憂「もう……イヤだ。私も……死ぬ!」
ナイフを乱暴に刃事掴み自分の喉笛に突き立てる。
唯『憂、幸せにね』
憂「!?」
また、そう言われた気がした。
手からナイフが滑り落ちる
憂「やだよ……お姉ちゃん……お姉ちゃんがいない世界なんて……生きていたくないよ……」
私はお姉ちゃんに抱きつきながら精一杯懇願した。
憂「私の命なんかいらない!だからお姉ちゃんを……」
私の大好きな大好きなお姉ちゃん。
私のせいで死んでほしくない…だから。
憂「唯お姉ちゃんを返して!!!たった一人のお姉ちゃんなの!!!」
その瞬間体が熱くなった、気がした
二年前、彼女もウロボロス入りの食事を口にしていた。怪しまれない様に、それと唯に抗体があるのならその妹の憂にも抗体があるだろうと踏んでのウェスカーの指示だった。
そんな話は今は関係ない。問題は憂にもウロボロスによりもたらされた能力があった。
抗体を媒介とし、そのDNAを認めた者のみに与えられる力。
澪〔Reai photo〕
現写
律〔As possible lucky〕
可能な限りの幸運
唯〔Prophetic dream〕
正夢
〔God voice〕
神の声
そして憂は……
〔Absolute treatment〕
絶対治療
憂の手からウロボロスが混じった血液が、唯の傷口に流れ込む。
普通の人間ならこれだけで死亡の恐れがあるが唯もウロボロスを取り込んでいるのと、姉妹で血液型が同じと言うところが幸いした。この点で言えば絶対治療、とは少し矛盾する。
しかし、流れ込んだウロボロスは唯の体内を巡り活性化し、生きるために必要なことを行う。
血が不足しているなら血を作り出す。
これはさっきまで生きていた、人間だからこそだ。
死んで何日も経った死体はもう人間ではないのだから。
憂のウロボロスは唯を認め、活動を開始した。
唯の心臓はまたゆっくりと動き出し、傷口は次第に塞がっていく。
トクン……トクン……
憂「えっ……」
音が聞こえる……暖かい……音が。
唯「憂……」
お姉ちゃんの柔らかな手が私の顔を撫でてくれてるのがわかる。
憂「お姉……ちゃん。お姉ちゃん!」
私はそれを確認するようにまたお姉ちゃんを強く抱き締めた。
唯「憂は……痛みのわかる子だよね…。自分が痛くなくったって…自分がされて痛いことや悲しいことは……しちゃダメだって……わかる子だよね…」
憂「ご…めんなさぁい…」
泣いても泣いても、いくら拭っても…おかしいな……お姉ちゃんの顔が……見えないよ
唯「わかってくれたらいいんだよ……憂。また一緒に……幸せに暮らそう」
憂「ぅんっ……うんっ……」
こうして、唯と憂の長い……長い……長い……すれ違いは幕を閉じた。
二年前の様に、また笑い合って過ごせる日々が訪れるのだろうか。
今は、わからない。
ただ、この先どんなことがあろうとこの姉妹は、
ずっと一緒であろう
それだけは、わかりきっていた。
─────────
唯「憂……行こう」
私は何とか立ち上がる。少しふらつくけれどお腹の傷は塞がっていた。
どうしてかはわからないけど、きっと憂が何かしてくれたと言うことだけはわかった。
憂「大丈夫?お姉ちゃん……」
唯「うん!憂のおかげだよ!」
憂「良かった……」
唯「憂……?」
憂はずっと私のいない方を見つめたまま動いていない。
憂「お姉ちゃんが無事で良かった……」
唯「憂……もしかして…」
憂の目にはもう、姉の姿が映ることはなかった。
P30に無理矢理抵抗した後遺症として憂は光を失っていた
憂「……ごめんね……お姉ちゃん」
唯「憂……大丈夫だよ」
私が憂の目になるから
ずっと、ずぅっと……
そうしてまた私は、憂を大事に抱き締めた。
憂と言う字はどうしても暗い印象がある。
でも、隣に人が居れば優になる。
本当に優しい子なのだ
憂をもう一人にはしない。
私はそう胸に誓った。
でも憂は違った
憂「お姉ちゃん、行ってあげて。」
唯「憂……」
憂「私は行っても足手まといだから…」
唯「そんなこと……」
