歩「高校を卒業するまでに、見つかるでしょうか」
律「?」
歩「宮神学園から卒業したら、里に戻されるんです」
律「マジか……」
歩「宮神学園に、奏会長に守られているから、私は……今だけ普通の女の子として生活していけるんですよ」
澪「……」
歩「実習の先生なら私をそこから連れ出してくれる――って、心のどこかで思っていたんですね……」
律「……」
――…
歩「」スヤスヤ
律「……」
澪「動くなよ律」
律「?」
澪「カメラ取って来るから」
律「???」
紬「どうぞ」
澪「ありがと……って!」
紬「シー……」
澪「ッ!」
律「さっきの新聞紙はむぎだったのか……」
紬「そうです」キリ
澪「撮るぞ」
律「なんでだよ」
澪「律が膝枕してるんだぞ、これは貴重だ」
紬「うんうん」
歩「」スヤスヤ
律「やめろこら」ヒソヒソ
パシャッ
澪「……よし」
紬「見せて見せて」
澪「……」
紬澪「「 おぉ…… 」」
律「……気になるな」
紬「月に照らされた二人、蒼い光を受けているわ」
澪「自分で言うのもなんだけど、素晴らしいぞ」
律「み、見せろ」
歩「う……ん……」
律「……!」
澪紬「「 シー…… 」」
歩「」スヤスヤ
律「……」ホッ
パシャッ
律「ッ!?」
紬「今の、とても良かったと思うの」
澪「うん。ピュリッツァー賞も夢じゃない」
紬「歩ちゃんを見守るりっちゃんの優しい表情……」
澪「律を頼りながら安心しきっている歩の寝顔……」
紬澪「「 おぉ……! 」」
律「あのな……」
歩「」スヤスヤ
紬「人間万事塞翁が馬、ね」
澪「少しズレていたら不幸なことが起きていたけど、なにが幸福かは分からないもんだな」
律「……」
紬「……」
澪「……」
歩「」スヤスヤ
紬「りっちゃん、寝なくていいの?」
律「……あぁ。今寝たら、悪い夢見そうでな……」
紬「……」
律「今更ながら、怖くなってくる。
もしも、を考えてしまうんだよ。……もしも、あの時」
澪「今なら、大丈夫だろ? ちゃんと手の中にいるんだから」
歩「」スヤスヤ
律「そうだな……」
紬「蚊取り線香と、虫除けスプレーと、タオルケット」
澪「用意がいいな」
紬「うふふ」
律「眠くなったら、ここで寝るから」
澪「うん」
紬「分かった」
律「……」
澪「……」
紬「……」
歩「」スヤスヤ
律「テントに戻らないのかよ」
澪「律が眠くなるまでいるよ」
紬「うん」
律「そっか……」
――…
奏「むぎさん……」
紬「あら、おはようございます」
奏「どうしてこんなところに……?」
紬「うふふ」
澪「」スヤスヤ
律「」スヤスヤ
歩「」スヤスヤ
奏「歩……」
紬「……」
奏「そういうことでしたか」
紬「……」
奏「お見送り行けなくて心苦しいですが、ここで失礼します」
紬「えぇ」
紬「それじゃあ、またね。神宮司奏さん」
――…
チャッチャラチャンチャラランラン チャンチャンチャチャーン
ウデヲマエカラウエニアゲテ オオキクセノビノウンドー
イッチニー サンシー
律「ラジオ体操ッ!?」ガバッ
澪「っ!」
律「……あれ?」
澪「驚かすなよ……りつ……」
チャンチャラ チャンチャン
律「ラジオ体操か……」
澪「ふぁぁ……朝か……」
律「腕が鳴るぜ!」
テッテッテ
澪「……背中が痛い」ギシギシ
ヨコマゲノウンドー
唯「いっちにーさんしー」
みなも「ごーろっくしっちはっち♪」
りの「にーにっさんしー!」
れいん「ごーろくしちはち~」
律「こら、れいん! だらしないぞ!」
れいん「はいっ! すいません、りっちゃん隊長ー!」
歩「おはよーございます、律さん!」
律「うむ、おはよう。元気があっていいな! 人数が足りないけどどうした!」
唯「朝ごはん作ってる人と、テントでさんしー!」
みなも「ごーろっく、寝てるよさんしー♪」
律「そこ! もっと背筋を伸ばせ!」
りの「はいー!」
アシヲヨコニダシテナナメシタニー
律「歩! 足をもっと開け!」
歩「はい!」
律「みなも――」
澪「うるさいっ!」スパーン
――…
香「律さんはどうしたんですか?」
澪「一人でラジオ体操やっているから、先に食べていよう」
りの「あれ、奏会長がいないよ」キョロキョロ
プッチャン「昨日の夜に、朝から出かけると言ってただろう」
りの「そうだったっけ?」
プッチャン「朝からボンヤリしてんじゃねえよ」
紬「……」
奈々穂「それでは、いただこう」
聖奈「いただきま~す」
「「「 いただきま~す 」」」
梓「おいしいですね、むぎ先輩」
紬「うん。味付けがいいわね」
香「ありがとうございます!」
紬「香ちゃんが作ったのね」
香「そうです! 昨晩のうちに仕込みをしていました!」
