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澪「ふぅん。梓がねぇ」

紬「うん。そうなの」

澪「私は逆だな」

紬「うん。知ってる」

澪「ああ、私はムギのそういうところ好きだ」

澪「全部諦める覚悟はできてるのに、すごくリラックスして見える」

澪「私も常々そういう風になりたいと思ってるんだ」

紬「そんなにいいものじゃないと思うけど‥‥」

澪「そんなことないよ」

紬「梓ちゃんみたいに、寂しい考え方だとは思わないの?」

澪「私はそうは思わない」

澪「だってムギはいつだって楽しそうにお茶を入れてたじゃないか」

澪「律とふざけてるときも、唯の世話をしてるときも、本当の楽しそうだった」

紬「‥‥」

澪「こうなってしまった今だって変わらない」

澪「唯のことを私に話してくれるムギは本当に楽しそうだ」

澪「この前一緒にやった曲作りだって楽しかっただろ?」

澪「きっと紬のそれは、何一つ失うことなく、前に進んでいける素質なんだと思う」

紬「素質だなんて‥‥そんなにいいものだとは思えないけど」

澪「ムギ、謙遜しないでくれ」

澪「誰にだってできることじゃないんだ」

澪「少なくとも今の私には無理だし、梓にも無理だと思う」

澪「きっと私達がムギみたいになったら、不安で押しつぶされて、何もできなくなる」

澪「何も喜べなくなる」

澪「結果として全部を失ってしまう」

紬「でも、こうは考えられない?」

澪「なんだ?」

紬「いつか‥‥いつか唯ちゃんが私に疲れちゃったら、結局全部を失っちゃう」

澪「私がいるだろ」

紬「‥‥え」

澪「私はムギの友達だ。いつだって友達として会いに来る」

澪「会いたい時は会いに来るし、来るのが面倒なら来ない」

澪「今日だってこうやって来たのは、私がムギに会いたかったからだ」

澪「だから、ムギとの関係に疲れたりはしない」

澪「だから、ずっとずっと友達でいられる」

紬「でも、ずっとずっと来るのが面倒になったら?」

澪「その時はメールでもするよ」

紬「‥‥うん」

澪「まぁ、そんな日は来ないと思うけど」

澪「私はムギのこと好きだから」

紬「‥‥」

澪「ムギ?」

紬「澪ちゃんは軽々しく好きって言い過ぎだと思う」

澪「浮気してる気分?」

紬「そんなんじゃ‥‥うんう。ちょっと唯ちゃんに悪いかもって気もするのはある」

紬「でもそうじゃなくて‥‥」

紬「好きって言葉は、恋人のためにとっておいてあげて欲しいの」

澪「ムギは意外と乙女だな」

紬「実はそうなの」

澪「でも私に恋人かぁ‥‥当分無理な気がするよ」

紬「でも周りは放っておかないかもしれないよ」

澪「‥‥ん」

紬「澪ちゃん?」

澪「ひょっとして、誰かが私のこと好きなのか?」

紬「澪ちゃん鋭い」

澪「そうなのか。で、誰なの?」

紬「ひみつ」

澪「そう言わずに教えてよ」

紬「だーめ」

澪「じゃあ予想してみようかな」

澪「律‥‥はない」

紬「ないんだ」

澪「和‥‥うーん。もしかして和かな?」

紬「さぁ」

澪「梓‥‥という可能性も捨て切れないか」

紬「そうだね」

澪「憂ちゃん‥‥意外とありうるかな。ムギのところに情報も入ってきやすそうだし」

紬「どうかな」

澪「鈴木さん‥‥あぁ、鈴木さんだったらいいな」

紬「へっ」

澪「なんか可愛いと思わないか、鈴木さん」

紬「可愛いとは思うけど」

澪「うん。元気いっぱいなんだけど、礼儀正しいところがツボなんだ」

紬「澪ちゃん、鈴木さんのこと好きなの?」

澪「恋愛感情はないけど、可愛いとは思う」

紬「ふぅん‥‥」

澪「で、鈴木さんなの?」

紬「さぁ」

澪「やっぱり教えてくれないか」

紬「ええ、恋は当事者同士でやらないと」

澪「そうだな、いつ告白されても動じないように心構えだけはしておくよ」

紬「ええ」

澪「あっ、そろそろ私、帰らないと」

紬「結構話し込んじゃったね」

澪「そうだな」

紬「またきてね」

澪「もちろん来るよ」

澪「‥‥なぁ、ムギ」

紬「なぁに?」

澪「唯が疲れてしまった後に、私とムギが付き合う可能性ってあるのかな?」

紬「ないわ」

澪「どうしてだ?」

紬「唯ちゃんに捨てられたら私は死ぬから」

