━━クリス・レッドフィールド
元空軍でその頃からバリー、ジル、フォレスト達とは交流があった。
曲がったことが嫌いなクリスは空軍でも上官と揉めた結果退職、と言う彼らしい辞め方をしていた。
空軍を退職した彼はS.T.A.R.S.と言うところにスカウトされた。ICPOとは違い主にテロを専門に取り締まる警察と言えば分かりやすいだろうか。
クリスが入った時はその中でも近年増加傾向にあったバイオテロを未然に防ぐ為躍起になっていた頃だった。
彼がS.T.A.R.S.に入ってしばらくしてから起きた事件。
それがクリスの人生を大きく変えることとなった
連続猟奇事件の調査と先遣したブラヴォーチームの捜索の為にクリス達アルファチームはアークレイ山中へ派遣された。しかし突然化物に襲われ洋館に逃げ込んだ彼らを待ち受けていたのはウェスカーが仕組んだ罠やB.O.W.、そして究極兵器タイラント。
戦いは壮絶を極めた。ブラヴォーチームはレベッカを除き全滅、アルファチームはクリス、ジル、バリー、ブラッドの四人だけだった。先程上で出たフォレスト、フォレスト・スパイヤーはクリスのチームで頭脳的な役割を果たしていた。射撃でもクリスと並び優秀
しかし、そんな彼ですらそこで命を落としたのだ。
何人もの仲間が死んでいった。それは自分の力が及ばなかったからだと何度も自分を責めた。
だが彼女はそんな俺を何度も励まし助けてくれた、ジル・バレンタイン。
彼女は俺にとって言葉では言い表せない、仲間…だけでもなく恋人…でも家族でもない。
ただ誰よりも大切な人には変わりなかった。
今度は俺が助ける番だジル。アークレイでは助けられなかった仲間達よ、すまない。
だが今は彼女を助ける為に力を貸してくれ…
━━━━━━━━━
クリスは部屋内部でジルと対峙していた。
部屋を軽く見渡すがあるのは奥にボタンの様なものだけで後は何もない伽藍の様な部屋。
入って来た扉は厚い鉄の壁で閉じられている。
どう出るか…は後でジルと二人で考えることにする。
まずはジルが正気かどうかを確かめる。
クリス「ジル…何があった?」
ジル「……」
喋れないのか、と一瞬思ったがそれはジルの一言で杞憂に終わる。
ジル「クリス、殺す」
クリス「……ふぅ」
参ったな。しかし会話?が出来るのならまだ可能性はあると見た。それからも彼女の攻撃を避けつつ話し掛ける
クリス「やめろジル!俺を殺して何になる?!」
ジル「うるさい、殺す」
ヒュン、とナイフがクリスの目の前を通過していく。ジルに手を出すわけにはいかない為にこうして回避に徹しているがそれでもギリギリだった。
敵にして初めて彼女の身体能力の高さを思い知らされる。
クリス「(このままじゃ埒が明かないな……。)」
彼女が正気ではなく何かによって操られている様な感覚は感じ取れていた。しかし人を操る方法……催眠術くらいしか思い付かないぜ全く。
クリス「これならもっと読心術でも勉強しておくんだったな」
更にジルの攻撃は激しくなる。
避けられないと思った一撃をクリスは咄嗟に腕を掴み止める、が、それを見越した様にジルはクリスの腹に蹴りをお見舞いした。
ガッ……なんてありきたりな声が嫌でも漏れるほど強烈な蹴り。
これじゃゾンビの頭もサッカーボールの様に吹っ飛んで行くわけだ。
クリスは負けじと蹴ってきたジル足を両方で上へと持ち上げる。
ジルはその勢いを利用し、事も無げにバク宙を披露してみせた。
また少し距離が出来る二人。
バク宙の勢いのせいだろうか、ジルのBSAAの制服の胸の辺りが少しはだける。
クリス「!?」
そこから少し見えた小さな宝石の様な物、が埋め込まれているように見えた。
クリス「(まさかあれがジル…いやジル達を。何とか外せれば…)」
隙を伺うもジルにそんなものはない。またジルのナイフラッシュがクリスを襲う。
クリス「(くっ!やはり気絶させるか何かしないとな)」
しかし戦ってみてわかった。このジルは決して記憶を失ってるわけではないことにクリスは気づいていた。
何故ならクリスが苦手な左側面から常に攻撃を繰り出して来る辺りジルの記憶もちゃんと持っている。
ならばジルの知らない技で気絶させるしかない
クリスは一度大きく下がると初めて構えを取った。
そして来いよと言わんばかりに手招きをする。
これにジルも反応しナイフを捨て構えを取った。
この律儀さはやはりジルだなとクリスは自分の仮説に間違いはないと確信した。
ジル「シッ!」
ジルから動き出し素早い右のハイキック、クリスはこれを何とか手で止める。
クリス「(これじゃない……)」
