― 屋根 ―


黒猫「ニャー」

学ラン「……」コクリ

歩「ここにいたのね」

黒猫「ニャ」

学ラン「……」

歩「お願い、さっきの小石を譲って欲しいの」

黒猫「……」クシクシ

学ラン「……」ゴソゴソ

歩「……」

学ラン「……」スッ

歩「あの、我侭なのは承知の上なんだけど、小石じゃないと……」

学ラン「……」

歩「これでも解くことができるの?」

黒猫「ニャ」

歩「でもこれ――」

「いたぞ! 屋根の上だ!」

歩「!」サッ

黒猫「ニャ!」ピョン

学ラン「……」サッ



― 奏 ―


奏「律さんは……?」

奈々穂「歩が見ているわ」

奏「そう……。奈々穂、石ってなに?」

奈々穂「不思議と気力が満たされたの。これなんだけどね」

奏「普通の石に見える……」

奈々穂「さっきは綺麗に青白く輝いていたのだけれど、力を失ったのかもしれないわ」

奏「入手経路に心当たりがあると歩が言っていたけれど、どこから手に入れたの?」

奈々穂「それは知らなくてもいいことよ、奏」

奏「そう……」

奈々穂「もう用事は済んだの?」

奏「えぇ。大体ね」

奈々穂「それじゃあ、どうしようかな」

奏「……ねぇ、奈々穂」

奈々穂「なぁに?」

奏「おじい様はあなたにも力を使ったのね」

奈々穂「……」

奏「……律さんはいまどこに?」

奈々穂「それを聞いてどうするの?」

奏「……」

奈々穂「力を二重にかけることは相手の心に多大な負担となるはずよ」

奏「でも……」

奈々穂「歩がなんとかできそうだったから、律さんのことは心配しないで」

奏「……」

奈々穂「……奏?」

奏「……こんな力、もう嫌」

奈々穂「……」

奏「奈々穂や律さんを操った、この力――」

奈々穂「奏、どうしてみんながここにいるか分かる?」

奏「え……?」

奈々穂「奏を宮神学園の会長として、迎えに来たからよ」

奏「……」

奈々穂「もちろん、能力なんて関係の無い、神宮司奏、個人としてもね」

奏「……」



「失礼します、奏様」

奏「……どうぞ」


スーッ


奈々穂「お兄様?」

四兄「奏様にお尋ねしたいことがございます」

奏「なんでしょう」

四兄「学ランの制服と学生帽を身にまとった男をご存知でしょうか」

奏「ガク……え?」

奈々穂「少し席を外します、奏様」

奏「え、えぇ」

奈々穂「お兄様、奏様のお相手をお願いします」

四兄「……分かりました」ジロッ

奈々穂「……」ツーン




歩「律さん、これを飲んでください」

律「……」

歩「律さん……!」

律「……」

五兄「お嬢ちゃんと同じ力で縛られてる」

歩「!」

五兄「当主様の命以外は耳に入らないだろう」

歩「……っ」

律「……」

五兄「それはなんだい?」

歩「こ、これは、その……」

五兄「……」

一兄「私からも一つお聞かせください」

歩「……」

一兄「あなたが屋根上でそれを受け取った相手。その詳細をね」

歩「ッ!」

五兄「なんだよそれ、侵入者とこの子達が繋がってるってことか?」

一兄「それを知るための質問ですよ。一つを除いては被害が全くないといっていいほどの腕前でした」

歩「……」

一兄「先々代から受け継いだもので、さほど高価なものではありませんが」

五兄「?」

一兄「現当主を縛る品でもあったのです。それを盗っていく理由が知りたいのです」

歩「りつさん……!」

律「……」




― 鶴之間 ―


四兄「こういう役回りか……奈々穂のヤツ……」

奏「?」

四兄「奏様、少し困った表情をされるとよいかと」

奏「???」




香「あんのヤロウ~ッ!」ワナワナ

梓「なんだか、困ってますよ」

唯「あずにゃん、わたしにも見せて~」

梓「どうぞ」

