聖奈「虚言、ですね」

紬「……」

奈々穂「政略結婚の話は今までもこれからも絶対にあり得ません」

紬「……」

聖奈「あなたは物事の分別をよく分かっている人物と判断してきましたが。
   改める必要がありそうです」

紬「……」

聖奈「よく考えて返答してください」

奈々穂「……」

聖奈「返答次第では私はあなたを赦しません」

梓「待ってください!」

紬「あずさちゃん」スッ

梓「……」ムスッ

聖奈「なぜあんな嘘を?」

紬「……」

梓「……」

奈々穂「……」

聖奈「答えられませんか」

紬「はい。分かりません」

聖奈「ッ!」

奈々穂「聖奈さん……」

梓「む、むぎ先輩……今のは……その……」

紬「……うん。でもね、どうして政略結婚と言ったのか…分からないの……」

聖奈「……もう、いいです。琴葉さん」

琴葉「はい」

聖奈「シンディさんに連絡を取って、戻ってくるように伝えてください」

琴葉「分かりました」サッ

紬「奏さんが、一人で頑張ってみる、と言っていたの」

奈々穂「奏が……?」

聖奈「……?」

紬「でも、それは誰も臨んでいないような気がして……」

聖奈「……」

紬「みんなで迎えに行くには、どうしたらいいのか考えていたら……」

梓「政略結婚ですか」

紬「……そう。ほら、相手が悪いことが多いでしょ?」

梓「ドラマとかでは……そんなイメージですね。親が勝手に決めたとか」

久遠「敵を作ればまとまって動きやすい。まさにその通りですわね」

聖奈「……」

久遠「船の手配は済ませましたわ。奈々穂さん、相手の情報は分かりますの?」

奈々穂「恐らく、株価が下落した銀行だ」

久遠「確証はありませんのね」

奈々穂「あぁ。この件は全く知らされていないからな、確実とはいえない」

久遠「奈々穂さんは奏会長の幼馴染。極上生徒会が動くには足りる信憑性ですわ。
   シンディさんの準備が出来次第、向かいますわよ」

奈々穂「分かっている。ヘリで先に向かう人選はこっちでする」

聖奈「……」

久遠「なぜ、生徒会以外の人間、紬さんに話したのか。考えてみるといいですわ」

聖奈「――!」

奈々穂「おまえは知っているのか、久遠」

久遠「えぇ、共に過ごしていて、それに気付かない聖奈さんではないでしょう?」


スタスタスタ


聖奈「……」

紬「……え、えっと」

聖奈「先ほどの非礼、お詫びします」ペコリ

紬「い、いいえ」ペコリ

梓「……」

奈々穂「奏会長を迎えに行きましょう」

紬「そうしましょう」キリ

聖奈「……はい」



― ヘリコプター ―


律「私弱いんですけど!?」

奈々穂「訓練は受けていない、と?」

律「当たり前だろ!? ごく普通の女子高生だから! 
  放課後に部室で食って飲んで演奏してるだけだから!」

歩「……」

律「あ、別に嫌味じゃなくてだな」

歩「……そうですよね」

律「う……、なんかトゲがある」


パラパラパラパラ


律「あ、運転手さん。そこ曲がったところで降ろしてください」

シンディ「ノー」

律「なんで私なんだよ! 流れ的にむぎだろ!?」

琴葉「そろそろ着きます。ご準備を」

小百合「相手は大企業の御曹司。護衛も手練揃いだろう」カチャ

律「だよな!? どう考えても私のポジションは香かれいんだろ!?」

奈々穂「シンディさん、奏会長を運ぶとき、何か聞いていませんでしたか?」

シンディ「……ナッシン」

律「あれぇ、なんで無視されてるんだぁ?」

歩「律さん律さん」

律「ん?」

歩「私、街から出たの久しぶりですよ~」

律「奏にでもお礼言っとけ」

歩「冷たいなぁ……」

律「ってか、ヘリに乗り込む時みんなに変な顔されてたけど、後で説明できるのかよ」

歩「……えっと」

奈々穂「理由はこっちで考えてある。政略結婚というのが功を奏している」

律「? 政略結婚じゃないのか?」

小百合「ではない、と?」

奈々穂「似ているようで、事実は少し違う……」

律「ふ~ん……」

小百合「奏会長……すぐ行きます」

律「シンディすげえな、ヘリの操縦までできるなんて。さすが車両部」

シンディ「サンクス」

律「で、君の素性が知らないんだが?」

琴葉「……」

奈々穂「神宮司家の御庭番です」

律「へぇ、すげえなこの面子!」

