律「それより問題があるんだ。この部屋はむぎの家にあった部屋と同じでさ。一人じゃ出られないんだ。そっちで何とかならない?」
澪「えぇっと……」
辺りを見渡すも扉を開ける様なボタンはついていない。
澪「ここからじゃちょっと無理みたい」
律「う~ん、やっぱりあの純って子が開ける装置でも持ってるのかな」
ちょっと途方に暮れている時だった。もう一つの扉、クリスさんとジルさんが入って行った扉にバリーさん達が集まっている。
バリー「クリス!無事か?」
クリス「何とかな。それよりここの扉を開ける装置は純が持ってる装置か最上階にしかないらしい」
クレア「ちょっと待ってて。梓に話を聞いてみるわ兄さん」
クレア「梓、無事かしら?クリスと律は無事相手を助けたのだけれど扉が開かないの。あなたの相手にしている純って子にここを開ける様に言ってくれないかしら?」
「……」
返事はない。鉄の壁が分厚いといっても荒い作りで所々隙間があるため声は届いている筈なのだけれど。
「……それは出来ませんよ」
クレア「梓……?」
いや、違うこの声は
純「この部屋に入った者を出したいのなら最上階へ行くしかもう方法はありません」
クレア「梓をどうしたの!?」
純「安心してください、今は少し会話が出来る状況じゃないだけ」
クレア「梓!?大丈夫?!」
構わず梓に話し掛けるがやはり返事はない。
純「無駄話はここまでにしましょう、では」
それっきりその扉からは静寂だけしか返って来なかった。
クレア「梓……」
バリー「仕方ない。我々だけで最上階へ行こう。」
レベッカ「えぇ。上にいる誰かさんがそうそう出すとは思えないけど。いざとなったらレッドハーブを煎じたにが~い汁でも飲ませてでも開けさせてやるわ」
バリー「ハッハッハ!怖いねぇ」
クレア「澪もそれでいい?」
澪「えっ…、あっはい」
私はその時少しだけ不安だった。でもそれは律が一緒にいないだけのモノかと思って流した。
バリー「てわけだクリス!ちょっくら行ってくる!」
クリス「あぁ。頼んだバリー。お前には助けてもらってばっかりだな本当に。洋館でもそうだった」
バリー「………気に、するな」
バリーさんが少し気を落とした様に見えたのは私の気のせいだろうか。
クリス「そうだ。唯達にも教えてやってくれ。胸にある宝石な様なものが操っているとな」
澪「律はもう何とかしたみたいだから唯と梓に言っておくよ」
まず梓の部屋の前でそう伝える澪。
だがやはり返事はない。あの純って子は操られている感じはなかった。
つまり自分の意思であそこにいることになる。だとしたら何故だろう……
そんなことを思いながら今度は唯と憂ちゃんが入って行った部屋の前に立つ。
もしかしたら唯も律みたいにもう憂ちゃんを何とかしているかもしれないと言う期待を胸に声をかけた。
澪「唯ー!無事かー?」
唯「澪ちゃん?」
すぐに返事が返って来て安心した。
澪「クリスさんと律は無事に二人を助けたみたい。胸の辺りについてる宝石みたいなものが憂ちゃんを操ってるんだ。」
唯「大丈夫、私と憂はそんなものに負けないから」
それはちょっと虚ろな声だった。
澪「そう…だよね。じゃあ私達はこの扉を開ける為に最上階へ行ってくるから!」
唯「うん…」
それで私達の会話は終わった。もっと言えることがあったんじゃないか…と思ったけど、それはただの気休めだと言わないでおいた。
唯の事は大好きだ、けど時々わからなくなることもある。唯は昔と違ってただ明るい、ってだけじゃなくなったから。
澪「それはちょっと唯に失礼か」
ちょっと含み笑いをした後4人はエレベーターに乗り込んだ。
最上階へ────
────中野梓
純とは高校一年の時に一番最初に友達となった人だった。
音楽、特にジャズに興味がある、と言うことで話も合った。一緒にジャズ研究会に入ろうと言ったのも彼女だった。
それから彼女は軽音部に入ろうと言ったけど私は遠慮した。彼女は見学に行ったけどやっぱりパッとしなかった様だ。
しかしその後私は憂に誘われ軽音部のライブを見て先輩達の音楽に感動して軽音部の戸を叩く事になる。