ジルは更にそのまま足を折りたたみまた打ち出す、今度はミドルの中段蹴り。
クリスはこれを肘でブロック
クリス「(来いよ……ジル!)」
ジルは痺れを切らし大振りの右ストレートをクリスに……
クリス「(こいつだ!)」
クリスはその拳を避けるとジルに背中を見せつつ腕を取る。
そのまま足をシフトさせジルの足をかける。足をかけられ宙に浮いたジルの体を背中を支点にし腕で引っ張り込むとジルはそのまま背中から落ち、ドサッと言う鈍い音を立てつつ地面に激しく強打された。
一本背負い
日本発祥、柔道の一番メジャーな技と言っても過言ではないだろう。
クリス「日本の格闘術はさすがに知らなかったようだなジル。」
背中を強打した為か気を失っているジルに近づき胸元を開く。
クリス「……端から見ればただの変態だな」
最初に断っておくが俺にこんな趣味はない。今は非常時、人が溺れているのを助けたレスキュー隊員。しかし救助者は息をしていない。なら人工呼吸をする、これは当たり前の行為だ。レスキュー隊員に非はまるでない、ましてはやましい気持ちなどある筈もない。
クリス「……(心を無にしろクリス……!気持ちはいつもレスキュー隊員だ)」
そう自分に言い聞かせながらジルの胸元にある宝石を手に掴み、剥ぎ取った──────
私と聡はどこにでもいるまあ普通の姉弟だと思う。仲は結構いい方で良くゲームなんかを一緒にしたりしていた。
たまの休みには映画に連れて行ってやったりとなかなかのいい姉だなと自分で思ったりなんかもしていた。
私とは歳が4つ違う為に一緒の学校に田井中と言う名字は二つ刻まれることはなかった。
けれど聡は『大学に行ったら姉ちゃんと一緒の学校にいれるな!』とか可愛いげのあることを言ったりもしていた。
『あ、でも姉ちゃん頭微妙だから大学は難しいか』何てしっかり憎まれ口も叩く辺り私にそっくりだと思う。
そんな聡は私のありきたりで当たり前の大切な弟であり家族で、そんな大切な人と今、私は対峙しているのだ。
話を現世に戻すとしよう。入って来た扉は固く閉ざされている。
部屋の奥には一つのボタン。
間違いない、この部屋はあれだろう。
二年前私達を切り裂いたとも言える部屋だった。
律「なるほどね…頑張って助けても結局一人は置き去りになると…。考えることが汚いな」
だがそれは前の話だ。今は外に頼もしい味方もいる、そして何よりタイムリミットはない。あの時は邸が爆発するからと揉めたが今はそれもない。なら気楽にやれる。
律「聡、危ないからそんなもの捨てな。姉ちゃん命令だぞ」
聡「律、殺す」
律「姉ちゃん命令に逆らったらもう映画とか連れて行ってやらないぞ?いいのか?」
聡「映画……、」
おっ、反応した。見た感じ操りの類いみたいだけどそこまで根は深くないらしい。
律「また映画一緒に行こう、聡。」
聡「映画……何の……映画?」
律「お前の大好きなポケットモ○スターだ!」キランッ☆
聡「殺す」
聡は狂う様にナイフを振り回して来た!
律「い、一体何が悪かったんだ……!」
そうか…私が20ってことは聡ももう16か。
しまった年齢を加味していなかった。さすがに16歳がポケットモ○スターの映画は無理があるか。
律は考えながらも聡の攻撃を軽くかわして行く。身体能力に差がありすぎるのか聡は律に触れることすらままならなかった。
聡「クッ……ナンデダ……」
律「聡、姉ちゃんのこと嫌い?」
聡「、、、、、」
聡は顔を歪める。喋りたくても喋れないといった感じだ
律「聡、あんたは……いや、私達はこんな所にいるべき人間じゃないんだよ」
あの平凡だけど、幸せだった日常が私達の居場所なんだ。
だってそうだろう……
律は眼を瞑り大きく両手を広げた。
聡「……なんのつもりだ」
律「私達にこの世界は似合わないよ、聡、私達は…もっと…日向(ひなた)で生きていいんだ」
急に海に投げ出された様に私達はこの畏怖の世界に来た。
生き残る為に、大切なものを守る為に、私はこの暗い海を闇雲に泳いだ。
泳いで、泳いで、疲れ果てて……沈みそうになったのを助けてくれたのはみんなだった。
彼女達は信じていた。また戻れると、あの光溢れる世界に、だから諦めるなと
だから、私も信じる。
聡を、家族を、絆を。
人の強さとは何だろう。それは腕力だろうか、それとも知識だろうか、様々な強さがあると思うけど。
私はそれを本当の強さとは思わない。腕力で相手を捩じ伏せた所でそれが何になるのだろう。
確かに現実は甘くない、守る為に致し方なくその腕力を行使することもある。
なら腕力がないものは弱いのか?
