唯「パーティー凄かったねー」

紬「ふふっ、招待したかいがあったわ」

唯「うん。みんなすっごい綺麗なドレスに着飾ってて、料理もみんな美味しくて」

紬「唯ちゃんのドレス姿も綺麗だったわー」

唯「そんな。私なんて孫にも意匠だよ」

紬「唯ちゃん。色々間違ってます」

唯「えっ、そうなの?」

紬「そうです。唯ちゃんはとってもかわいいです」

唯「そんなー。私なんてまだまだだよー」

紬「そんなことないと思うなー」

唯「でも、よかったの? パーティーに招待してもらった上、ムギちゃんに家まで送ってもらっちゃって」

紬「いいの。ちょっとだけ歩きたい気分だったから」

唯「ふぅん」

紬「……月がきれいですね」

唯「!?」ドキッ

___
紬「着いたね」


紬「……? 唯ちゃん、どうかした?」

唯「あっ、うん。慣れないパーティーで疲れちゃったかな」

紬「そう。今日はゆっくり休んでね。おやすみなさい」

唯「うん。おやすみ」



唯(ムギちゃんは「月がきれいですね」って言った)

唯(これってそういう意味なのかなぁ)



>数日前
唯「うーいー。これわかるー?」

憂「あっ、クロスワードパズルだ」

唯「うん。ここがわからないんだけど」

憂「なになに。夏目漱石が『I love you』をなんと訳したか」

唯「うん。9文字で、2文字目が『き』、8文字目が『す』なんだけど」

憂「つきがきれいですね」

唯「へっ」


憂「夏目漱石はI love youを『月がきれいですね』って訳したんだよ」

唯「えーーーっ!」

憂「ロマンチストなんだよ。夏目漱石は」

唯「ふぅむ……」

憂「ちなみに二葉亭四迷は『わたし、死んでもいいわわ』って訳したんだよ」

唯「憂はなんでも知ってるねー」

憂「えへへ」


>回想終わり

唯(月がきれいですね=I love you!?)

唯(ムギちゃん Love 私ってこと!?)


>翌朝-通学路

紬「あっ、唯ちゃん!」

唯「ムギちゃん?」

紬「ふふっ、朝から唯ちゃんに会えるなんて今日はついてるわ」

唯「あっ、うん」

紬「あれっ、憂ちゃんは?」

唯「うん。用事があるとかで先に出ちゃった」

紬「そうなんだ」

唯(ムギちゃんと二人きり……)

紬「唯ちゃん?」

唯(今はちょっと気まずいかな)

紬「唯ちゃんってば!!」

唯「へっ」

紬「唯ちゃんどうしちゃったの。今日はなんだか変だよ」

唯「な、なんでもないよ」

紬「うーん怪しい。熱でもあるのかしら。ちょっとおでこを拝借するね」

唯「へっ」

紬「手じゃよくわからないから、オデコとオデコをくっつけて……」

唯(わっわっ、近いよムギちゃん)

紬「うーん。熱はないみたいね」

唯(……キスされるかと思っちゃった)

紬「またぼーっとしてる。本当に今日はどうしちゃったの?」

唯「えっと……そう、あれだよ、あれ」

紬「あれって?」

唯「昨日のパーティーの疲れが残っちゃってて」

紬「えっ、そうなの……」

唯「うん……」

紬「……」

唯「ムギちゃん?」

紬「悪いことしちゃったなって」

唯「へっ」

紬「昨日は唯ちゃんが疲れてることに気づかずにはしゃいじゃったし」

唯「そ、そんなことないよ」

紬「ううん。ごめんなさい、唯ちゃん」

唯「だからっ、ムギちゃんは悪くないよ」

紬「でも……」

唯「昨日は御馳走だって美味しかったし、とっても綺麗なドレスも着れたし、それに、
  綺麗に着飾ったいつもと違うムギちゃんも見られてとっても楽しかったんだって!」

紬「///」

唯「あっ、えっ」

紬「///」

唯「あのーそのー」

紬「///……ハッ。…………あっ、うん。唯ちゃんは楽しかったんだね」

唯「……うん」

紬「それならいいのかな……。でも今日は無理しないでね。風邪ひいたら嫌だし」

唯「気をつけるよ」

紬「じゃあ行きましょ」

唯「うん」


唯(ムギちゃん顔真っ赤にしてたな)

