放課後、軽音部部室

紬「・・・ふぅ」 ぱたん

唯「ムギちゃん、何読んでたの?」

紬「先週出た推理小説の文庫よ」

律「ムギはそういうの好きだな。犯人捜しなんて、警察に任せておけばいいだろ」

澪「まあその辺は、フィクションだからな」

紬「だから日本海の断崖絶壁がある訳よ」

律「いや。そのためじゃないだろ」

唯「私達だと、放課後探偵?」


律「どんな難事件も、「楽器一つでじゃじゃんと解決」みたいなノリか」

紬「でも推理物やサスペンス物って、役割分担があるじゃない。それはどうする?」

唯「私が探偵役なのは決定として」

律「たまには、そういう斬新な設定も良いかもな」

唯「りっちゃん、ちゃんと突っ込んでよー」

澪、紬「あはは」

唯「だったらムギちゃんが探偵で、澪ちゃんが相棒の敏腕刑事かな」

律「それっぽい雰囲気だな、確かに」

澪「律と唯は、何役なんだ?」

律「唯は言うまでも無く、うっかり役だろ」

唯「えー?だったらりっちゃんは?」

澪「謎の女Tだな」

紬「それが後々伏線となるって設定も良いわよね。日本海の断崖絶壁で」

律「うん。まずは、そこから離れようか」

   カチャ

梓「済みません、遅れました」

律「犯人は、梓だっ」

梓「ええっ」 びくっ

澪「脅かすな」 ぽふ

唯「ごめん、ごめん。今、放課後ティータイム事件簿のキャストを考えてたんだよね」

梓「だからって、私が犯人なんですか?」

紬「5人しかいないから、そこは持ち回りよね」

梓(だったら最後は、全員捕まるんじゃないの)

唯「・・・トンちゃんは見ていた」

律「それで」

唯「喋れないから、何も聞き出せなかった」

梓「なんですか、それ。大体ここが現場と決まった訳でもないでしょう」

澪「なるほどな。敢えて証拠をここに残し、私達のミスリードを誘った訳か」

紬「私、今すぐ日本海行きの切符を押さえるわ」

律「ムギ、落ち着け。それと、まだ何も事件は起こってない」

唯「・・・いや。事件はこの部室で起きてるよ。だって、さっきまで10個あったマカロンが2つしかない。・・・これは一体どういう事?」

澪「唯が3つも食べたからだろ」

唯「私が3つで、りっちゃんが2つ。澪ちゃんとムギちゃんとあずにゃんが1つずつ」

律「辻褄は合うな」

唯「でも待って。1つしか食べていないのが3人なのに、残っているのは2つだけ」

梓「2つ食べられない人が出てきますね」

唯「この謎を解ける人は誰かいる?」

律「唯が謝れば、全て解決するんじゃないのか」

紬「なるほど。さすがは、おでこ探偵ね」

律「喜べばいいのか、それ」

唯「・・・この数式、解ける探偵はいる?」

澪「こら、唯。宿題は、自分でやれ」

唯「だって、難しいんだもん」

澪「勉強はやらされる物じゃない。そしてその結果は、全て自分に返ってくるんだぞ」

律「説教探偵だな、こりゃ」

澪「なんだと?」

紬「まあまあ。お茶、淹れ直すわね」

梓「ムギ先輩も大変ですね」

紬「本当、眠り薬を仕込む暇も無いわ」

梓(何故、犯人目線)

唯「ふー、やっと解けた」

澪「どれどれ。・・・唯、ここだけ代入の仕方が違うぞ」

唯「うー。数学って、本当に苦手だな。これって、何のためにあるんだろう」

澪「それは分からないけど、困難を乗り越える訓練にはなってるさ。・・・うん、今度はOK」

梓(なんだかんだと言って、澪先輩は優しいな)

律「だったら私は、唯の答えを写すとするか」

澪「こら、律」

唯「ふふん。では平沢先生が特別に、田井中さんを指導してあげましょう」

律「・・・なんかイラッと来るが、取りあえず頼む」

紬「うふふ♪」

梓(何か良いよな、こういう雰囲気)

 30分後

律「ひー、疲れた」

唯「・・・」 ぐー

梓「思いっきり寝てますね」

紬「・・・誰かが睡眠薬を仕込んだって事かしら」

律「いや。お茶を入れたのムギだし」

紬「そう見せかけて、犯人はティーカップに薬を仕込んでおいたのよ」

澪「ティーカップも、ムギが用意したんだろ」

紬「うーん、なかなか迷宮入りにならないわね」

梓(うっかり役って、むしろムギ先輩じゃないの)

