― 草之上 ―
りの「むにゃむにゃ」
奏「ぐっすり寝ているわね」
奈々穂「騒動なんて知る由も無く、な」
プッチャン「起きろ!」ペシペシ
りの「いた! いたた、なにするのプッチャン!?」
プッチャン「りののおバカ!」パーン
りの「はぅっ!」
プッチャン「どれだけ心配したと思っているんだ!」
りの「え? どういうこと?」
香「私たち、神隠しに遭ったのよ」
歩「私もね」
りの「カミカクシ?」
香「覚えてないの?」
りの「???」
久遠「でも、無事で何よりですわ」
りの「暖かい夢を見ていたよ、プッチャン」
プッチャン「夢、だぁ?」
奏「どんな夢?」
りの「奏会長と、一緒にリリアンをしている夢です~」
奈々穂「あ、そう」
まゆら「人騒がせな……」
奏「まぁ……」
りの「ずっと一緒にいたいなぁって思っていたんですけど」
歩「……」
奏「けど?」
りの「極上生徒会のみなさんとも一緒にいたいなぁって思ったら、プッチャンに起こされて目が覚めました」
プッチャン「へっ」
シンディ「グッド」
小百合「何はともあれ、良かった」
みなも「ほんとだよぉ~、りのってば」
りの「えへへ、ごめんねぇ~」
聖奈「ほんとうに、良かった」
歩「!」ササッ
聖奈「あら?」
歩「!!!」ビクッ
聖奈「歩ちゃん? どうして隠れるの?」
歩「な、なんでもないです! 律さんのところに行ってきます!」サッ
奈々穂「どういうことだ、歩! 待て!」
聖奈「嫌われたのかな……?」ションボリ
みなも「なんだか照れてたみたいだけど~?」
れいん「これで安心、ハッピー、終わりってことで~、ふろ入りましょう~!」
奈々穂「いや、まだハッピーエンドじゃないぞ」
香「どういうことですか?」
奈々穂「律さんがまだ行方不明なんだ」
香「え――」
奈々穂「歩は何を知っているんだ?」
香「律さんが……どうして……」
奏「……」
…
奏「……」
りの「会長~、どうしたんですか~?」
奏「この木と、会話をしていたの」
りの「そうなんですか~」
プッチャン「おいおい、適当にリアクションすんなよ」
奏「……」
りの「……私も、この木に呼ばれたような気がします」
奏「そう……」
プッチャン「どんな会話をしてんだ?」
奏「律さんの居場所……」
プッチャン「で、なんだって?」
奏「分からない……と」
― 坂之下 ―
梓「なんで、律先輩だけ、戻ってこないんですか……!」
紬「梓ちゃん……」
澪「りつ……」
唯「りっちゃん……どこいっちゃったの……」
和「……」
憂「……」
さわ子「……」
「うわっ!」
純「……あ」
ゴロゴロゴロ
ズサーッ
律「いってえ……」
紬「りっちゃん!」
律「お、戻ってこれたか……」
澪「りつのおバカ!」パーン
律「痛い!? いきなり平手打ち!?」
澪「むぎが心配していたんだぞッ!」
律「じゃあむぎが叩けばいいだろ!」
唯「りっちゃんのばがー!」ガバッ
律「うわっ!?」
唯「じんばいじだんだだだでー!」ボロボロ
律「……うん。悪い」
紬「りっちゃん……」
律「無事、帰還しました……」
純「どこ行ってたんですか?」ワクワク
律「好奇心だけ!?」
さわ子「びっくりさせないでよねぇ」
和「そうよ」
憂「そうですよ」
律「あはは、ごめんごめん」
梓「律先輩、すいませんでした……」
律「いや、梓のせいじゃないだろ。あの木が悪い」
シュタッ
歩「あれ、何ですか、この再会の再現ドラマみたいな……?」
琴葉「歩、私たちは場違い」
歩「?」
律「みんな戻ってるみたいだな、本当によかった」
紬「りっちゃんが助けてくれたの?」
律「違う。……忘れ物があるから、神木に戻ろうぜ」
梓「え、えっとぉ」
澪「律、怖くないのか?」
律「大丈夫大丈夫」
純「なんで、坂の上から転がり落ちてきたんですか?」
律「お前たちがこんなところにいるからだよっ! もっと普通な場所に居ろよ!
