― 神木 ―
プッチャン「止めとけ、同じ場所に出るとは限らねえぞ」
澪「で、でも……!」
プッチャン「行って戻ってこれる保証もねぇんだ、軽はずみな行動はお勧めしねえぜ」
澪「……」
純「軽はずみなわけないでしょ!」
プッチャン「こっちだって、りの、歩、香が消えてんだ。そんなこと分かってるさ。
だからこそ安易に動くなと言ってんだ」
純「っ……!」
奈々穂「今は午後九時だ。どうして逢魔時や丑三つ時ではないこの時間帯なんだ?」
プッチャン「そんなもん俺が知るかよ」
小百合「4番チーム、5番チーム共に指定場所で待機しています」
れいん「小百合!」
小百合「私は遊撃だ。こっちの方が合っている気がしてな」
プッチャン「けっ、力でどうこうできることじゃねえだろうが」
小百合「……」
奈々穂「ここまで攻撃的なのも珍しいな。焦っているのか?」
プッチャン「たりめーだ!」
奈々穂「それなら落ち着いて、消えた時の事を鮮明に思い出せ」
プッチャン「あぁ?」
奈々穂「4人が消えた状況に共通点は無かったか?」
プッチャン「俺の目は前に付いてんだよ、後ろで何が起こっているのか確認できねえよ」
奈々穂「……ふむ。では、なにか聞こえたか?」
プッチャン「……」
奈々穂「……」
プッチャン「そういえば、りのはナニカを拾っていたな」
奈々穂「……それはなんだ?」
プッチャン「分からねえな。だが、他の3人も消えた後にナニカが落ちる音を聞いた」
奈々穂「そのナニカに触れた可能性があるな。見てくる」
タッタッタ
澪「律もそれを拾ったのか」
プッチャン「多分な」
久遠「梓さんが森の中で迷っていたのは、夕方でしたわね」
れいん「そうさね、その後に小百合と決闘の雰囲気を出したからね」
小百合「……」コクリ
久遠「その時に、さっきの紐を破っていたということは……。ありませんわね、距離的に」
純「あ、でも、その時に神木のこと聞いてたよね、梓……」
久遠「……えぇ」
れいん「遠くから見ていたってことだったね」
小百合「これだけでは確たる事実に辿り着けない」
久遠「破られた紐、鳴り止まぬ鈴の音……」
澪「?」
久遠「私たち以外に、誰かがいるようですわ」
れいん「!」スッ
小百合「!」カチャ
プッチャン「推測だけで物を言ってんじゃねえ。消えたのは木の下なんだぞ」
久遠「誘われている、とは感じませんの?」
プッチャン「へっ、どこの酔狂野郎がそんなことしてんだよ」
久遠「だからこそ、警戒は怠らないようにするべきですわ」
小百合「その可能性があるなら、指定場所から離れるべきではなかったな」
れいん「だ、大丈夫じゃない? 琴葉もいることだし」
小百合「戦力が傾きすぎている。私は指定場所に戻ります」
久遠「えぇ、お願いしますわ」
小百合「はい」ササッ
プッチャン「誘われると言えば、りのが声を聞いたと言っていたな」
久遠「具体的には?」
プッチャン「さぁな。本人が消えた以上、それしか分からねえ」
久遠「……」
純「あの二人はずっと何をしているんでしょう……?」
プッチャン「会話じゃねえか?」
奏「……」
紬「……」
奏「寂しい、と言っています」
紬「この木が……ですか?」
奏「えぇ……」
紬「……」
奈々穂「会長! この勾玉に見覚えはありませんか!?」
奏「……え?」
奈々穂「デジカメで木の空洞内を撮影したんです。不自然なんです、この勾玉」
紬「……」
奏「いいえ。初めて見ました」
奈々穂「そうですか。……それでは!」
タッタッタ
紬「……あれに触れたのかしら」
