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紬「ただいま、菫」

菫「おかえり、お姉ちゃん」

紬「菫、ごめんね。突然いろいろ決めちゃって」

菫「いいよ。お姉ちゃんの幸せのためなら」

紬「だけど…」

菫「ねぇ、お姉ちゃん。私はお姉ちゃんが幸せになってくれるのが一番うれしいんだ」

菫「だって私はお姉ちゃんの侍女だから」

紬「菫…」

菫「だからね。明日の結婚式はめいいっぱいお祝いするから」

菫「お姉ちゃんが幸せになれますようにって」

紬「すみれっ…」

菫「もう…泣かないで」

紬「だって…」

菫「ふふ。お姉ちゃんが妹になっちゃったみたい」

紬「もう…」

紬「ところで、斎藤はどこかしら」

菫「お爺ちゃんなら教会で準備してるよ」

紬「そう。それにしても家の使用人が全然減ってないみたいだけど」

菫「みんなお姉ちゃんの晴れ姿を見るまでは帰れないって言ってるよ」

紬「みんな…」

菫「私は最後まで屋敷に残るよ。お父さんとお母さんはフィンランドへ行くけど、お爺ちゃんも残るって」

紬「いいの?」

菫「いいよ。帰るところのない人達も最後まで屋敷に残るし」

紬「菫、ほんとうに助かるわ」

菫「そう言ってくれると私も嬉しいよ」

紬「あっ、そうだ、菫、ドーナツって作れる?」

菫「作れるよ」

紬「明日、ドーナツ好きの子がくるの。もし暇だったらでいいんだけど…」

菫「任せてよ。やることなくて暇だったんだ」

紬「じゃあお願い」

紬父「紬、帰っていたのか」

紬母「おかえりなさい。どうだった?」

紬「御父様、御母様、紬は無事伴侶を得ました」

紬父「そうか……よかったな。紬が女の子と結婚したいと言い出したときはどうかと思ったが」

紬「御父様…」

紬母「たとえ女の子同士だったとしても、娘の晴れ姿を見られるんですもの」

紬「御母様…ありがとうございます」

紬父「それで、その…その子は来ていないのか」

紬「はい、今日は実家に帰ってもらいました。親子水入らずの時間が必要だと思いますし…それに」

紬父「それに?」

紬「はい。私も御父様、御母様、そして菫達と一緒の時間が欲しかったから…」

紬母「そう。親想いな娘をもって私は幸せだわ」

紬「そんな…私なんて」

紬父「紬にはいろいろ不自由をさせてしまったな」

紬「その代りいろいろ便宜もはかって頂きました」

紬父「そう言ってくれると助かる。他に頼みはないのか?」

紬「ありません」

紬母「ほんとうに?」

紬「ええ、伴侶とともに私は最後を迎えます。これ以上の贅沢なんてありなませんから」

紬父「そうか…私たちは紬の晴れ姿を見た後、フィンランドへ飛ぶ」

紬母「ええ、琴吹発祥の地で私達は最後を迎えるわ。紬はどうする?」

紬「私達は最後までこの地に残ろうと思います」

紬父「そうか、寂しくなるが仕方ないな」

紬母「若い二人に私達がいても邪魔なだけでしょうからね」

紬「そうですね。邪魔なだけです」

紬父「こらっ!」

紬「うふふふ。御父様に叱った頂くのもこれが最後ですね」

紬母「ふふふ。紬ったら…」


―――

紬「斎藤!」

斎藤「御嬢様! 帰っていらっしゃいましたか」

紬「ええ、斎藤のおかげで色々助かったわ。本当にありがとう」

斎藤「御嬢様の晴れ姿を見るのはわたくしの夢でございます」

斎藤「…星が落ちてくると聞いた時、その夢の実現はもう無理だと思っておりました」

斎藤「その夢が叶うのです。この斎藤、全身全霊をかけてお助けする所存」

紬「本当に助かるわ、斎藤」

紬「それでね、頼みが少し増えたんだけど、いいかしら」

斎藤「なんなりとお申し付けください」