おかげで坂道ゴロゴロって、鼻水付いてるから唯!」
唯「ぐすっ」
― 神木 ―
プッチャン「止めとけ。また消えたら救いようがねえぞ」
律「だいじょうぶだって~」
澪「お前はさっきもそう言ったんだぞ」
「えっとぉ……」
奈々穂「消えやしないかしっかり見ていないとな」
久遠「そうですわ」
「な、なんか照れるな。……あ、これこれ」
奈々穂「律さんッ! それに触れてはいけない!」
「だから、大丈夫なんだって」
香「律さーん、いますか~」
「心配しすぎだっつの」
歩「律さーん」
「はいはい、いますよ!」
純「なにをしてるんですか?」
「この勾玉に宿らせるんだ」
澪「……」
紬「この木は樹齢何年になるのかしら?」
唯「二千年くらいだって」
梓「二千……!」
聖奈「イエス・キリストと同じ歳ですね~」
香「結構な歳なのに、どうしてあんなことしたんでしょう?」
れいん「隠されていた場所に子供がいたって話しだっけ?」
小百合「歩と香の話ではそう受け取ったな」
りの「子供なんていたかなぁ?」
律「りのは会ってないからな。会う前に自力で帰ってきたんだよ」
りの「そうなんですか。でも、よく分かりません……」
プッチャン「しょうがねえよ、りのだからな」
久遠「前に、神隠しから帰還した一人の証言では、
探してくれている人が居るから、帰らないといけないと思った。とありましたわ」
律「りのが帰れた理由はそれと似ているんだ」
憂「失踪に共通しているのは、私たちと近い年齢です」
律「マジかよ……」
紬「どこまで知ってるの、りっちゃん?」
律「大体な。梓たち4人は正面から招待された。
だけど私は裏口から招かれたんだ。だから出口も違うわけだ」
紬「……出口?」
律「まぁ……そこは後でな」
澪「……」
奈々穂「その勾玉が原因なのでは?」
律「半分正解で半分違う」
紬「どういうこと?」
律「コイツはさ、友達が三人しかいないんだよ。だから精神的に子供だったんだ」
歩「子供……」
奏「そのようですね」
純「……コイツってドイツですか?」
律「あ、あぁ。この木に宿っていたヤツな」ポンポン
奈々穂「その勾玉に触れても大丈夫なのですか?」
律「うん。木に宿っていたヤツが今はこの勾玉に入っているから大丈夫らしい」
奏「その中に?」
律「うん。今は代わりのナニカがこの木に宿っているから、もう神隠しは起こらないぜ」
奏「そうですか……」
唯「りっちゃんが変なことを言ってるよ」
澪「頭打ったんだな」
律「平常だっ! 聞いた話だからな! 私が感じ取ったわけじゃないからな! そんな力ないからな!
だから距離を取らないで欲しいな! お願いします!」ペコリ
歩「大丈夫ですよ、私は分かってますから」
律「違うんだ。あれを経験していない人にアレを伝えるのが難しいんだ」
香「確かに」
梓「頑張ってください、律先輩」
律「経験者だろ! 手伝えよっ!」
紬「りっちゃん、私は……。そうね、うん」
律「距離を感じた!」
― 温泉 ―
歩「律さん、お背中お流ししましょうか」
律「い、いや、いいよ別に」
香「律さん、紅茶に淹れると疲れが取れるというハーブです」
律「うむ。だがしかし、湯に浸かっている今、それが必要かどうか考えたまえ」
純「律先輩、これ、ただの葉っぱですが。どうぞ」
律「……」ポイッ
純「あ……いくらなんでも酷いんじゃないですか?」
律「この温泉の効能はな、リウマチ、肩こりだそうだぞっ!」バシャ
純「わっ!」
律「へへっ、ざまーみろ」
歩「律さん律さん、みてください」
律「……? 小さく波打ってるな、どうやったんだ?」
歩「水遁の術です」
律「ふーん。どうせ手でやってんだろ……。ん? 水遁の術?」
澪「なにか思い出したか?」
律「和にかけられたような……?」
和「それ、私じゃないわよ」
唯「和ちゃんじゃないの?」
和「……私よ。帰ったらちゃんと勉強するって約束、忘れてないわよね?」
律唯「「 はーい 」」
香「律さん律さん、見てください」
律「……ひよこ?」
香「そうです。家から持ってきちゃいました」
律「あ、そう」
歩「律さん律さん」
律「だー! うるさい! しずかに休ませろよ!」
バシャバシャ
澪「やれやれだ」