彼女とはそれっきりあまり話すことはなくなった。
そんな彼女が今、不適な笑みを見せながら目の前に立っている。
純「邪魔者もいなくなったですし、漸く二人きりで話せますね梓」
梓「純…あなたは」
純「初めに言っておくわね。私はあの三人みたいに操られているわけじゃないから。心からウェスカー卿を慕ってここにいるの」
梓「何であなたが!」
純「特別なのは自分だけ……とでも?」
梓「……どう言う意味?」
純「あなたはいつも誰かに愛され可愛がられてさぞ幸せでしょうね。軽音部でも仲の良くて面倒見の良い先輩が沢山居て。」
梓「…何が言いたいの?」
純「あなたのそのキャラ、ムカつくのよ」
梓「……は?」
純「ちょっと人気があるからって調子に乗って。私の事なんて見向きもしなかった!」
梓「……」
純「えぇ……私は所詮サブキャラ、名前を出しても「誰?」とかが日常茶飯事。それで良かった……けど」
純「私を見捨ててそう仕向けたあなただけは許せなかった!」
梓「じゃああなたも軽音部に入れば良かったじゃない!」
純「そんなことになれば私が空気になることぐらいわからないの!?昔からあなたのそうゆうとこ嫌いよ。だから殺そうとした、二年前に」
梓「!?」
純「覚えてないかしら?あなたがそんな体になった原因を」
梓「えっ……」
甦る二年前の記憶、体育館の鍵を取る時に痛め付けられた体……。
梓「まさ…か」
純「そう、私がタイラントに命令したのよ。あなたをいたぶれって。初めは殺そうとしたのだけれどそれじゃ面白くないから」
梓「そんな……なんで」
純「学校の門が閉まってたり鍵がなかったのも私が体育館へ行くよう仕向けたのよ。まあまさか
真鍋和がSTARSとはね。少し誤算だったけれど」
梓「じゃあ……もしかして二年前の悪夢は…」
純「そう、私とウェスカー卿が仕組んだのよ。
琴吹紬の父親に圧力をかけ桜高校内部からバイオハザードを起こした。」
梓「そんな……じゃあ私達はただあなたとウェスカーに実験されてたってこと…?」
純「えぇ。ウェスカー卿があることがあってあなた達に興味を持ってね。それからあの計画が立案されたの。ちなみに私達はアンブレラであってアンブレラではないモノ」
梓「アンブレラであってアンブレラでないもの……?」
純「そう、私達は『Appointing Party』選定者」
梓「…せん…てい……しゃ」
純「もっともB.O.W.はアンブレラが作った物が大半なんだけれどね。実際アンブレラが起こした実験、バイオハザードもあるわ。私達はそうね、あなた達を陥れる係ってとこかしら」
そう言って彼女はまた不適に笑った。
何が可笑しいのだろう。私達はあのバイオハザードのせいでどれほどのものを失ったと思っているのだろうか。
大切な家族や、先にあった未来。
あんなことがなければ私達は普通の日常で暮らしこんな武器を手にすることなどなかったろう。
そして私もこんな体にならなくて済んだ。
それを、何故笑っているのだろうか彼女は。
純「あら、怒った?でも漸くあなたと私は対等になれたのよ?私の気持ち少しはわかった?梓」
梓「わかりたくもない…」
純「酷いわね。せっかく愛しの「俺」さんにも合わせてあげたのに」
梓「…どうゆうこと?」
純「警察署で会ったあの化物、ネメシスって言うんだけれどね。あぁ開発したのは紬先輩のお父さん。その実戦型実験第一号が「俺」さんなの」
何を言ってるのかわからない。わかりたくない。
それでも勝手に彼女は喋り続ける。
純「学校の近くの家で仲良く団欒しているあなた達を見つけてね。ムカついて103型を突っ込ませちゃったの。それであなたは逃げたのだけれど「俺」って人がしつこく103型に食い下がってね」
梓「……」
純「まあ最後には力尽きたのだけどこのまま殺すのも勿体無い人材だったしあなたへの当て付けにもなると思って……」
彼女はまた笑う、堪えきれないとばかりに含んだ笑みを一気に爆発させた。
純「化物にしちゃった!したのは私じゃないんだけどね。まあ死ぬよりはマシよね?梓」
梓「うそ……だって……」
俺さんは私を守ってくれたじゃない……あれは……幻?
