律「鉢合わせしないのは変だよな……」

奏「……」

奈々穂「もしかして、りの達はこの区域に入った……?」

紬「危険区域だからと近づくなって、説明でしたね」

奈々穂「いえ、正確にはそれほど危険な場所ではありません」

律「?」

奏「行きましょう、奈々穂」

奈々穂「そうですね。軽音部のみなさんは指定場所に戻っていてください」

紬「2番チームにはあずさちゃんがいるから、私たちも探します」

澪「うん」

律「……そうだな」

奏「分かりました。では、参りましょう」

奈々穂「みなさん、足元には気をつけて」

紬「わ、分かった!」


チリンチリン


律「あのさ、聞きたいことがあるんだけど」

奈々穂「なんですか?」

律「あの鈴の音、どうして鳴り止まないんだ?」

奈々穂「……それは…………」

奏「なにかが紐に絡まって揺らしているのでしょう」

律「あの紐って、区域を囲むようにひと回りしてんのか?」

奈々穂「……いいえ」

澪「!」ビクッ

紬「本当のことを言っても平気ですよ。怖がっていられませんから」

奈々穂「そうですね。即席で作った仕掛けですので、コースに面していない所に紐はありません」

律「と言うことは、だ……。途切れた箇所以外の両方から聞こえてくるのは不自然なんだよな」

純「どういうことですか?」

律「一本の紐に一定間隔で鈴を取り付けるとするだろ?」

れいん「ふむふむ」

律「だけど、紐を二つに分断して、揺らすとどうなるか」

純「揺らされた紐の片方しか鳴らない……」


チリンチリン    チリンチリン


澪「聞こえない聞こえない」

れいん「つまり、どういうこと?」

紬「鈴が両方から聞こえてくる今の状況は異変が起きているということ」

久遠「そういうことですわね」

れいん「うひゃぁ……」

純「怖くない?」

れいん「い、今は緊急事態! 怖がってなんかいられないって!」

奈々穂「お前達、ナチュラルに混ざったな」


久遠「琴葉、どうでしたか?」

琴葉「4番、5番チームは確認できましたが……」

奏「2番チームだけ確認が取れていない」

琴葉「はい」

奈々穂「歩もいるのに、なぜ入った……!」

久遠「もう少しで辿り着くはずですわ」

律「あのさ、もう一つ聞いていいか?」

奈々穂「?」

律「危険な場所じゃないってどういう意味だ?」

久遠「それは……」

紬「あら……?」

澪「ど、どうしたむぎ?」

紬「鈴の音が鳴り止んだわ」



純「あ……本当だ」

奈々穂「この島には危険な動植物は生息していません。
     むしろ人体に優しい環境だから整備して人を呼び込むほうがいい」

律「……」

久遠「一つ、昔からの言い伝えが無ければ、の話ですが」

奏「この島には、古くから神木と呼ばれる大きな木が存在しています」

奈々穂「会長」

奏「この話をしなければみなさん落ち着かないでしょう、奈々穂?」

奈々穂「……」

琴葉「辿り着きました。この木です」

紬「この木は……」

澪「この島に来る途中、船の上から確認できた木だな」

奈々穂「夕方の茶番は、紐を結ぶ作業を急ぎたかったからです」

れいん「梓さんがこの木に近づきそうになったんで、あっしらは慌てたってわけです」

