澪「そうなのか」
梓「そのバンドはベースの赤ペンとドラムの羊がウィリアム・テルごっこを始めて解散になりました」
澪「(…………うん、考えたら負けなんだろうな)」
梓「次のバンドではヘルプのベースをやってたんですが、ドラムと私二人だけでした。
けれどドラムの町田さんは神経衰弱になってどこかへ行ってしまいました」
澪「…………」
梓「それからしばらくは一人でMTRに曲を録ったりしました。ギターもベースもドラムもできたので。 まあ、暇つぶしにはなりました」
澪「録音か……じゃあ、ひょっとして自分で曲作ったりもしてたのか?」
梓「そうですね」
澪「へー。今度聴かせてよ」
梓「良くできたやつなら、カセット持ち歩いてますが……たまに聴くので」
澪「おお!!」
ズオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
ブツッ……ブツブツッ……
カーン……カーン……
澪「……ホラー映画の音楽?」
ファーストフード店
律「ムギはいつもポテトばっか頼むなー」
紬「えへへ」
律「唯は余裕でセット食ってるな…さっきモンブラン食べたのに」
唯「わひゃひひゃへへもふほらないひゃら~」
律「はいはい、口に物を含んで喋らない」
シェケナベイベナー♪
唯「わぁ、憂からだあ。もしもし、うーいー?」
憂『お姉ちゃーん、今晩なに食べたい?』
唯「えっとね、最近食べてなかったから生姜焼きなんかいいな~」
律紬「(たった今ハンバーガー食べてるのに…)」
律「はーぁ、帰ってから食べれるかな~」
紬「ねえ、またいつかみたいに、みんなでバイトしたいね」
律「バイトかー。そうだなー新しい機材なんかも買えるしなー」
唯「今のお店アルバイト募集出てたよ」
律「交通調査は短期間でもらえて手っ取り早かったよな」
唯「次はマグロ漁船とか!」
律「帰ってこれるかな…」
紬「(あー……ご一緒にポテトはいかがですかー)」
某CDショップ
梓「あ~…つきあわせてしまって……」
澪「私もつきあってもらったから、いいんだよ。
それで? 欲しいものがあるんだろ?」
梓「はぁ……まぁ……」
フラフラー
梓「…………」
澪「それ?」
梓「今度……来日するそうです」
澪「ん……あ! これ聴いたことある!」
梓「たぶんカバーの方かと」
梓「…………」フラー
澪「まだあるのか?」
梓「ストゥージズの最初の2枚は持ってるんですが、リマスタリングされたのは聴いてなくて」
澪「いぎーぽっぷ」
澪「この人は今いくつなの?」
梓「還暦は越してる?」
澪「うへえっ!?」
梓「……再結成しないんだろうか」
澪「いいよなぁ」
梓「…………ブツブツ」
澪「ザ・フー……ジョンみたいなベース弾けたらな~」
梓「あ」
澪「んー?」
梓「これ、いいですよ」
澪「…………うう」
梓「これはいいですよ」
澪「いや、私はこういうのはちょっと……ウップ」
梓「ぶーぅんさいこぉたならー……ブツブツ」
澪「CDプレイヤーも持ち歩いてるのか」
梓「はい。買ってすぐに聴けますから」
澪「なるほど」
梓「ぶーぅんさいこぉたならーうんふにゃふにゃ」
澪「……気に入ったんだ、さっきの」
梓「…………」
澪「気に入ったんだな!」
梓「え? ああ、はい」
澪「ハァー……」
澪「……梓」
梓「はい。ボリューム下げたから聞こえてます」
澪「……こないだの学園祭で思ったんだけどさ。やっぱり、梓が軽音部入ってくれてよかったよ」
梓「はぁ」
澪「去年から4人でやってきたけど、初めて5人で人前で演奏して、すごく、よかったんだ」
澪「5人で円になってリフ弾いてるときにさ、ああーもっとやりたいなー。
もっと聴いてほしいなーってさ、思って」
梓「はぁ」
澪「次にステージで演奏するのはいつなんだろうって、そしたら、もしかしてまた1年後だったりして。
とか考えてさ」
梓「はぁ」
澪「もっとみんなで音出してたいし、さっきみたいなスタジオとかでもさ。
もっと人前でもやってみたいなーって……」
梓「はぁ、ライブですか」
澪「そ、そうだなっ」
梓「そーゆーことは私より律先輩とかに言ったほうが」
澪「ん? んーそうなんだけどさ。ちょっと、梓に話してみたくなったんだ」
梓「そうですか」
梓「澪先輩は私が嫌いなんだと思ってました」
澪「なんで!?」
梓「前にバンドを組んでた人に澪先輩みたいな人がいました。
解散になったときに『お前の態度が気に入らない』と言われました」
澪「…………」
梓「なので澪先輩も私が気に入らないんではないかと思ってました」
澪「…嫌いだったら一緒に練習したり、買い物したりしないよ」
梓「そうなんですか?」
澪「んーまーでもそうだなー。確かに梓ちょっとKYっぽいとこあるよなー」
梓「KY? バンドの略ですか?」
澪「あはは、ち……うん、そう、バンドの略ー。えーと、キリング・ユースの略ー」
梓「聞いたことないです。すごくアングラっぽいですね。
キリング・ジョークとソニック・ユースからとったんでしょうか」
澪「ヘビメタで歯ギターをやるギタリストがいて、未開の部族みたいな仮面とかしててさ」
梓「それはよさそうですね」
よくじつ!
