最終ファイル
追想

白い雪が辺り一面を覆った白銀の世界に、私は足を踏み入れていた。
灰色の長いロングコートの襟を立て、首元の寒さを誤魔化す。丈も揃えてないジーンズは雪に冷え、靴元辺りを湿らす。 茶色いショートブーツが雪の上を歩く度にギュッ、ギュッと柔らかい雪を固形化させていく。

真っ白な世界だった

私のコートの下に着ているYシャツの様に

前髪を黄色カチューシャで上げている為かおでこが寒い
下ろそうとも思ったが、頭に積もった雪が茶色い髪を濡らしている為このまま下ろせばおでこに張り付くだろう。それは御免だ

そのまま歩くと、白い世界の中に一つだけポツンと異色が混じる。
何かの工場だろうか、今は使われている様子はなく、この雪の様に冷たい、金属の塊に成り下がっていた。

誰かがいる─────
その工場の前に一人の男がいた。

でも私はそれを知っている。私はその為にここへ来たのだから

「待たせた……かな」

「待つのは男の義務さ。一年前の約束を憶えていてくれるとは光栄だ」

「約束は破ったことないからな、私は。じゃあ寒いし始めようか」

「あぁ、吹雪になる前にな」

「やっぱりその前に一つだけ聞かせてくれないか?……あんたは、これで良かったのか?」

「愚問だな。途中までは私の理想通りだったさ。君達が現れるまでね」

「今更何を……そう差し向けたのはあんた自身じゃないか」

「ふふ…そうだったな。私は完璧主義者でね、一度君達を見た時からこの運命は逃れられなかったのかもしれない。」

「そうかい…。出来ればあんたとは違う形で出会って見たかったよ」

「ふふ…私もだ。だがこれが現実である以上受け止めなければならない」

「あぁ…そうだな」

二人はお互いに構えを取る


「おや?得意のマグナムは使わないのか?」

「ふん…あんたにそんなもん効かないことなんて、一年前に痛いほどわからされてるさ」

私は腰からナイフを取り出す。レオンを伝い、梓を伝ったナイフを

「安心したまえ。もうあんな猪口才な真似はしない。私は私の実力のみで君を捩じ伏せなければ気がすまないのだよ」

「そうかい…とことん変わってるねあんたは。でも私もそう思ってたところだよ。だから、これでいい」

ナイフを右手に持ち、切っ先を男に向ける

それが、一瞬だけの攻防となる、戦いの合図だった。

灰色のコートが一気に舞う。男との距離を詰めるため雪の上を滑走する。

速い─────

それは雪の上とは思えない速度だった

残り10Mが瞬きの間に5M、2Mと近づく。もうお互いの一撃が届き会う…その寸前

男はそれを迎撃するために拳をふるった。

矢の様な右拳が彼女に突き刺さる────

筈だった、

彼の予測の速度では当たる計算、それを彼女は上回って来たのだ。

不意に彼の顎が跳ね上がる

何をもらった、、、

だがそれを食い縛り体勢を崩しながらも男は彼女を蹴りつける

右足の中段蹴り、踵が彼女の腹にめり込む

「かはっ……」

一瞬息が出来なくなり動きが止まる。まさかあそこから攻撃を繰り出して来るとは思ってもみなかった油断故の被弾。

男は畳み掛ける。
にくの字に折れている彼女を上から降り下ろす様に拳で顔面を叩きつける。

その衝撃で彼女はそのまま雪の上に四つん這いになりながら倒れる、が、更に男はそれを追撃

その頭を一気に顎から蹴り上げると、彼女は逆に空を見上げる様に倒れこんだ

「ぐ……」

男は間を置かず倒れ込んでいる彼女の顔面に向かって拳を叩き込む

「んなろっ!」

彼女は首を振りそれをかわすと寝ている体勢から逆に男の顔面を蹴り上げる、その勢いで後転し、男を再び正面に捉えた。

口いっぱいに血独特の鉄の味が広がる
「ぺっ……」と吐き出した唾には血が混じり白い雪の上に紅点を残した。

「むぅ……」

男も口から垂れる血を腕で拭い上げる。


「やるなぁ…さすがに…」

肩で息を整えながら彼女が言葉を漏らす

「君の方こそ。三年前とは比べ物にならない身体能力だ」

「色々乗り越えて来たんだ。この三年は私に取って人生の生き方を変えた三年だった…」

「私達の街から始まって……あんなに人質を取られ枷をつけられて。一人でただがむしゃらになってた。でもそれもあんたのせいで……でもまた絆は戻った……それでも…また大切な仲間を失いここにいる、一人で…」