唯(やっぱり私に気があるのかなー)


唯(……! そうだ。ちょっと試しちゃおう)

唯「むーぎーちゃん」

紬「なぁに?」

唯「手、繋いで行こ」サッ

紬「えっ」

唯「……ほら、ムギちゃんも手を出して」

紬「えっと、なんでいきなり?」

唯「理由なんていいじゃない。ほらほら手を出してー」

紬「……」

唯「ムギちゃん?」

紬「ごめんなさい」

唯「へっ」

紬「ほら、唯ちゃん行きましょ。あんまりゆっくりしてると遅刻しちゃうわ」

唯(……)

唯(……断られちゃった)

唯(なんで?)

唯(冬の間はよく手を繋いでたのに)

唯(ムギちゃん……どうして?)

紬「……」タッ

唯「……」タッ

紬「……」タッ

唯「……」タッ


唯(ムギちゃんのこと、わかんなくなっちゃった)


>放課後
和「なるほどね。二人の様子がおかしかったのはそれが原因だったんだ」

唯「どう思う? 和ちゃん。ムギちゃんの気持ちわかる?」

和「わからないわ」

唯「へっ」

和「ムギのことなら唯のほうが良く知っているでしょ」

唯「……」

和「ただね……ムギが告白しようとしたわけじゃないのは確かだと思うわ」

唯「なんでー?」

和「唯が「月が綺麗ですね」の意味を知ってるなんて、誰も思わないもの」

唯「ひどい」

和「事実よ」

唯「そっかぁー。じゃあ別にムギちゃんは私のこと好きじゃないんだね」

和「残念そうね。でも落ち込むのはまだ早いわ」

唯「えっ?」

和「告白する勇気がないから、さり気なく言ってみた可能性も否定できないわ……」

唯「……」

和「どちらも推測に過ぎないから、確かめたいなら直接ムギにあたりなさい」

唯「はーい」

和「……」

唯「はぁ……」

和「…………ひとつだけ言えることがあるわ」

唯「……?」

和「恋愛感情は別にして、ムギが唯のことを大好きなのは間違いないってこと」

唯「ほんとうに?」

和「ええ。それだけは保証してあげる。それじゃあ私生徒会に行くね」


___
ガラッ
梓「あっ、唯先輩」

澪「おっ、やっときたか」

律「遅いぞー」

唯「ごめんごめん。ちょっとね」

紬「唯ちゃん……ひょっとして体調が優れないの?」

唯「へっ、違うよー。ちょっと和ちゃんとお話してただけだよ」

紬「そうなんだ。じゃあすぐにお茶を入れるね」

唯(ムギちゃん……)

律「今日のお茶請けはモンブランだぞ」

唯「モンブラン?」

澪「あぁ。唯があまりにも遅いから、唯の分も食べちゃおうか、って話してたところなんだ」

唯「ダメッ!」

澪「わかってるよ。ちゃんと残してあるからさっ、ほら」

紬「唯ちゃん。お茶が入りましたよ、どうぞ」

唯「もぐもぐ……やっぱりムギちゃんのケーキとお茶は美味しいねぇ」

紬「ケーキは貰い物だけどね」ニコ

唯(あっ、ムギちゃんが笑った)

唯(この笑顔を見るのも久しぶりな気がするよー)

唯(……昨日はいっぱい見たけど)

紬「唯ちゃん?」

唯(なんかいいな、こういうの)

紬「どうしたの? フォークも止めてぼーっとしちゃって」

唯「……へっ?」

紬「……やっぱり昨日の疲れが残ってるのね」

唯「へっへっ」

紬「……決めたっ! 唯ちゃん、それ食べたら帰りましょ。私が家まで送っていくから」


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最終更新:2012年09月02日 22:27