奏「えぇ、恐らく」
紬「……」
― 香 ―
香「かだでざばぁ~」ボロボロ
香「ごごどごぉ~」ボロボロ
香「ひっく……」
香「なんだか……疲れちゃった……」グスッ
香「……」
香「歩いても……歩いても……景色は変わらない……」
香「誰にも声が届かない……」
香「……」
香「りのが居なくなって、梓さんが目の前で消えて……」
香「隣に居たはずの歩が居なくなってて……ここに……居て……」
香「あー! もうっ! 全部りののせいじゃない!」
香「りのが極上生徒会に入りさえしなけりゃこんなことにはならなかったのにぃ! ムキー!!」
香「りのに会ったらギャフンと言わせるんだから!」
香「……会ったら…………」
香「りの……どこに行ったのよぉ……」
香「みんなどこに行ったのよぉー!」
香「……」
香「もう疲れたー! 歩くの止めたー!」ゴロン
香「……」
香「さっきまで夜だったのに、青空が見える」
香「……」
香「雲が流れていない」
香「……」
香「ここって異次元ってヤツなのかなぁ……」
香「ははは……」
香「そんなバカな……」
香「……」
香「お風呂入りたいなぁ」
香「奏さまのお背中を流したりなんかして」フヘヘ
香「…………ハァ、虚しい」
香「……」
香「どうしよう」
奏「香、ここにいたのね」
香「あ、あれ? 奏さま……?」
― 梓 ―
梓「むぎせんぱ~い!」
梓「唯せんぱ~い!」
梓「律せんぱ~い!」
梓「澪せんぱ~い!」
梓「和せんぱ~い!」
梓「純~! 憂~! さわ子先生~!」
梓「りの~!」
梓「……」
梓「唯先輩のお菓子、勝手に食べてすいませんでした~!」
梓「律先輩のカチューシャ、勝手に使ってすいませんでした~!」
梓「澪先輩のピック、勝手に使った挙句割ってしまってすいませんでした~!」
梓「和先輩のメガネ、勝手に借りてすいませんでした~!」
梓「ごほっ……」
梓「懺悔してるみたいだなぁ」
梓「……ハァ」
梓「さっきまで夜だったのに、夕方かな、それとも朝日……?」
梓「見たことあるようでない景色……」
梓「……」
梓「喉渇いたなぁ……」
梓「……りのがいなくなってから……どうなったんだっけ」
梓「あの時にナニカが起こったのは確実……」
梓「でも解決方法は全く分からない……」
梓「……」
梓「風は無いのに、何故か爽やかな気分になる」
梓「景色が綺麗だからか、心が落ち着いていく」
梓「だから! ここにいてはいけないって分かる!」
梓「ここから離れられなくなるから!」
梓「唯せんぱ~い! 一緒に美味しいお菓子食べましょう~!」
梓「律せんぱ~い! 一緒に遊びましょう~!」
梓「澪せんぱ~い! 一緒に演奏しましょう~!」
梓「和せんぱ~い! 純~! 憂~! さわ子せんせ~い!」
梓「ハァ……喉が渇く……」
梓「むぎせんぱ~い! 紅茶淹れてくださ~い!」
梓「みんなでティータイムしましょう~!」
梓「ごほっ……喉が痛い……」
梓「むぎ先輩の淹れた紅茶で……」
梓「たくさんたくさん……ティータイム……しましょう……」
梓「……」
梓「……なんだか、疲れる」
梓「どうでもよくなってくる」
紬「ティータイムしましょうか、あずさちゃん♪」
梓「むぎ……せんぱい……」
― りの ―
りの「うわぁぁああん!」ボロボロ
りの「アユちゃぁん! 香ちゃぁん!」ボロボロ
りの「どこいったのぉ! 一人にしないでよぉおお!」ボロボロ
りの「梓さぁん!!」ボロボロ
りの「やだよぉ、独りぼっちはいやだよぉおお!!」ボロボロ
りの「ぷっちゃぁん! やだ、やだよぉおお!」ボロボロ