「……」

「だけどあんたを恨んだりしないよ。それじゃこの流れは止まらない。……私が止める!」

三年前から始まったこの因果

「終わらせる……」

死んでいった仲間の為にも、全てを─────
「来い……」


彼女はただ、真っ正面から突っ込んで行く

「でぇぃ!」

右の回し蹴り、狙いはコメカミ
たが男は事も無げにそれをスウェーでかわす、微かにカスったサングラスが弾け飛んで行く

「がら空きだ」

男は体勢を崩している彼女にまた中段蹴りを繰り出す

「このぉっ」

そう何回も食らうかと思い切りしゃがみこむ、頭の上をビュン、と通り過ぎて行く足を両手で抱え込みそのまま押し倒す

「なにっ!?」

二人はそのまま積もった雪に倒れこむ。彼女が男の上に覆い被さる形だ

「これで…」

彼女はナイフを両手で持ち

「終わりだ!」

それを一気に降り下ろした────


────────。

辺りは吹雪になっていた。視界が白で覆い尽くされていく。

「……何故だ?」

「……」

彼女のナイフは男の顔の横の雪にズブリと深く刺さり込んでいた。

「言っただろ……私で終わりにするって」

「生かすつもりか?元凶を」

「あんたを殺したって今更どうにもならない。」

彼女はゆっくりと立ち上がると男に背を向けた

「また起こすかもしれないぞ?あの悪夢を」

「かもな。でも私は殺さないよ。約束だから。それにあんたはもうしない、そんな気がする」

「……そうか」

「じゃあもう行くよ」

「…………」

男は喋らない。ただ大の字で雪に降られている

「もう二度と会うこともないだろうけど、元気で」

元気で?何を言ってるんだろう……私達をあんな目に逢わせた元凶に……。でも、彼もまた囚われていたのだろう
人それぞれ違う価値観、大切なモノ、達成したいこと、色々なモノを持って生きている。
それの相違でぶつかり合い、傷付け合う。
お互いそれまで生きて来た環境が違うのだからそれは当たり前のことだ
ならどうすれば分かり合えるのだろうか?

この悪夢の三年を経ても、それはわからない


「安心したまえ……もう私の夢は終わったのだから」

「だからって死ぬとかはなしだよ?そんなことしたら私が殺さなかった意味がないじゃん…。あんたはこれから背負って生きていけ」

「背負う?」

「今まで犯した罪を受け止めて、その罪を償う為に生きていけ」

「……それは詭弁だ。そんなことをしても何も変わらんだろう?」

「変わるさ。そうすることによってあんたのおかげで生きられたって人が出るかもしれないだろ?生かすことは殺す事より何倍も難しいってことを思い知って生きろ。じゃないと許さない」

