― 表 ―


奈々穂「どうして、正面からなんですか?」

律「礼儀だ礼儀」

奈々穂「……裏から三人回しましたよね」

律「ぴぃ~ぷぅ~」

歩「……」


ガラガラガラッ


女将「奈々穂様、どうぞお入りください」

奈々穂「失礼します」

律「……」テクテク

女将「失礼ですが、あなた様は?」

律「わ、わたしだよん!」

奈々穂「?」

歩「?」

女将「???」

律「友人です」

女将「奈々穂様……?」

奈々穂「はい、友人です」カァアア

律「悪いな、奈々穂。恥ずかしい思いをさせちまってよぉ」

歩「ブフッ」

女将「一博様、お連れしました」

一兄「ありがとう」

女将「失礼します」ペコリ

奈々穂「奏会長の居場所は?」

一兄「鶴の間だそうです」

奈々穂「配置はどうなっている」

一兄「奈々穂さんの兄弟以外なら、なんとかいけそうです」

奈々穂「そうか。ご苦労だった、琴葉」


ドロン


琴葉「いえ」

律「ドロンって聞こえたぞ」

奈々穂「琴葉と歩は退路を確保しておいてくれ」

琴葉「はい」サッ

歩「はい」サッ

律「……えっと」

奈々穂「行きましょう、律さん」

律「よ、よし……!」



― 亀の間 ―


律「ここ亀じゃねえか!」

一兄「……」

律「騙されたぜ。なにが、こっちですよ、だ」

一兄「……」

律「聞いてんのか! メガネ兄さんよ!」

奈々穂「律さん……、落ち着いてください」

律「すまん、テンパってしまって」アハハ

一兄「……」

律「あの人、奈々穂のお兄さんだよな?」ヒソヒソ

奈々穂「そうです」

律「目瞑ってなにしてんだ? 明鏡止水?」ヒソヒソ

奈々穂「……似たようなものです」

律「今の内に行こうぜ。奏を見つけないと」

一兄「奈々穂、まだ早いですよ」

奈々穂「!」

律「?」

一兄「あれからそんなに経っていません」

奈々穂「充分経ったよ。私ももう17だ。五年前とは違う」

一兄「それでも、周りからみればまだまだ子供」

奈々穂「それじゃあ、どうしてここまで私たちを通したの?」

一兄「あなた方は敵ではない。それだけの理由です」

奈々穂「……」

律「……」

一兄「桜が丘高校三年生、田井中律さん」

律「なんで名前を……!」

一兄「君は一般人ですね」

律「お、おう」

一兄「外で待っててくれませんか。これから大事な――」

律「人と話すときは目を見て話しましょう~って学校で習わなかったのか」

一兄「……」

律「目なんか瞑ってよ、礼儀を知らないのか」

奈々穂「……」

一兄「これは失礼しました。田井中律さん、あなたには外で待っていて欲しいのですが」

律「どうしてだ?」

一兄「この建物の大きさをみれば分かると思いますが」

律「バカにしてんの?」

一兄「いいえ」


律「はっきり言えよ。お前はこの場に相応しくないって――」

「失礼します」

一兄「どうぞ」


スーッ


女将「御当主様がお呼びです」

一兄「分かりました」

律「……」ムカッ

一兄「仕事がありますので、これで失礼します」

奈々穂「一兄!」

一兄「まだ早い」


スーッ


律「~ッ!」

奈々穂「すいません。いつもはあんなこと……」

律「そんなことはいいよ。そんで、どうすんだよ」イライラ

奈々穂「歩と琴葉が戻るまで、しばらく待機です」

律「そうか……」イライラ

奈々穂「……ここに連れて来たことに、理由があるはず」

律「庶民をバカにしやがったぞ」ムカムカ

奈々穂「律さんを煽ったのか、一兄は……?」

律「キャビアよりイクラがおいしいこと教えてやろうか。食べたことないけども」ブツブツ

「失礼します」

奈々穂「どうぞ」


スーッ


女将「お入りください」

小百合「……」

五兄「……」

奈々穂「小百合と五兄……」

律「?」

奈々穂「小百合?」

五兄「能力を使ったんだよ」

奈々穂「――!」

五兄「当主様が、だ」

奈々穂「……っ」

律「小百合~?」

小百合「……」

律「メガネ取るぞ~」スッ

小百合「……」

律「心此処にあらずだな。なんでだ?」

奈々穂「それは……」

五兄「なんだ、話してないのか。怖いもの知らずにもほどがあるぞ」

奈々穂「……」

五兄「乗り込んでくるからには、全員知っているものだと思っていたが。
   いくらなんでも甘すぎるだろ、奈々穂」

奈々穂「知らなくていいことは、たくさんあるッ!」

律「……」

四兄「こっちだ二人とも」

律「琴葉と歩……? なんで一緒なんだよ……?」

琴葉「……」

歩「……」

律「二人とも、どうしたんだ……?」

琴葉「……」

律「歩! しっかりしろ!」ガクガク

歩「……」フラフラ

律「おい……どういうことだよ奈々穂ッ!」

奈々穂「そ、それは……っ」

四兄「悪いな、奈々穂。俺は今から当主様の護衛に入る」ザッ

五兄「……」ザッ

奈々穂「……!」ザッ

律「な、なんで畏まってんだよ……?」

奈々穂「神宮司家のご当主です」

律「!」


爺「面を、金城奈々穂」


奈々穂「…………はい」

爺「……」

奈々穂「……」

律「……?」

爺「この部屋から出ることを禁ずる」

琴葉「はい」

小百合「はい」

歩「はい」

奈々穂「かしこまりました」