律「1,2,3,4!」
ジャカジャッジャージャージャジャー!
唯「鏡に映るわたしたちーな! んて! かっこいい…」
バンッ!!
さわ子「ハァー……ハァー……」
ギューーン……ッタンッ
唯「さわちゃん先生」
律「なんか顔色悪いぞ」
さわ子「…お~ちゃぁ~」
さわ子「……ゥハアァーー」
紬「だいぶ疲れてるみたい」
さわ子「大丈夫……なんでもないの」
澪「でもそうは見えないけど」
梓「…………ブツブツ」カチャカチャ
キュイイイーーーーンゴオオオオオオオオオオオ!!
唯「うわあ」
澪「梓、ちょっと音出さないで」
梓「……ぶーどぅさいこぉたならー……むにゃむにゃ」
ジョワジョワジョワジョワジョワワワワワ~~
さわ子「あ…………」
澪「梓! もうまったくー」
さわ子「…………」プルプル
澪「こおらっ!」
梓「あ、はい」
澪「今、先生が体調悪そうだから大きい音は」
さわ子「……キエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
「!?」
さわ子「フゥーッ……フゥーッ……」ガシッ
梓「あの……私のムスタング」
澪「せ、先生?」
律「さわちゃん?」
さわ子「ム、ムムムムスタング……」
さわ子「わ、私に近づくなァーーッ!!」ダダッ
澪「箒をつかんだ!?」ガシッ!
紬「そのまま床に叩きつけた!?」ぱしーん
律「掃除用具入れのロッカーに突っ込んだ!?」ガッシャーンッ!
唯「音楽室のホーキだよう」
さわ子「あああの女ああぁぁ! 一足先に嫁に行ったからっていい気になりやがってうがあああ!!」
さわ子「フゥーッ……フゥーッ……」ブッ…ィィイイイインン…
律「フライングV……」
さわ子「ああああああああああああああああああああ!!」
ギュワワワワッワワワワッワワジョオオオアアアアアアアア!!
紬「きゃあ」
唯「あずにゃんのギターよりうるさいよ~」
梓「……いいセンスだ」
さわ子「ああっ」バタリ
唯「さわちゃん先生ー」
さわ子「またやってしまった……先生の時は」
律「おしとやかキャラってもう無理だろ」
さわ子「あの女の出現で蘇る記憶。私の知られてはならないもう一つの秘密。
そう、あれは5年前のこと」
律「おーい、なんか語りに入っちゃてるぞー」
さわ子「あの人にフラれて、そのままヘビメタからも遠ざかっていた……」
さわ子「大学でも音楽サークルに入って、新しくジャガーを買った……始めたジャンルはグランジ・オルタナ……バンド名はクラッシュド・キャロッツ……病んでるけどポップなカンジをねらったの……」
さわ子『私に触れてみろ! 私は病気だ!!』
『ウオーー! 出たーギター破壊!!』『ドラムに突っ込んだーー!!』
女『さわ子ー毎回ギター壊すけど大丈夫ー?』
さわ子『気分爽快。アンコールの言い訳にもなるしね』
さわ子「病んだ自分に酔いまくっていたある時……あいつに出会った……」
女『友達にDJやってる奴いるっていったでしょー。こいつ』
DJ男『どうもはじめまして』
さわ子『…………あっ、じょーも』
さわ子「ひとめぼれだった……年上だった……」
さわ子『早弾きとかする人って何考えてんだろうねー』
DJ男『うん』
さわ子『仮面とか被る人いるけど、あんなの最低だよー』
DJ男『そうだねー』
さわ子『やっぱり自分をさらけ出してる音楽がいちばんだよー』
DJ男『さわ子ちゃんの音楽はいつも全力で、そこがいいと思うよ』
さわ子「優しくて、余裕があって、隣で座ってるだけで幸せだった……はずなのに」
さわ子『(香水の匂い!?)』
さわ子『(女物の紙袋!?)』
さわ子『(また別の香水の匂い!?)』
さわ子「彼はモテた……私は……告白を決意した……」
さわ子『……すき……だから』
DJ男『……ごめんね』
さわ子『……ここ、さわって?』スッ
DJ男『ちょ、さわ子ちゃん!』ふよん
さわ子『わたしのここ……ブンブンいってるの、カンジる?』
DJ男『さわ子ちゃん……俺結婚してるんだ』
さわ子『(結婚けっこんって何奥さんいるのなぜなんでどうして私じゃだめなのいやそれでも)』
DJ男『子供もいるんだ』
さわ子『( )』
最終更新:2010年02月19日 23:50