私、お姉ちゃんに隠してたことがあるんだ……」

唯「嫌な予感しかしないけど、なに?」

憂「実は」

憂「そんなことよりお姉ちゃん」

唯「ちょっと待って、今何か言おうとしたんだよね?」

憂「えっ?」

唯「とぼけないでよ」

憂「お姉ちゃんの言っていることが良く分からないよ」

唯「私も良く分からないよ、憂のことが」

憂「まあ、一つ確かなことといえば」

憂「お姉ちゃんが私の全てを知りたくて仕方ないってことだよね!」

唯「間違ってないんだけど、間違った意味に聞こえるなあ」



第一四四話「間違い探し」‐完‐



唯「それはともかく、そんなはぐらかし方では騙されないよ」

唯「一体、憂は何を隠してたの?」

憂「……」

憂「あのね、お姉ちゃん――」



 ‐お店‐



紬「――そうなの。わかったわ」

純「唯先輩には伝えないでください。
 無駄な心配はかけさせたくありません」

紬「わかったわ」

純「じゃあ、働きに行ってきますね――」



 ‐平沢宅‐



唯「――行ってくる」

憂「どこに行くの?」

唯「お店だよ」

憂「今日はシフト入ってないでしょ?」

唯「違うんだよ、憂」

唯「私は、私の仕事を終わらせる義務があるから行くんだよ」

唯「行ってくるね!」



第一四五話「最後の一仕事」‐完‐



 ‐お店‐

 ‐キッチン‐

律「澪」

澪「ん、どうしたんだ?」

律「今までありがとうな」

澪「いきなり改まってどうしたんだよ」

律「いや、今じゃないと言えないと思ってよ」

澪「えっ、どういうことだ……?」

律「……実は私、来月には引っ越すんだ」

澪「そうか、じゃあな、達者でな」

律「えっ、反応薄くね」

澪「三つもメッセージを送ったじゃないか」

律「確かに“心ない、味気ない、素っ気ない”の三拍子は揃ってるけど」

澪「“三拍子揃ってる”って言われると、何か良いことを言った気分になるよな!」

律「ならねえよ」



第一四六話「三三三拍子」‐完‐



律「なあ澪~、もう少し心配してくれてもいいだろ~?」

澪「律」

律「ん?」

澪「律は確かに引っ越すんだよな」

律「ああ、うん」

澪「……そういうことなら、安心したよ。
 律だけが悲しむようなことじゃないみたいで」

律「……どういうことだよ?」

澪「私もな、来月にこの町を出るんだ」

律「えっ」

澪「丁度よかったんじゃないか?どうせ別れるなら、な」

律「……嫌だよ……」

澪「そうか?」

律「何だよ、お前が引っ越すなんて聞いた事ねえよ!」

澪「言ってないからな」

律「もう少し早く伝えてくれても良かったんじゃないのか!?」

澪「お前だって、同じじゃないのか?」

律「あれは作り話だよ!!」

澪「私もだ」

律「えっ」



第一四七話「目には目を、嘘には嘘を」‐完‐



澪「何というか、律は素直でいい子だな」

律「人をこうも簡単に騙すなんて、ひでえやつだよお前は」

澪「先に嘘をついたのはそっちだろ?」

律「そりゃそうだけどよ」

律「だったら何だ、私が嘘をついてるってわかってた上で、
 そんな嘘をついてきたのか?」

澪「ああ」

律「……私って、そんなにわかりやすいやつだったんだなあ」

澪「違うよ」

澪「私だから、律のことがわかったんだ」

律「え?どういうこと?」

澪「これからもよろしくな、律。
 そろそろ私、休憩の時間だから、うん」

澪「じゃあな」

律「あっ、澪……」

律(行っちゃった)

律「……」

律「そもそも、あいつ休憩時間じゃねえし」

律「……」



律「だあああ!照れるだろうがあああ!!」



第一四八話「それは相手も同じこと」‐完‐



 ‐スタッフルーム‐

さわ子「シャウトしてるわね」

紬「してますね」

さわ子「青春ねえ」

紬「だとしたら、店長はとても青春してたことになりますね!」

さわ子「何故私の高校時代を知ってるの?」

紬「世の中には知らないことの方が多いものですよ」

さわ子「年下にそれを言われるとは思わなかったわ」

紬「私、店長の迷台詞も知ってるんですよ」

紬「“お前らどんと来いで~す!”」

さわ子「それは知ってるうちに入るのかしら」



第一四九話「迷台詞は腐っても迷台詞」‐完‐



さわ子「“お前らが来るのを待っていた”を再現したかったのよね?」

紬「……あ、それでした~」

さわ子「実は知らなかったみたいね」

紬「ふふ、わざと間違えてみたんです」

さわ子「わざと?」

紬「はい、店長みたいに道を間違えるのも面白そうですし」

さわ子「いつから私は道を間違えていたのかしら」

紬「私が知った時には、もう……」

さわ子「手遅れだったみたいに言わない」

さわ子(一体私の何が悪かったのかしら……)