唯「おぉ、はっきりとみえるよ!」

梓「双眼鏡だから当たり前です」

唯「いたよ、奏ちゃん!」

久遠「会長にちゃん付けするのは、唯さんだけでしょうね」

れいん「よっしゃ、始めるとしますか!」

香「意に沿わない結婚は許しません!」

琴葉「では、はりきってどうぞ」

れいん「ものどもかかれー!」トウッ

香「れーちゃん先輩に続けー!」トウッ

タッタッタッタ


梓「続いて行っても、足手まといになる……」

唯「水鉄砲しかないよ~」ウキウキ

みなも「よいしょとぉ」

純「あっ、もう二人走ってる! 準備まだなのに!」

久遠「煽らないでくださいな」

琴葉「陽動チームはこれくらいがいいのかと」

久遠「なんだか、変わりましたわね、琴葉」

琴葉「そうですか……?」




四兄「無礼を承知で。えー、本日はお日柄もよく~」

奏「?」

れいん「ちょっと待ったー!」ドンッ

香「お見合いは終わりです!」ドドンッ

四兄「なんだね、君達は」スクッ

れいん「!」

香「!」

奏「二人ともどうして……」

れいん「退がって、香!」サッ

香「はいっ!」サッ

四兄「へぇ、やるな」

れいん「ま、まずいな~……」

香「隙が無い……」

四兄「者共出会え、侵入者だ!」

黒服「はっ!」

黒服2「お呼びですか!?」


ズラーリ


黒服10「なんだ、ガキじゃねえか」

四兄「手ぇ抜いて返り討ちにでもあったらクビだからなー」

黒服10「……」ゴクリ

れいん「卑怯だよ、男らしくないよー!」

四兄「敵の敷地内でなにを言っている」

れいん「だからって、これだけの人数を集めるなんて臆病だよ腰抜けだよー!」

四兄「……」ピキッ

香「あ、あの……れーちゃん先輩? 火に油を注いでいるような……」

四兄「誰が、腰抜けだって?」

れいん「あはは~……やばー……」


ザッ


小百合「れいん、援護を」

れいん「任せなさいって!」

四兄「急に活気付いたな」

小百合「二人なら、負ける気がしない」スッ

れいん「そういうこと~」スッ

四兄「……飛田はいいとして、角元のデータが未知数だな」


五兄「飛田活生流の! さっきの続きをしようぜ!」

琴葉「あなたの相手は私がします」

五兄「君一人じゃ役不足だっての」

香「じゃ、じゃあ、二対一ってことで」

五兄「……」

黒服5「お前達、仲間か?」

梓「もちろんです」

黒服5「なら塀の上から見ていないであいつらを手伝ったらどうだ?」

梓「ここからでも充分です」

黒服5「?」

みなも「えい~っ」


ピュー


黒服5「な、なんだこれ……うわっ、目がァ!!」

黒服6「バカ野郎! サングラスはいつも付けとけってきつく言われてるだろうが!」

みなも「きゃははっ、おもしろ~い!」

久遠「シンディさん、いつでも逃げられるよう準備はよろしいですか?」

シンディ「オーライ」グッ

久遠「では私も。えいっ」


ピュー


黒服6「うわっ、辛ッ! 目に入らなくて良かった!」

梓「久遠、あの人喜んでるよ」

久遠「手ごわいですわね」

唯「じゃあじゃあ~、山葵味の水鉄砲でいくよ~」

黒服9「遊びのつもりかお前らっ!」

純「こっちは真面目だっての、くらえ!」


ピュー


黒服9「うわぁ!」

純「これは普通の水なんだけどね。心理的に私の勝ち」

黒服9「くそぉ……」ガクッ

梓「むぎ先輩たちは大丈夫かな……」



― 鶴之間 ―


ワァー ワァー


歩「庭でなにが……?」

一兄「本当に心当たりは無いのですね」

歩「はい。手助けをしてくれましたが、行動の真意はわかりません」

一兄「そうですか……」


バタンッ


りの「奏会長ぉー!」

歩「りのっ!?」

プッチャン「ここじゃねえみたいだぞ、りの」