憂「でも、ここからお姉ちゃんを出すくらいは出来る…お姉ちゃんの、みんなの役に立ちたいから」
それが迷惑をかけた私の償い
憂「みんな、待ってるよ」
彼女はそんな弱い人間じゃなかったことを思い知らされた唯
唯「憂……ありがとう。必ず迎えに来るから。一緒にここを出たら…一緒にケーキ焼こう。私も少しは出来るようになったから!」
憂「ふふっ、楽しみにしてるよお姉ちゃん」
私は憂の手を引きボタンの所まで誘導する。
憂「気をつけてね、お姉ちゃん」
唯「うんっ」
憂がボタンを押すと鉄の扉がせり上がる。
唯「憂、行ってきます」
憂「行ってらっしゃい、お姉ちゃん」
それはまるで二年前、私が軽音部の合宿に行くときの様な見送り方だった。
何もかもあの時のままとは行かないけど…きっとまたあの日とは違う幸せが待っていると信じて。
─────────
律「唯!!!」
唯「ライブ、やろうよりっちゃん!!!」
こんな状況でも笑っている唯を見て肩の力が抜けていく。
律「うん!!!やろう!」
何故か嬉しくなってそんなことを言ってしまう。唯なら、唯なら何とかしてくれるんじゃないか。この状況を打破してくれるんじゃないかと思って止まない。
ウェスカー「
平沢唯か……。また一人死ぬ奴が増えるだけだ」
唯「バーちゃん…レベにゃん…」
額に穴が開きぐったりしている二人を見るも、唯はめげない。
唯「あなたは、悲しい人」
ウェスカー「何がだ?」
唯「他人を傷つけてしか自分を表現出来ないんだ…だからこうやって子供みたいに悪戯する」
ウェスカー「何を言うのかと思えば…説教か?」
唯「人は、あなただけじゃない。みんながみんな大切な何かを持って生きてるの!それを奪うことは誰にも出来ない、してはいけない!」
ウェスカー「私を止めるか、平沢唯」
唯「りっちゃん!エアドラムよろしく!」
律「えっ?!あっ、うん!」
唯「じゃあいっくよぉ~カレーのち、ライス!」
律「1.2.1234!」
唯「キミにときめき 恋かもね アワアワ~♪」
律「タンタンタタタンタンッ」
唯「ハングリー精神 止めらんない クラクラ~♪」
律「タンタンタタタンタッ」
唯「お願いア~ツア~ツ お皿のカレー スパイスひとさじ刺激ちょうだい☆」
唯「甘口じゃなく今日は中辛なのぉ~大人味なのぉ~☆」
律「タンタンッタタタッタン」
唯「お肉 お野菜 秘密の隠し味~ 育ち盛りの欲張り 恋心~」
律「タンタンタタタンタンッ(あれ、私いらなくね?)」
唯「だいすき!コ~トコト煮込んだカレー スパイスふたさじ経験しちゃえ だけど限界辛すぎて もうダメ~↓」
唯「ピ~リ~リ~ ピ~リ~リ ピ~リ~リ~ Oh...NoNoNoNoNoNoNoNoNoNo カレー CHOPPiLi ライス」
唯律「TAPPULi!!!!!」
ウェスカー「…………」
脳髄に焼き付くような歌だった。
どこまでも吸い込まれそうな……心地よく、全てがどうでもなくなる。
ウェスカー「…………」
こいつは、殺しておかなければ。
ウェスカー「ふふふ、……いい歌だ。新曲か?」
唯「効いてない……」
律「……(新曲か?って…まるでその前を知ってるみたいな口振りだな…)」
ウェスカー「なら、次はこちらから行こう」
さっきの歌のせいで私の殺意は薄れつつあった。
平沢唯、何と素晴らしい歌を唄うのか
三年前と変わっていないな
律「駄目……なのか」
これだけやっても駄目なのか……ここまで来て…。
いや、仕方ない…全員揃って力を出し尽くしても無理だったんだ。
諦めるしか……
『もう一声~♪』
律「えっ」
律の腰にある通信機から声がした。
『みんな!屋上へ!』
唯「この声は…!」
律「むぎぃ?!」
『はいは~い♪。それより話は後よりっちゃん。みんなを連れて屋上に』
律「な、なんかよくわかんないけどわかった!唯!梓を!私は澪を担ぐ!」
唯「わかった!」
ウェスカー「何を企んでいる?」
そんなウェスカーをシカトし二人は気を失ってる人達を起こす。
そうだ、まだ私達軽音部には一人いたじゃないか!
頼りになるむぎが!