紬「りっちゃん、モテモテね」ウフフ
梓「助けてくれた恩人ですからね」
澪「律も照れ隠しで怒ったフリしてるからな。放っておこう」
久遠「歩のあんな表情、見たこと無いですわね」
りの「そうだね。びっくりだよ、アユちゃん」
れいん「あっしらも入っていいですか~?」
小百合「れいん、持ち場から離れるな」
れいん「だってさ~」ブー
梓「どうして見張りを付けているの?」
久遠「この島に、私たち以外の人物が出歩いているようなのですわ」
梓「……そうなんだ」
澪「え、え?」ブルブル
紬「根拠はなんですか?」
奈々穂「私から説明しよう。この島が私有地になっているのは知っていますか?」
憂「私は知りませんでした」
唯「私も知らなかったよ~」
聖奈「憂さんが知らないのは当然ですけど、唯さんは船で来たので知ってるはずですよ~?」
唯「船?」
澪「船で軽く説明を受けたけど……」
唯「イルカを探していたときだね」
和「やっぱり聞いてなかったのね」
梓「奏さんの所有島でしたよね」
奈々穂「そうだ。船を降りた際に看板が目に入ったと思う」
律「あー、見た見た。それで不思議に思っていたんだけどさ」
紬「?」
律「看板には、立ち入り禁止、の文字だけだっただろ?」
澪「うん」
律「普通は、私有地につき立ち入り禁止、と書かれるはずだ」
久遠「その通りですわ。ですが、それほど気になる点でもないと思いますが」
律「地元民は知ってるんだろ? 神隠しの森……正確には神木があるって」
奈々穂「……そうですが」ススッ
久遠「……地元民は全員知っていますわね」ススッ
紬「……」ススッ
律「なんで後ずさってんだよ?」
澪「後ろ」ススッ
律「うんー?」
歩りのみなも「「「 水遁の術 」」」
律「うわ――」
ザッパーン
律「ゴボゴボ」
奈々穂「歩! 術を使うな術を!」
歩「あはは、すいませ~ん!」
りの「ごめんなさ~い!」
みなも「きゃはは」
澪「だ、大丈夫か律……」
律「ゲホッ、ゲホッ……そんでさ、
地元民が遠ざかっていた島に、どうして今日、突然行こうと言い出したのかってな」
奈々穂「……それは、会長の意思ですから。私たちには分かりません」
律「その回答なら、納得できたさ。それでいいと思う」ゲホゲホッ
久遠「気になる言い回しですわ」
律「あの経験をしたらさ、奏があの木に呼ばれたのかなって……さ」
梓「……」
奈々穂「会長、どうなんですか?」
奏「月が……綺麗ね」
紬「あ……」
純「月が綺麗ですね」
律「あ、ソウデスネ」
シンディ「アイラヴユー」
唯「太宰治だね」
みなも「へぇ~文学ですね~、唯さん」
唯「えへへ」
和「唯……」
聖奈「みなもちゃん……」
唯「美しい日本文学だよ」
奈々穂「本当に、綺麗な言葉だと思います」
澪「えっと……」
梓「早いうちに訂正しないと……!」
聖奈「夏目漱石ですよ~」
唯「あ、そうなんだぁ、間違えちゃった」テヘ
みなも「我輩は猫である!」
唯「あずにゃん! リピートアフターみーなもちゃん!!」
梓「嫌です」
奏「今回は、ただ理由も無く、みなさんと遊んでみたかっただけです」ニコ
紬「……」
律「なんだ、偶然か」
れいん「副会長~!」
奈々穂「そうだな、そろそろ交代しよう。れいん」
れいん「やったぁ~!」
律「なんで見張りしてんの?」
奈々穂「不穏な輩が侵入しているらしい」
律「あ……心当たりがある」
久遠「それを詳しく教えて欲しいですわ!」
律「え、えっと。黒猫だ。絶対」
奈々穂「紐を破って、鈴を鳴らし、勾玉を置いたのが、黒猫?」
紬「さっき言ってた黒猫様ね」
律「そう。梓たちが神隠しに遭ったことを知らせてくれてたんだよん。……様ってなんだ?」
久遠「そんなことが……」
聖奈「でも、5番のくじを引いたのはどうしてでしょう?」
律「適任者を探していたっぽいな。うまく誘導させられたんだよ。
それは聞いてないから分からないけど」
聖奈「なるほど、それなら辻褄はあいますね~」
れいん「副会長~? まだ~? あっし退屈で窮屈で卑屈になりますよぉ~」
奈々穂「もう見張りはいいぞ、小百合と琴葉にも解決したと伝えてくれ」
れいん「やったね! 小百合~!」
梓「黒猫……?」
最終更新:2012年07月12日 22:30