純「生きているまま脳を切り開くの、しかも麻酔なしで!「俺」さん泣いてたわ~梓~梓~って」
梓「嘘よ……うそうそうそうそうそ!」
頭が割れそうに痛い…。こんなのは全部夢だ…。
純「ところがどっこい現実なのよ!あ~面白い。あなたって本当にいい子よね、いい子過ぎてぐちゃぐちゃにしたくなるくらい良い子。」
「~~~~」
純「あら?あなたの大好きな澪先輩が何か言ってるわよ?返事しなくていいのかしら?」
何を言ってるのか私にはもう聞き取れなかった。ただ踞る。
純「仕方ないわね。私が取り次いであげるわ」
────────
純「澪先輩達は最上階へここの扉を開けるべく向かったわ。あ~あ、死んだわね。ウェスカー卿にかかればあの面子なんて10秒かからないわ」
梓「……」
純「すっかり傷心入っちゃって。そんな自分が可愛いとでも思ってんのかしら。あなたはただ醜いだけのサイボーグよ。これから誰にも愛されることなくその醜い姿を晒し続けるの」
梓「……」ギリッ
純「あ~いい気味。二年分の鬱憤が晴れたわ」
この人はただそれだけの為にみんなを苦しめたと言うのか
だとしたら私は、絶対に純を許さない
梓「純、少し黙って」
純「えっ?」
梓「軽音部のみんなを苦しめたこと、俺さんを苦しめたこと、バイオハザードに巻き込まれて命を落とした人、その命を落とした人の家族の恨み……」
私は、純を殺してしまうかもしれません。
梓「私が晴らす」
それでも、私を好きでいてくれますか?皆さん
────────。
最上階についてまず目にしたのは十数個のモニター。それが合わさってこの暗い部屋を照らしている。その光の下に椅子を構え、座っている男がいた。
金髪を綺麗にオールバックにし、黒いサングラスが歪に光っている。服も漆黒を思わす黒いコート。
何も言わなくてもビリビリとプレッシャーがかかるのがわかる。
バリー「久しぶりだな……ウェスカー!」
久しい友人に話し掛けるそれではない、いつもは温厚のバリーさんが珍しく声を荒げている。
レベッカ「ウェスカー!澪達の家族を解放しなさい!」
本来私が言うべきことをレベッカさんが言ってくれた。私はと言うとこの場の緊張感に呑まれて上手く喋れないでいた。
ウェスカー「久しぶりだなバリー。洋館以来だからもう三年になるか?レベッカ、相変わらず綺麗だ。だがそんな綺麗な君の頼みでもそう簡単にはね」
澪「約束通りGウイルスは持ってきた!家族を返してください!」
こんな時に敬語になってしまう自分が恨めしい。
ウェスカー「
秋山澪か。君も面白い人材だったのだがね、覚醒には至らなかったか。」
澪「?」
ウェスカー「確かに約束は約束だ。家族は返そう」
澪「じゃあ……」
ウェスカー「私に参った、と言わせられれば家族を監禁している場所を教えよう」
すくっと椅子から立ち上がり構えを取るウェスカー。
バリー「やけに強気だなウェスカー!洋館で俺達が追い詰めた時を忘れたのか?」
マグナムを抜き構えるバリーさん。
レベッカ「投降しなさいウェスカー!」
レベッカさんもベレッタを構えウェスカーへ向ける。
クレア「兄さんの宿敵と言うなら私の宿敵でもあるわ」
M79グレネードランチャー、硫酸弾を装填しているクレアさん。
澪「……」
私も無言で銃を構えた。
これだけの銃を前に向かって来るわけがないと。
BOWならともかく相手は生身の人間だ。殺すまで行かなくても少しは痛い目を見てもらう、なんて上からの目線で見ていたのかもしれない。