律「澪!起きてくれ!クリス!クレア!和!」
順番にゆすり起こす。
澪「律……?おはよ」
律「おはよ、じゃない!早く起きてくれ!屋上へ行くぞっ」
澪「屋上?」
律「むぎが来たんだ!」
澪「むぎが!?」
クリス「ぐっ……頭が……」
律「クリス!クリスはクレアを背負ってくれ!私は和を背負って行くから」
クリス「状況が飲み込めないが…わかった」
ウェスカー「何をコソコソと。屋上に何があるかは知らないがそう簡単に行かせるとで(ry」
ヒュン────────
何かがガラスを突き抜けて来てウェスカーの脚を貫いた。
ウェスカー「なっ!どこからだ?!」
撃たれた、いや、律達ではない。ガラスが割れている……狙撃か?しかしこの辺りにこのラクーンシティタワーの最上階を狙い撃てる高さの建物など……
いや、一つだけあった。ここから3Kmほど先の山の上にある灯台。そこならば高さは足りるだろう…しかし現実的ではない。
確かにスナイパーライフルは種類によって届くだけなら5km程は届く。だが人間の様な小さな的を風や重力を計算に入れ尚当てるなど人間技ではない。
律「みんな!今のうち屋上へ!」
そうモタモタしてる間に律達は生きている人間を連れて階段で屋上に登って行く。
ウェスカー「ちっ!逃がす(ry」
ヒュンッ───────
ウェスカー「ぐぅっ」
次はご丁寧に逆の脚か!
何とか転がりながら物陰に隠れるウェスカー。
ウェスカー「クソ……歩けるように再生するまで少し時間を要するな……」
私が化物、と言うのならこの狙撃手も対等の化物だろう。
人間を域を外れた時に人はそれを化物と呼ぶ。
ウェスカー「面白い…」
さあ軽音部、貴様らはどちらだ?
灯台───────
斉藤「ふん…隠れたか。まあいい、足止めは出来た。」
バレットM82A1カスタムを肩担ぐ。
ガガッ
『足止めご苦労様斉藤』
斉藤「少しは時間稼げましたかね。」
『十分よ。あなたはそのままヘリと合流して』
斉藤「了解しました。」
ガガッ
斉藤「ふぅ、お褒めの言葉なし……か。厳しいなお嬢は」
ガガッ
『言い忘れてたわ。よくやってくれたわね、斉藤。あなたのその能力、琴吹家の誇りです。また会いましょう』
ガガッ
斉藤「…………いやっほぉぉぉぉぉ~!」
屋上────────
律「はあ…はあ…。なんだぁ?」
澪「これって……」
唯「もしかして……」
梓「ライブステージ……?」
唯「あずにゃん。目が覚めたの?」
梓「はい。でもこれ……」
そのライブステージのキーボードの所に、彼女はいた。
長いブロンドがかった髪が太もも辺りまで伸びている。
軽音部で一番大人びたのは誰か、と言われれば全員間違いなく彼女だと言うだろう。
紬「みんな~久しぶり~」
唯律澪梓「むぎ!(ちゃん)(先輩)」
律「いつの間に屋上にこんなものを……」
紬「ヘリ二機で空輸したの!あなた達を救う為に!」
澪「救う?……ってあれは!私のベース!」
JB62/LH/3TS
唯「あんなところに私のギー太が!」
ギブソン・レスポール
梓「私のムスタングまで!」
MG73-CO FRD
律「私のドラムセットォ!」
YAMAHA Signature Series Hipgig
紬「話は大体傍受して聴いたわ。ウロボロスウイルス…確かに強力よ。でもたった一つだけ弱点があるの。それは、音楽よ!」
律「……そんなこといきなり出てきていきなり言われても……」
澪「う~ん……」
梓「完璧話に置いてかれてます…」
紬「1から話してる暇じゃないのだけれど……少しだけ話すわ。ウロボロスウイルスと言うウイルスは聞いたことあるわよね?」
律「確かウェスカーがそんなことを…」
紬「そう、アルバート・ウェスカーの超人的能力もそれによるものよ。私は事前にこの事件の黒幕、アルバート・ウェスカーの事に気づきここへ来る前に色々調べたわ。ウロボロスウイルスは始祖花に含まれるウイルスなのだけれどそれだけじゃただの殺人ウイルスなの
このウイルスの別名は選定者、取り込んだ人物のDNAを辿り適したものには絶大な力を与え、そうでないものには……」
紬「死ぬわ」
梓「選定者……(純が言ってた。そうゆうことだったんだ…)」
紬「私もウロボロスのせいで二年もの間眠ってたの。後遺症ってことかしらね。私には抗体はないけれど抗体剤飲んでいたから死なずにすんだの」
最終更新:2010年02月02日 00:14