りの「ダメですよぉー! 自分の人生なんですから自分で決めないと幸せがー!」

プッチャン「しっかりしろ。会長はここにはいねえ」

りの「絶対絶対ダメです……あれ、アユちゃん?」

歩「……」

一兄「では、私はこれで失礼します」

紬「りのちゃ――きゃっ」

一兄「おっと」

澪「ヒァッ!」スパーン

一兄「……」

澪「す、すいません!」ペコリ

一兄「いえ……。見事な反応でした」

奈々穂「一兄に攻撃を許させるなんて……」

一兄「それでは」

紬「待ってください」

一兄「?」

紬「りっちゃんに、何をしましたか?」

澪「りつ……?」

律「……」

聖奈「彼は関係ありませんよ」

一兄「聖奈様……」

聖奈「早く戻られたほうがいいかと」

一兄「はい。失礼します」


スタスタスタ


りの「りっちゃんさ~ん?」

プッチャン「心ここに在らずだな」

律「……」

奈々穂「しばらくすれば……元に戻るはずです……」

聖奈「……」

紬「りっちゃん!」

律「……」

澪「どうした、りつ!」

律「……」

歩「これを飲めばなんとかなると思いますけど……」

紬「それは……」

澪「律ッ! 飲めッ!」ガッ

律「……!」


ゴクゴクッ


律「がはっ、げほげほっ! なにすんだよ澪!」

澪「……よし」

紬「はい、お茶よ」

律「げほっ…さんきゅ。…ごくごく……」

歩「すいません、律さん……早く解きたかったのに、私は……うろたえるだけで……」

律「それを持ってきてくれただろ、充分だって」

歩「……」

律「それに、相手の力を知ってたのに正面から行った私が間抜けだったんだよ」

歩「……っ」

りの「なんだか分からないけど、よかったぁ」

プッチャン「一体どうしたんだ?」

律「分からん。声は聞こえていたんだけどさ、体が動かなくて……」

奈々穂「……」

律「ナニカを待っているだけなんだ。すっげえ嫌だったぜ」

プッチャン「力を使われたか……?」

歩「……うん」

澪「体は大丈夫か?」

律「あぁ。なぜか力が溢れてくる感じだ」

紬「……よかった」

聖奈「それでは鶴の間へ参りましょう」



― 極上生徒会 ―


りの「会長ぉー!」

奏「りの……!」

りの「ダメですダメですっ! 自分をもっと大切にしてくださいー!」

奏「……」

りの「自分の未来を決められないって……そんなの寂しすぎます……辛すぎます……」グスッ

奏「……」

りの「悲しすぎますぅ~!」ボロボロ

奏「でも、私は……」

律「りのはあの世界から自分の力で戻ったんだぜ」

奏「……!」

りの「?」グスッ

律「みんなと一緒に学園生活を過ごしたいって。その強い心が惑わしから守ったんだ」

奏「……」

律「一人でも欠けたら、りのが望む場所じゃなくなるんじゃねえのか」

奏「……」

りの「そうですよ、奏会長~!」グスッ

香「奏さまがいなくちゃ宮神学園は成り立ちませんよ!」

聖奈「その通りですよ~、会長」

れいん「そうっすよ」

小百合「はい」

琴葉「……」コクリ

歩「……」

みなも「そうそう、会長さんがいなきゃつまんないも~ん!」

シンディ「ザッツライト」

久遠「そうですわね」

奈々穂「帰りましょう、会長」

りの「楽しいことがいっぱい待ってます!」

奏「でも……」

奈々穂「でも……?」

奏「まゆらさんがいないわ」

久遠聖奈「「 え、え~っと 」」

りの「お留守番です!」

香「そ、そうです、お留守番をしてもらっています!」

奏「まぁ、そうなの」

プッチャン「やっぱり締まらねえな、極上生徒会はよぉ」


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最終更新:2012年07月12日 22:42