琴葉「……」

律「……御庭番ってなんだ」ヒソヒソ

歩「幕府から続く隠密の――」

律「オーケー、オーケイ。充分に分かったよ」

シンディ「ダウン」

奈々穂「降下するぞ」

琴葉「……」

小百合「……」

歩「律さんの状況把握力は武器ですよ」

律「ちげえ! 分かったのは場違いだってことだ!」



― 高級旅館 ―


四兄「よぉ」

奈々穂「四兄ぃ……!」

律「誰だお前は!」

四兄「君こそ誰だよ。宮神学園の生徒じゃないみたいだけど」

奈々穂「……」

律「ごめん、大人しくしてる」

歩「無理に出しゃばらないでください」

律「なんだよ、梓みたいな口調だな」

歩「えへへ」

四兄「緊張感無いな。お前達がここにいるってこと、どういうことか分かってるか?」

奈々穂「分かってるよ。国の未来を左右する事態だってことくらい」

律「え……」

四兄「なら引き返せ」

奈々穂「なにが正しいのかは分からないけど、
     奏さまが助けを求めているのなら、私はそれに応えるだけ」

四兄「……」

奈々穂「琴葉、外からで構わないから、状況を見てきてくれ」

琴葉「はい」サッ

四兄「……」シュッ

琴葉「!」


クルッ

シュタッ


奈々穂「四兄……!」

琴葉「……」

四兄「俺が此処にいる理由、教えてやろうか」

奈々穂「どいてよ」

四兄「それはできないよ。俺には神宮司家を守る使命がある」ジリ

奈々穂「私には、奏さまを守る使命がある。通してもらうよ」スッ

小百合「……」

琴葉「……」

歩「……」


チリンチリン


律「!」

四兄「結構キツイが、負けてやるほど甘くはない。お前達4人の足止めくらいはできるぞ、奈々穂」

奈々穂「いつも負けていたあの頃とは違う」

四兄「俺だけだと思うなよ」

奈々穂「!」

四兄「兄さん達も今日は来ている」

奈々穂「な……!」

律「……ダメだ、一般人の私には付いていけねえ。向こうで待ってるからな~」


スタスタスタ


琴葉「……」

小百合「……」

歩「律さん……」

四兄「なんだ、ありゃ……。隙だらけで浮いた存在だな……」

奈々穂「四兄、一つだけ教えて」

四兄「?」

奈々穂「奏さまが私達に何も言わずに此処に来たってことは……」

四兄「……想像通りだと思うぜ」

奈々穂「!」




律「あの鈴は……」

黒猫「ニャー」

律「やっぱりか。……なんで、ここにいるんだよ」

黒猫「……」ジーッ

律「……」ジーッ

黒猫「ニャー」

律「ニャー」

黒猫「……」

律「ニャー?」

学ラン「……」

律「うおっ!? いつからそこに!」

学ラン「……」スッ

律「?」

黒猫「ニャー」

学ラン「……」

律「喋れよ……。受け取れって言ってるのか?」

学ラン「……」コクリ

律「……なんだこれ、石?」

黒猫「ニャー」ピョン

学ラン「……」サッ

律「塀の中へ入って行った……。ってことは、また助けてくれんのか……?」

歩「律さん、塀の上に居たのって……」

律「あぁ、あっちの世界で助けてくれた黒猫と学ラン男だ」

歩「まだお礼言ってないのに……」

律「また助けてくれるみたいだぞ。理由が分からないけどな」

琴葉「学ラン男?」

小百合「黒猫がいましたね。まさか……」

律「うん。神隠しで会った二人だ。昨日話したのがあの黒猫な」

奈々穂「……そうですか」

律「門の前にはあの人が待機してんのか?」

奈々穂「はい。あれは私の兄です」

律「四兄って呼んでたけど、四人も兄がいるのか……大変だな」

奈々穂「いえ、それほどでもありません。ちなみに兄は六人います」

律「……え、もしかして、あんなのが六人も!?」

奈々穂「全員とは思えませんが、二、三人いると見たほうがいいかもしれません」

律「わたし、いっぱんじんなので、これでしつれいします」

奈々穂「そんなこと言わずに」

律「あのな、跳んでる琴葉を遮るようなヤツだぞ? 
  自慢じゃないけど、私はドラムしか叩けないごくごく普通の女子高生なんです☆」ウィンク

歩「まぁまぁ、黒猫ちゃんが手伝ってくれるならなんとかなりそうじゃないですか」

律「澪ならスルーしないぞ今の……。私になにができるかさっぱりだけどさ。……はい、歩」

歩「貰っていいんですか?」

律「役立つと思う。はい琴葉」