「ハッハッハ!許さないか。それならば仕方ないな。それに私は君に生かされた命だ。自分の命ではもう無い。ならば君の命令に従うとしよう」

「違うよ、命令じゃない。あんたが心からそう思ってくれなきゃ意味がない」

「難しいものだな」

「そうだね。でも、そうすることでわかることもあるよ。まずは一人、あんたの力で救ってみろ。それからは好きにしなよ」

「……わかった」

男から離れて行く彼女。雪が深々と降り頻る中、「約束だよ、アルバート・ウェスカー」

彼の名前を口にした。それが彼との最後の会話となった。



────────。
「いらっしゃいませ~。お一人様ですか?」

「えと、…………です」

「はい、かしこまりました。禁煙席と喫煙席がございますがどちらに致しましょう?」

彼女は少し迷った後、「喫煙で」と答えた。

彼女は店員に席を案内されると直ぐ様コーヒーを頼んだ。一番奥の窓際。窓からは休日特有の風景、家族連れが楽しそうに歩いている

ここはとある郊外の喫茶店。日本も冬で雪は降っていないもののかなりの寒さに見舞われていた。

「温暖化何て実感湧かないな~」

思わずそんな言葉が出るくらい外は寒かった。

「お待たせしました。」

「あ、どうも」

店員が持って来たコーヒーに一口つける。コーヒー独特の苦味が私の舌を刺激する。
昔はこう言う苦味は嫌いだったのにいつの間にかこれが落ち着く味となっていた。

「私も21か…大人になったもんだ」

思えば18から今までずっと年頃らしいことはしてなかったなと悪態をつく。
成人式も出なかったし…もっともあの街に行った所でもう知ってる人は誰もいないけど

あの街は今から二年前ほどからようやく再建され始めたのだ。今ではおそらく街として機能しているだろう。私の家はどうなったのだろうか


コートのポケットから煙草の箱を取り出しそこから一本摘まみ上げる。
それを口にくわえ火をつけると、産まれた煙を自らの肺に流し込み、そしてまた吐き出した。

「ふぅ…」

こうしてると私は大人になったんだな…って思える気がした。でも実際にはまだまだ子供で、こんなことただ背伸びしてるだけじゃないかって…ほんとの大人に笑われるだろう。

「……あれから一年か」

あの死の地、ラクーンシティ脱出から丁度一年経っていた。
生き残った人達はどうしているだろうか


「ふぅ……」

そうしてまた煙を吐き出す。

そう思ったのがきっかけだろうか。
私はふと、思い返してみることにした。

あの脱出劇を

この、煙草の火が消えるまでの間──────


YUI BIHAZA
  LAST ESCAPE




ファイル04
真実

空は一面の星空、ほとんど明かりが灯っていない為に良く見えた。
空はどこから見ても、その美しさは変わらない。

この街は、こんなにも腐敗していると言うのに─────

律「皮肉だよな」

澪「ん?何が?」

ポツリと漏らした言葉に澪が反応する。

律「地上から見る空はいつだってこんなにも綺麗なのに、今はその綺麗さえ疎ましい…な~んてな」

澪「どうしたの?らしくないぞ律?」

律「別に…ただ、ちょっと緊張してるだけ…かな」

夜中の帳(トバリ)を一台のバンが駆け抜けて行く

後ろの席には唯と梓が寝ていた。よっぽど色々あったのだろう、今はそっとしておくことにした。

ラクーンシティタワーまではまだ少し距離がある。
澪がバン運転をし、律は助手席でシートをたおしめにしながら窓から外を眺めていた。

和はいない。プラットフォームから伸びている地上エレベーターを上がった後に別れたのだ。
和は単身でラクーンシティ警察署に電力を送っている電力所に向かったのだ。
プラットフォームにある電車の電力が足りない為に警察署へ送る電力を上げに行った、と言えばわかりやすいだろうか

和の実力はもう誰もが知っている。私達は両親を助けてあげてと……和は言った。
そして、
『ウェスカーには気をつけて』とも言い残していた。
意味深な言い方だった。前にウェスカーを知っているか?と聞いたたことがあるが和はただSTARSの面汚し、と和にしては随分下劣な言い方をしたのを覚えている。

そして私達は今、警察署前で唯達が拾って来たバンに乗りラクーンシティタワーへと向かっている。

私達をこの世界に導いたアンブレラの黒幕、アルバート・ウェスカーの元へ

誰もが予感しているだろう最後の戦いへ……赴いていた。



───────数時間前、ラクーンシティタワー

二つの人影がラクーンシティタワーへ入って行く。
一人は150半ばのまだ女の子と言った風貌、律儀に両手を上げながら歩いている。

もう一人は170後半でガッシリ、とした印象は受けないが所々についている筋肉が彼の強固さを伺わせる。

150半ばの女の子を後ろから銃を突き付け脅しながら歩かせている、一見すればそう見えるだろうか。

建物内部に入りまず目に入るのがエレベーターだ。
建物の中央に陣取っており大きさもかなりの物だった。

レオン「で、あんたのクライアント(依頼人)はこの一番上か?」

純「はい、そうです」

手を上げたまま律儀に答える純。焦った様子はまるでない
この年頃の女の子が銃を突き付けられれば普通足がすくむの普通だろう、けど彼女はまるでそう言った感じはない。
レオンが撃たないと高を括ってるのか。

レオンが無言でエレベーターのボタンを押すよう促すと純はそれに素直に従った。

レオン「(どう言うつもりだ……)」

純の容量も意図も未だに測れない。
この先に待っているウェスカーと言う男にそれほどの信頼を置いているのか……


エレベーターは数分で最上階についた。
その部屋の奥には巨大なモニター、いや、一つ一つが分割されており様々な様子が映り込んでいる。この街につけられた監視カメラ等の映像だろう。
その映像の光の下にある豪華そうな革の椅子に、彼は座っていた。

純「ウェスカー卿、連れて来ました。」

レオン「(連れて来た……だと?)」

ウェスカー「ご苦労だったなジュン。レオン・S・ケネディ、初めましてかな?アルバート・ウェスカーだ。うちのジュンがお世話になったな。もう解放してやってくれないか?」

レオン「その前に聞きたいことがある」

ウェスカー「ほぅ…」

レオン「律に手紙を送って来たのは貴様か?」

ウェスカー「ご名答だ。」

レオン「何故あんな真似をした?律に…いや彼女達はただの一般市民だ!」

ウェスカー「ただの一般市民…か。確かに二年前まではそうだった、いや、二年前もそうではなかった…」

レオン「何を言っている!?」

ウェスカー「まだ話す段階ではないのだよ。君には関係のない話だ」

レオン「貴様ァ!」

銃をウェスカーに向けるレオン

レオン「律や他の者達の家族はどこにいる?!答えろウェスカー!」


ウェスカー「ククク…それを聞いてどうする?」

レオン「貴様を殺し助け出した後この街を脱出する。どうやら貴様がこの一連の事件の黒幕見て間違いなさそうだからな!」

ウェスカー「なるほど……確かに的は得ているな。だが君には無理だ……私を殺すなど」

レオン「撃てない……とでも思っているのか?」

ウェスカー「さあ、どうだろう。まあやってみたまえ。家族の居場所ならジュンも知っている。私が死ねば彼女に聞くといい。さあ、撃ちたまえレオン・S・ケネディ」

レオン「……」

レオンは片目を瞑り銃身をウェスカーへ向ける。

レオン「(俺は律の様に甘くないぞ…ウェスカー)」

あいつを守る為なら人をも殺す、俺はあの時あの涙に誓った。
必ずあいつの笑顔を取り戻してやると

カチャリ、バァン!

レオンは躊躇わず引き金を引いた────。


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最終更新:2010年02月02日 00:02