第一五〇話「A、働いてないこと」‐完‐



紬「そういえば店長、一ついいですか?」

さわ子「どうしたの?」

紬「実は、純ちゃんがこのお店を辞めちゃううんです」

さわ子「あら」

紬「それで、フロアスタッフが不足するんですけど……」

さわ子「わかったわ、早速バイトの募集をしましょう」

紬「店長が働いてくれませんか?」

さわ子「でも、私は私で結構忙しいのよー?」

紬「お仕事で忙しいところを見たことありませんけど~」

さわ子「なかなか鋭いわねムギちゃん。
 ただ、それ以前の問題なのよ」

さわ子「ムギちゃんは嘘をついている」

紬「えっ……」

さわ子「人員不足なんてありえないわ……」

さわ子「だって純ちゃん、元々働いてないもの!」

紬「あっ!」

さわ子「だから私が働くような理由は無いのよ!」

紬「それはあります」



第一五一話「苦し紛れの名推理」‐完‐



紬「それに、最近の純ちゃんは働いてくれてる方ですよ」

さわ子「そうなの?」

紬「はい、二ヶ月前から徐々に働き出しました」

さわ子「やっとあの子も改心したのね」

紬「店長には言われたくないと思いますよ~」

さわ子「そう?」

紬「さわ子店長が働き者だったら違いますけどね」

さわ子「……わかった、働き者になればいいのね」

紬「えっ……」

紬「……えーと、今、なんて言いました?」

さわ子「わかったって言ったのよ」

紬「……」

さわ子「……」

紬「……あっ、すみません。あまりの驚きで言葉が詰まってしまいました」

さわ子「そんなに驚くとこあった?」

紬「ついに、ついに店長が働くんですね!?」

さわ子「そうよ」

紬「とてもいい働きぶりを見せてくれるんですね!?」

さわ子「期待してなさいよ?」

紬「はい!」

さわ子「まずは」



さわ子「新しいコスプレを考えるために旅に出ましょう!」

紬(そういう業界に転職すればいいと思いますよ、店長)



第一五二話「裏切らない裏切り」‐完‐



 ‐ホール‐

純「えっとー……」

梓「純、四番卓のお客様がお呼びだよ」

純「ん、りょーかい」

梓「……」

梓(純、変わったなー)

純「ご注文をお伺いします」

梓(ちゃんと働いてること、これが一番大きな変化だよね)

純「ご注文を繰り返させていただきます」

梓(うわー、まるで店員みたい。店員なんだけど)

純「ふう……」

梓(うん、まるで店員みたいなんだけど)

純「働くことって、楽しいものなんだなあ」

梓(あれはもはや誰なんだろう)



第一五三話「世にも奇妙な純ちゃん」‐完‐



梓「純、一体どうしちゃったの!?」

純「え?」

梓「働き者の純なんて、ただの人間だよ!」

純「私は元々人間だ」

梓「人間に謝りなよ」

純「まず私に謝れ」

梓「で、どうしちゃったの純。今までの純なら
 “最後ぐらい休ませてくださいよー”って言って、
 “初めから休んでばっかりでしょ”って唯さんにツッコまれてるはずだったのに」

純「今までの私とは一線を画してるのだよ」

梓「普通に働いてるだけでそう言える身分が羨ましいよ。
 あっ、これ純を馬鹿にした言葉だからね」

純「知ってる」

純「……まあ、ほら、最後じゃん?」

梓「そうだね」

純「だから流石の私も、働かないとなーって」

梓「まあ良い傾向だね」

純「それに、こう思ったんだ」

純「終わり良ければ全て良し」

梓「もっと言葉は選ぼうよ」



第一五四話「初めも肝心」‐完‐



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最終更新:2012年06月02日 21:37