純「……なるほど」

紬「近くで見ると存在感がすごいわ……」

律「すげぇな、木の根元部分が大きな空洞になってるぜ」

澪「り、律、勝手に入るな」

律「だいじょーぶだって。危険な生き物は居ないって言ってたじゃんか」

久遠「この木に近づけさせない理由が一つあります」

紬「それは……?」


奏「神隠し」


紬「神隠し……?」

奈々穂「そうです。この辺りから謎の失踪者が出ている」

純「え――」


久遠「三人もですわ」

澪「三人!?」

奈々穂「戦前や大正時代まで遡るから、気にするほどでもないと思ってはいるんだが」

琴葉「ダメです。この付近に4人の姿は見当りません」

律「あのさ……、空洞の中からこれが見つかったんだが」

プッチャン「」

奏「!」

奈々穂「それは……!」

れいん「……」

純「え、え? りのは?」

律「…………いない」

奏「……っ」フラリ

紬「奏さん!」

奈々穂「奏!」

琴葉「久遠さん、歩はこのこと、どこまで知っていたのでしょう」

久遠「……分かりませんわ。けど、無闇に近づかないようにと念を押しておきましたが」

律「澪、これ持っててくれ」

澪「あ、あぁ……なにをしてるんだ?」

律「梓たちの所持品が無いか探してみる。もう一つ照明を貸してくれ」

澪「う、うん。気をつけろよ」

「大丈夫。……ここでナニカを祀ってたのかな」

奈々穂「まだそうと決まったわけじゃない。ここを中心に徹底的に――」

プッチャン「おい! おでこを止めろ!」

澪「うわっ! 勝手に喋った!」

プッチャン「いいから止めろ! アイツも居なくなるぞ!」

澪「え?」

純「律先輩!?」

「聞こえてるっての!」

プッチャン「バカ野郎! 聞こえてるなら出てきやがれ!」

奈々穂「おい、人形、なにがあった?」

プッチャン「消えたんだよ! りの達が目の前でな!」

純「り、律先輩……!」

澪「り、律ッ!」



澪「い、いない――!」

紬「そんな!」

奈々穂「みんな退がれ!」

久遠「そんな……人が…目の前で……」

奈々穂「しっかりしろ久遠ッ!」

久遠「そ、そうですわね……!」

れいん「えー、律さんがからかってるんじゃないのぉ?」

奈々穂「バカッ! 入るな!」

れいん「じゃあ、木の周りを調べてみます」

奈々穂「琴葉と一緒に周るんだ。絶対、木には触れるなよ」

れいん「はいっ」

琴葉「はい」

澪「……」

プッチャン「……茫然自失だな」

久遠「プッチャンさん、なにが起こったのか、情報をいただけるかしら」

プッチャン「あぁ、覚えてる限り話してやるよ。全てな」

久遠「では、りのが目の前で消えたのは事実ですか?」

プッチャン「あぁ。なんの前触れも無く消えやがった」

奏「プッチャンさん……。りの以外にも……?」

プッチャン「あぁ、その通りだ。りのが空洞に入って消えた後、
       追ってきたツインテールが消えた」

紬「あずさちゃん……!」

プッチャン「二人が消えたのを不思議に思って入ってきた歩と香、二人は同時に消えたぜ。
       俺の後ろで気配が消えたってだけだから、消えたってのも語弊があるかもな」