琴葉「……?」

律「小百合と奈々穂にも一つずつ」

小百合「これは、……石ですね」

奈々穂「青白く輝いてるな」

歩「でも、律さんが貰ったものじゃないですか」

律「4つしかないから、君達頑張れっていう気持ちを込めてな! 他人任せ!」

歩「じゃあ、律さんは私が守りますね」

律「頼むぞ」

奈々穂「一つ、訊いていいですか?」

律「?」

奈々穂「律さんから余裕を感じられます。なにか案でもありましたらご教授願いたいのですが」

歩「……」

律「あー、いや。昨日からさ、変な世界行ったりしてるじゃん?」

奈々穂「はい」

律「余裕と言うか、ふざけてるだけなんだよな」

琴葉「……ふざけて…………?」

律「ぶざけて、バランスとってるだけだ。少しでもこの事態を真に受けてしまうと、
  相当へこむだろうからさ。……いつもは唯がいるから、楽になれるんだけど」

小百合「なぜ、落胆を?」

律「非日常すぎるからだよ……。知らない世界に付いて行くって、結構大変だ」

歩「!」

琴葉「……」

小百合「……」

奈々穂「……」

律「それだけ……だ」

歩「昨日の夜って、律さん……落ち込んでいたんですね……」

律「……まぁな」

歩「澪さんがテントから出て行って、
  律さんのところに行ったのかな、と思って付いていったんです」

律「……」

歩「澪さんはそれを、知っていたんですねぇ……」ウンウン

律「こと細かく説明するなっ!」ワシャワシャ

歩「あははっ、ごめんなさい」

小百合「……」

琴葉「……」

奈々穂「……」

歩「あぁ、髪が乱れて……」クシクシ

律「それで、どうすんだよ」

奈々穂「一般人が関与していい問題ではありませんよ?」

律「今更……」

奈々穂「ふふ、冗談です。まず、この石の使い方を教えてください」

律「すまん、知らん!」

歩「えぇー……」

律「すまんと言っただろう!」

奈々穂「コホン。琴葉、この際だ。変装できるな?」

琴葉「はい」

律「え?」

歩「いよいよですね」

小百合「本番だな」

律「誰にでも変装できんの?」

琴葉「はい」

律「……」

奈々穂「奏会長を救うぞ!」



― 裏 ―


五兄「史郎兄さん、持ち場離れてなにしてんだよ」

四兄「わりいな、俺は奈々穂を手伝うことにする」

奈々穂「そこをどいてくれ五兄」

五兄「神宮司家の当主様もお見えになってる」

奈々穂「!」

五兄「お前の出る幕は無い。引き返せ、奈々穂」

奈々穂「……」

五兄「史郎兄さん、自分が何をやってるのか分かってるか?」

四兄「あぁ、俺は今フリーだからな。今は奏様に付いているんだ」

奈々穂「ごめん、五兄」スッ

五兄「その行動が奏様を喜ばせるとでも思っているのか」

奈々穂「!」

五兄「後の事を考えろ。ガキじゃねえんだ」

奈々穂「でも、私は……ッ」

五兄「能力を使うことは不幸じゃない。
   日本がどう転ぶかの瀬戸際でも、お前は同じ行動をとるのか?」

奈々穂「――ッ!」

四兄「行け、お前達は奏様を守るんだろ?」

奈々穂「先に行きます!」サッ

五兄「待てッ!」スッ

小百合「――!」サッ


カキン!


五兄「ぐっ……飛田活生流の……ッ!」

小百合「……ッ」

四兄「コイツを押さえるなんて、やるなぁ」

五兄「チィッ!」ブンッ

小百合「……」ザザッ

四兄「剣術はお前の方が上でも、本気でやらないと痛い目見るぜ~?」

タッタッタ


五兄「待て四兄ィッ!」

小百合「――ッ!」ブンッ

五兄「ッ!」サッ


ガッ!


小百合「……」

五兄「……俺を相手に木刀でやろうってのか」

小百合「無論」




一兄「おや、奈々穂じゃないか」

奈々穂「!」

一兄「……」

奈々穂「奏さまはどこにいる」

一兄「なるほど、御庭番か」

奈々穂「!」ササッ

一兄「なぜ奈々穂に変装しているのか、理由を聞かない限り通せませんね」

奈々穂「……っ」

四兄「げっ、一兄……」

一兄「史郎……」ハァ

奈々穂「……」スッ

四兄「分が悪すぎるけど、二対一だ」

一兄「矩継琴葉。奈々穂と比べるにはやや劣りますよ」

四兄「う……」


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最終更新:2012年07月12日 22:37