違う、澪は腕力があるわけではない。それでも私を守る為に命を賭けてくれた。
そんな彼女が弱いわけがない
本当の強さとは「思い」の力
私はそう思っている。
だから──────
律「聡、姉ちゃんは聡のこと大好きだよ」ニコ
聡「……ねぇちゃん」
聡の手からナイフが落ちる。
眼を開け聡を見る律
律「聡……帰ろう」
聡「……う、……うあっ…」
うん、と言う言葉を飲み込み、聡は胸を押さえながら苦しみ出した。
律「聡!?」
慌てて苦しむ聡に駆け寄る律。だが聡はそれを拒む様に手を横に振るった。近づくなと言う意味だろう。
律「胸が苦しいのか?!」
聡「姉ちゃん…俺を殺してくれ…じゃないと俺が姉ちゃんを殺してしまう」
ようやく捻り出した言葉は自分を殺せという悲痛の叫び
律「聡……」
律「無理だよ…そんなこと。聡を殺すことなんて…」
聡「いいんだ…本当は死んでたも同然なんだから…。父さんと母さんはウェスカーに化物にされたらしい……。俺はただ姉ちゃんへの当て付けに生き延びさされただけだから…」
律「そんな……」
両親が死んだ事実と、今目の前にいる唯一の肉親となった弟まで失うかもしれないという現実
聡「姉ちゃん…生きて。俺ら家族の分まで…」
律「やだよ…聡…。そんなこと…言わないで」
涙を溜める律に聡は笑いながらこう言った。
聡「似合ってねーし、らしくねーよ…姉ちゃん」
そう、いつも太陽みたいに明るくて眩しくて、その笑みが大好きだった。
聡「ぐぅ……これに逆らったせいかな…気が遠くなって来たや…」
聡の胸辺りには宝石の様なものが禍々しく輝いていた。まるで逆らえば死ぬぞ、と言わんばかりに。
律「聡!それがあんたを苦しめてるんだな!?」
聡「ウェスカーに……つけられたんだ…。それから…意識が遠くなって……。」
律「ならそれを外せば……っ」
律は聡に駆け寄り宝石を取ろうとするも外れない。
律「くっ…このっ!外れろ!」
力一杯引っ張るも外れない。それどころか、「があぁッ」聡は一層苦しみ出す。
律「っ……どうすれば」
聡「殺せ……!姉ちゃん!頼むから……モウ…オレジャナクナル…」
たった一人となった肉親を自分の手で殺さないと駄目なのか…。
ここまで来て…やっと会えたのに…聡…。
「律!!!諦めないで!」
律「?!」
外から声がする。この声は、「澪!」考えるよりも先に声が出た。幸い鉄の壁で閉じられていても声は聴こえるのだろう。
澪はずっと壁の前で私達姉弟を心配してくれていたのだ。
澪「律、聡君を助けられるのは律だけだから…!」
律「ありがとう、澪」
澪は今ここにいるのは私しかいないから助けられるのは私しかいない、と言ったわけじゃない。
今聡にとって一番必要なのは私なんだ
その私が諦めたら一体誰が聡を助けるんだ
律「聡、姉ちゃんを信じろ」
律は右脚のホルスターからコルトM19を抜きゆっくりと弾を込める。
聡「姉ちゃん……」
姉ちゃんに殺されるのら本望だ。それを受け入れる様にただ両手を広げた。
律「……聡、絶対助けるから」
静かに撃鉄を起こす、
そして、躊躇わず引き金を引いた
─────────。
澪「律…」
必ず姉弟一緒に出てきて…。
パァン!と不意に嫌な音が響く
澪「銃声?!律?!」
壁に向かって声をかけるも返事は返って来ない。
澪「律!りつ!」
それでも何度も呼びかけるとちょっとめんどくさそうなダルい声を出した律が「大丈夫だよ」と返事をしてきた。
澪「聡君は?」
律「無事無事。今はちょっと気を失ってるけどね。」
澪「良かった……」
本当に良かった。
最終更新:2010年02月02日 00:07