久遠「いえ、あなたをここに置いてく理由がありませんわ」

奈々穂「一応、可能性として訊くが、これは悪ふざけではないだろうな」

プッチャン「アイツらに聞けば分かることだろ?」

れいん「ダメ、入り口はそこしかないし」

琴葉「抜け出せる穴もありません」

プッチャン「そういうことだ」

奈々穂「……」

久遠「では、どうしてあなただけがここに残されたのか」

純「た、確かに……」

プッチャン「簡単なことだ。
      魂の上に精神が宿り、肉体がそれを象る。俺には二つ足りてねえからな」

奏「……」

プッチャン「早い話が人形だからってだけだ。他に理由はねえはずだぜ?」

久遠「そのようですわね」


ザザッ


奈々穂「応答してください。金城奈々穂です」

『は~い、どうしましたか~?』

奈々穂「緊急事態です。急いで指定場所へ行き、さわ子先生と待機をしていてください」

『はい、了解しました』


ザザッ


奈々穂「琴葉、指定場所へ行き、事情を説明。
    聖奈さんと一緒に、以前に起きた神隠しの情報をリサーチしてくれ」

琴葉「了解しました」

奈々穂「あと、警察へはさわ子先生に任せる、と」

琴葉「はい」サッ

純「……」

澪「……」

紬「失踪した三人は未だに見つかっていないのですか?」

久遠「いえ、一人だけ戻ってきたとありました。
   あとの二人は……」

紬「……」



― 指定場所 ―


みなも「えー!? やだよぉ~早く行こうよ~!」

唯「やだやだ~」

聖奈「困りましたね……」

まゆら「さっきの無線はなんだったのですか?」

聖奈「詳しくは分かりませんが、緊急事態だということです」

まゆら「ま、まさか……! 巨額の費用を使った仕掛けが作動しなかったとかじゃないですよね!?」

聖奈「うーん、そういう事態ではないと思いますけど……」

唯「早く戻って1位の豪華デザートをいただきたいんだよ!」

みなも「そうだそうだ! ケーキ! ケーキ!」

和「あら、唯たちが先に来ていたのね」

唯「和ちゃん後ろだよっ!」

白い影「ふっふっふ、お前達が来るのを――」

和「さわ子先生、札はどこですか?」

さわ子「……っ」ブンッ

ペチン

シンディ「こ、怖い」ビクビク

さわ子「仮面取ったわよ!」

唯「さわちゃんは、素顔が一番怖いもんね」

憂「山中先生でしたか……」ホッ

さわ子「三人には車に乗せてあったケーキをあげるわ」キラキラ

小百合「かたじけない」

憂「わぁ、どれでもいいんですか?」

さわ子「えぇ、どうぞ」ニコニコ

シンディ「ベリーサンクス」

みなも唯「「 えー!? 」」

さわ子「唯ちゃんが悪いわ」

みなも「唯さん~!」

唯「ひどいよさわちゃんっ」


シュタッ

琴葉「聖奈さん」

聖奈「状況は?」

琴葉「4名……いえ、5名が消息を絶ちました」

聖奈「……本当なの?」

琴葉「はい。にわかに信じられませんが、一人、律さんが私たちの目の前から消えたのを確認しています」

聖奈「……」

琴葉「情報収集をするようにと。あと、さわ子先生に警察への連絡判断を委ねられています」

聖奈「琴葉ちゃんは先生に事情を。私は過去の記録データと新聞を当たります」

琴葉「はい。伝えた後、私も収集に入ります」

聖奈「よろしくね」




みなも唯「「 ん~♪ おいしい~! 」」ホンワカ

まゆら「管理人さんが作ったケーキですね、おいしい~」

憂「ほんと、おいしいです」

琴葉「さわ子先生、こちらへ来てください」

さわ子「どうしたの?」

和「?」

琴葉「実は……」




聖奈「あとは、発電装置があれば……あった」

まゆら「そ、それは小型の発電装置! 見るからに高級品ですけど!?」

聖奈「購入しました」

まゆら「あ、あれ? どうしたんですか、聖奈さん……なんだか深刻そうですね……」

聖奈「……」カタカタカタ

まゆら「生徒会のサーバにアクセス……? ……神隠し……ですか」

聖奈「今、起きた出来事です」

まゆら「そ、そんな! 一体誰が!?」

聖奈「2番チームと、律さんです」

まゆら「5人も……そん…な……」

聖奈「まゆらさん、そこに関連の記事がありますから、情報を」

和「神隠し、ね」ペラッ

聖奈「……」

まゆら「あ……和さん……」

和「事実なの?」

聖奈「はい。2番チームと律さんが」

和「……そう」

まゆら「わ、私は新聞を調べます」

聖奈「……」カタカタカタ

和「唯、こっちにきて」

唯「ん~?」モグモグ

和「律と梓。りのと香、歩の5人が神隠しにあったわ」

唯「え……」

聖奈「……」カタカタカタ

唯「えっと……」

和「これは肝試しの演出じゃないわよ」

唯「そ、そうなんだ……。えっと……」

和「……」

唯「どうすればいいかな?」

和「まずは情報を探しましょう。まゆらさんがみている記事の量が多いから手分けして、ね」

唯「分かったよ」

和「聖奈、神隠しと断定するからには、以前にも似た事例があったのよね?」

聖奈「はい。三名が失踪し、一人が戻ってきているみたいです」

和「聞いた唯?」

唯「うん。その一人が見つかった状況を重点的にだね」

和「えぇ……」

聖奈「助かります」

さわ子「三時間で見つからなければ捜索願を出すわ」

聖奈「……はい」


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最終更新:2012年07月12日 22:15