紬「二組ほど一緒に結婚式を行いたいのだけど、可能かしら?」

斎藤「ご学友様でしょうか?」

紬「ええ」

斎藤「ふむ。ドレスの用意は簡単にできます。スリーサイズは御存知ですか?」

紬「ええ、このメモに書いてあるわ」

斎藤「ふむ。なんとかなりそうです。お二組から何か要望等は?」

紬「特になかったと思うわ」

斎藤「そうですか。畏まりました。最高の式…とまでいきませんが、最善を尽くしてみせます」

紬「…斎藤」

斎藤「なんでございますか、御嬢様」


斎藤「涙をお拭きになってください」

紬「本当にあなたにはいつもいつも助けられるわ」

斎藤「執事ですから」

紬「…御父様には失礼かもしれないけど、斎藤のことはもう一人の御父様だと思っています」

斎藤「…………もったいないお言葉、誠にありがとうございます」

紬「…ありがとう」


――――

梓「お父さん、お母さん…」

梓父「それにしてもあの梓が結婚するとはなぁ」

梓母「お父さんいつも言ってたもんね。梓が結婚相手を連れてきたら一発殴ってやるって」

梓父「相手が女の子じゃそういうわけにもいかないよ」

梓「もう、お父さん…」

梓父「そにれしても出来た子みたいだね、紬さん」

梓母「ええ、とっても礼儀正しい子で、お母さんびっくりしちゃった」

梓「ムギ先輩は御嬢様だから」

梓父「先輩なのかい?」

梓「うん」

梓母「でも結婚相手にその呼び方は余所余所しいんじゃないかしら?」

梓「確かに…」

梓父「それは紬さんとおいおい相談していけばいいんじゃないか?」

梓「うん」

梓母「お母さん、梓と紬さんの馴れ初めの話を聞きたいなぁ」

梓父「ああ、私もその話には興味あるかな」

梓「えっ…話すの」

梓母「お願いっ!」

梓「まぁ、いいか…」

梓「最初はムギ先輩にデートに誘われたの」

梓父「梓が誘われたのかい?」

梓「デートの誘いといっても、自転車に乗る練習をしたいって話だけど…」

梓「最初は補助輪付きの自転車に乗ってもらって」

梓「次は補助輪なしの自転車に乗ってもらったんだけど」

梓「意外とムギ先輩不器用で」

梓「何度も何度も転けて」

梓「擦り傷だらけになっちゃって」

梓「膝には大きなキズもできちゃっ手」

梓母「あの紬さんが…」

梓「うん。あのムギ先輩が」

梓「でもムギ先輩は全然やめようとしなくて」

梓「最後は乗れるようになっちゃった」

梓「その時ムギ先輩が、私に言ってくれたの」

梓「ありがとう、って」

梓「梓ちゃんのおかげで乗れるようになったよ、って」

梓「私、ほとんど見てただけなのに…」

梓「そしたら私、急にムギ先輩のことが愛おしくなっちゃって」

梓「自分がムギ先輩のために何できるんだろうって思ったら」

梓「自然と告白してたの」

梓父「なるほどね」

梓母「いつ頃の話なのかしら?」

梓「一ヶ月ぐらい前の話」

梓父「まだ付き合って一ヶ月なのかい?」

梓「うん。でもそれからデートには結構行ったよ」

梓母「その話も聞きたいな」

梓父「ああ、全部聞かせて欲しいな」

梓「何から話そうかな――――」


――――

紬「……朝ね……あら甘い匂い」

紬「調理場からだわ」

紬「菫…と純ちゃん?」

菫「お姉ちゃんおはよー」

純「おはようございます琴吹先輩。お邪魔してます」

紬「純ちゃんどうしたの、こんな朝から」

純「実はドーナツの匂いが漂ってたから来ちゃったんです」

紬「えっ?」

純「あっ、もちろん嘘です」

純「さっきケータイに登録されてた執事さんに電話かけたら」

純「ドーナツ作ってるから来るか、って言われたんです」

紬「斎藤…相変わらずいい仕事をしてくれるわ」

紬「それで菫とドーナツ作ってたんだ」

