― 軽音部 ―
律「私はそう言葉を言い残し、その場を後にするのであった――完」フッ
パシャッ
律「?」
純「かっこよかったですよ、律先輩」
律「なんだ、そのカメラは」
純「良いことを言っていたので、写真に収めたほうがいいと思って」
唯「うんうん、文学者だよりっちゃん」
律「フフン、そうだろ? あとでそのデータ消してやる」
紬「それはもったいないわ」
澪「そうだな。額縁に入れて部室に飾っておこう」
梓「いいですね。写真の下にタイトルを付けるってのはどうですか?」
唯「ナイスアイディアだよ、あずにゃん!」
律「おいこら」
澪「写真のタイトルは――」
純梓澪「「「 それだ(です)っ! 」」」
律「そうはいくか! よこせ純ッ!」
純「紬先輩どうぞ」
紬「よぉし」フンス!
律「わ、渡してくれむぎ」
紬「りっちゃんの頼みでも、それは無理よ」
律「……」ジリ
紬「よいしょぉっ」ピョン
テッテッテ
律「はやっ!」
澪「そうか、走って逃げればよかったのか」
律「待てむぎ!」
テッテッテ
唯「まてまて~!」
テッテッテ
純「庭を走り回ってますね」
澪「あぁ……」
歩「……楽しそうですね。あんなことがあった後なのに」
梓「あんなこと?」
歩「あ、いえ……」
澪「そろそろ帰るか、私たちの場所へ」
― 神宮司家 ―
一兄「お疲れ様でした」
爺「……」
スタスタスタ
一兄「……」
四兄「一博兄さん、その頬どうしたんだよ」
一兄「フフ、琴吹グループのボディガードにやられましたよ」
四兄「なんで琴吹の……?」
一兄「いえ、なんでも。あなたこそ、その腕、折れているのでは?」
四兄「見た目酷いだけで大して痛くないよ。飛田コンビに負けたわ」
一兄「そうですか。悪役、お疲れ様です」
四兄「ただの蝙蝠野郎だったけどな。……けど、今回の件で奏様の回りは大分固まったよな」
一兄「……」
四兄「もしかして、一博兄さんの手の中だったりしないよな」
一兄「まさか」
四兄「有り得るから嫌なんだよ。
でも、今回の件で分かったよ。将来、俺ら兄弟を敵に回しても奈々穂は……」
一兄「奏様は奈々穂を信じておられますから、奈々穂も奏様を何があってもお守りする。
論じるまでも無いでしょう」
四兄「……」
一兄「奈々穂が羨ましい、ですか?」
四兄「違うって」
一兄「この闇は深いですからね。若い人たちには光が必要でしょう」
四兄「……光、ねぇ」
一兄「ですが、私たちは護衛の仕事を全うするのみ。
奈々穂達とは違いますから、周りを過信して目が曇らないよう気をつけることです」
四兄「はいはい。じゃあな」
スタスタスタ
一兄「今回は運がよかっただけですよ」
― 紬 ―
紬「どうですか?」
さわ子「反応に困るわね。りっちゃんがニヒルな笑いを浮かべながら歩いてるだけじゃないの?」
紬「良いこと言っていたんです」
さわ子「なんて言っていたのよ?」
紬「りっちゃんどうぞ」
律「言わねえよ! 二度目がどれだけ恥ずかしいことか!」
りの「りっちゃんさんのおかげで私たちは一段と結束が深まりました!」
プッチャン「あぁ、聞いている方が赤面するほどの台詞だったがな」
律「おまえの表面は糸だろうが! 変色すんのかよっ!」
唯「人は夢をみることで成長していけるんだよ」シミジミ
和「たしかに今聞くと赤面するわね」
律「言ってねえよ!!」
憂「その時の雰囲気というものがありますよね」
律「ほんと、それは言ってないんだよぉ……」ガクッ
澪「……」
梓「律先輩、テンション高いですね。どうしたのでしょうか」
澪「テンションを上げてごまかしてるみたいだな……」
歩「……」
さわ子「まゆらちゃん、私たちの案内してくれてありがとう。助かったわ」
まゆら「いえ……、私にはそれしかできませんでしたから」
奏「紬さん」
紬「はい?」
奏「よろしければ、宮神学園へ通いませんか?」
紬「……」
梓「え……!」
奏「もちろん、みなさんを歓迎します」ニコ
りの「わ、わっ! 歓迎します!」
みなも「歓迎しま~す!」
紬「えっと……」
奈々穂「会長。紬さんたちも高校三年生です。それぞれの進路もありますので……」
奏「まぁ、……ごめんなさい」ションボリ
りの「あ、あれ? 白紙なんですか~?」
プッチャン「そうそう都合よくいかねえよ」
紬「魅力的なお誘いありがとうございます」ニコニコ
律「確かに、宮神に通うのは楽しいかもな~」
香「当たり前ですよ!」
れいん「そうそう、最高、レッツゴー、絶好調だかんね!」
律「そうか。意味が分からん」
歩「り、律さ――」
『三番線、間もなく列車が到着します。白線の内側にお下がりください』キリ
久遠「列車が参りますわね」
律「お、これか?」
まゆら「そうですよ」
歩「……」
聖奈「少し、寂しいですね~」
奈々穂「あぁ」
澪「それは私たちも同じだ。たった一日だけど、とても楽しかった」スッ
久遠「お別れの握手ですわね。少し胸を打ちますわ」スッ
ギュ
奈々穂「お元気で」スッ
澪「うん。それじゃ」スッ
ギュ
みなも「唯さん、本当に帰っちゃうんだね」
