─────数分後
そこには真っ二つになった蛇だったモノの残骸と、綺麗に袈裟斬りされ停止したタイラントの姿があった。
─────────
上がってくるエレベーターの扉が開く。
しかしその中には誰もいない。
ウェスカー「……無人だと?」
解せぬと言った顔でエレベーターを見据えるウェスカー。
その瞬間─────
タッタッタッタッタッタ────
靴が地面をリズム良く刻み、蹴り駆ける音が聞こえた。
「元凶!!!!!!!」
凄まじいスピードで階段から駆け上がって来た和がウェスカーに斬りかかった。
ウェスカーはその一撃をかわす、が、この奇襲が勝負処と見たのか和は更に追撃をかける。
和「逃がさない!」
柄のボタンを押すと切っ先が飛び出し、ウェスカーへ向かう。
ウェスカー「ふんっ…」
それを和から見て右に避けるウェスカー。
和「まだまだァ!」
その切っ先についている鎖をグッと引くとその慣性で切っ先は曲がり、その切っ先と鎖が出ている柄の間にいるウェスカーを支点にしぐるぐると巻き付いた。
ウェスカー「くっ……」
和「今よ律!撃って!!!!!」
律「う、……」
いざ撃てと言われると指が震える。確かに相手は憎むべき相手だ。
私達の家族を人質にし、バリーやレベッカを殺した。
殺されてもおかしくない、でもだからと言って撃つのか。
撃っていい理由になるのか、命を奪っていい理由になるのか。
律「くっ……」カタカタカタ
銃を持つ手が震える、狙いが定まらない。
和「撃って!!!律!!!」
律「出来ないよぉ!」
銃を両手で弱々しく持つ、顔は俯いたまま
律「撃てない…いくらあいつが憎くても…撃って殺したら同じになるから…」
和「律……」
ウェスカー「ハッハッハ……クックック……ふざけるなァッ!」
ウェスカーは巻き付いている鎖から無理矢理手を出しその鎖を引っ張る。
柄を握っていた和は放すのが遅れその力に引っ張らる。
和「なっ……」
そのまま中空に投げ出され落ちる先にはウェスカーがいた。
ウェスカー「ふんっ!」
その落ちてきた和の腹を蹴り上げるウェスカー。
和「、、、、っ」
声にもならない叫び声が和から発声られる。
ウェスカー「何が同じになる?そんなに綺麗なままでいたいのか?そんなに人を殺すことが醜いか?
田井中律!」
律「和……」
和「ゴフッ……り…つ、逃げなさい……」
ウェスカー「ハッハッハ!君が私を生かしたせいで彼女が死ぬぞ!?それでも撃たないのか?」
律「わ…私は……」
和「いい……の、律……。確かに……そうだったわ……ね。復讐は誰かが…我慢しなくちゃならない…。アネットやシェリー達の様に……」
ウェスカー「ふん、ラクーンシティの亡霊、ウィリアム・バーキンの家族のことか。ウィリアム、彼も道を誤った、それは彼が家族等と言うものに囚われていたからだ。」
律「違う!人を殺してまた恨まれて、そんなことは間違ってる…ウェスカー!」
ウェスカー「三文小説のような詭弁さだな。そんなものはお前の価値観に過ぎない。」
律「それはあんただって同じだろ?!何で私達を殺そうとするんだよ!?そうしない道だって……」
ウェスカー「君達と私達は相容れない、……私はあの時、君達の音楽を美しいと思ってしまったから」
律「……どう言うこと?」
ウェスカー「昔話はここまでだ。互いの考えなど私にとってどうでもいい。ただ私はこの腐った世界を《選定》する。その実験に君達を使ったに過ぎないのだから」
律「イカれてる……」
律は素直な気持ちを口にした。
「人の人生を、あなたはなんだと思ってるんです?」
ウェスカー「ん?」
律「梓!」
梓「みんなを苦しめて、陥れて、それが何になるんですか……!私は、私は!あなたを絶対許さない。アルバート・ウェスカー!」
ウェスカー「純をどうし(ry」
その言葉を言い切る前に梓はウェスカーを殴りつけた。
迅い、ウェスカーでさえ反応出来なかった。
続いて二撃、顔面と脇腹に決まる。
ウェスカー「面白い!」
ウェスカーも応戦する。そこからは一進一退の攻防が続き、痺れを切らした梓の体が赤く光る。
梓「トランザム!」
ウェスカー「ぐぅ……」
稲妻の様な速度での連撃がウェスカーを襲う、速度の次元が違う。
ウェスカーも対抗し動くがまるで意味がない。
梓「私は、加速する」
ウェスカー「確かに凄まじいスピードだ、しかし使い手が凡夫ではな!」
梓の動きを見越しウェスカーは先に拳を突き出す。さっきまで攻撃を受けていたのは梓の攻撃パターンを予測するためだった。
梓「くっ……!あっ……」
突き出された拳に自ら当たりに行ってしまう梓。
あまりのスピードの為にブレーキが効きにくいのは諸刃の剣だった。自分の速度と相まってウェスカーの拳を喰いその衝撃で小さな体はまるで交通事故にでも逢った様に吹き飛び壁に激突した。
律「梓!!!」
ウェスカー「惜しいな、その力殺戮に使えば君は最凶になれた」
梓「そんなもの……なりたくないです……私がなりたいのは……世界一の…ギタ…
リスト…」ガクッ
律「あずさぁ……」
ウェスカー「これでわかったか?君は私を殺すために全力で戦えばいい。君ならば私を殺せるかもしれないからな」