それはただの慢心で、ほんの数秒で覆される事となる。
ウェスカーは無言で間を詰めまずバリーの胸元を軽く叩くとそれだけでバリーは胃液を吐き出した。
「えっ」と呆けているレベッカの首筋に左手の手刀を見舞う。すると糸を切られた人形の様に彼女は地に伏した。
クレアは必死にウェスカーに狙いを定めようとするが早すぎて的が絞れない内にレベッカと同様に気絶させられる。
速すぎる、人間の出せる速度じゃない
その間私はと言うとただただそれを眺めているだけ。目の前に迫るそれをただ畏怖していた。
澪「こ、来ないで!」
銃をウェスカーへ向ける。
ウェスカー「ふふふ、緊張しているのか?安全装置(セーフティー)がかかったままだぞ?」
澪「えっ?」
慌てて私は銃の側面、安全装置を見るもロックされてな……しまっ……
その思うより早くウェスカーは私の銃を蹴り上げる。
澪「うっ……」
蹴り上げられたせいで手がジンとして痛い…怖い……。
ウェスカー「お前は、まさか自分が死なないとでも思っているのか?」
澪「!?」
ウェスカー「その動き、全く死を見ていない。同じ人間は人間の命を奪わないとでも?」
まるで説教をするように語りかけてくる。この人は何が言いたいのだろう
澪「私はただ…家族を助け出したいだけです」
ウェスカー「なら私を殺す気で来い。でなければお前が死ぬぞ」
澪「……人は、殺せません」
ウェスカー「……ハハハ、何を言い出すかと思えば。澪、お前は綺麗事だけ並べてただ自分の世界が綺麗であればいいのか?」
澪「…ならあなたは人を殺すことが間違いじゃないとでも言いたいんですか?」
ウェスカー「なら君は人間も動物も生き物なにもかも殺さないと?」
澪「食べることで殺すと言う解釈をするなら動物は殺してるかもしれない……けどそれとこれとは話が違う!動物は生きるために仕方なく殺かもしれません、けど人間は殺す必要なんてない!」
ウェスカー「それだ、澪。動物は生きるために殺す。人間は殺す必要がないから殺さない。なら殺す必要があるならどうだ?君は私を殺さないと殺される、なら生きるために動物と同じく殺せばいい」
澪「そんな屁理屈っ」
ウェスカー「これだけ言ってもわからないなら」
少し目を覚まさせる必要があるな
ウェスカーは私から離れバリーさんの元へ行く。手には私のデザートイーグル。
澪「何を…まさか、」
ウェスカー「バリー、君は良くやってくれたよ。洋館ではいい手引きをしてくれた」
バリー「うっ……てめぇ……絶対殺す……」
ウェスカー「天国で待つ家族の元へ行ってやってくれ」
澪「やめっ」
そうしてウェスカーは、引き金を引いた─────
パァン、と渇いた音がした後、バリーさんの額には穴が開き、それだけでさっきまで人間だったものはただの肉の塊と化した。
私には一体何が起きているのかわからない。
ただわかったのは、バリーさんは死んだと言うことだった。
ウェスカー「もう一人ぐらい殺しておくか。レベッカ、君だ」
気を失っているレベッカの頭を髪を掴んで持ち上げると銃を額に突きつける。
レベッカ「えっ……あ、ウェスカー!?」
ウェスカー「気は戻ったかね?」
レベッカ「や、やめてよ……冗談でしょ…?」
ウェスカー「君は私に銃を向けた、それは冗談だったのかね?」
レベッカ「たすけ…て、お願い、何でもするから…殺さな(ry」
パァン────
ウェスカー「哀れだな。人間死を目前にするとこんなにも醜いとは」
最終更新:2010年02月02日 00:10