唯「うん。元気でね」
みなも「とっても、とっても楽しかったよ」
唯「えへへ、わたしも~!」
シンディ「グッバイ」
唯「good bye」
和「たまに発音がよくなるわね」
まゆら「そっちの生徒会も大変そうですね」
和「だから、退屈はしないわ」
まゆら「そうですね!」
香「また料理対決しましょう!」
憂「ふふ、うん。香ちゃんの料理とってもおいしかったよ」
香「そ、そんなぁ」テレテレ
歩「り――」
律「そういえば、弟は」
香「わーっ!」
律「ふぐっ!?」
香「オホホホホ、律さん飲み物はあっちですよ~!」
律「ふぐぐ!?」ズルズル
純「なにをやっているんだか」
れいん「純さん、楽しかったっすよ!」
純「うん、私も楽しかった。またね」
れいん「また来てくれるの!?」
純「え、えっと……」
小百合「れいん、困らせてはいけない」
れいん「冗談っすよ~!」
純「また、どこかで必ず会おうね」スッ
れいん「……もっ、もうっ、我慢してたのにぃっ」スッ
ギュ
ガタンゴトン ガタンゴトン
香「わかな先生の提案で、管理人さんに見てもらってるんですよ」
律「そ、そっか」
香「おかげで楽しめましたけど」
律「……香もすげえな」
香「え?」
律「いや、頑張ってるんだなって思ってさ。そういう人が好きだからな、私は」
香「は、恥ずかしくないんですか?」
律「旅の恥は掻き捨てってな」ウシシ
香「まぁ、私の恥ずかしい部分も見られてますから、おあいこですけど」
律「りのと歩と、仲良くな」
香「善処します」
律「はは……」
「りつー!」
律「そろそろ時間だな」
香「律さん、最後にちゃんと挨拶してくださいね」
律「分かってるって」
紬「りっちゃ~ん!」
歩「……」
テッテッテ
律「うし、そんじゃ帰るか!」
歩「……!」
澪「ちゃんと挨拶しろ」
律「う、うん」
和「憂、先に乗っていましょうか」
憂「うん」
プッチャン「せいぜい気をつけるんだな」
さわ子「じゃあ、元気でね」
奈々穂「はい。ありがとうございました」
唯「ぐすっ……元気でね……」フリフリ
みなも「もぅ~、唯さん~」グスッ
聖奈「みなもちゃん……」
歩「どうして、落ち込んでいるんですか?」
律「へ?」
歩「……」
律「あぁ……。それは……だな」
歩「……」
律「なにも出来なかったからな。
みんな自分の意思で動いて考えてるのに、私はなにやってんだろうなーって思ったからだ」
歩「そんなこと……」
律「あの黒猫がいなければ、本気でやばかった。運がよかっただけだ」
歩「そんな……こと……」
律「たまたまそこにいただけだ、私は」
歩「……」
律「二つ、借りを作ってしまったけどな」
歩「じゃあ……」
律「?」
歩「じゃあ、私を連れて行ってください」
律「!」
りの「アユちゃん!?」
プッチャン「黙ってろりの」
奏「……」
紬「……」
律「無理に決まってんだろ?」
歩「そう、ですよね。すいません、変なこと言ってしまって」
律「……」
歩「楽しかったです。それでは、お気をつけて」
タッタッタ
律「あれ……?」
梓「律先輩……」ジーッ
久遠「色々と切羽詰っていたのですわ」
奈々穂「律さんが気に病むことは」
澪「バカりつ」
さわ子「りっちゃんは宿題期限延長なしね」
律「な、なんだよ」
梓「もし、歩の立場と純の立場を入れ替えて、澪先輩にあんな風に言われたら、どう?」
純「どうって……歩の立ち位置は分からないし……」
律「……」
純「うー……ん……」
律「……」
純「ハハ……」ズドーン
梓「こうなっているんですよ!」
律「マジかよ」
澪「歩は律に頼っていただろ」
律「分かったよっ!」ダッ
タッタッタ
聖奈「青春ですね~」
紬「そうですね~」
奏「……」
純「ハァ……」
澪「わ、私は何も言ってないからな、純」
…
律「待て!」
歩「え?」
律「あのな、無理なものは無理だろ!?」ゼエゼエ
歩「わざわざ追いかけてきたんですか?」
律「時間が無いから……はぁ、手短に済ますぞ……はぁ」
歩「は、はい」
律「歩のやりたいことは世界を旅することなのか?」
歩「……」
律「深層世界で、世界の有名な場所がたくさんあっただろ?」
歩「は、はい。世界中を旅行できたら楽しいだろうなって」
律「私もな、あの世界で見た景色が忘れられないんだ」
歩「?」
律「私もこれからどうなるか、さっぱり分からないけど、
世界を歩いてみたいと思い始めている。これは人生の岐路だ」
歩「……」
律「もし、だぞ? 4年後、歩が卒業する年に私が世界のどこかを歩いていたら、
極上生徒会に手紙を出すから」
歩「……?」
律「その時、外に出たいって気持ちが強く残っていたら、自分の力で出て来い!」
歩「あ……」
律「そのときは一緒に旅をしよう!」
歩「――!」
律「これが澪にも、むぎにも誰にも言っていない事だ!」
prrrrrrrrrrr
律「やっべ! まだ4年あるから! 変わらないでいたらまた会えるからな! 元気でな歩!」ダッ
タッタッタッタ
歩「……」
最終更新:2012年07月12日 22:43