りの「もう独りになるのはいやだよぉぉおお!!」ボロボロ
りの「うわぁぁあああん!!!」ボロボロ
奏「りのは独りじゃないわ」
りの「か、奏会長ぉぉお!!」ガバッ
奏「りのは泣き虫さんね」ナデナデ
りの「ぐすっ、そうですよぉ、私には頼る人がいないんです」ボロボロ
奏「ほら、涙を拭いて」フキフキ
りの「ぐすっ」
奏「私がりのを抱きしめてあげるから、落ち着くまでこのままでいましょう」ギュウウ
りの「あ、ありがとうございますぅ」ボロボロ
奏「あら、またなの?」
りの「安心したら涙がとまらなくなったんですぅ!」ボロボロ
奏「あらあら、しょうがないわね」
りの「私はしょうがない子なんですぅ!」ギュウウ
― 歩 ―
歩「わぁ! あっちにはサグラダファミリアが!」
歩「あっちにはノートルダム!」
歩「凱旋門まである!」
歩「世界一周した気分~♪」
歩「ってこれ、確実に私の精神に反映されてるじゃないの」
歩「あの山はマチュピチュで、シドニーのオペラハウス」
歩「ぜーんぶ、旅行雑誌でみたものばっかり。並んで見てもつまんないよ」
歩「……」
歩「……良くない世界だって分かっているのに、居心地がいいのはどうしてかなぁ」
歩「このまま、ずっとこうしていたいなぁ」
歩「……なんて」
先生「それならずっとここにいよう、桜梅」
歩「せ、先生! どうしてここに!?」
先生「迎えに来たんだ。さぁ、行こう」
歩「む、迎えに来たって……先生は、聖奈さんと……」
先生「桂のことか? 実は俺、彼女より桜梅のことが」
歩「!」シュッ
先生「うわっ! 危ないな!」
歩「その顔で、その声で、聖奈さんを傷つけることを言うと、赦さない」
先生「……」
歩「今度傷つけることを言ったら、クナイが足元じゃなくて、体に刺さると思ってください」カチャ
先生「フフッ、アハハハハ」
歩「あなた、誰ッ!?」
「ボクが誰であろうと、そんなことはいいじゃないか」
歩「……!」カチャ
「無駄だよ。そんな物でボクを倒せるわけが無い」
歩「!!!」
「フフッ、君は賢いね。瞬時に状況を把握できる力を持っている。だから、ボクの力も分かるはずだ」
歩「わ、私を……私たちをどうするつもり?」
「さぁ? それは個人が決めることでボクが決めることじゃないよ」
歩「みんなに手を出したら――」
「本当は気付いているんだろう?」
歩「?」
「君の本心を」
歩「な、なにを……!」
「君の心の中に居た先生。彼は君を助けてくれる可能性があった人物だ」
歩「――!」
「忍者の名家に生まれて、才能のある君は縛られた人生を、望まない世界を歩み続ける運命にあった」
歩「……」
「そんな境遇から救い出してくれるはずの先生」
歩「…」
「その先生が、君を裏切った」
歩「」
「もう、逃げることは出来ない」
歩「ニゲラレナイ」
「それなら、一生をここで過ごそうよ」
歩「ズット、ココデ」
「そうさ。逃げられない現実から逃げられるのはここだけ」
歩「ココダケ」
「あの先生さえ叶えてくれなかった世界がここにあるよ、桜梅歩」
歩「ウン、ワタシ、ココニ――」
「歩! しっかりしろ!」
歩「!」
「な、なにッ!?」
歩「り、律さん!」
律「惑わされるな!」
歩「あ、あれ?」
律「ってか、おまえ! 人の心盗み見てんじゃねえ!」
「ど、どうして……お、お前は呼んでないぞ!」
律「ひょっとして……もう一人、ここに入り込んでいる人物を知らないのか?」
「くっ!」
シュウウ
最終更新:2012年07月12日 22:23