久遠「テンション高いですわね」
小百合「味噌汁が食べられるなんて、素晴らしい」
れいん「ホントホント、手間かけてるね~」
純「たんと召し上がれ」
れいん「料理もできるんですかぁ~」
純「…………味噌汁だけね」
さわ子「もぐもぐ」
唯「さわちゃん、ご飯食べながら新聞を読むのはいけないんだよ」
さわ子「いいのよ、私は大人だから」モグモグ
唯「大人ってずるいよね」
みなも「ね~!」
澪「高校三年生と中学一年生が共感してる……」
和「唯のいいところよ」
憂「……」
奈々穂「憂さんは複雑な表情だな」
まゆら「日経株価はどうですか?」
さわ子「え~と、あらら日本の銀行様が下落してるわね」
久遠「……」
まゆら「先日から下がり始めたようですよ」
さわ子「ふ~ん……」
奈々穂「聖奈さん」
聖奈「は~い」ガタッ
スタスタスタ
さわ子「?」モグモグ
プッチャン「ガツガツガツ」
りの「あー! プッチャンそれ私のだよ~!」
プッチャン「いいじゃねえか、減るもんじゃねえし」
りの「私の食べる分が減ったよー!」
香「どうしたんですか、副会長。箸が進んでいませんが」
奈々穂「いや……なんでもない」
プッチャン「サンドイッチに箸なんて使うかよ」
香「だまらっしゃい!」キッ
紬「りのちゃん、食が進んでいないみたいだけど」
りの「食べるの無くなっちゃいました」アハハ
紬「私のでよかったら、おにぎりをどうぞ」
りの「わぁ、ありがとうございます~!」
紬「いえいえ~」
梓「むぎ先輩、律先輩のでよかったらどうぞ」
律「……」
梓「なんてね」
律「なにが、なんてね、だよ。まったく」
歩「どうぞ、お茶です」
律「うん、ありがと。。歩は気が利くなぁ~」
歩「えへへ」
梓「日経平均株価が大幅下落だそうですよ律先輩!」
律「株に興味ねえよ! 誤魔化そうとするな!」
唯「あずにゃん、銀行が下落したんだよ。
だけど、このままいけば市場に影響が出ることは間違いないだろうね」キリ
律「誰だおまえは」
憂「今日も暑い一日になりそう」
りの「ほんとにいい天気だね~、こういう日は海で泳ぐのがいいんだよね~」
澪「さわ子先生」
さわ子「ダメよ。昼には帰るんだから」
唯「大人って厳しいよね」ションボリ
みなも「帰っちゃうの……?」ウルウル
唯「帰らないよ!」
みなも「やったぁ!」
憂「お、お姉ちゃん」
さわ子「……」ズズーッ
唯「ごめんね、みなもちゃん……」ウルウル
みなも「ううん。みなも、分かってたもん」ウルウル
聖奈「奈々穂さん、こちらへ」
奈々穂「分かりました」
久遠「……」
琴葉「……」
律「一人でラジオ体操楽しかったなー!」ジーッ
澪「……フン」
香「あははっ、律さん本当に一人で体操したんですか」
みなも「きゃははっ、律さん真面目~!」
りの「あはははっ、けほっ、けほっ」
プッチャン「なにやってんだよ、りの」
紬「はい、お茶」
りの「す、すみません……」
紬「みんなに聞いて欲しいことがあるの」
梓「?」
律「なんだよ、改まって……」
澪「?」
憂「なんですか?」
和「お別れの挨拶ね」
歩「!」
紬「ううん、違うの。奏さんの大切な話」
香「会長についてですか?」
律「ん? 会長って言ってるじゃねえか」
香「アレを引っ掛けるための嘘ですよ」
律「おぉ」
れいん「大切な話ってなにかな~?」
小百合「さぁ、見当がつかない」
まゆら「……?」
みなも「なになに~?」
琴葉「……」
久遠「琴吹グループのご令嬢、琴吹紬。神宮司とはどこまで繋がっていますの?」
紬「分かりません」キッパリ
久遠「そうですか。……え? 分かりませんの?」
紬「いえす」
りの「大切な話って、なんですか? 紬さん」
紬「奏さんは、お見合いさせられます」
琴葉「!」サッ
りの香「「 えぇーッ!? 」」
久遠「そ、それは本当なんですの?」
律「マジかよ!?」
紬「はい」
澪「せ、政略結婚なのか……?」
紬「そうみたいね」
和「身近で聞くと、少し戸惑うわね」
憂「う、うん」
梓「奏さんも高校三年生です。きっと色々と事情があるんですよ」
純「この人だけ冷静っ!」
れいん「ぬぬぅ~! どこの馬の骨とも知らないヤツに~!」
香「潰すッ!」
さわ子「あら、ナイターで延長の可能性があるわね。録画大丈夫かしら」
まゆら「もう少しこちらにも興味を持ってください~」
聖奈「紬さ~ん、こちらへいらしてくださ~い」
紬「は~い」
テッテッテ
小百合「大変なことになったな」
りの「好きでもない人と結婚なんて、ダメだよ~!」
プッチャン「大人は大人の事情ってもんがあるんだよ」
りの「そんなの知らないもん!」
梓「……」
最終更新:2012年07月12日 22:35