「えー、お天気です。
  今年の夏は、非常に厳しい冷夏となる模様です」

 「関東地方を中心に、発生源が不明の冷たい空気が、日本中を包み込んでいます」

 「現在関東地方全体の気温の平均は2度。
  気象庁は、これは極めて異常なものだと―――」


 ‐平沢宅・唯の部屋‐


唯「えっ、純ちゃんが寒いこと言ったら、学校が凍り付けになっちゃった?」

憂「そうなの」

唯「だから学校休みなんだ」

憂「うん」

唯「これであと二時間は寝れるよ」

憂「それに加えてね」

唯「うん」

憂「今年の夏は異常に寒いみたいなの」

唯「純ちゃんの事件と並べるべきことだったのかな?」

憂「学校が凍ったぐらいだからね」

唯「確かに」

唯「つまり、純ちゃんが今の冷夏の原因なんだね?」

憂「そういうことになると思うよ」

唯「暑すぎるのは苦手だし、純ちゃんには感謝だよ」

憂「……でもね、お姉ちゃん。冷夏にあまり良いイメージが無い理由がわかる?」

唯「えっ?」

憂「お姉ちゃん、白米は好きだよね?」

唯「うん、大好きだよ。……あっ!」

憂「そう、つまりはね」

唯「お米とかがとれなくなっちゃうんだ……!」

唯「今すぐに純ちゃんを止めに行かなくちゃ!」

憂「待って、お姉ちゃん!」


 ‐玄関‐


唯「ほら、憂急いで!」

憂「……駄目なんだよ」

唯「お米の方が駄目にしちゃいけないよ!」

憂「違うの。実は純ちゃん、ついさっき家の前を通ったらしくて」

憂「こう呟いたの」


 * * *


純「“ヘルシー”食品食べりゃ、体重“減るしー”」


 * * *


憂「そしたらドアが凍り付いて開かなくなっちゃったの!!」

唯「純ちゃん寒い!凄い!迷惑!」



 ‐リビング‐


唯「状況を整理してみるよ」

唯「ドア、及び窓は凍り付いて開きません」

憂「うん」

唯「つまり家に閉じ込められてます」

憂「そうだね」

唯「どうしよう」

憂「氷を解かせればいいんだけど」

唯「窓から外を見たけど、一面氷の世界だったよ」

憂「自然に解けそう、ではないんだよね……。
 家の中も何だか寒くなってきたし、どうしようお姉ちゃん……」

?「心配には及ばないわ!」


 「ぱりーん!」


憂「あ、あなたは!」

紬「二人とも、助けに来たわ」

憂「でも、どうやって……」

紬「窓の一枚や二枚、壊してしまえばいいのよ」

憂「どうりで目の前の窓に穴が開いてるわけですね!」

唯「あれ、ここって二階だよね?」


 * * *


唯「さてと、今の状況を整理するね」

唯「凍り付いた窓や扉で閉じ込められていた私達」

唯「そこへ斬新かつ、非常に“暴力的”な方法で家へムギちゃんがやってくる」

唯「そして今、私達は余計に寒くなった部屋に三人で座っている」

唯「こんな感じかな」

紬「大体そんな感じね。それにしても、この部屋はとても寒いわ……」

憂「全て純ちゃんのせいですね」

唯「この寒さは純ちゃんだけのせいではない気がするよ」

唯「ところでムギちゃん、こんな氷世界の中をよく来れたね。
 何かとっておきの秘密兵器でもあるの?」

紬「ふふ、実はね。このコトブキグループ特製、超強力携帯ヒーターを
 使えば氷なんて敵じゃないの~」

唯「おお、すごい!」

唯「じゃあなんでさっきは窓を破ってきたの?」

紬「……人には誰しも、理性では縛れない本能的な一面があるの」

唯「窓を割りたい本能ってなに!?」

紬「きっと私の前世はスタントマンだったのね」

唯「絶対違うと思う」

紬「……あっ、ちょっと喋りすぎたわ。そんなことはどうでもいいのに!」

憂「人の家の窓がどうでもいいほど、何を話したかったんですか?」

紬「とりあえず二人ともついてきて、既に他のみんなは集まってるから!」


 ‐琴吹宅・部屋‐


紬「ここよ」

唯「でっかいお部屋だねえ」

?「おっ、平沢姉妹も揃って来たか」

唯「りっちゃん!」

律「おいっす」

唯「ムギちゃんの家、初めて来たけど凄いね」

律「だろ?」

澪「お前が威張ることでもないだろ」

憂「梓ちゃんも無事だったんだね」

梓「うん。ムギ先輩が来なかったら危なかったんだけどね」

憂「そうなの?」

梓「私が家を出て数十秒後に、純が家の前に通ったんだ。そして、こう呟いたの」


 * * *


純「この“ホット”ココア、“ほっと”けない!」


 * * *


梓「おかげで私の家は、もう……」

憂「中身は全然ホットじゃなかったんだね……」


 * * *


紬「皆揃ったかしら。それじゃあ、話をはじめるね」

紬「まず何で私達が集まったのか」

紬「それは、皆にこの“世界の危機”を救ってほしいからなの」

唯「世界の危機?」