純「ええ、スミーレってお菓子作りのセンスいいですね」

菫「…そんなことないよ」

紬「スミーレ?」

純「あぁ、渾名をつけさせてもらったんです」

紬「スミーレ…」

菫「…お姉ちゃんにはいつもどおり菫って呼んで欲しいな」

紬「そうね、菫」

菫「うんうん」

紬「でもこんな朝早くから…純ちゃんの御両親は心配してないかしら」

純「実はうちの両親、今南極にいるんです」

紬「えっ?」

純「星の観測が仕事でして…たぶん今も落ちてくる星を観測してるんじゃないかな」

紬「じゃあ帰ってこれないの?」

純「帰ってこないと思います」

菫「そんなことって…純さん…」

紬「…………」

純「あっ、あっ、私なら大丈夫です」

純「一人には慣れてますから……」

紬「…よかったら今日から家に泊まらない?」

純「えっ」

紬「使用人に暇を出したから、部屋が余ってるの」

純「いいんですか」

菫「私からもお願いします」

純「スミーレ?」

菫「お姉ちゃんが梓さんといちゃついてる間の話し相手が欲しかったから」

純「そう? ならお願いしちゃおうかな」

紬「ええ。歓迎するわ」

純「これからよろしく。ふたりとも」


菫「…あれ、玄関のほうが騒がしいね」

紬「みんながきたみたいね」

純「唯先輩、律先輩、澪先輩…後は憂?」

紬「そのご家族も来てるはずよ、和ちゃんも」

唯「ムギちゃん、きたよー」

紬「いらっしゃい唯ちゃん」

憂「今日ははお招きいただきありがとうございます、紬さん」

紬「憂ちゃんもいらっしゃい」

憂「あの…本当に迷惑じゃありませんか?」

憂「私達の結婚式まで一緒にだなんて」

紬「憂ちゃんは唯ちゃんと結婚したくないの?」

憂「…したいです」

紬「じゃあ遠慮は禁物よ」

紬「人間、最後くらい我儘を言うべきだと思うわ」

紬「特に、憂ちゃんのような出来た子の場合は」

唯「うーいっ、ムギちゃんもこう言ってるんだからさっ」

憂「…そうだね。紬さん、本当にありがとうございます」

紬「どういたしまして」

紬「あら、りっちゃんと澪ちゃん、そんな端っこのほうでどうしたの?」

律「うわっ、ムギ!」

紬「ふたりとも顔を真赤にしちゃって…」

紬「…その様子だと上手くいったみたいね」

律「あぁ、今日はよろしく頼むよ」

澪「…ムギ」

紬「どうしたの? 澪ちゃん」

澪「実はさ。私、まだ死ぬのが怖いんだ」

紬「私も怖いわ」

澪「ムギも?」

紬「ええ」

澪「ムギは怖いものなんてないのかと思ってたよ」

紬「それは買いかぶりすぎ」

澪「ちょっと話がそれたよ」

澪「私がいいたいのはさ」

澪「怖いことは怖いんだけど」

澪「これからの律との一週間を思うとさ」

澪「楽しみって感じもあるんだ」

紬「そう」

澪「あぁ、だからちょっとだけ前向きに考えてみようと思う」

紬「そう」

澪「なぁ、ムギ」

紬「どうしたの?」

澪「私に対してだけ、微妙に冷たくないか?」

紬「気のせいよ」

澪「そうか。ならいいんだ」

紬「和ちゃんもきてくれたのね」

唯「あっ、和ちゃんだ!」

憂「和ちゃん、元気だった?」

和「ええ、今日は二人の晴れ姿を目に焼付けさせてもらうわ」

和「唯、憂、おめでとう」

唯「和ちゃん!」

和「もう唯、抱き付かないの」

憂「和ちゃん!」

和「もう、憂まで…」

唯「和ちゃん、泣いてる?」

和「泣いてないわ…」

憂「……和ちゃん。私達のために泣いてくれてありがとう」


紬「…………ここは3人にしておきましょう」


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最終更新:2012年07月26日 21:58