律「な……!?」


スーッ


バタン


律「お、おい奈々穂? どうしたんだよ急に!」

奈々穂「……」

律「奏のとこに行くんじゃないのかよ!」

奈々穂「……」

律「なぁ、琴葉も返事くらいしろよ……」

琴葉「……」

律「小百合……!」

小百合「……」

律「歩、私をからかってんだろ?」

歩「……」

律「変わり身の術教えてくれよ」

歩「……」

律「おいおい、無視すんなってば」

歩「……」


五兄「見てらんねえ……」

四兄「……」


律「な、なんだよこれ」

歩「……」

琴葉「……」

小百合「……」

奈々穂「……」

律「おい、あのジジィがナニカしたんだよな……?」

五兄「……」

律「答えろよッ!」

四兄「これが裏の世界だ」

律「う、裏……?」

五兄「おい、史郎」

四兄「心配するな。一時間で元に戻る」

律「元に戻るってなんだよ! 歩達に異常が起きてるってことじゃねえか、ふざけんなッ!」

四兄「君が吼えたところになにも変わらない」

律「意味が分からねえよッ!」

一兄「これが神宮司家ですよ。田井中律さん」

律「あぁ!?」

一兄「人の心を操る能力」

律「――ッ!」

五兄「一博! 喋り過ぎだ!」

一兄「代々神宮司家の当主はこの能力を持って日本を裏から支えてきました」

律「……」

一兄「奏様もいづれ――」

律「人を操るってか!? ざっけんなッ!」

奈々穂「……」

琴葉「……」

小百合「……」

律「お前達の妹も! 琴葉も小百合も! 歩も! 操られてんのかよ!」

歩「……」

律「意思のない人形じゃねえんだぞ!」

歩「……」ピクッ

律「奏にも今それをさせようってんだな……!?」

一兄「もう、終わってるころでしょう」

律「ははっ。人の心を踏みにじられるのがどれだけムカつくか、やっと分かったぜ香」

一兄「……」

律「潰すッ!」


バタンッ


律「ジジィーッ!!」

四兄「おいッ!」

律「ふぐっ!?」

四兄「どれだけ危険なことをしてるのか分かってないんだよ!」

律「ふぐぐ」


ドカッ


四兄「ッ!?」

律「ぶはぁ」

四兄「な、なぜだ……?」

律「助かったぜ、歩」


歩「律さんは私が守りますから」


律「鶴の間!」

歩「はいっ!」

ダダダダッ


奈々穂「小百合、琴葉。二人に続くぞ」

小百合「御意」

琴葉「はい」

一兄「10分も経っていないのに……なぜ……?」

五兄「……当主様の能力が低下しているのか、一兄」

一兄「いや……」

奈々穂「私たちには意思があるからだよ、兄さん」




律「操られたんじゃねえの?」

歩「石を持っていたから意志が生まれたんです」

律「こんなときにギャグかよ」

歩「違いますよぉ!」



― 鶴の間 ―


社長「もう1時間も経っているぞ!」

秘書「も、もう少しお待ちを」

社長「大体なんなんだ、これは!」

秘書「そ、それは……」

社長「高校生と爺さんを相手にしてどうするというんだ! 時間の無駄だ、いい加減にしろ!!」

秘書「あ、あと少しだけお待ちを!」

奏「……」

爺「奏、はっきり言っておくぞ」

奏「……」

爺「この人物は社長の立場で動ける器ではない」

社長「な、なんだとぉ!」

秘書「お、落ち着いてください社長っ」

社長「おい爺さん――」

爺「……」

社長「……」

爺「一年は持つ。下がれ」

秘書「失礼します。会社に戻りましょう、社長」

社長「……ウム」


スーッ


バタン



奏「……!」

爺「……」

奏「……っ」

爺「会社が傾けば社員は路頭に迷う。分かるな」

奏「…………はい」


『ジジィーッ!!』


奏「……?」

爺「話を続けるぞ、奏」


奏「……」

爺「アレは自分の器を測れず、社員どころか国民をも脅かしたのだ」

奏「……っ」

爺「ならばこちらで矯正してやらねば誰がやる」

奏「……」

爺「……」


ドタドタドタドタッ


『なんだ君達は』

『ここは子供の――』


ドカッ

バキッ


『ぐえっ』

『うげっ』


ドサドサッ


『スゴイネ……』

『引かないでくださいよぉ』


爺「……」

奏「この声……」


バタン


律「奏! 一つ言っておくことがあるぞ!」

奏「律さん! 戻ってください!」

律「りのは、あの世界から――」

爺「慎め」

奏「お待ちくださいおじい様!」

律「……」

爺「部屋に戻れ」

律「…………はい」

奏「……っ」


爺「……」

一兄「神宮司様、失礼します」

爺「……どうした」

一兄「侵入者です」

爺「分かった」スクッ

奏「……」

爺「何か言う事はないか、奏」

奏「……いいえ」

爺「三月までに決意を固めよ」

奏「分かっております」


スタスタスタ


奏「歩、いるの?」


シュタッ

歩「はい」

奏「律さんは?」

歩「副会長と一緒です」

奏「奈々穂……」

歩「すいません。力を無効にする石に心当たりがあるので、離れてもよろしいですか?」

奏「え、えぇ」

歩「失礼します」サッ

奏「……石?」


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最終更新:2012年07月12日 22:40