澪「まさか……この町が氷結してきている、この現象そのものじゃないだろうな?」

紬「ええ、まさにそのことよ。私達コトブキグループは、
 これを“アイスジョークシンドローム”と呼んでいるの。略してIJS」

律「どっかにありそうな名前だな。国際なんとか連盟とか」

梓「惜しいですね。“IJF”ならありますけど」

澪「梓、どうして“国際柔道連盟”の略称を覚えているんだ?」

唯「澪ちゃんも大概だよね」

紬「そしてIJSの最終到達点は、地球最大規模であり、現代に初めて降りる“大氷河時代”よ」

憂「大氷河……。つまり、このままだと人間がまともに生活できない環境に
 なるかもしれない、ってことですね」

紬「そう。だから、私達がこの手でそれを救わなくちゃいけないの」

澪「でも、何で私達なんだ?それこそ私達以外の方が、適役も多いはずじゃないか?」

紬「原因を考えてみて。純ちゃんでしょ?」

紬「女子高生一人に対して、国が早急に動くと思う?」

澪「まあ、そうかもしれないけれど……」

紬「それに私達の方が純ちゃんに身近。これは人間一人を相手にするにあたって、
 最大のメリットになるんじゃないかしら?」

澪「身近な人間にメリットがあるのは納得出来る。でも、それこそ私達以外に適役がいたはずだ」

澪「憂ちゃんや梓は適役だけど、私達以上に純ちゃんと仲の良い、
 例えば同級生の友人だってたくさんいるはずだ」

紬「ふふ、違うのよ澪ちゃん。一番の適役は澪ちゃんなんだから」

澪「えっ?」

梓「澪先輩は純の憧れですからね、確かに理屈は通ってます」

澪「なるほど」

唯「じゃあムギちゃん、私達はなんでここにいるの?」

紬「……私達は五人揃って放課後ティータイムじゃない」

律「理由になってないぞー」

紬「えーとね」

紬「例えるなら、お菓子についてるシール……」

唯「オマケってことだよね!?」


 * * *


紬「さて、“何のために”集まってもらったか、それはわかってもらったと思うの」

紬「次は“どうやって”、ね。これに関してはこれを使って?」

唯「これは?」

紬「温かそうなもの一式よ。これを使いながら、純ちゃんの説得にあたるの」

憂「マッチ、カイロ、手袋にマフラー……」

律「コタツにストーブ、こっちは羽のない扇風機の温かい風も送れるヤツ……」

澪「ムギ、少し方向性を間違えてないか?」

梓「……あっ、コタツって温かい……」

澪「梓も間違えた使い方を……、いや、用途はそれであってるけども」

唯「あずにゃんもコタツで丸くなる」


 * * *


紬「さてと、一人目は誰が行く?」

唯「えっ?」

紬「全員いきなり凍ったら大変だもの、一人ずつ純ちゃんを説得しにいってほしいの」

唯「えー」

紬「ちなみに純ちゃん、丁度この家の前に来てるみたい」

唯「ええ!?」

紬「今はコトブキグループ開発の凄いヒーターで対処してるけど、
 あと三十分ももつかどうか……」

唯「えー……」

紬「……任せたわ、澪ちゃん」

澪「えっ」


 ‐外‐


澪「……私は切り札じゃないのか」

紬『切り札を最後まで取っておくルールなんて存在しないもの~』←無線

澪「う、反論できない」

梓『頑張ってください、澪先輩!』

唯『一発で決めちゃって!』

澪「お前ら簡単に言うけどな、これだけ寒いと辛いものがあるぞ」

律『澪、信じてるからな』

澪「律に信じられてもな……」

律『おーい、聞こえてるからなー』

紬『ダメよりっちゃん、もっと澪ちゃんをやる気にさせる言葉じゃないと』

律『じゃあ、死ぬなよ?』

澪「ムギの話を聞いてから口を開け、バカ」


 * * *


純「あれ、澪先輩じゃないですか!」

澪「やあ鈴木さん、奇遇だね」

純「本当ですね!こんな寒い日ですけど、おかげで気持ちが高ぶってきました!」

澪(おっ、これはいきなり手応えあり、か?)

純「もう寒すぎますよね。ですから、こんな寒い国は飛び出して」


純「一緒に“あっち”の“あっち”い国に行きましょう!」


澪「う、」

澪「うわああああああああああああああ!」


 ‐琴吹宅・部屋‐


紬「惜しい人を亡くしてしまったわね」

律「ああ」

唯「澪ちゃん……私、忘れないよ」

梓「……なに初っ端から“切り札”使って負けてんですか!?」

紬「純ちゃんの方が強かった。ただそれだけのことよ」

梓「それもう、勝ち目がないとか言ってるようなもんですよ!?」

唯「あずにゃん……」

梓「唯先輩……?」

唯「次の切り札は、キミに任せたよ!」

梓「唯先輩!?」


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最終更新:2012年08月14日 03:02