澪「‥‥とてもいい笑顔で言うんだな」

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===
唯「あずにゃんが家に来るなんて珍しいね」

梓「お邪魔でしたか?」

唯「そんなことないよー」

梓「そうですか‥‥」

唯「あっ、そのムギちゃんかわいいでしょ」

梓「‥‥部屋中にムギ先輩の写真を飾ってるんですね」

唯「うん。いつでも一緒にいられるように」

唯「本当は一緒に住めればいいんだけどね」

唯「私には憂がいるから、こうやって写真を飾ってるんだ」

梓「‥‥」

唯「それであずにゃん。今日は何の用事なんだい?」

梓「ムギ先輩のことです」

唯「むっ、あずにゃん」

梓「な、なんですか?」

唯「ムギちゃんはあげないよ!」

梓「とりませんよ!!」

唯「そう? それならいいんだけど」

梓「はぁ‥‥」

唯「それで、ムギちゃんがどうしたの?」

梓「‥‥お二人のことについて聞きたいんです」

唯「お二人のこと?」

梓「はい、ムギ先輩と唯先輩の関係というか‥‥」

唯「ムギちゃんと私は恋人同士だよ」

梓「それは知ってます。そうじゃなくて‥‥」

唯「わかってるよ。あずにゃんが言いたいこと」

梓「えっ」

唯「ムギちゃんと私の関係は狂ってる」

唯「不健全だ、って言いたいんでしょ」

梓「‥‥そうじゃないです。でも、だいたいそうです」

唯「歯切れが悪いね、あずにゃん」

唯「疑問をドーンとぶつけておいでよ。ドーンと」

梓「‥‥それじゃあお聞きします」

梓「唯先輩はずっと、これからずっとムギ先輩と付き合っていく自信がありますか?」

唯「あるよ」

梓「なんで‥‥そんな簡単に言い切れるんですか」

唯「私はムギちゃんのことを大好きだから」

梓「今は大好きだって、いつか‥‥」

唯「私は変わらないよ」

唯「ずっとムギちゃんのことは大好きだし」

唯「りっちゃんも、澪ちゃんも、もちろんあずにゃんも、ずっと大切な仲間だよ」

梓「‥‥」

唯「あずにゃん?」

梓「‥‥」

唯「よしよしあずにゃん。どうして泣いてるんだい」

梓「‥‥」

唯「私に話してごらん」

梓「‥‥わからなくなったんです」

唯「わからなく?」

梓「はい。そうやって簡単に言い切ってしまう唯先輩とムギ先輩のことか」

唯「そっか‥‥ムギちゃんとお話してきたんだね」

梓「‥‥はい」

唯「ムギちゃんなんて言ってた?」

梓「‥‥言えません」

唯「諦める覚悟だけはしておく、って言ってなかった」

梓「知ってるんですか?」

唯「うん。ムギちゃんのことならなんでも知ってるよ」

梓「それじゃあなんで、なんでそんなに平然としていられるんですか!」

唯「あずにゃんは誤解をしてるよ」

唯「私は全然平気じゃないんだ」

梓「えっ」

唯「ずっとずっと不安なんだよ」

唯「ムギちゃんが寂しいんじゃないかって」

唯「もっと傍にいてあげなくていいのかって」

唯「私だけ、私だけこんなに幸せでいいのかって」

梓「幸せ?」

唯「うん。ムギちゃんはもう楽器を弾けないのに私は弾けるでしょ」

唯「ムギちゃんはもう紅茶を入れることもできない」

唯「みんなで旅行に行く事もできない」

唯「歩くことも、自転車に乗ることもできない」

唯「私には全部できるのにね」

唯「知ってる? あずにゃん。ムギちゃんには沢山夢があったんだ」

唯「ムギちゃんの夢、ほとんど全部叶えてあげられなくなっちゃった」

梓「‥‥わかりました」

梓「でも、ムギ先輩が諦める準備をしているのは平気なんですか?」

唯「それは仕方ないことなんだよあずにゃん」

唯「だって、信じてもらえるほど私は頼り甲斐ないもん」

梓「‥‥妙に納得してしまいました」

唯「でもね‥‥」

唯「ずっとずっとムギちゃんの傍にいれば」

唯「ムギちゃんが辛い時もずっとずっと一緒に歩いていければ」

唯「いつかは信じてくれるって信じてるんだ」

梓「‥‥」

唯「無理だと思う?」

梓「わかりません。だけど‥‥」

梓「素敵な考え方だと思います」


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最終更新:2012年09月30日 19:52