律「そんなに死にたいなら自分で死んだらいいだろ!私達を……私達の夢を巻き込むな!」
ウェスカー「それは綺麗事だ。世の中には1秒に何万もの人が死ぬ。人間は、死ぬんだ。ただどうしようもなく汚い。それがわからないか?」
律「そんな世界観をあんたは押し付けるのかよ!?私達は、ただの女子高生で……ただ幸せに暮らしたかっただけなのに!」
ウェスカー「残念だったな!こんな悪魔に目をつけられるとは!ならば私を殺してその日々を取り戻してみろ!」
律「もうあの日々は戻らない…でもこれからは変えられる。その変えられる日々までもあんたを殺すことの為に捨てたくない!約束したんだ!みんなで無事にここを出るって!約束したんだ!何度も何度も何度も何度も!みんなでまたライブをしたいって!!!」
「諦めなければ叶うよ!りっちゃん!」
──────────
はあ……はあ……はあ……。
純「気は……済んだかしら……私をボロボロにして……」
私は怒りに任せて彼女を殴った。らしくないと言われるとそうだ、けど私だって怒る。
沸点の限界を超えたのだ。
でも、そうやってみて気付いた。
こんなことをしても何もならないんだと
こうして彼女をいたぶっても俺さんは戻って来ない、私の大好きだったお父さんもお母さんも戻って来ない。
ならどうしたらいいのだろう。どうすれば全て上手くいくのだろう
わからない。。。
私はただ、彼女に近寄り、抱き締めていた
純「……何のつもり」
梓「もう……やめよう。私達友達だったじゃない……」
純「散々殴っておいてそれ?笑えるわね」
梓「わからないの。どうしたらまたあの暮らしに戻れるのか。あなたを怒りに任せて殴れば少しは気が晴れると思ったけど……違った」
純「それで?次は寛容になったのかしら?」
梓「唯先輩は、こうして抱き締めてくれた。あなたの言う醜い体の私を優しく」
純「……。」
梓「私は…あなたとわかり合いたい。こんなことをしたのは許せない、けど……それをずっと恨んでたら……終わらないから。これで、終わりにしよう」
純「……私は、ずっと一人だった。中学三年の時両親は仕事先の事故で二人とも死んだの。二人は、アンブレラの社員だった。」
梓「そう…」
純「そんな私を拾ってくれたのが、ウェスカー卿だった。彼は確かに万人からすれば悪だけれど、私にとってはたった一人の家族だった。無愛想で、本当に笑った顔さえ見たことないけれど…それでもウェスカー卿のこと大好きだった。」
梓「うん…。」
純「彼があなた達をターゲットにした時、正直迷ったわ。でも、ウェスカー卿に嫌われたくなかった。だからあなたを憎むことで私はそれを正当化した」
梓「……純は、子犬、好きだったよね。昔私に預けてくれたことあったよね」
純「うん……」
梓「純は、そんな子犬が殺されても……悲しくない?」
純「悲しいよ…」
梓「同じなんです…みんな。辛いことは嫌なんです…。純、私達…まだやり直せるよ」
純「でも……ウェスカー卿を……裏切ることは出来ない」
梓「純……」
純「行って、梓。私が出来るのはこれだけだから」
純は奥へ行きボタンを押した。
梓「ありがとう……純」
純「…暖かかった、それが…正しいって思ったから。後、あの時子犬を預かってくれた時のお礼……してなかったから」
梓は無言でニコりと頷いて、部屋を出た。
私は自分で言うのも何だけどいつも能天気でゴロゴロしてるのが大好きで…。
高校までずっとそうだった。それでも私が駄目にならなかったのは憂がいたから。
憂がいつも私をどんな面でも助けてくれて…支えてくれた。
ほんと駄目なお姉ちゃんだよね…良く愛想をつかされなかったぁって思うよ。
憂、憂は私のこと…嫌いかもしれないけど
私は憂のこと大好きだよ。
だから……
唯「憂、生きていてくれて嬉しいよ」
憂「……」
憂はただナイフを不器用に両手で握っている。憂には似合わない、憂に似合っているのは料理を作る包丁だけ。
唯「憂、戻ろう……一緒に」
憂「オネェチャン……」
憂の目からは涙が溢れている。
唯「憂、ずっと…ずっと迷惑かけてごめんね……。私が駄目なお姉ちゃんだから……憂にいっぱい迷惑かけたよね」
違う、
唯「私は憂が何でもやってくれるからって甘えてた……その甘えが憂を苦しめて……」
苦しんで何かいない
唯「むぎちゃんちでも……私が弱いから……憂を助けられなくて……それがこんなことに……」
違うのお姉ちゃん。お姉ちゃんは悪くないよ。
唯「だから……私しっかりしようって……。次に憂に会っても相変わらずだなぁって…笑われないように…警察官になったんだぁ…私がだよ?」
偉いね…お姉ちゃん。すっかり大人になったんだね。ちょっぴり寂しい気もするけど…
唯「みんなを…憂を……私自身の力で守りたかったから……。」
お姉ちゃん……
お姉ちゃん……っ
憂「おねぇちゃん……」
唯「ういぃぃぃ……ごめんねぇ……辛かったよね……苦しかったよね……私が……私が……」
違うよ、お姉ちゃん。私は……
しかし無情にも胸の宝石が光る
憂「そうよ、お姉ちゃんが悪いんだから」
唯「う…い…?」
憂「お姉ちゃんがいっつも私に負担をかけるから!こんな…こんなことに……」
違う!違う!違う!