   さらに30分後

唯「それにしても、全然事件が起こらないね」

澪「起きても困るだろ」

紬「となると、私達が起こすべき?」

律「・・・いや。そういう事でも無いから」

梓「でも、謎ならありますよ」

唯「え、何々?」

梓「非常に簡単な事、私達の根源に関わるミステリーです」

澪「どういう事だ、梓」

梓「つまりです。私達は軽音部なのに、何故演奏をしないかって事ですよっ」

唯「りっちゃん、分かる?」

律「全然分からん。これは思うに、私達が卒業するまで解けない謎だな」

澪「ふざけるな」 ぽふ

紬「まあまあ。だったらこの謎は、どうやったら解決するのかしら」

澪「一に練習二に練習。単純に、それだけだろ」

梓「はいですっ」

律「しゃーない。久し振りに気合い入れるか」

唯「ふわふわにする?それとも、ぴゅあぴゅあ?」

紬「カレーも良いんじゃなくて?」

梓(このタイトルを思い付く人こそ、ミステリーだよな)

澪「ホッチキスか筆ペンか。・・・やっぱり私は、イチゴパフェが良いな♪」

   30分後

唯「・・・切ないね♪」 じゃーん

律「結構上手く出来たな」

澪「練習を積み重ねれば、もっともっと上手くなる」

梓「はいですっ」

唯「やっぱりみんなで演奏するのって、楽しいね」

澪「唯はセンスあるんだから、練習すればもっと楽しくなるぞ」

唯「ありがとう、澪ちゃん。よーし、今日はバリバリ練習するぞー」

律「単純な奴め」

紬「でも、そこが唯ちゃんの良い所よね」

梓「はいですっ」


   夕方、学内廊下

律「今日は結構頑張ったな」

澪「これが普通なんだ」

紬「うふふ♪」

唯「私、和ちゃんの所行ってくるね。今日一緒に帰る約束してるから」

律「それならみんなで帰ろうぜ」

澪「私も賛成と言いたいが」

紬「唯ちゃん、迷惑じゃない?」

唯「全然平気だよ。私が楽しいって事は、和ちゃんも楽しいって事だからね」

梓(この人、さらっとこういう事が言えるんだよな)


   生徒会室

律「うーす。和、帰るぞー」

和「あら、みんなでどうしたの」

澪「唯と一緒に帰るって聞いたから、押しかけてきた。迷惑だったか?」

和「唯が良いって言ったんでしょ。だったら私が断る理由は無いわ」

唯「和ちゃーん♪」

紬「本当に仲が良いのね、唯ちゃん達は」

澪「まさしく親友って訳だな」

梓「真鍋先輩が親で、唯先輩は友達って事ですか」

唯「もう、あずにゃんのいじわる」

律、澪、紬、和「あはは」

和「・・・でもちょっと、困った事があるのよね」

律「これはもしかして」

紬「ミステリーの予感?」

唯「どしたの、和ちゃん」

和「さっきから、消しゴムが見当たらないのよ」

律「・・・なんだ、そりゃ」

紬「待って、りっちゃん。これは大いなる事件への序章。言わば伏線じゃないかしら」

律「いや。そんなはずは・・・」

澪「全員、その場を動くなっ」

梓(えっ) びくっ

唯「み、澪ちゃん、どしたの?」

澪「足元に落ちているとも限らない。蹴飛ばす前に、自分の周りを確認するんだ」

律「その程度の事で、声を張り上げるなよ。・・・特に無いな」

唯「私も」

梓「同じくです」

澪「まずは状況を整理しよう。和、その消しゴムを最後に使ったのはいつだ」

和「放課後、生徒会室に来てからね。さっきまで机の上にあったから」

澪「では、紛失した現場はここと推測出来る。ただ念のためだ、唯は教室に戻って和の机周辺を探してくれ。ゴミ箱の中。唯の机の中もだ」

唯「・・・なんか色々腑に落ちないけど、見てくるね」 とたとた

澪「和は一度立ち上がって、服を払ってくれ。どこかに引っかかってるかも知れない」

和「分かったわ」 ぱたぱた

澪「落ちてこないか。では次に、生徒会室に入ってからの行動を再現してもらおう」

律「消しゴム一つで、良くそこまで真剣になれるな」

   10分後

唯「教室にはなかったよ」

澪「こちらも手がかり無しだ。だがこの部屋で使っている以上、必ずあるはずなんだが」

紬「・・・澪ちゃん、ご苦労様。だけど、秀才に出来る事はそこまでね」

澪「何だと?だったらムギは、この事件をどう解決するつもりだ」

梓(なんだ、この小芝居)

紬「よく考えてみて。無くなったのは何だったかしら」

澪「・・・はっ。もしかして」

紬「そう、つまりは」

澪「消しゴムだけに」

紬「この世から消えて無くなったという訳なのよっ」

澪「その盲点には気付かなかったっ」

律「お前ら、ボケにボケを被せるな」 ぽふ

唯「結局、どこ行ったのかな」

和「買えば済む話だから、正直気にもしてないんだけれど」

律「冷静な奴め。だったら、そろそろ帰るか」

澪「窓は閉めたと」

梓「机の上も片付きました」

和「ご苦労様。部屋の鍵を掛けるから、みんな外に出て」 

唯、澪、律、紬、梓「はーい」

カチャ

律「ミステリーだと、最後に鍵を掛ける奴が犯人だよな」

和「そうなんだ。じゃあ私、職員室に鍵を返しに行くね」

梓(聞いちゃいないし)


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最終更新:2012年10月03日 19:25