やめてよ!何を言うの?!
お姉ちゃんはちっとも悪くない!お姉ちゃんは私を守ろうといつも必死で
唯「ごめんね……憂。」
憂「謝ることしか出来ないんだ…ならもういいよ。お姉ちゃんなんてもういらない。」
ナイフを強く握りしめる私。こんなことしたくないのに……体が勝手に……。
唯「それで…憂の気が済むならいいよ」
憂「……うああああっ」
ナイフを持ったまま走った。大好きなお姉ちゃんに。私はどこかでこうなることを望んでたのだろうか
だから体は歯向かえない……自分の本能だから。
これでお姉ちゃんと私の関係は……ただの殺人者と被害者に分別される。姉妹には、二度と戻れない。
そう思っても尚足は止まらなかった。
そして─────
そのナイフは…深く、深く刺さり込んだ。
まるで姉妹の絆を断つ様に
憂「!?」
憂は驚きを見せた。本心も外心も、同じく。
お姉ちゃんは向かって来た私を拒みもせず逃げもせず……ただ両手で広げ抱き締めた。
左脇腹からはナイフによりおびただしいほどの血が流れ出している。
憂「おね……ぇちゃん……?どうして……?」
唯「わたしに……は、憂を……拒むことなんて…ゲホッ…出来ないから」
憂「お姉ちゃん……おねぇちゃああん!!!!!」
扉の向こうから声がする、澪さんだ。
澪「唯ー無事か~?」
何か言ってる。でも私の耳にはそれは入らなかった。
唯「澪ちゃん?」
信じられないことに彼女は普通に受け答えを始めた。二、三言葉を交わすとそれは終わりぐったりと表情を見せるも決して倒れようとはしない。
唯「良かった……心配してほしくなかったから……上手く……しゃべられたかなぁ……私」
口調が怪しい、もう意識を保つのも必死な状態だった。
唯「操られてるとか……そんなの関係ないよ……だって……目の前にいるのは……紛れもなく私の……たった一人の…大好きな…誰よりも大好きな…妹の憂だもん」
私の胸にある宝石は、その言葉で弾け飛んだ。
憂「お姉ちゃぁぁぁん!!!!!!!!!!!!!!!」
ナイフを抜き唯の抱擁を強く受け止めた。
唯「おかえり……うい」
ずっとずっと聞きたかったその台詞を聞いて……私は涙を拭いながら直ぐ様こう言った。
憂「ただいま……お姉ちゃん」
そうして、唯は……
唯「う……い……幸せに……ね」
ぐしゃりと地面に倒れ込み。死んだ。
憂「おね……ちゃん?」
ウソ……そんな……お姉ちゃん……私が……あ……あ……
憂「あああああぁぁぁぁぁ!」
ただ叫んだ。この現実を否定するように、ただ、叫んだ。
私は、何てことをしてしまったんだろうか
地面に横向きになって倒れているお姉ちゃんをゆする。
憂「お姉ちゃん……朝だよ……起きて……」
その度にお腹の傷から血が滲み出す。
あんなに暖かったお姉ちゃんの体が……どんどん冷たくなって行く。
それはまるで私とお姉ちゃんの別れを表しているようで怖い。私は必死にその手を握りしめ暖めようとした。
憂「お姉ちゃん……ごめんなさい……」
唯「」
返事はない
憂「お姉ちゃん……起きて」
唯「」
起きない
憂「お姉ちゃん……お姉ちゃん……」
唯「」
唯はもう、ここにはいない。
最終更新:2010年02月02日 00:12